提督LOVEな艦娘たちの短編集   作:あーふぁ

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49.由良『由良と提督の物語』

 軽巡洋艦の艦娘、長良型4番艦の由良である私は遠征を無事に終えて鎮守府へ帰ってきた。

 雪が降っている寒い空気の中、日が落ちる少し前に帰って来たことに安心する。一緒に行った駆逐の子たちに「お疲れ様」と声をかけて先に宿舎へと帰らせた。

 1人残った私は遠征結果を報告するために執務室前へと行く。

 同僚の艦娘たちとすれ違いながら執務室の扉までやってきた私は、心構えや規律がなっていないと言われないために、いつも執務室へと入る前は入念に準備をする。寒いからといって制服や腰まで伸びる長いサイドポニーの髪が乱れたままでいい理由ではないから。

 扉の前に立ち、深呼吸して心を落ち着ける。

 ノックをする前に冷えた右手に息を吹きかけて温め、ノックの動作が自然にできるようになってから扉を軽くノックした。

 するとドア越しに若い少年の返事が来たのでドアを開けると、その瞬間に暖かい部屋の空気が感じられ、廊下からの寒い空気があまり入らないように少し急いで中へと入り、扉を閉める。

 広々としている執務室にある調度品はとてもクラシックなおしゃれで気品に溢れている。執務机に本棚、そして立派な暖炉。

 暖炉には薪がくべられ、火が赤々と優しく燃えているようだった。それはまるで提督さんの人柄をそのままあらわしているような。

 ただし、それは今の提督さんではない。今いるのは代理で、息子さんがやっている。

 

「おー、由良じゃないか。おっかえりぃー」

 

 窓際にある執務机の椅子から立ち上がった人はお人形のような整った外見の、私より背が小さい女の子のような子が私へとかわいい笑顔を向けてくれる。

 その子は一見して女の子のように見えるが16歳の華奢な体つきの少年。

 腰まで長く伸びる、ゆるふわウェーブな金色の髪。

 中性的な顔はかわいさと綺麗さが合わさって、これから大人の色気が出てくるに違いない。さらに顔にはファンデーションやアイライナーなどの化粧品ですっきりと整えられ、もしかしたら私より美人だと感じる人がいるかも、と思う。

 そんな少年が着る服は軍服ではなく、代わりに肩出しのニットワンピとニーソックスにブーツだ。見える白い肌は白磁のように美しい。

 そんなうらやましく思える肌を持つ少年は私の前に来ると、私の冷えている手を掴んで暖炉の前へと連れていこうとする。

 私はそんな行動に戸惑うも、おとなしく連れられて暖炉の前までやってくる。

 あまり好きになれない少年だけれど、時々こういう気づかいは嬉しい。

 暖炉の火で体が暖まってくると、静かに少年の手を振りほどき遠征の結果報告をする。

 私が淡々として言い始めると、今までの少年の笑顔はなくなってつまらなそうな顔をしながら聞いている。

 

「もうさ2カ月目なんだから、仲良くやろうよ、由良」

「……お父上のように立派にしてくれれば私は嬉しいです」

 

 遠征報告が終わってから言われた言葉に私は冷たく返事をする。本来の提督さんがいれば、こんな不快な思いをすることもなかったのにと小さな溜息が出てしまう、

 ここにいない提督さんは50歳になり、家族がいる家に帰ることものなく仕事熱心すぎたために体調が悪くなりやすかった。病院嫌いだったけど、無理に私が病院へと連れていき、検査で病気が見つかって2か月前に入院した。代わりに来たのが16歳の少年だ。私が尊敬する提督さんの息子なのだから、さぞ立派な人物なのだろうと期待していた。

 提督代理として来た少年は女装癖があり、提督という人々を守る立派な仕事をまるで高校の部活動をやるような感じでやっちゃっているみたいに私は思えた。

 仕事を軽視しているのか戦闘や演習はなくなり、指示されるのは遠征だけ。戦えと言われないのは、なんだか自分たちが無能に見られているようでいい気がしない。

 

「最低限の仕事はやってください。艦娘たちと一緒にファッション雑誌を見たり、服を買いに行ったりと構いすぎです。艦娘たちからは気楽にできるなんて言われていますけど、裏を返せば甘く見られています」

