提督LOVEな艦娘たちの短編集   作:あーふぁ

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33.山風『俺は山風を離せない』

 今年もまた12月の寒い冬がやってきた。

 生きている限り、日が進むのは当たり前だがしみじみとした気持ちになる。

 なぜなら山風と同棲、ではなくて同居が始まって1年経つからだ。

 去年12月にやってきた山風は小さかった。

 外見は中学1年か2年生ぐらいで、他の白露型と比べると体格は本当に小さかった。ただ、胸だけはそれなりにあったが。

 他の白露型の子と比べて華奢だった。

 こんな子が艦娘として働けるのか不安に思い、そして予想通りに仕事ができなかった。

 別に摩耶みたいに口が悪いとか、大井のように文句を言いまくるというわけじゃない。

 磯風と違って料理はうまいし、江風や川内と違っておとなしいのは良い。

 だけど、艦娘とは戦ってなんぼの商売だ。

 山風の大きな欠点は1人ではダメなことだった。

 何をするにしても誰かと一緒、そばにいないと怯え、自信がないゆえに何もしない。

 なんでこんな娘がうちに来たんだ、とはちょっとばかり思ったが誰もが望まれたとおりにできるわけじゃない。

 ため息をついてどう返そうか思っていたが、見捨てないで欲しいという表情と差し出してきた手を払うことができなかった。

 その手を掴んだ俺はその日からは山風のことを気にし始めた。

 そして、しっかりと学べるように勉強や訓練も一緒にした。会話相手や料理の練習相手にもなり、気晴らしにも付き合った。

 そんなに気にしてもまだ気になり、艦娘たちが暮らす寮の部屋へと出入りもした。

 気付いたら、俺と山風は同居していた。

 同棲ではない。仲はよかったが恋愛関係にはなっていない。

 胸が小さいのが不満だが、こんな可愛い子と一緒で性欲が出てしまうのも無理はない。

 だが、一緒に同じ布団で寝たら性欲なんてどこかへ吹っ飛んだ。

 山風とのことは、いつでも鮮明に思いだせる。

 部屋の明かりを消して布団に入ると、体を恐怖で震わしながら朝まで俺の手を握ってくる。悲しげな声で俺に見捨てないで欲しいという言葉は脳の奥底にまで響く。

 それが毎日続くんだから、性の対象になんてなるわけがない。

 むしろ妹だ。歳がかなり離れた1人の妹。

 でも負担だなんて思ったことはなく、俺がするべき義務だと考えて多くの時間を山風と過ごしている。

 

 ◇

 

 カーテンの隙間からまぶしい朝日の光が部屋へと差し込んでくる。

 その光が顔にあたって眠たい意識を覚ますと、冬の冷たい空気が肌へと突き刺さる。

 体にかかっている羽毛布団は少しずれ、位置を直そうと手を動かそうとしたが無理だった。

 左側にはパジャマ姿の眠っている山風がいて、俺の左手をぎゅっと握っていた。

 腰まで届く、透き通るほどに美しさを持つ緑の髪は無造作に布団の上へと広がっていた。

 寝顔は安心しきっていて、ゆるんでいる表情がとても可愛い。一日中見ても、きっと飽きないほどにだ。

 そんな山風の温かい体温がすぐそばで感じるが、ふれあっていない部分、羽毛布団がかかってないとこは寒い。

 仕方なく、いつものように右手だけで羽毛布団の位置を直して、目を開けたままでぼんやりと時間を過ごす。

 そうして時間が少し経つと脳が動き始めてくる。

 

「山風、朝だぞ。今日も訓練があるんだからな?」

 

 空いている右手で山風の体を揺り動かすと、口の隙間から「んーっ」という色っぽい声が漏れ出てくる。

 30歳にも近い年齢なおっさんの俺だが、一緒に寝始めた時はそれが性欲を刺激していた。

 でも1年近くも一緒に寝ていると、それがないと落ち着かないほどになってしまっている。

 何度か体を揺らすと、ゆっくりと目が開いて眠たげな山風と目があった。そしてすぐに嬉しそうな表情へと変わっていく。

 

「えっと……おはようございます、提督」

「おう、おはようさん」

 

 起きようと山風に握られたままの手を離そうとしたが、ぐっと力を入れられて離すことができない。

 小さなため息をつくと、いつものように体を揺らした手で乱暴に頭を撫でまわすと山風の笑みがさらに増していった。

 手がそっと名残惜しそうに離れると、布団から出て寒い空気へと体がさらされる。

 寒い空気が山風と同じ白地に青の玉模様なパジャマを着ている俺へと突き刺さるが、それに耐えながら部屋の隅に置いてある灯油ストーブに置いてあるマッチで火をつける。

 ボッボッ、と不安定な炎が次第に安定していく音を聞きながらカーテンを開ける。

 俺と山風のふたりで暮らす部屋に光が入ってくる。

 この部屋の7割が俺の私物で、2割は共用。残りの1割が山風という配分になっている。

 暮らしはじめてから今までずっと物を増やしてもいいと言っていたが、「提督にわがまま言っているんだから、これ以上の私物はいらないよ?」と上目遣いで言われるともう何も言えなくなる。

