提督LOVEな艦娘たちの短編集   作:あーふぁ

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57.瑞鶴『空から降ってきた瑞鶴と』

 クリスマス当日の寒くもよく晴れた日の早朝に、僕はジャージを着て鎮守府がある港付近でランニングをしていた。

 なぜランニングかと言うと、高まった気分を疲労にて落ち着けるためだ。

 

 それというのも僕が提督になると決まって2日目だからだ。かわいくて綺麗な女の子たちと一緒に仕事をするために頑張ってきたんだから、もう嬉しくてたまらない。

 

 この先、どこかの監視所、または前線や補給拠点で敵である深海棲艦と殺し合いをするのにゆるすぎる考え方ではダメだって教官にはよく言われたものだけど、辛い今を生きていくには楽しみがあっていいはずだ。

 

 だから、僕が選ばれたのだし。

 家が貧乏で、幼年学校の時から軍人になるしかない僕の人生ではこれが最善なのだ。軍人だから、いつかは死ぬ。でも死ぬのなら、艦娘といちゃいちゃする幸せな思い出を持っていきたい。その一心だけで士官学校を2番目の成績で卒業したのだから! 

 

 もう艦娘は最高ですよ! 美人だし、海を走って戦う姿はかっこいいし!! 

 士官学校に教官補助でいた、重巡の熊野さんはおしとやかさと清楚を持った美人な艦娘だった。肩先からの右腕をなくしていたから、能力不足の証拠と学生たちから思われていたけど、それがどうしたというのだ。戦って、驚異的な回復力を持つ艦娘でも残る怪我をしただけなのに。

 戦っていた人に対し、失礼な気持ちはないのかと同期の人間を感情で痛めつければと思っていた。

 

 そんな熊野さんとは入学から卒業の4年間はずっと仲良くやっていた。教官助手と教え子という間柄ながらもプライベートでは僕が熊野さんの部屋に行って、少しばかり不自由な熊野さんの代わりに面倒な部分の掃除や買い物の手伝いをする仲なほどに。

 1カ月前にあった卒業式のときは、お互い離れるのが嫌で泣いたけれど、きっといい思い出になる。

 

 でも思い出だけにはしない。僕が提督へなるからには目指すは終戦だ。戦争さえ終われば傷つく艦娘はおらず、艦娘も戦い以外の仕事を探せるようになれるはず。

 戦争を終わらせ、熊野さんや手足を失った艦娘たちと一緒に暮らせる職場を作るのが戦争を終えた僕の夢だ。

 

 まぁ、そのためには努力と勉強をさぼらずに続けないといけないけれど。

 自主的にランニングなんてのは好きでないけれど、これからは日課としてやらないといけない。艦娘への煩悩や劣情を抑えるために! 

 走りながら、そんなことを考えたためか、ペース配分を誤りひどく疲れた。

 大きく荒い息をついている僕は近くにある建物の壁へ寄りかかろうと近づいていく。

 

 そんな時だ。

 世界に喧嘩を売る女の子の叫び声が頭上から聞こえたのは。

 いったいなんだろう、と足を止めて空を見上げた。

 視界いっぱいにうつったのは4階建ての建物の屋上から落ちてくる女の子の姿。

 その女性は目をつむったまま、頭から落ちてくる。非現実的光景と一瞬にして分かる美人な顔から映画みたいだ、なんてことをを思った。

 

 そして、その瞬間に女性とぶつかった僕は気絶と同時に死ぬ寸前の重傷を負い、病院へ3か月ほど入院することになった。

 憧れの提督になって1日目だったというのに、これからの輝かしい人生はベッドの上から始まるらしい。20歳はじめで未来が閉じるとは。

 せめて艦娘と楽しく話をしてから入院したかった……。

 

 ◇

 

 死んでも記憶に残りそうな、死にそうなほどの衝撃的事故(胸や腹、足を骨折)を経由し、病院にさえいれば何もしなくてもお金がもらえる待遇になってしまった僕。

 入院しているあいだに提督という肩書はなくなり、普通の海軍軍人と戻った僕。

 軍から通知が来たときには涙を流した。そこらに物を投げつけては八つ当たりをしたかったものの、骨が折れた状態でやろうとするのは激痛が走るだけだったのでやめた。

 

