提督LOVEな艦娘たちの短編集   作:あーふぁ

10 / 60
10.川内『提督は川内に夢を見るか』

 7月の午後9時の海。

 潮の良い香りと耳に響く波音、そして心地よい海風が提督業で疲れた体にひびいてくる。

 空に見えるは半分の月。ところどころにある雲が時々、月の姿を隠すのがなんとも色っぽい。

 それらを感じるために俺は夏服である白い軍服を脱ぎ、紺のジャージと青のウインドブレーカーに身を包んで鎮守府の港にきている。

 それもはしっこにあって滅多に人がこない岸壁。色気を感じる港の街灯に照らされてたコンクリの地面へブルーシートを敷き尻が冷えないようにし、風でシートが飛ばされないように釣り道具は来を置いてさらに安定感を増している。

 あぐらをかいて座り、力なく持つ俺の手にはリールのついた釣り竿がある。その竿から遠くへと垂れている糸の先には電気ウキが海の上に浮かんでいて、その小さな明かりが可愛く見える。

 己の精神と正面から向かい合っているのは釣りという趣味を超えて精神鍛錬とも言ってもいい。

 外にして1人だけの空間。32歳のおっさんにもなるとなんてないことを贅沢だと思う。

 だが、密着している左隣からの暖かみが問題だ。

 

「ねー、提督。暇なんだけど。これってさ、ぐあっしゃーって感じで釣れないの? ほら、釣り番組だとガンガン釣ってるじゃない。ああいうのはないの?」

 

 隣には、釣り場に来て十分もたたないうちに暇と訴えてくる川内の声が聞こえてくる。

 溜息をつき川内へと顔を向けると、こちらを見てつまらない表情がうったえている。

 俺と同じ姿勢で座っている川内の格好は普段と変えている。いつもの服が汚れるから俺の服の予備を着させ、悲しいことに上下おそろいの服となっている。

 肩あたりに、ツーサイドアップにしている頭が来ているも髪型のせいで髪が頬へとちくちく当たり、迷惑このうえない。

 なんでこんな目に。月に4回までと決めて長時間の夜釣りをする楽しみが見事に妨害されている。今までばれなかったが、4カ月目にして夜釣りがばれた。

 

「黙れ川内。あれはプロだし、釣れるとこを見せるのは当然だろ。釣りというのは数よりも楽しめるかどうかなんだよ。むしろ釣れなくていい」

「なにそれ。ただの釣れない言い訳にしか聞こえないんだけど」

 

 心に痛い言葉をつまらなそうに言ってつまらなそうに海を見始める。

 川内の言うとおりここ4カ月、釣れるのはヒトデや地球、時々魚のアタリが来るも釣れずじまいだ。

 だが夜の海は眺めているだけでもいい。漁をしている船の明かり。たくさんの明かりが見える客船。星空や月。海に光る魚の姿。

 まるで異世界。

 昼は艦娘たちの指揮を取る中間管理職の俺。

 夜は俺1人だけの世界を指揮する俺。

 昼と夜を感じて、人は1人だけの時間が絶対にないとダメなんだと強く思う。

 

「釣りなんて無駄なのが多いんだけど。道具を用意してもそれに見合うほど釣れないし、時間をかけたからといって釣れるわけじゃないし。お店で買ってきて食べたほうが便利だしお得だし楽しいと思うんだけど」

「趣味だからいいの、仕事じゃないんだし。そりゃ店で買ったほうが得するよ? でも自分だけの力でできる、という楽しみがそれに欠けてるじゃないか。大自然へと挑むちっぽけな人間の挑戦! 何が来るかわからない不安という楽しみ! 戦うは魚ではなく弱い己の―――」

「あ、ウキ沈んだよ」 

「なんと!?」

 

 気分よく語っているところへ川内の冷めている声が聞こえてウキを見ると、浮いたり沈んだりと小さな動きが見える。

 竿からの反応が来ていたのに気付かなかったとは。

 これに慌てず、冷静になれと意識する。

 まだアタリは小さい。ウキが海中へと引っ張られる瞬間にアワセないと逃げられる。この段階では餌をつついてるだけだ。

 

「ひっぱんないの?」

「まだだ。……うっしゃ!」

 

 ウキが深く沈みこんだと同時に竿を振り上げ魚へと針を深く食い込ませる。と、うまくアワセができ、竿がしなり糸が張りつめ魚の手ごたえを感じる。

 魚の引っ張りに耐えるため、足を伸ばし踏ん張りを入れる。魚の動きにあわせて強くまたは弱く巻いて魚を近付ける。

 一対一の真剣勝負。この時間が最も楽しく興奮する。

 隣にいる川内からは竿やウキの動きによって興奮した声にならない声が漏れ聞こえてくる。

 だが、それもすぐになくなってしまう。糸がゆるんだ一瞬の隙に魚が外れてしまったから。

 俺と川内の気の抜けた声が同時に出る。

 糸はもう張りつめていなく、だらんと揺れている。それを溜息をつきながら巻き上げる。手元へきた釣り針からはすっかりと餌が消えている。

 

「よし、ちょうどいい頃あいだし帰ろうか、提督」

「お前は何をバカなこと言ってんの。夜はこれからだよ。ほれ、明かりつけてくれ」

 

 立ち上がって帰る気全開な川内に、道具箱から懐中電灯を出して手渡そうと差し向ける。

 とてつもなく不満な顔をしつつも懐中電灯を受け取り、手元を照らしてくれる。

 ありがとうと感謝の言葉を言い、餌を取りだし釣り針へとつける。そうして立ち上がり、川内から五mほど離れて沖へと向け、竿を思い切り振りかぶって餌を投げる。着水を確認し、川内の隣へと戻り座るが立ち上がったままの川内は懐中電灯を俺へと向けて点滅を繰り返している。

