僕は雲龍のことが気になっている。
一目惚れから始まり、接していくうちにもっと興味が出てきた。
19歳の僕にとって、それは初恋かもと思った。
雲龍は可愛くミステリアス。それに物静かで美人だ。部下であるけれども、親しく接する未来が想像できない高嶺の花というやつだ。
僕としてはもっと日常生活から仲良くなりたいものの、雲龍は僕を弟扱いしてくるばかり。日々続けている大好きアピールだなんてものは気にもしてないのが悲しい。
そうして今日も『弟』として雲龍の夜間訓練前に、頭を撫でられて短くも楽しい会話をした夕方。
嬉しさと若干の悲しさが入り混じった感情のまま、僕は執務室へと帰ってきた。
部屋には暖炉と執務机、それにソファーがあり、部屋に入ると暖かな空間になっていることに安心する。
夏が終わり、秋が深まった今は執務室にある暖炉はとてつもなく頼りになる。
その暖炉の前でしゃがんで薪を入れていたのは秘書の天龍がいた。
天龍は首筋まで伸びる黒髪で、頭の左右にはとがったアンテナのような四角くて細長い浮遊物体がついている。
鮮やかな黄色の目、その左目のほうには眼帯をしていて、出会ったときは怖くも見えたけど今ではかわいい人として見ている。
黒を基調とした制服、大きな胸にニーソックスとミニスカなのは僕みたいな若い男にはとても魅力的な恰好だ。
はじめの頃は見るたびにドキドキとしていたけど、慣れとさっぱりとした付き合いやすい性格だから今では男の親友みたいな関係になっている。
彼女は振り向いて、僕の顔を不思議そうに一瞬みつめてきたあと、からかうような笑みを浮かべる。
「なんだ、また雲龍に相手されなかったのか?」
「会話したから相手されたことになるって。二言で話は終わったけどね!」
天龍の指摘した通りだったから開き直って言うが、言ったあとすぐに悲しくなる。
大きなため息をつき、執務机に行ってはどっかりと椅子に深く腰掛ける。
天龍は薪を持って木屑がついた手を振り払い、しゃがみこんだまま暖炉の火にあたり続けている。
「お前は女性に対する会話という経験が少ないからな。俺はお前のことをいつでも考えているが、お前は誰かのことで頭いっぱいという経験がないだろ?」
その意見はまともな意見に聞こえる。
雲龍からも似たようなことを言われた。『提督は周りの人のことをたくさん考えるれば、自分の本当の心に気づくと思うわ』と。
その言葉の意味はよくわからなかった。周りの人といえば、すぐに思い当たるのは天龍のことだ。
天龍は提督として若すぎる僕に赴任時からいつも最適な助言をくれた。
今回だって、そう間違っていないとは思える。
「確かにそういう経験はないね。でも僕は普段から天龍とする会話は楽しいよ?」
そう言った途端、天龍は驚いたように僕を見ると、ゆっくりと口を開けた。
「……本当か?」
「男の親友みたいで安心できるから。それに仕事の時も天龍の言うことを聞けば大きな失敗はしないし。これからも今までと同じようにずっと仲良くしていきたいよ」
僕としては褒めたつもりなのに、天龍は難しそうな顔をするとまた暖炉へと顔を向けた。
これがさっき言われた女性経験が足りないからということだろうか。
でもおかげでそのことに気づけたのだから、これから注意して言葉の技術を磨いていけばいいかな。
たとえば、褒めるとかそういうことを。
「ある意味、天龍のことも雲龍と同じかもしれないね。そうでなかったら、今のように気軽に会話ができていないと思うし」
「なんだ、オレに一目惚れってことか?」
天龍は暖炉から離れると、机越しに僕の前へとやってきては部屋に入ったときと同じからかうような笑みを向けてくる。
「出会ったときは眼帯つけているのが怖かったけど、落ち着いてみればかっこいいと思ったし。うん、一目惚れだね。好きだよ、天龍」
正直にそう言うと、天龍は即座に僕へと背を向けては急にしゃがみこみ、両手で顔を押さえていた。
その行動に理解ができない。
いったい僕は何の言葉を伝え間違ったんだろう?