 だから、ただただ我慢した。看護師や監視の軍人と話をするか、他には読書をするだけだった。

 日々をおとなしく過ごし、早く退院してからはどうにか艦娘と一緒に仕事がしたい。いや、出世コースから落ちた気配なので艦娘が遠目でも見れればいい。

 

 そうして3か月が過ぎ、折れていた骨もくっつき、切っていなかった髪も首筋まで長く伸びていた。そんななかで体の様子を見つつ、けれど懸命にリハビリを進めていた僕に対して医者は近々軍へ復帰してもいいと言ってくれた。

 軍へ戻ることが決まったことがわかった瞬間、これから先どうなるんだろうと思ってしまった。

 

 僕を地面へと物理的にキスさせた犯人は不明なままだし。飛び降り自殺未遂したのは軍の不祥事なせいもあったのか面会を制限され続け、見舞いには知人たちが来ることはなかった。

 医者に復帰できると言われた次の日、艦娘と近くで話ができないかなと考えていると病室の扉をノックする音が聞こえる。

 

 それはいつもと違う音。今まで来たことがない人か、と見知らぬ人が来ただけで嬉しくなり、すぐにこの部屋に問題がないか見回す。

 この白い部屋は僕が座っているベッドがあり、それは光が入ってくる窓から少ししか離れていない。他にはサイドテーブルぐらいだ。実にシンプルかつ無駄な物は置かれていない。

 殺風景な部屋に、えっちな本なんかの見られても困ることがないのを確認するとベッドの上で寝ていた僕は体を起こし、扉へと顔を向ける。

 

「どうぞ」

 

 テンションが高まる心を抑え、静かに声をかけるとゆっくりと扉が開いていく。そこから現れたのは小さめなショルダーバッグを肩にかけた、小柄な女の子だった。

 黒髪のツインテール。巫女さん的赤い袴に白い服のやつを着ている。それと黒のニーソックス。僕より背も低く、胸はとても小さい。

 とてもかわいい女子高生ぐらいに見える和服姿の子が申し訳なさそうに僕の部屋に入ってきた。

 

 僕の友達にはこんなかわいい子がいなく、士官学校の同期にも覚えはない。提督となるときに配属予定だった秘書か、とも思ったけれど書類で見た子とは違う。

 誰だろうかと考えていると、彼女は立ち止まったまま、目を丸くして僕をじっと見つめてくる。しばらくは僕も目を合わせていたけれど、なんだか恥ずかしくなって目をそらしてしまう。

 それを合図にしてか、動き出した女の子は僕の目の前までやってくると、思い切り頭を下げてきた。

 

「あのときはごめんなさい!」

 

 初対面の子に大声で謝られても、そう言われる心当たりがない。

 こんな子を見たことがあれば、忘れないだろうし。

 

「すみませんが、僕と会ったことが?」

「……私のこと、覚えてない?」

 

 顔をあげ、じっと僕のことを不安そうに見つめてくる女の子。

 出会ったことがないと思っていたけれど、そうではなかったみたいだ。

 だとしたら、いつ? 有名な提督なら握手会をやることもあるらしいけど、そもそも提督初日にして提督生活が終わってしまった僕だ。

 実績も知名度がないから、ファンがつくわけでもない。

 口元に手をあてて考えていると、女の子は僕からすまなそうに目を少しそらす。

 

「ええと、去年のクリスマスの日なんだけど」

「その日は空から落ちてきたプレゼントにぶつかって入院してしまったよ」

「……プレゼント?」

 

 不思議そうな顔をしてくる子に、僕はランニングを終えたあとに飛び降りてきた女の子とぶつかったことを教える。

 その子が今も生きているか分からないし、顔は覚えていない。ただ、すっごい美人で映画みたいなシーンだという記憶があることを。

 僕の言葉を聞いているうちに、女の子は申し訳なさそうにしていたが、話の終わりを聞くとすごく恥ずかしそうにしている。

 