 

 少年は艦娘を軍人としてではなく、ごく普通の女の子として扱おうとしている。それは私たちが怪我することや火薬の匂いを無視したいかのように。

 

「んー、ほらさ。そういうのは信頼関係? それをオレは大事にしてるの。作戦指示とか言うことを聞いてくれないっていうんなら、それはオレという人間が信頼できないってことでしょ?」

 

 私の周囲をぐるりとまわり、正面へとやってくるとくるりと一回転をしては優しげな笑みを浮かべ、ふんわりと浮かんだ金髪を暖炉の火で輝やかせた。

 私も髪の手入れはしているけれど、海風で痛むぶん陸上勤務の少年のほうがその点は有利。これに関してはちょっとだけ嫉妬してしちゃう。

 

「普段はそれでもいいですけど。あなたは代理とはいえ、今は軍人なんですよ」

「別になりたくてなったわけじゃないし。オヤジが入院してるあいだだけだよ、提督業ってのは。まったく、楽しい高校生活まで休学させられてこっちは辛いんだよね」

 

 ヘラヘラと笑う少年に私はいらだちがくる。

 提督とは私たち艦娘の命を預かる仕事。国を、平和に過ごしている人々をも守る立派なことである『艦娘』というのもどうにも軽く見られている気がしてならない。

 なんで提督さんはこの息子を代理にしたんだろう。

 自分の息子だから安心できると思った?

 身内じゃないと自分の部下が何されるかわからないから? 

 

「艦娘ってさ、テレビやネットで言われているとおりだとすると殺しでしか役に立たないんだって? で、提督という仕事は暴力のみによって物事を解決する艦娘を指揮するって奴だよね。まるで犯罪者の―――」

 

 溜息をついて、つまらなそうに言う少年に私はまだ冷えている右手でその頬を強く叩く。

 叩いてしまった。

 一応は今の上司である少年に対し、暴力をふるってしまった。

 これで厳重処分にされるかなと寂しく思ったけれど、間違っている提督をただすのも艦娘の役割だと思っている私は後悔していない。

 少年は叩かれた頬を手で押さえ、呆然としている。私はそんな少年へと口調を強くして言う。

 敬語なんてもう知らない。処分がさらに重くなっても気にならない。

 

「私たち艦娘や提督。それに関わる人が国や人々を守ってるからあなたはそんなことを言えるの。代理とはいえ提督になったのだから、そのくらいはわかるはず。後方で言われているのと実際の状況との違いに。それがわからず、ただ女装して遊びに来てるようなら帰って欲しいものね。私たちは命をかけて戦っているんだから」

 

 今まで溜まってきた鬱憤を、この瞬間に少年へと全部言ってやった。心はとても軽くて気分がいい。

 それから窓が風に揺れる音だけが聞こえる静かな時間が流れる。

 私と少年。お互いに相手の目をみつめあっている。

 何十秒か経ったあとに少年は頬から手を離し、真面目な顔になる。

 私が初めて見たその顔。けれどもう見ることはないと思う。この顔は私へ重大なことを言うのだと理解している。

 少年は私へと一歩近づき、私の手を取り自分の胸元へと持っていく。そして驚くことを言った。

 

「お姉ちゃんって呼ばせてくれ、由良」

「……えぇと」

 

 その衝撃的な言葉に何も考えれず、思考がからっぽになってしまう。

 私は何を言われたの? これは何かの隠語? 私の知らない何かの意味を持つ言葉?

 今までお姉ちゃんだなんてことは駆逐の子たちからしか言われたことがなく、男の子である少年からそう呼ばれると不思議な気持ちになる。

 それは恥ずかしいような、ちょっぴり嬉しいような。

 

「オレのためにここまで怒って説教も言ってくれる。提督さんの息子だからってことで誰もがオレに距離を取るなか、ここまで言ってくれるのは由良だけだ。好きだ、由良。由良が小さな子たちに向ける笑顔で惚れたんだ」

 

 そりゃ、男の子が女装して女の子よりとても可愛いから、どう扱っていいかわからないから距離を取るだろうし。

 あと私を好きっていうのは嬉しくないとは言わないけれど、同性同士だというのに好きというのは……いえ、目の前に美少女がいるけれど中身は男の子なんだって!

