提督LOVEな艦娘たちの短編集   作:あーふぁ

40 / 60
飲酒描写あり。竣工日を誕生日設定に。


40.不知火『クリスマスの予定は不知火と』

 クリスマスも近い12月19日の今日。

 深い紺色の軍服をしっかりと着ているが夜11時にもなると、暖炉に火をつけていようとも窓や扉の隙間からやってくる寒さが体の芯へと響く。

 短い髪を手でがしがしとかきあげながら僕は執務室で机へと向かって艦娘たちの24と25日の休暇のスケジュール調整に悩んでいた。

 集中するために秘書には先に帰ってもらい、1人で仕事をやろうと考えていた。

 でも今はここにいるのは僕だけじゃない。

 部屋から聞こえてくるのは暖炉の薪が爆ぜる音、不知火が酒を飲む音と本のページをめくる音だ。

 秘書と入れ替わりにでやってきた不知火は「不知火のことはお気になさらず」といつものような静かな声で言ってはソファーへと座った。そして持っていた焼酎の瓶とおちょこ2個をソファー前のテーブルへと置くと持ってきた小説を静かに読み始めた。

 不知火は中学生のような顔立ちをしている駆逐の子でいつも真面目で他の子の面倒をよく見てくれる良い子だ。

 肩まであるピンク色の髪は、青色の髪留めで短いポニーテール。暖炉からの光があたって髪が輝くのを見ると、普段とは違う大人っぽさが見える。

 不知火がこうやって執務室へとやってくることは度々あり、仕事の邪魔にならないこともあって僕はそのまま放っておいている。

 だけど目の前でのんびりと夜を過ごす不知火を見ていると、僕も今の仕事を投げ出して酒を飲みながらぼけーっとしたくなるものだ。

 でもクリスマスのイベントを楽しみにしている艦娘たちのことを思うと仕事をおろそかにできない。

 休暇申請のあった子たちの休みをそれぞれ1日ずつにしようかと考えるも多くが飲み食いだとかクリスマスセールを求めての休暇申請ばかりだから悩んでしまう。

 提督権限で休みを制限したいとは思ったが、普段から頑張ってくれている艦娘たちのことを考えると休みを十分に楽しんで欲しい。

 軍としても社会人としてもこの考えは甘いものとはわかっている。けれど、僕は皆にクリスマスという日を楽しんでもらいたいと強く思っている。

 僕自身は結婚もしてなく、恋人もいないためにクリスマスにおける縛りはなんにもなく仕事をすることができる。

 休暇を取らない上司もいることを考えると、24才の若い僕が働いているほうが印象も良くなるだろうし。

 資源の在庫、艦娘たちの有給休暇取得率、戦闘における活躍などが書かれている紙などを机に広げて唸り声をあげていると、ソファーに座ったまま頭だけをこちらに向けている不知火と目が合う。

 

「うるさいかい?」

「構いません。ここは執務室なのですから、司令が気になさることは何もありません」

「……お酒に付き合おうか?」

 

 不知火がお酒を持ってきたのは初めてだ。だからお酒を飲んでないと言えないことがあるかもしれない。

 普段から表情がわかりづらく、何を考えているか理解しきれないのがまだまだ僕の努力不足だ。陽炎からは不知火は感情がまっすぐ表情に出ているからわかりやすいなんて言っていたが表情のわずかな差がわかればの話だろうと思う。

 

「いえ、お構いなく。持ってきたはいいものの、飲もうかまだ決めかねています」

「そうなんだ」

「はい。ここに来たのは部屋で姉と妹たちがクリスマスの計画をはしゃぎながら立てていることについていけなかっただけですから」

 

 今ので僕と不知火の会話は終わり、またお互いにそれぞれのやっていたことに戻っていく。

 僕は陽炎型艦娘たちの有給取得率の紙を眺める。

 陽炎や磯風が多く、彼女たちの休暇は1日だけにしようと思ったが考えを改める。

 マイペースな不知火が部屋を出てくるほど陽炎たちが楽しみにしているなら、2日間とも休暇をあげようかと思う。

 休暇取得率がかなり低い不知火も、姉たちと一緒に休んでくれるだろうし。普段から真面目すぎる彼女に取ってご褒美になるだろう。不知火の有給申請はまだ来てないが、陽炎型たちの予定を優先して作ることにする。