素直に好意を伝えただけなのに。雲龍と同じぐらいと先に言ってしまったのが悪かった?
少し自分の言葉を思い返し、人は誰かと比べられるのが嫌だと思い出した。それは自分の短い人生での高校卒業後、若くして提督になってしまった経験から。
「お前の言葉は危ないな。もしオレ以外の艦娘が秘書だったら誤解しているところだったぜ」
「よくわからないけど、僕が褒められていないのはわかるよ」
「ある意味褒めているって。しかし、よくこれに雲龍は耐えれているな……」
後半の言葉は声が小さくて聞こえなかったけど、僕に言うつもりはなかったらしいから単なる独り言だと判断して気にしないことにする。
「一目惚れってすごいよね」
ようやく天龍が立ち上がって僕へと振り向くと、腰に手をあてて呆れたような顔になっていた。
「そりゃあすごいだろ。相手の姿を見た瞬間に気に入って惚れてしまうんだからな」
「それを続けていきたいね。僕の一目惚れが恋愛感情なのなら」
「感情の好きかをわかるのは大事だからな。いつも変わらないのが愛だ。だからな、お前も拒まれても受け入れられても、何も変わらなくてこその愛なんだぞ」
天龍がすごく良いことを言ったことに、さすが僕より人生経験があるなと感心する。
こういう考えだからこそ色々と、時には壮絶な恋愛経験をしたんじゃないかと思う。
そうしてそれを聞こうと口を開きかけたけど、『どういう恋愛をしてきたの?』と聞くのは失礼じゃないかと思いとどまる。
もし失恋したことがあって、それが重かったら私生活のことを必要以上に聞かれたくないかもしれない。
「なんだ、気になることがあるなら言ってみろよ。悩んだままってのは心に悪いぞ?」
「じゃあ聞いてしまうけど。その、天龍って恋愛経験は結構あるよね?」
「え、あー、まぁ。あることはある。片想いだけどな」
とても気まずそうに顔をそらすも、ちらちらと目だけは僕を何度も見てくる。
恥ずかしがっているっぽいけれど、自分が恋をしているということを言ってもらえるのは信頼されていると感じて嬉しくなる。
「迷困ったときには天龍に恋愛相談していいかな。お礼として僕にできることならなんでもするよ。提督権限で休みを増やすとか!」
天龍にとって僕にできることは提督権限を使うぐらいしかないけど、これだけでも天龍の恋愛はやりやすくなるはずと確信していた。
だというのに天龍は困った笑みを向けてきた。
それならもっと、未来に目を向けてみよう。お互いに明るい未来のために。
「きっと僕も天龍もうまくいくから。そうしたらダブルデートを―――。あれ、天龍?」
まだ言葉の途中だと言うのに、天龍は胸を押さえて辛そうに「これが敗北というのか……」と苦しそうに変なことを言っていた。
「オレのほうは無理そうだが、提督は頑張ってくれ。……そうだ。龍田に女心を聞いてみるといい。あいつは怖いことを言ってくるが、少女漫画で得た恋愛知識があるから相談相手にいいと思うぞ?」
早口でまくしたててくることに驚くも、信頼できる天龍の言葉は僕にとってとても良い提案だ。今度会ったら聞いてみることにし、悩んでいた問題が軽くなったことで書類仕事をすることにした。
でも天龍の調子は悪そうで、すぐに仕事をする気分じゃない。秘書であるまえに親友として放ってはおけないし。
「調子が悪いなら今日は帰ってもいいよ?」
「大丈夫だ。少しばかり暖炉の火をみつめていれば、精神はよくなるからな」
天龍はぱっと立ち上がり、暖炉のほうに行ってしゃがみこんだ。
気の抜けた顔でぼぅっとしているから、下手に何も言わず放っておくことにする。誰しも静かになりたい時があるだろうから。
僕は書類仕事を始めるけど、雲龍のことを考えてしまって集中できなくなってしまっている。
悩み事は僕が雲龍に対しての感情がやっぱり恋愛感情ではないのかということだ。
雲龍のことは好きだけれど、それは男と女というものより姉みたいなものだと心のどこかで思っているのかもしれない。
頭を撫でてくれるだけで嬉しくなるし、あの落ち着いた声で褒められるとそれだけで幸せだ。
……僕は雲龍になら甘えられると思って、無意識で近づいている?
