提督LOVEな艦娘たちの短編集   作:あーふぁ

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50.ジャーヴィス『僕と娘みたいなジャーヴィスと変わらない関係』

 5月の新緑が美しい季節の時期に、僕は艦娘の勉強会のために4日間の出張へと行ってきた。

 その帰りである今は秘書の大淀が運転する車の後部座席に乗っている。

 久しぶりに着た服は息苦しく、黒を基調としてネクタイと帽子がある着慣れない士官服からもうすぐ解放されると思うと気が楽になる。

 安堵のため息をつきながら窓から見える見慣れた海の景色は、提督として働いている鎮守府に近づいていくのが分かって心が落ち着いていく。

 午後2時になるとまぶしい太陽の位置はまだ高く、見慣れた海は青く輝いていた。

 その輝きを4日ぶりに見るからだろうか。いつもよりも美しく心惹かれる海の色だった。

 その海を眺め続けると、やっと自分の居場所に帰って来れたんだなと安心する。その海から目を離すとフロントガラス越しに見えてきた正門には、僕と仲良くしてくれる娘のように思える艦娘の子が見える。

 25歳という若さで独身な僕が1人の艦娘を娘みたいに感じるのは、一緒にいてあげたい、守ってあげたいと思うからだ。

 そう思うのも、僕はここに配属されてから海外艦で唯一の艦娘だったジャーヴィスとひとりぼっち同士で仲良くなったからかもしれない。

 お互いに寂しい時に会い、話や食事をするというのを3年もやっていれば、親愛の情が強くなるのも当然だろう。

 そんな僕を待ってくれていたジャーヴィスと会うために大淀に正門で降ろしてくれるよう言い、車が正門まで行って止まると僕は扉を開けて降りていく。

 正門前にいる警備兵に軽く敬礼をし、それから待ってくれていた子へと目を向ける。

 

Welcome back(おかえりなさい)、My Darling!」

 

 嬉しそうな声で笑顔を浮かべて目の前まで走ってきたのは僕より頭ふたつぶんほど背が低い、イギリスの駆逐艦娘ジャーヴィスだ。

 腰まで伸びている穏やかな太陽の光のように輝いているロングヘアの金髪。その髪の上には白地に黒いリボンを巻いたイギリス海軍式の帽子をかぶっている。

 中学生のような幼さを感じる顔つき、白い肌。

 服は白いワンピースのミニスカート。その上には紺色の半袖セーラー服を着ている。

 それは出張前に見たのと同じ姿だが、いつもより綺麗だなと目の前にいるジャーヴィスを見て思う。

 どこが、とまではわからないが綺麗になったのを感じる。

 その理由を探そうと目の前にいるジャーヴィスを見つめるが、ジャーヴィスは不思議そうな表情を浮かべて首をかしげている。

 

「どうしたの?」

「なんでもないよ。ただいま、ジャーヴィス」

 

 そう言ってから車にいる大淀に目を向けると、車は再び動き出して鎮守府の中へと走っていった。

 大淀が行ったのを確認してから僕はジャーヴィスに背を向けてしゃがみ込む。俺の様子を見たジャーヴィスは当たり前とばかりに背中へと来ては首に手を回してくる。

 俺の背中にジャーヴィスが体を当ててきた感触を得ると、太ももを持っておんぶをする。

 いつもやっていることを4日ぶりにやると、ジャーヴィスの温度と重さは実に落ち着く。普段から毎日のようにやっているから、これがないと日々を生きている価値が3割も落ちてしまう。

 

「遠回りで執務室に行っていいかな」

「Darlingの行きたいところでいいわ」

 

 僕の首筋へと顔をうずめて、くぐもった声のジャーヴィスが返事をしてくれる。

 首筋にはジャーヴィスの吐息に、さらさらと流れる金髪の感触を感じて首がくすぐったい。

 

 

「4日会えなかっただけなんだから、少し情熱的すぎないかな」

「4日も会えなかったのよ? 愛しい人であるDarlingから離れていたんだから、これぐらいしないと癒されないの!」

 

 首筋のくすぐったい感触がなくなったと思うと、ばしばしと軽く肩を叩いては抗議をしてくる。

 その仕草がかわいいのと、彼女にとっての4日は僕より重いんだなと思うと笑みが出てしまう。

 愛しい人、と言うのはいつもどおりで、好き、愛しているというのも日常的に言われている。

 ジャーヴィスの場合は恋愛的な意味ではなくて親愛的な意味でだろうけど。僕も彼女のことは恋人ではなく、父と娘のような関係でありたいと思っている。

 こんなふうにお互い遠慮することなくふれあい、言葉を交わせる関係に。

 

「僕もジャーヴィスがいなかったから寂しかったよ」

Really(本当)?」

「うん、寝る前に電話しようか悩んだぐらいに」

「してもよかったのに」

「寝てたり、他の子たちと話をしていたら邪魔するのも悪いかなって」

 そう言うとジャーヴィスは僕の言葉に対して文句を言うかのように軽く首を絞めてきて、すぐに開放してくれる。

「気にしすぎ! ジャーヴィスに遠慮しないで甘えていいのよ?」

「甘えるねぇ……」

 

 どういうのなら甘えるというんだろうか。いつもは会話をし、今のようなおんぶをし、一緒にご飯を食べ、時にはそのご飯をお互いに作りあっている。

 これ以上の甘えというのは何をすればいいのか悩む。

 すれ違う艦娘に挨拶をしながら考えるが、膝枕や耳かきをしてもらえばいいのかな。でもそれは恋人がやるものな気がする。

 じゃあ、親と娘でやる家族的な甘えとはなんだろう?