 他の子たちには悪いけど、彼女たちには勢ぞろいして休みを取ってもらいたいから。

 そう決意して書類を書きすすめる。

 20分ほど経って休暇申請の書類を終えると、僕は仕事をやり終えて深く大きなため息をつく。

 

「終わりましたか?」

「ああ、不知火の休みも陽炎たちと合わせてしっかり2日間入れたぞ」

 

 不知火の静かな雰囲気から一転し、不知火は読んでいた小説をテーブルに叩きつけるように置くと、早足で机越しに俺の前へとやってくる。

 俺が何か変なことを言ったのか、その雰囲気は怒っているような。

 

「不知火はそんなことをお願いした覚えはありませんが?」

「いや、だってな……普段から休暇を取ってないし、わがままも言わない。そんな不知火だからこそクリスマスは姉妹たちとゆっくりしたいでしょ?」

「必要ありません」

 

 僕の気遣いを気にせずに不知火はきつく睨んきて、声も怒気をはらんでいる。

 そんな力強い眼力や表情に負けず、黙ってにらみ返すと不知火は呆れたように小さなため息をついた。

 

「司令の休みはどうなっていますか?」

「お正月が終わったら休むよ」

「……司令がクリスマスに休みを取らないのなら、不知火もいりません」

 

 はっきりとした言葉に僕はたじろぎ、僕は髪を片手でかきあげて悩む。

 真面目すぎる不知火は、不知火のために考えた案を受け入れてくれない。どうすればいいか考えるも、さんざん悩んで出た提案が却下されたのだから他の案がすぐに出るわけがない。

 この場はとりあえずごまかし、あとで陽炎に説得してもらおうと考えた。それからこの気まずい空気をどう変えようか悩んでいると不知火から提案がされる。

 

「司令、不知火のお酒に付き合ってくれませんか?」

「ああ、喜んで」

 

 不知火には滅多にお願い事をされないから、久しぶりにそう言ってくれたことに嬉しくなった。

 席を立ち上がってソファーへ行くと、立場を考えているのか不知火が僕を見て座るのを待っていたため、先に座る。

 不知火はソファーを見つめては一瞬悩んだ様子を見せ、僕から少し距離を開けて隣へと座ってきた。

 酒を飲もうかとテーブルに置いてあるお酒『麦焼酎 不知火』と書かれている瓶を取ろうとしたが、先に不知火が手にとってお酒をおちょこへとついでくれた。

 そして、自分の分もつぐと僕と不知火は同時にストレートの酒を飲む。

 そのお酒は無色透明で、飲んだ途端にアルコール度数の強い匂いと味が鼻と口、それぞれにやってきてむせてしまう。

 最初の一口目では強いお酒だなと思い、思わずむせてしまう。隣にいる不知火も僕と同じようにむせていた。

 

「なんでしょうか」

「や、なんでもないよ」

 

 お酒を飲んでむせた姿が恥ずかしかったらしく、キツい目で睨んでくる。少しのあいだそのまま僕の目を見ていたが、おちょこに入ったお酒を一気に飲みほした。

 むせる僕に不知火が少し近づいてきて、ハンカチで口元と軍服にこぼれたお酒をぬぐってくれる。

 

「お酒はあまり飲まなくてね」

「誰にも言いませんよ」

 

 恥ずかしげに言う僕に、アルコールがまわってきたらしく顔がほんのりと赤くなっていく不知火が優しく微笑んでくれる。

 その微笑みは不知火が色っぽく見えてきて、急に大人の色気を感じてしまったことによる緊張でどきどきしてしまう。

 からっぽになったおちょこへと再びについでもらい、今度はゆっくりと飲んでゆく。

 麦焼酎のすっきりとした味わい、飲みやすい舌触り。度数が強くて飲んだという実感がよく出て満足する。

 2杯を飲んで、これ以上飲むと家に帰るのに支障をきたすと考え、おちょこをテーブルへと置く。

 おちょこを持った不知火がじっとこちらを見つめ、お酒をついでほしいということに気付いて不知火から瓶を受け取るとおちょこへとそそぐ。

 