 良い子すぎて俺にはもったいない子だ。

 山風が起きるのを待っていると、バッと勢いよく両手を天井へと突きあげる。そうしてそのままの姿勢で俺の方へと頭を動かして、小さいつぶらな瞳で見つめてくる。

 4日ぶりのその要求に答えるべく、布団に近づいては山風の体をまたぐと両手を掴んで体を起こしてあげる。

 

「ほら、起きろ。あたたかい飯が待ってるぞ」

「……提督の手作り?」

「それは週に1度だけの約束……待て、そんな不機嫌な顔をしてもダメだぞ。いや、ダメだって。ほら、いい子だから起きろ」

 

 仕方なく、本当に仕方なく起きた山風は俺へと抱きついてくると胸へと顔をうずめてきた。

 俺は提督だというのに、艦娘の世話をしているなんて。

 友人の提督は毎日艦娘たちに交代制で起こしてもらっていると自慢された。すごくうらやましいことだ!

 だけどまぁ、こういう世話をするのも満足感が出て悪くはない。

 そう、娘ができたような感覚だと思う。俺はまだ独身だから想像にしか過ぎないが。

 体を抱きしめると嫌われるんじゃないかと思い、抱きしめたい衝動を必死で我慢して時間が過ぎるのを待つ。

 俺の匂いを嗅ぎ、深呼吸したあとに離れた山風の顔は晴れやかだ。

 動き始める儀式が終わった山風は俺の目を気にすることなくパジャマを脱ぎ始めた。

 これもいつものことだが、心臓と精神によくない。

 寝る前はブラがないから、胸の感触もまた俺にとって悪いが、今回は視覚的問題に。

 目をそらすが、ブラをつけていく音や制服を着ていく衣擦れの音なんか耳によく聞こえてきてしまう。

 音がなくなって顔を向けると、そこにはきちんと着替えた山風の姿が。

 ただし、髪型以外は。

 俺は机に置いてあるヘアピンと大きな黒のリボンを手に取って渡し、床に置いてある手鏡を拾うとそれを山風へと向ける。

 そうして山風は俺に鏡を持たせたまま、頭のセットを始めてようとしたが、ふと困惑した顔を向けてくる。

 なにか問題があったかと首をひねるがすぐに気づく。

 髪を()かす(くし)がないことに。

 いつもは持ってくるのに、と山風の目をみつめると目をそらされた。

 今日はいつにもまして甘えたがりだ。理由はわからないが、たまにはこんな日もいいか。

 と、甘やかしすぎている自分が少しばかり情けなく思いつつ櫛を取ってくると、布団の上に正座をして山風が待っていた。

 俺も山風の向かいに座り、(くし)を渡すと鏡を向ける。

 そうして山風は髪を()かし、ポニーテールを結んでヘアピンで前髪を留めた。

 できあがった髪型は少し跳ねがあるも、前髪が分けられたおかげでよく目が見える。

 

「よし、今日も可愛いな」

「うん、ありがと」

 

 用意が終わると、今度は俺が着替える番になって、じっと見る山風の目を気にすることなく、下着姿になる。

 山風は下着姿の俺を見ても顔色を変えず、目があうと不思議そうに首をかしげてきた。

 男の下着を見て恥じらいがないと、もう親子関係だと思えてくる。いや、むしろこの関係が正しい姿であり、親子ではなく夫婦関係ではないか? そうだとしたら胸を揉んでも、尻を撫でても問題ないはずだ!!

 そう解釈ができても、こんなずれている関係が壊したくなくて手を出す気は起きない。

 着替え終わり、自分で身だしなみをぱぱっと整え終わると、いつものように山風が布団を片付け始めた。

 部屋の片づけが終わり、お互いに身だしなみチェックが終わると俺は食堂に行くために部屋の扉を開ける。

 その時、服の袖を掴まれた感覚がして振り向くと俺を見つめてくる。

 今日はいつもと違い、甘えてきたり何かを伝えるような仕草をしてくる。

 少し考えるが山風の誕生日でもなく、俺のでもない。今日は特別な予定はなく、普段どおり。

 悩んでいると、山風がさっきより強く袖を引いてくる。

 

「あのね、今日はあたしと提督が会ってから1年なの」

「―――ああ、そうか。1年経ったのか」

 

 こくん、と悲しげに頷くのを見て、忘れていたのを後悔する。だけど後悔したままじゃダメだ。

 俺は素直に、思っていることを伝える。

 

「最初は面倒だと思ったけど、山風と出会えて毎日が楽しいよ」

「あたしも……提督と会えて楽しい。こんな役立たずなあたしなんかに優しくしてくれるし」

「でもそんな山風が好きだよ。あ、役立たずじゃないぞ? もし、本当にそうだったら俺は軍へと送り返してるな」

「うん、あたしも……好き。相思相愛、だね?」

 

 ほんのりと頬が赤くなった山風が可愛くてたまらない。こんな幸せな感覚を味わうと、いつの日か結婚して娘を持ちたくなる。

 俺は手を差し出すと、そっと優しく手を握ってくる。

 毎日の幸せな日常とわずかずつ変わっていく日々。

 充実感がある暮らしは楽しすぎる。

 だから、俺はまだ山風から離れなさそうだと苦笑をし、手をつないで食堂へと一緒に歩いて行く。




山風を見て、図鑑説明を聞いて。衝動的に書いたもの。

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