 ああ、落ち着くのよ私。好きって言われただけでなんでこんなに気持ちが乱されてしまうの?

 私はこの少年が嫌いだったはず! そう、そうよ。性格の前にまず女装が嫌なの! せっかく素敵な外見なのだから、見れるのならそのままがいいと思うから!

 深く息をつき、混乱していたけれど落ち着きつつある私は今まで思っていたことをそのまま言うことにした。

 

「私、女装する男性は嫌いよ」

「……こんなに似合っているのに?」

「ダメ」

 

 そのことがショックだったのか、すごく落ち込んだ顔で私の手から手を離すと、床に手と膝をついて激しく落ち込む少年。

 そんな姿を見ても私は落ち込む姿もかわいい。……だなんてことで動揺しないように強く意識を保とうとする。私は当たり前のことを言っただけなんだから。女装がよくないのは世間一般から見て当たり前のことなんだから。たとえすっごく似合っていても!

 少年は大きく溜息をついて、ゆらゆらとした感じで立ち上がって暗い表情で私を見る。

 

「この女装には理由があってな?」

「じゃあ、その理由を言って。それによっては女装でも構わないわ」

 

 視線をふらふらと動かして考えをまとめている少年の顔を私はじっと見つめる。

 少年がここまで言いづらいなら私もしっかりと聞かなきゃいけない。

 

「オレ、金髪だろ? これ、爺ちゃんの遺伝でこうなっちゃってるんだ。顔もあまり日本人らしくはないし。この髪で悪ガキたちにいじめられていたんだ」

 

 寂しげに言って、少年は両手で自分の髪を宙へと広げる。

 窓から入り込んだ日差しによって、それはきらきらと輝いていてとても綺麗だ。

 

「それでいじめられていた頃、守ってくれた子がいたんだ。その子はとても強い女の子でかっこよかった。あれは小学生の頃だったかな」

「それはきっと素敵な出会いね?」

「ああ、そうとも!」

 

 寂しげな声から一転、それはうきうきとした様子に。

 

「オレはその子と仲良くなった。そして憧れたんだ。強くなって、自分一人でも大丈夫なようにすればいいって」

「それが女装?」

「そう! オレは見た目が女の子っぽかったし、お母さんも協力してくれたから髪の長さ以外はすっかり女の子になったよ。それからはもういじめられることなく過ごせた」

 

 興奮しながら私の周りをぐるりと一周して熱く言ってくる。

 素敵な話だなーと思っていたら、その女の子がキッカケで女装をはじめたのね。

 ある日、突然女装をはじめたのを見たら、大体の人は戸惑って関わろうとしないと思うし。それに女の子そっくりな少年なら、女の子をいじめているようで罪悪感も出ていたはずよね。

 けれど、なんでまだ続けているんだろう。16歳にもなれば、いじめの対処も大丈夫なような気もするけれど。小さい頃はよくても、成長してから止める人がいなかったのかしら。

 でもこんなにも可愛いのだから女装させたままでもいいや、と思うかも。

 女装した理由を知れば、強い人にあこがれる心を持つのは当然で、感心しているのかもしれない。自力で立ち向かったのだから。

 私が女装という発想に感心していたときに、ふと疑問が浮かんだ。今でもその姿を続けている理由に。

 

「あなたは女の子になりたいの?」

「そういうわけじゃないけど。なんていうか女の子の格好って楽しくて。ほら、アクセや化粧、それと服装! 色々なおしゃれができるから男より圧倒的に面白いじゃないか!」

 

 両手を広げ、楽しそうにその場でくるりと回って今の服装の良さを見せてくる。

 昔はいじめられないようにと、強い女の子に憧れて。今では女の子になるということを楽しんで。

 女装が趣味、いいえ、もう生き方になっているのはわかった。

 わからないのは考え方のほうだ。鎮守府に来てから2か月も経つのに、あまりにも偏見的な気がする。

 

「女装する理由はわかったけれど、提督という仕事や艦娘についてはどう思っているの?」

 