気づいてしまうと自分の感情を整理することができ、本当のことがわかりそうな気がする。
だからといって答えはすぐに出るものじゃない。
恋愛感情であってもなくても、僕が雲龍を好きなのは変わらないから。
何度も深く頷き、自分の心に納得がいったところで改めて仕事をする。
―――それから1時間と少し経った頃。
お腹が空いたと感じた頃、腕時計を見ると午後5時ちょっと前になっていた。食堂はもうすぐ開くから、いつもより早いけど行ってしまおうか。
「天龍」
「おーう?」
ソファーで寝転がり、ぼぅっとしていた天龍は首だけ僕へと向けてくる。
「夕ご飯、食べにいこうか」
「おう」
立ち上がり、体を伸ばした天龍は僕へと近づいてくる。
僕は仕事でやっていた書類を片付けると、天龍が差し出してきた手に捕まって立ち上がる。
時々、こうやって天龍は手を出してきては僕と手をつなぐことがある。
そういうのは嫌でないし、天龍と鍛えられた手を握ると安心できるから好きだ。
ただ、いつもと違って天龍が挙動不審な様子で握った手を何度も握り返してくる。
普段よりも熱を持った手や行動に首をかしげながらも、手をつないだまま執務室を出て食堂へと向かう。
食堂前までやってくると、手を離すのがなごり惜しそうな天龍から手を離し、いい匂いに惹かれるようにして食堂へと入っていく。
食堂は50人は入れる広さを持ち、今は食堂が空いたばかりで中にいる艦娘は6人しかいない。
天龍と並んでカウンターへと行き、すぐに2人分の食事が出てくる。
料理はご飯に白身魚のムニエル、野菜サラダとワンタンスープ。冷たいウーロン茶もある。
それらが乗ったトレーを持つと、海が見えるテーブルへと行き、天龍と肩を並べて椅子に座った。
僕たちは「いただきます」と声を出すと同時に手を合わせてから食べ始める。
いつもは混雑して並んでいる他の艦娘たちに席を空けるために早く食べる必要があるけど、今はまだ人が少ないためにゆっくりと食べれる。
そうやって味わいながら食べていると、入口に龍田の姿が見えた。龍田は天龍の妹であり、天龍と仲良くしていることもあって僕とも良く会話をしている間柄だ。
隣にいる天龍が手を振ると、にっこりと笑みを返し、料理が入ったトレーを持ってテーブルを挟んで天龍の正面へと座ってくる。
「龍田、お疲れさま」
「おう、お疲れ」
「おふたりもお疲れさまです」
お互いにねぎらいの言葉をかけると食事を再開するが、僕は龍田に聞きたいことがあった。
それは執務室で天龍が言っていたこと。女心はどういうものかということを。
「龍田、話をしてもいい?」
「話? 天龍ちゃんのことなら恋人にしちゃってもいいわよ~?」
龍田がからかって言った途端に天龍はテーブルを叩いて立ち上がった。
何かを言おうと口を開いたが、僕と龍田の驚いた顔を見るとすぐにおとなしく座る。
「提督、もしかして天龍ちゃんと楽しいことでもありました?」
「天龍とはいつも楽しいさ。それで龍田に女心を教えてもらうといいって言われたよ」
それを聞くと龍田はとても面白そうに顔に笑みを浮かべては頬に手をあてて首を傾げる。
この姿勢になる龍田は危険だ。物凄く興味を惹かれる何かが起きると、こういうふうになってしまう。もう食らいついたら話が終わるまで逃がさないぞ、と。
「私も女ではあるけれど、女心は難しいわぁ。恋心なら本で勉強してはいるけれど」
「ちょっとだけでいいから教えて欲しいんだ」
「いいわよぉ」
龍田が天龍へと視線をやるので、つられて僕も見ると顔を赤くした天龍が僕たちから視線をそらしながら食事をしていた。
今の会話のどこに顔を赤くする要素があった? と不思議に思ったがちょっと考えれば話はつく。