「ありがとうございます」

 

 けれど不知火はすぐに飲まず、何かを考えるように視線を宙へ浮かべる。数秒ほど経ち、不知火はぐいっと勢いよくお酒を飲みほした。

 むせて苦しそうにしている不知火に声をかけようとしたが、僕へおちょこを突き出した。

 戸惑いつつもまたお酒をそそぐ。

 それを2回続けたところで、不知火の視点の焦点が合わなくなってきたのでおちょこをを取りあげてテーブルへと置く。

 

「大丈夫?」

「いつもはここまで飲まないのですが……司令官!」

「え、なに!?」

 

 いつもは大声を出さないのに突然に大声を出して驚く。

 それから僕の体へとぶつかるほどに距離を詰めてきた。

 僕を見上げる目はうるんでいて、見つめてくるその目に吸い込まれそうな気分になってくる。

 

「先ほどの休暇の件ですが。司令は休みを取ってください」

「さっきも言ったように僕は来年に取るよ」

「クリスマスです。クリスマスに休みを取りましょう。それで私が監視につきます。そうでないと私の司令は働いてしまいますから」

「でもそうすると他の艦娘たちがね?」

 

 急に言葉の勢いが強くなり、普段は個人的な意見を言わない不知火にたじろぐ。

 艦娘とはいえ、お酒には強くない子もいると理解できた。それよりも今はなんか逃げたい気分だ。この不知火は妙に迫力がある。普段の眼光が強いのとは別な。

 

「それはご安心を。司令のためと言えば、姉と妹たちはクリスマスの休みはいらないと喜んで言ってくれるでしょう」

 

 不知火が無茶苦茶なことを言ってきている。もしあの子たちから休みを取り上げ、別の日にしてしまったら長いこと恨まれるに違いないと思う。

 そんなことを若干酔いが回ってきた頭で考える。……陽炎型の娘たちからは不知火以外全員休暇申請が来ていたんだけれど。もしかしたら僕が休みを取るなら姉妹たちは諦めるという話でもしたのかもしれない。不知火が同意もなしに強引な話をすすめることもないだろうし、たぶん。

 

「そこまで言うなら休み……あー……」

「何か問題でも?」

「同僚からの誘いも断ったし、やることがなくてね。街に行くにも恋人ばかりがいるところには行きたくなくて。家でごろごろするしかやることがないなら仕事したほうがいいかなと思ったりしたんだ」

 

 不知火からの好意で休みを取ったとしても、今いった言葉どおりにひとりで過ごすことになる。体は休めるけど、精神的にはかなりの疲労が溜まってしまう。

 世間はいつだって独身には厳しい。

 溜息をついて落ち込んでいると、不知火がそわそわと視線や体を動かして落ちつきがなくなりはじめた。

 

「あの、それでしたら、この不知火が付き合わせていただきます」

 

 ……不知火が仕事以外で僕に気を使うなんて滅多にないことに驚く。これはお酒のせいであまり考えずに言っているから遠慮しておいたほうがいいだろう。

 不知火が来てからもう時間がたったと思って壁かけ時計を見るともうすぐ午前0時。

 日付が変わり、12月20日になってしまう。

 明日も仕事がある部下と一緒に飲み続けると他の艦娘たちからの評判が下がってしまうだろう。

 

「わかった。25の日に休みを取って不知火には僕に付き合ってもらうよ」

「絶対ですからね?」

 

 息がかかるほどに僕の顔へと近づいてきた不知火に焦りながら僕は何度もうなずく。

 それに満足したらしく、不知火は可愛い笑顔を浮かべて僕からちょっとだけ離れて隣へと戻った。

 笑顔に僕の心はときめいてしまったことを感じると同時に、理性が刺激されて変なことを考えなくてよかったと安心する。それは力が脱力するほどに。手足から力を抜いてソファーへと体を投げ出す感じなリラックスモードになった。

 精神が疲れたからもう寝てしまおうかと思っていると不知火は時計を見る。

 

「20日になりましたか」

「うん、日を越えたね」

「デートの約束、不知火には素晴らしい誕生日プレゼントです」

「それはよかっ―――え?」

 

 誕生日? 不知火の? 