 そんな姿を見ていると、僕はゆっくりと理解していく。

 僕を重体にし、病院送りにした女性はこの子なんだってことを。

 でもそのわりに彼女は健康そうだ。僕が下敷きになったおかげで助かったのだろうかと。……それにしてはあまりにも怪我がなさすぎる。

 

「君は艦娘?」

「そうよ。空母の翔鶴型2番艦、瑞鶴。それが私の名前よ!」

「どうりで僕とぶつかったにしては元気そうなわけだ」

「あれはわざとじゃないのよ? ちょっとした運命の出会いっていうだけで! 決してあなたに向かって飛び降りたわけじゃないんだから!!」

 

 僕としては素直に安心したのだけど、それが皮肉に聞こえてしまったらしい。

 声を大きくして理由を言ってくれるのはいいけど、耳が痛い。

 しかし、艦娘。目の前の子が艦娘。艤装を身に着けていないと、普通の女の子としか思えない。艦娘だと認識すれば、彼女が着ている服は艦娘だと思わせるものはある。

 普通の人はそんな派手なのを着ないし。

 

「あ、忘れてたわ。ほら、これが私の艦娘証明書!」

 

 と、ふところから車の免許証と同じサイズのを彼女に差し出されて受け取ると、それは『瑞鶴』だという証。

 その証明書で顔を見比べて納得するとすぐに返す。

 

「飛び降りた理由は聞かないけど、謝罪の言葉ぐらいは聞かせてくれるのかな」

 

 いくら僕が艦娘大好きといえど、礼儀はしっかりしたい。いや、こうして会って話しているだけで許した気持ちも同然な今だけど。

 穏やかな声、笑顔を浮かべると、瑞鶴さんはすぐに美しい土下座をする。

 

「ごめんなさい! 真下を確認しなかった私の落ち度よ。それに飛び降りるなら昼間じゃなく夜のがよかったわね……」

「そもそもとして、飛び降りないほうがいいのだけど。上司や同僚関係で揉めてたかい?」

「うーん、そうじゃなくてね。あー……でもあなたに言ってもいいのかなぁ」

「別にいいと思うけど。以前は提督だったから艦娘についての勉強をしたし、誰かに言うこともしない」

「元提督さんなのね、あなた」

 

 そういうとさっきまでの友好的な表情はなくなり、立ち上がると僕から大きく距離を取る。

 まるで提督という存在を忌み嫌っているかのような。

 

「提督をやっていたのは初日だけで、そもそも瑞鶴にぶつかって入院してからは提督ではなくなったよ。実質、していないも同然だ」

 

 そう言った途端、理解を示した瑞鶴さんはまた土下座をした。けれど、それはさっきより勢いあるジャンピング土下座的な。

 漫画ではよく見るけれど、実際に見てしまうと反応にとても困る。

 それくらいの謝罪がしたいという気持ちはわかるのだけど。

 

「本当にごめんなさい! あなたは悪くないんだけど、提督という役職が大嫌いで。その、ね? あなたとぶつかった時の私はもう戦うだけの日々が嫌になって死んでしまおうかなって思ったのよ。あたしの提督の命令でたくさんの深海棲艦や人を殺すのは嫌になって」

 

 彼女が飛び降りた理由。士官学校では聞いたことがなかった、艦娘が深海棲艦だけでなく人を殺すということは初めて知った。

 

「いくつの言葉をもってしてもあなたに許してもらえないとはわかっているけど……」

「いいよ、別に。許す。悪いのは軍だ。そして君を管理できなかった提督。お金とか色々なものを君の提督に請求するから君は悪くないよ。いや、死のうと思ったことは悪く思ってくれ」

「……許してくれるの?」

「許すよ。最後に艦娘と話ができたからね」

「退院したら、また提督をやるんじゃないの?」

「そうしたかったんだけど、入院している間に普通の軍人に戻ってしまってね。もう大好きな艦娘と会えなそうだし」

 

 ひどく大きなため息をつき、その直後に今の言葉で瑞鶴が気にしてしまい、すぐに明るく笑い飛ばす。

 明るい空気にしたかったというのに、瑞鶴はまっすぐに真面目な顔をして僕を見つめてくる。

 