 

「ねぇ、Darling。話をしてもいい?」

「あぁ、ごめんごめん。考えるのは後にするよ」

 

 考える僕が言葉を言わないでいると、遠慮気味に聞いてくるジャーヴィスの声が聞こえてくる。

 そして僕たちはまた話をする。

 僕がいないあいだ、ジャーヴィスが過ごした4日間のことを。

 提督である僕がいなくなった鎮守府では仕事の量が減り、艦娘たちの多くに時間ができた。

 その時にジャーヴィスはウォースパイトとたくさんの話をしたとのことだ。

 読書好きなウォースパイトは実に物知りで、僕が感心することを教えてくれる。

 そんなウォースパイトと話をして多くのことを教えてもらったとは言ってくれるものの、その内容までは教えてくれない。

 

「ねぇジャーヴィス。個人的な話を聞くのはよくないだろうけど、簡単に言ってくれないかな。どんな話をしているのか気になるんだ」

「……んー、やっぱりダメ! ウォースパイトが言わないほうがいいって言ったから」

「ダメかー」

「だめー」

 

 なんでもないやり取りでさえも嬉しく、つい声を上げて笑ってしまう。後ろのジャーヴィスも僕と同じように声を上げて笑ってくれている。

 話を教えてくれないウォースパイトの次はリシュリューだ。

 僕に対してはクールでそっけない態度を取ってくるリシュリューだが、意外にもジャーヴィスとは仲がいいらしい。

 らしい、というのはふたりが一緒にいるところを見たことはなく、ジャーヴィスからしか聞いたことがないからだ。

 そのクールなリシュリューと話したのは化粧のことだ。髪や肌の手入れ、化粧品の選び方。あとから合流してきたウォースパイトとも話をして仲良く美容の話をしたみたいだ。

 今日だってリシュリューが使っているのを分けてもらっていると言われ、今日会ったときに感じたものが理解できた。

 

「それでか。いつもより綺麗だなと感じていたけど、ジャーヴィスもおしゃれになったんだね」

「気づいていたなら言って欲しかったわ。Darlingのために頑張ったんだから」

「ありがとう、嬉しいよ」

「……すぐに言ってくれなかったのはマイナスだけど、喜んでくれるからDarling大好き! I love you!!」

「僕も好きだよ」

 

 お互いに好意を確認したあとは、今度は僕の番となる。

 でも僕からする話で楽しいものなんてひとつもない。

 勉強会で他の提督と話をしたほかは何もやっていなかった。

 食事も他の提督たちと一緒で、強いて言うなら大淀に愚痴を言っただけかな。

 

「僕のほうはジャーヴィスみたいに楽しかったはなかったよ。勉強も仕事の一部だし、食事は……上官から強引に勧められた酒が辛かった。なんで苦手だと言っているのに飲ませてくるんだ」

「お酒を飲むと楽しいって足柄さんや那智さんが言っているけど、違うの?」

「友達と飲むのなら楽しいけど、仕事として飲むのはね」

 

 酒を飲まされたときのことを思いだしてしまい。深い、とても深いため息をつく。

 あの時ばかりは上官を殴りたかったが、酔った頭で懸命に自制した自分を褒めまくってもいいと思う。

 嫌なことを思い出して気分が落ち込んでいると、ふと頭から帽子が離れていくのに気が付く。

 首をひねって後ろを見ると、その帽子を取ったジャーヴィスは僕の帽子を手に持っていた。それから帽子がなくなった僕の頭を優しい手つきで撫でてくれる。

「お疲れ様。辛いことがあったら、このジャーヴィスに任せてね! Darlingのためならなんだってしてあげるわ!」

 そう、ひまわりを連想する明るい笑顔で言ってくれた。

 優しく言ってくれた言葉は瞬間的に僕の精神的疲れが吹っ飛び、ジャーヴィスはいい子だなという感情が頭いっぱいに広がっていく。

 ジャーヴィスがこれからもずっといてくれれば、辛くてもやっていけそうな気がする。

 そんなことを思うと同時に、もし結婚して子供ができたらジャーヴィスみたいに明るくて、ひまわりみたいな笑顔を浮かべてくれる子に育てようだなんて思った。

 頭を撫でられながら幸せな気持ちになって歩いていると、港に面した工廠前までとやってきていた。

 目的地である執務室を通り越してしまい、そろそろまっすぐに歩いていくかと思っていると工廠からリシュリューが出てきた。

 リシュリューは僕に「お帰りなさい」と言ってからウインクを飛ばしてくる。なんで僕に? と首をひねっていると、リシュリューは僕の頭を撫でるのを止めていたジャーヴィスへと指差した。