 それを無視しているとモールス信号に変化。何を伝えたいかと待っていると『ひ、ま』と言われた。

 

「先に帰っていいぞ。俺のはまだ時間がかかるからな。ああ、今日はつきあってくれてありがとうな」

 

 一方的に川内がつきまとってきたが、手伝いと会話をしてくれたことに感謝する。

 手を差し出して懐中電灯を受け取ろうとするが、渡される気配がない。

 不信に思って顔を向けると海のほうを向き正座で座りはじめた。

 俺はこの伸ばした手をどうすればいいんだろう。

 手を戻そうとしたら、川内に左の手首をすばやくつかまれた。

 

「退屈ならつきあわなくていいんだぞ」

「私は提督がいるから一緒にいたいんだって。意味わかる?」

「わからんなぁ」

 

 さっきまでとは違う真剣な声に、俺はとぼけた声で返事をし、竿を見る。

 がしゃん、と何かが地面に落ちた音がした途端、つかまれている手首から強く引き倒され腹の上へと乗られる。そのときに竿を優先し、落とさないように必死になる。

 文句を言おうとしたらウインドブレーカーの襟首をつかまれ、一気に顔が近付いてくる。

 その顔は普段見せてくれる川内とは違っていて。その真剣な表情と雰囲気から唇が狙われると感じ、首をひねってかわす。

 が、身動きが取れないため完全にはかわせず、狙いが外れたというのに川内は首筋にキスをしてくる。その感触は鳥肌が立つほどの身震いと共に気持ちよさを感じてしまう。

 

「いつも私のアプローチをかわしちゃって。今日こそ逃がさないんだからね」

「おい、お前神通に何か言われたろ!? そうだろ、そうなんだな!」

 

 すぐ耳元から聞こえる息遣い。不気味なほどの魅力を感じる声。見たことのない雰囲気が川内から見える。

 いつもの子供っぽさがあるふうではなく、その行動から推測する。川内の相談に乗り言うことを聞く人物といえば神通しか思い浮かばない。

 顔を離し、今度こそキスしようと腕の力で近づいてくる川内と、足を使いそれをふせぐ俺との必死な争い。 

 

「おとなしくしてよ!」

「嫌だよ! キスするなら大人の魅力と雰囲気たっぷりが俺はいいの!」

「夢は夢で終わらすのがいいんだって!」

「夢がないと男は恋愛なんてしないから!」

 

 自分好みでない女となんでキスをしなきゃいけないんだ! 

 右腕は竿を持ち、左腕は川内に抑えられて体は馬乗りにされている。

 このままでは押し負けてしまう!

 

「ちょい待てって! せめて釣りを終わらせてから!」

「私と釣り、どっちが大切なの!?」

「釣りに決まってんだろうが! このために提督になったといってもいい!」

 

 なんとかして逃げようと考えていると、ぱたりと動きが止まり俺の手から乱暴に釣りざおを奪う。

 投げ捨てられるのかという恐怖が来るが、川内は俺に背を向け立ち上がり静かにリールを巻く。

 俺は倒されたままの姿勢でじっと動かず、静かに見ている。

 やがて糸が巻き終わり、竿が乱暴に置かれる。

 波と風音だけが聞こえる静かな時間。それが破れらるまでは十秒ほどだった。

 こちらへと向き直り先ほどと同じように飛びかかってくるが、俺へと馬乗りになった途端、その勢いは止まり俺をじっと見つめてくる。俺はその沈黙に耐えれず、冗談を飛ばす。

 

「夜戦の演習とか言うなよ、これは―――おい、何を泣いてるんだ。俺が何をしたっていうんだ」

「何もしてくれないのが嫌なんだってぇ……」

 

 俺の真上にいる川内の目が涙でにじみ、次第にぽたぽたと涙が落ちてくる。

 

「この気持ちがもう抑えられなくて。那珂や神通に相談したら、落ち着いて考えてって言われて。考えても提督のことが頭に出て来て。夜戦夜戦って叫んで動いていれば頭がすっきりするかなって思ったら全然ダメで。私がうるさくて、提督が他の子に連れられて私を叱りにきたのを見て嫌われるならそれでもいいかなって気がしたけれど、提督が他の子といるのを見てすんごく嫌になったの。それで自分の気持ちをはっきりさせたいって。夜に提督が一人でどこかに出かけるのを見てこれはチャンスだって思って……」

「ああ、もう!」

 

 俺への気持ちを言い続ける川内があまりにも辛く見えて力強く抱きしめてしまう。

 

「俺は川内のことなんか好きじゃないからな! 名取のようなおとなしめでメガネの似合う……おい、聞いているのか」

「うあーん、提督だいすき。わたし、頑張っていい女になるからね」

 

 俺の胸へと顔をうずめ、えぐえぐと泣き続けながらも懸命に言う。

 

「ああ、努力しろ。少しは待っててやるから」

 

 その背中をぽんぽんと軽く叩き落ち着かせようとするが、それでもまだ泣き続ける。

 溜息をつき、空を見る。可愛い年下の女に抱きつかれ泣き声を聞きながら視界に入るのは半分の月。そして声は風音よりも波音よりも、強く耳にひびいてくる。

 まったく。女を泣かせるのはなんで悲しくなるんだろうな。 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。