 すっかり忘れていた。プレゼントも何も用意してないし、今からだと準備する時間も足りない。

 まだ20日になったばかりだけど、今日も仕事なために出かける時間がない。仕事をさぼれば用意はできそうだけど、そんな私的な理由ではダメだ。

 ほんのりと顔を赤くした不知火は片方の手袋を脱ぎ、脱力した僕の指をつっついてくる。

 つんっ……とつつかれ、つつき返すと同じようにつつき返される。

 

「部下の誕生日を把握してないのですか?」

「してない。書類を見れば分かるんだろうけど、それだとなんだか……」

「なんだか?」

「失礼な気がして。いくら上司部下の関係といえど、全部を知ってしまうなんて。あ、戦闘関係は見ているよ?」

 

 言葉の途中で部下のことを知らないだなんて言ってしまったことに焦った。不知火から見れば、それは部下を軽視しているようにしか見えないと思う。だから文句を言われるのが嫌ですぐに言葉を追加した。

 

「書類だけで全部だなんてわかるわけないじゃないですか。司令はバカですね」

 

 呆れたようにため息をつく不知火の指とのつつきあいが、今度は人差し指の先をからめてくる。それにされるがままでいると今度は中指、薬指と段々増えてくる。

 指をちょっとずつ絡めているだけなのにとてつもない恥ずかしさで胸の動悸がバクバクとなって痛いほどに辛い。さっき顔が近づいたときよりも。

 少し時間を置くも言葉はなく、ふと不知火の顔を見ると同時に目が会う。

 それでも僕たちは目を離すことができない。何かを喋ろうと口を開くも、言葉は出なかった。

 いったん頭を落ち着かせようと体をちょっと動かして離れようとしたけれど、不知火が全部の指をからめてきて優しく握ってくる。

 

「不知火?」

「何かあり……ましたか?」

 

 ここからどうしようかと不知火の目を覗くと、言葉の途中で僕から目をそらした。でも指は離れず、今度は指の付け根あたりまで僕の指とからめてくる。

 深く手と手が繋がると、さっきまでの恥ずかしさや緊張はだいぶなくなって安心感がやってくる。それはもうこれ以上はないと思うと同時にしっかりと手を結ぶことはこんなにも心が落ち着くものだとは思ってもみなかった。

 不知火も安心した笑みを浮かべると、俺と不知火は手をつないだままソファーへと体を預け、何もしない心落ち着く時間を過ごす。

 そのうちに隣からは可愛らしい寝息が聞こえてきた。

 その寝顔は普段の厳しげな表情や目と違い、とても可愛らしくて頬をぷにぷにとさわりたくなる。

 僕は不知火を起こさないようにそっと彼女をお姫様抱っこのように抱き上げ、不知火の部屋へ運ぶことにする。

 抱っこするなんてことは初めてだからか、とても軽いことに驚く。他の駆逐の子と同じように体が小さいのだから、それはわかっていたのだけど。知らず知らずのうちに大人扱いしてしまってたからそのギャップがあるのだろう。

 執務室の扉を開けると、廊下の冷たい空気の寒さで身震いをする。

 意識がすっきりする寒さを感じながら、不知火を抱え直す。

 

「好きですよ、司令」

 そのときに起きているのか寝言なのかわからない、耳元へ届く小さな声を聞いて僕は頬がゆるむ

 それはすぐそばに僕を大切に思ってくれている人がいたってことを。




旅行先で艦娘と同じ名前のお酒を探すのが楽しいです。
艦これでは進水日が誕生日だと後で知りました。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。