 何の合図なんだろうと思いながら、去っていくリシュリューの後ろ姿を眺めていく。すると僕の頭をジャーヴィスが両手で掴んだとわかった瞬間には力強く首の向きを変えられ、つい悲鳴が出てしまう。

 

「I'm sorry!」

 

 痛めた首筋を、謝ってくれる言葉と共にそっと静かに撫でてくれるジャーヴィス。

 今のはリシュリューに嫉妬……と思ったけれど、そういう雰囲気でもない。

 

「いや、大丈夫。何も問題はないよ」

「それならいいけれど。……ねぇ、Darlingはリシュリューさんみたいな綺麗な人が好きなの?」

「どういう意味での好き?」

「ええとね、恋愛的な意味で好きなのかなって思ったの」

「そういう意味でなら好きではないよ。どうにも昔にからかわれた印象が強くて苦手なんだ」

 

 ジャーヴィスは手に持っていた帽子を僕の頭へ戻すと、首筋を撫でてくれていた手をまた首へと回してくる。

 その感触を首に感じると執務室に向かって歩きだすが、すぐにジャーヴィスに声をかけられる。

 

「お仕事って大変なの?」

「艦娘の皆ほどでもないけど、大変だよ。特にコミュニケーションが。上官もだけど、特に女性相手だとね。女心はいつだって難しい」

 

 小さくため息を出しながら言うと、ジャーヴィスは僕の肩を軽く叩いてくる。

 

「ん―……ねぇ、私を降ろして?」

 

 それを聞いて今日のおんぶはもう終わりかなと思い、言われたとおりに降ろすと今度は僕の前へと急いでやってくる。

「ネクタイなおしてあげる」

 

 僕はまだジャーヴィスを降ろした中腰の姿勢でいて、立ち上がる前にそう言ってはネクタイを荒っぽく掴んできた。

 別にネクタイは曲がっていないのにと不思議に思っていると、同じぐらいの背の高さになっていたジャーヴィスの顔が近づいてきて、唇へとキスをされた。

 そのキスはふれるだけの軽いもの。でも初めての女性とのキスは、とても柔らかな唇の感触だった。

 突然のことに頭が真っ白になり、動けないでいるとジャーヴィスは僕から1歩離れては笑顔を浮かべていた。

 

「ウォースパイトとリシュリューが、Darlingをなぐさめるならキスをすれば……いいって、その、言っていたんだけど……」

 

 言葉を続けるうちに笑顔がなくなり、代わりに驚きの表情で顔が赤くなってくる。それから恥ずかしくなったらしく、しゃがみこんで僕に背を向けた。

 一方、僕の方はというと中々に混乱している。このキスの意味と自分自身の感情がわからなくて。

 唇を手で押さえ、あのジャーヴィスとキスをしたということに恥ずかしくなるが、頭はまだ冷静でいれている。

 

「あー、ジャーヴィス?」

「……これが恋っていう気持ちなのかな」

 

 僕の声が聞こえないのか、そんなことをつぶやくように言うとちらりとこっちを見てはすぐに顔を伏せてしまった。

 ジャーヴィスに近づき、僕もしゃがみ込んで隣に行くと目がうるんだジャーヴィスと見つめあう。

 その姿はさっきまでのかわいさとは違い、娘と思っていた小さな子供だとは思えない。それは1人の立派な女性として見てしまう。

 そんなふうに見ているとジャーヴィスは勢いよく立ち上がり、いつものように背中にやってきては首に手を回し、おんぶを要求してくる。

 その動きに僕は無意識でジャーヴィスの太ももを持って、自然とおんぶをしてしまう。

 でもさっきまでと違い、太ももがすべすべで気持ちいいとか、背中に感じる体温で僕の鼓動が聞こえてしまいそうなほどに高鳴っている。

 おかしい。娘みたいに思っていたのに、まるで恋をしているみたいになってきた。

 ……あぁ、本当に僕はジャーヴィスを好きなのかもしれない。

 

「ジャーヴィス」

「えっと、なぁに?」

「好きだよ」

「……! You’re special to me(あなたは私にとって特別なの)! 私も好き! 大好き!!」

 

 好きという恋心に気づいたからといって、自分の気持ちがわかっても急に関係を変える必要はないと思う。

 僕たちは僕たちが思うように歩いていけばいいのだから。

 ジャーヴィスを背負ったまま止まっていた足を動かして歩き出す。

 さっきまでのとは違い、恥ずかしくありながらも新しい愛情が加わった歩み。

 そして、これからも一緒に同じ道を歩いていきたいと思った。




前から49話で終わっているのが気になり、50話という数字にしたかった。
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