 そう聞くと私から目をそらし、10秒ほど経ってから言いづらそうに言う。

 

「現実を知りたくなかったんだ。オレが責任を取りたくなかったと言ってもいい。遠征ばかり指示するのは親父からやれって言われたこともあるけど、演習もしなくなったのは怪我が見たくなかったんだ。だって、オレから見れば由良は普通の女の子にしか見えない。なのに戦争をしている? 殺しもやっているだって? ……オレはわざと怒らせようとして、否定して欲しかったんだ。でも、誰もが、小さな駆逐の子さえも人々を守るには必要なことだからって微笑んで言うんだ」

 

「人は自分の見たいものしか見ないと言われているけど、あなたはそのままでいいの?」

 

 少年はゆっくりと、多少怯えながらも私へと目を合わせてきた。

 

「よくはないさ。それはわかってる。でもきちんと現実を受け止めて前に進まなきゃいけないんだろう? わかってたけど、今まで怖かったんだ。戦争ってものに自分が近づくことを。これからは良い提督代理になるよう努力するさ」

「そう。それなら由良は嬉しいな。あなたはまだ若くて、これからもっと成長できるんだからそれで私への処分は何になるのかしら」

「処分?」

 

 首だけを私へと向けて、心底不思議そうに疑問の表情を向けてくる。

 

「私が叩いたことについて」

 

 それを聞いた少年は私へと背を向け、唸り声を上げ始める。

 今まで艦娘へ罰をあげなかったから悩んでいるのかな。

 普通なら正当な理由もなしに上官を叩くなんてことは罪だけど、この少年は問題なしにしそうな気がしてくる。

 でも少年が提督代理として立派になるならここは私に罰を与えるべきだと思う。

 与えて欲しい。もし、ないのなら私は自分に罰を与える必要がある。

 

「オレ、気にしてないからなしってことでいい?」

 

 困った笑みでこちらを振り返るのを見ると、私は執務机と早歩きで近づき、ペン立てにあったハサミを手に取る。

 私が自分自身にすぐできる罰といえば、これしか思いつかない。私がいつも手入れしている大事な髪を失うことということに。

 部屋の中央にいる少年へと振りかえり、私は自分のサイドポニーをつかんでハサミを髪に近づける。上官に手をあげたこと、これがその罪だという気持ちを込めて。

 

「ちょ、待って……待て!!」

 

 そんな私を見た途端、少年は慌てて私へと走り寄ってきて、私の手をつかんでは止めようとしてくるが私は抵抗し、切ろうと懸命になる。

 そのまま、お互いに頑張っていると少年は私へと抱き着いてきて、私の体勢が少し崩れるもハサミを持つ私の手が少しずつ髪へと近づいていく。

 

「うりゃあ!」

 

 止められないと思った少年は私を床へと押し倒し、馬乗りになるとハサミを取り上げて遠くへと放り投げた。

 私を見下ろす少年の目は涙目になっていて、私の髪を大事そうに優しくなでてくれる。

 その手からはとても暖かみを感じ、私の思っていた責任感や罪の意識を和らげてくれる。

 

「由良はさ、すっげぇ綺麗な髪でかわいい女の子なんだから自分を大事にしてくれよ」

「私はあなたのほうが大事なの。あなたが立派な人となって私たち艦娘を導いて欲しいって考えている。でも私は上官であるあなたを叩いた。だから私は―――」

「わかった、わかったって!」

 

 大きな声で私の言葉を止めると、少年は私に聞こえないぐらいの小さな声で何かをつぶやいたあとに私のポニーテールを優しく手に持った。

 

「由良の罰を決めたぞ! オレが由良と同じ髪型にすることを許すこと。あとはおそろいの髪飾りをつけること! これなら由良も恥ずかしいだろうから罰になる。それでいて、オレも由良と同じものを持てて嬉しい。我ながらいい考えだ!」

 その罰を受けることを私が承諾したら少年はニカッと素敵な笑みを見せてくれる。

 

「『由良ねえちゃん』って呼ぶのも追加でな」

 

 ……なんて無茶苦茶な人なんだろう

 提督らしくなく、歳相応な幼い精神の人。

 この人のことを2か月間ずっと見てきて、今日になってやっと私は気づいたことがある。外見や表面だけの言動だけで判断していたことを反省する。彼は彼なりに私たちのことを見て、考えてくれてるんだって。