僕なんかの恋人にされそうだ、とからかわれたのに怒ってしまったんだろう。
龍田は僕の視線に真正面に向かって言い始める。
「恋心ってのは、一日中その人のことばかり考えてしまうものらしいの。それで恥ずかしくて会話するのも大変だと漫画ではそんなふうに描写されていたわ」
それを聞いて僕は龍田から視線をそらすと、じっと料理のほうを見て考えこむ。
僕が大好きかもしれない雲龍にはこれらは当てはまらない。
よく考えているけれど一日中ってほどでもなく、恥ずかしがるなんてこともない。
雲龍に相手してもらえるだけで嬉しいのは、恋心とはやっぱり別なのかもしれない。
「……雲龍に抱いている想いとは違うのかもしれない」
「そういう違いを理解できるようになったってことは、提督も成長したのね。お姉さん、嬉しいわぁ」
「いつから龍田は僕の姉になったんだ。姉ちゃんって呼ぶぐらいなら……」
そこで僕はいったん口を閉じ、少し間をおいて再開する。
「姉ちゃんって呼ぶぐらいなら、天龍のほうがいいって思ったよ」
「天龍ちゃんは私より親しみやすいし、見ているだけで癒されるからね~」
と、龍田は箸で掴んだ白身魚のムニエルを僕の口元へと持ってくるが僕は顔をそむけて拒否をする。
「あら、振られちゃったわ」
言葉とは逆に、嬉しそうに箸で持っていたムニエルを自分の口へ持っていって食べる龍田。
龍田の話を聞いた結果、恋心というのはそれは単純そうに見え、物凄く複雑なもの。世界中のあらゆる問題よりも難解で、解明することなんか不可能とも思えてくる。
「僕に恋愛は早そうだ。恋することもされることもね」
「あらぁ、私はそうは思わないわ」
龍田は意味深な笑みを浮かべると天龍へと人差し指を向けた。
いつの間にか食べ終わっていた天龍はそれに疑問を抱いた表情になる。
「提督は天龍ちゃんの行動、変だと思ったことはあったかしら。それも今日1日で」
「今日?」
人差し指が僕へと向けられる。
いつもと違ったこと。天龍の言葉や行動、それらを思い出そうとすると、頭をぐりぐりと強く撫でまわしてくる天龍。
「お前は難しく考えすぎなんだ。恋ってのは自然に出るものだから、オレなんかについて考えても余計に頭がこんがらがっちまうぞ?」
「天龍ちゃんの言うとおりよね。人を好きになるなんてのは、子作りしたいと思ったときなんだから」
上品な龍田の雰囲気から『子作り』だなんて言葉を聞いた僕と天龍は動きが固まり、変なものを見る目で龍田を見つめる。
龍田はニコニコとかわいらしい笑みを浮かべるだけ。
「おかしいことではないと思うわ。感情が進んでいくと、この人になら迷惑をかけられてもいいとか、一緒に死にたいって思うようになれば、それはもう完璧に愛なのよ?」
まともなような物騒に感じるような。そんな龍田の言葉は頭の片隅でちょっとだけ理解できる気がする。
龍田の言っていることは恋心の先にある、僕がまだ知らない愛情というもののことだと思う。
食堂が混み始め、周りが食事をしているときに僕たちだけは食事を終え、そこだけ違う空間が存在していた。
「そもそも提督と天龍ちゃんは付き合っているっていうのが艦娘たち共通の認識なのに。本人たちはただの友達関係としか思っていない。それは本当に悲しいことね」
龍田は僕に差していた人差し指をくるくると回しては残念そうにテーブルへと指を降ろす。
呆れた様子な龍田の姿に、僕と天龍は同時にお互いを見るが天龍は慌ててすぐに顔をそらした。
……僕と天龍が付き合っている? 提督と秘書の関係だけなのに。いったい何が恋人に思われたか、心当たりすらもない。
龍田は思いっきり深くため息をつく。
「天龍ちゃん、このままだとどうなっても知らないわよ? 提督がフリーだっていうのをばらしちゃったし」