 言葉は悪かったけど、ちょっとした小さな気遣いがあったから。

 それなのに私は彼に私の理想を押し付けていただけ。今まで彼に文句を言い、冷たい目で見て、そっけない態度を取った。それでも彼はずっと私に友好的でいてくれた。

 自分の心の狭さと比べて彼はなんて自由で強い心を持つ人なんだろう。

 私は彼に出会えてよかったと強く思った。

 その日のうちに少年は私と同じサイドポニーの髪型になった。他の子から、よくからかわれたりして恥ずかしくなったけれど、翌日に彼からもらった桜の花の形をした、おそろいのヘアピンをもらうと嬉しくなって冷やかされるのも気にならなくなった。

 それは私だけが彼の特別になれたんだなと小さな優越感があって。 

 

 ◇

 

 それから少ししたあと、少年はいなくなった。

 なぜなら、彼の父親である本来の提督が復帰したからだ。

 私と少年はもう会うことなんてないと思っていた。

 お互いに別の道を歩み、自分に誇りが持てる生き方をしようと言って別れたのは、ふとした時間によく思い出す。

 そして綺麗な思い出となって、そのうちに忘れていくんだろうなって寂しい気持ちになっていた。

 でも違った。

 提督さんは自分の息子が変わったことについて秘書の龍田さんに聞いて事情を知ったらしい。その時に龍田さんが提督さんへと言ったのが『あなたの息子さんは由良ちゃんのおかげで素敵な人になりましたよ』という言葉だったらしい。

 そのことを聞いた提督さんは、より立派な人間になるよう時々息子を鎮守府へと連れてくるようになった。

 彼がやってくるのは決まって学校のテスト期間の時だ。自宅よりも監視でき、娯楽のない鎮守府のほうがいいと親である提督さんは考えたみたい。

 親から集中して勉強しろと言われているみたいだけれど私は彼に会えて、彼も私に会えてお互いに嬉しい。だから勉強をしないで一緒に遊んだり話をするのは仕方がないし、一緒になって怒られたのはいい思い出のひとつになった。

 いくつかの季節を過ぎて、少年は勉強以外にもやって来て、政治、艦娘、敵である深海棲艦について話をするように。最初に来たときと違って考え方や外見も大人になったなって感心した。

 彼が高校を卒業するころには『由良さん』と呼ぶようになって、今までの『由良ねえちゃん』と呼んでくれてたのがなくなって結構ショックだったけど、これも成長したからと無理に納得することに。

 その頃には女装をやめ、髪を短くしてかっこいい男の子になっていた。髪からヘアピンを外しても、彼は私とおそろいのヘアピンをずっと持っていてくれた。

 少年が就職してもうまくいかず愚痴をこぼすのを私は聞き、それが終わると私の愚痴を聞いてくれる友人関係となっていた。

 少しのあいだ少年と合う機会がなくなり、心に穴が開いたかのように寂しくなったけど、再会する日がやってきた。

 もう少年と呼べないほどに成長した彼は、親の進めで提督見習いとなり鎮守府勤務となった。

 立派な一人の男性になっていた彼は『由良』と初めて会ったころのように呼んでくれた。同じ言い方だけれど昔とは違う、親愛の意味が込められた言葉で。

 長い年月、多くの会話と夢。ときには喧嘩もしたけれどお互いに大事な存在となっていく。

 彼の父親が引退し、後継として提督の仕事をすると決まったときに私は志願して彼の秘書になるのを希望し、彼のそばで仕事を続けていった。

 艦娘に優しく接し、時には厳しくなれるようになった彼。 

 周囲には私以外の艦娘が増えて、彼にいちゃつく子もいて嫉妬もしたけれど、一緒に苦労をして生きてきた。

 そんなある寒い日に、彼からプレゼントを渡された。彼が自分で選び自分で買ってくれたのはピンク色の色合いをした婚約指輪。私は嬉しさのあまりに涙を流しながら受け取った。

 ありがとう、あなたのことが大好きです。

 これからもよろしくね!


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