「オレは別に。別になんともないぜ。ああ、なんともな!」
焦った様子でコップに入っているウーロン茶を一気に飲み干す天龍だが、僕はそれよりも周りからの声が気になった。周囲からは急に僕と天龍がいまだにくっついていないことに不思議がる話が広がっている。
そのざわめきは次第に広がっていき、食堂のあちこちから僕へと視線が向けられるのを感じる。
僕と天龍がそんな関係性と認識されているのは気が付いたこともなかった。
別に天龍といちゃいちゃしたことも甘い言葉をささやいたこともないのに。
「おい、提督」
「どうかし――」
どうかしたの? そんな僕の言葉は続けられることがなかった。
振り向いた僕の顔を、天龍が力強く抑えつけてきたと思った瞬間には天龍の顔が僕に迫り、おでこに唇の柔らかい感触があった。
ほんの1秒ぐらいの軽い感触。離れていく天龍の顔は物凄く真っ赤で恥ずかしそうだった。
どこか冷静で考えている僕はまるで自分のことでないように思い、次第に理解してくる。
天龍にキスされたってことを。
今まで男のような感覚での関係だとしか思っていなかったのに、急に目の前の天龍がかわいく見え始めて仕方がない。
僕の心臓がバクバクと強く鳴り響き、体全体がぽかぽかとお風呂に入ったかのように熱くなる。
硬直して動けないでいると、また天龍がおでこにキス。次に頬。そのどれもが柔らかくて気持ちよく、周囲の音は何も感じなくなり、目の前の天龍にしか意識がいかない。
「オレはこんなことをするぐらい好きなわけだが、お前はどう思っている?」
そう言われてもまだ自分の答えなんて出るわけがない。だって天龍を女と意識したばかりなんだ。
今まで思ったことのない、もっと近くで、もっと一緒にいたいという感情が出てしまう。
ちょっとのあいだ、目を離すことができなかったがわずかな理性を動員し、また天龍の顔を見た。
目がうるみ、泣きそうになっていても天龍はかわいい。
「今まで男の親友だと思ってた。ついさっきまでは。でも今はかわいい女の子として見るように……ごめん、そこから先はわからないや」
告白の返事が出せないことに申し訳なく思うけど、天龍はガッツポーズを取って喜んでいる。
「やっと、やっと女として認めてもらえたぜ!」
「よかったわねぇ、天龍ちゃん」
「おうとも! これからは―――」
そこで天龍は固まり、周囲から強い視線の圧力と無言のプレッシャーで固まっていた。
いつもは賑やかな食堂。でも今だけはただただ静か。
ふと、誰かが「おめでとう!」という声と拍手をする音が聞こえた。
それが始まりで次第に祝う声と拍手の数が増え、食堂全体から祝われ始めた。その中には「Congratulations, Admiral!」「これでやっとすっきりするかも!」と喜んでくる声が。
その圧倒的お祝いの雰囲気に、急に冷や汗が出始めた天龍は僕の手を取ると混雑した艦娘たちの間を抜けて、食堂の外へと向かって早足で歩き始める。
「天龍、どこへ行くの!?」
「ふたりきりになれる場所だ!」
天龍の言葉に強い歓声が上がった。
僕は自分の感情にも整理をつけられず、急速に動き回る展開に僕の頭はついていけない。
助けてもらおうと龍田のほうを見ると、素敵な笑顔で僕たちに手を振っていた。
まるで姉の幸せを喜んでいるような、いつも見る笑顔よりも格別に良い笑顔。
龍田の満ち足りた笑顔に見送られ、隣で僕の手を引っ張って走っている天龍はすっきりとした爽やかな笑顔を浮かべていた。
僕はというと、心の片隅で悩んでいたことが落ちて、すっきりとしている。
今まで恋してなかった自分だけど、天龍に抱いている気持ちがもしかしたら恋愛感情かもしれないってことを。