「なんであなたは艦娘が好きなの?」

「見た目が綺麗なこともあるけど、何より艦娘はまっすぐな性格がいい。優しく、または信頼すると同じ分か、それ以上に応えてくれるから。と言ったものの、僕が話したことがあるのは、士官学校にいた熊野さん一人だけど」

「……いい笑みを浮かべるのね、あなたは」

「瑞鶴さんだって仲がいい人を思い浮べれば、同じようになるでしょ」

 

 瑞鶴の空気に合わせたのに、つい笑みを浮かべてしまったらしい。両手で顔をさわり、意識して笑顔を抑える。

 

「あなたみたいな軍人さんがいっぱいいれば、私も飛び降りたくはならなかったのに」

「一人いるなら、他にもいるさ。探せばいい」

「それもそうね、ありがとう。あなたみたいな優しい人と出会えて嬉しいわ。今まで会ったことがあるのは、執務室を爆撃しちゃうぐらいの提督ばかりだったから」

 

 艦娘による爆撃って、それ、人間死んじゃうんじゃ? と笑みを浮かべて軽く言う瑞鶴に背筋が冷えたが冗談だと思う。冗談にしてくれ。

 冗談だなと思うのを強くする理由として、艦娘に怪我や殺される軍人の話って聞いたことがないから。

 

「瑞鶴さんは元気でいいね。さて、これで謝罪も許しも終わったけれど話をする時間はあるかな?」

 

 その言葉に気づいた瑞鶴さんは、慌ててショルダーバッグから何かを探し始めた。

 何を出すんだろうと待っていると、ほどなくして目の前へと何枚かの書類を突きつけられた。

 

「これは?」

「軍の人から渡された書類よ。私にも関係しているから先に中身を見させてもらったわ」

 

 手を伸ばして書類を受け取ると、書かれている内容をさらっと読むと僕の処遇に関することだった。

 それによると、どうやら僕はまた提督としてやっていけるらしい。

 ただし、前と違って艦娘を指揮して戦いや遠征をさせるのではなく、それぞれの提督たちが扱いに困る艦娘を引き取って心穏やかに過ごさせろとのこと。

 できれば再教育し、従順に扱えればなおよし。支援はする。

 書いてあったのはシンプルにそれだけだ。

 

 けど、出世する道は閉ざされてしまったみたいだ。これだと目に見える功績が稼げない。

 まぁ提督にさえなれるなら、出世には興味がないからいいんだけれど。僕が提督になったのはかわいい女の子や美人な人と楽しく過ごしたいという動機だったわけだし。

 金や名誉ではない。艦娘さえいればいい。

 

 だからこれは喜ぶべきだ。艦娘たちと仲良く楽しく過ごすだけでいいのなら。

 書類には軽くしか書かれていないけど、問題児というのが気にはなるけど。

 この仕事を断ることもできるけど、そうした場合は普通の軍人に戻ってしまう。なら、この仕事を受けるしか道がない。

 

「また提督ができるのは嬉しいね。届けてくれてありがとう」

 

 そう言うも瑞鶴はまだ帰る気配はなく、何か話したいことがあるみたいだ。

 少し待つもそわそわした気配で僕が持つ手元の書類が気になるらしい。

 何か重要なことを見落としたことに気づき、なら静かに見たい。

 

「瑞鶴、喋りすぎて喉が渇いたんだけど、何か飲み物を買ってきてくれないかい?」

 

 と、枕の下にしまってあった財布から二人分のジュースが買えるぐらいのお金を渡す。

 

「これ、私のもいいの?」

「ああ。瑞鶴さんといるのは楽しいからな」

「そ、そう! それなら仕方ないわね。私が買ってきてあげる!!」

 

 僕が飲みたい、おしるこを頼む前に急いで瑞鶴は部屋を出ていった。

 瑞鶴といるのは楽しい、そう言っただけであんなにも嬉しそうにしてくれるなんて。男の人と話すのが珍しいんだろうかと思ってしまう。

 けど、今なら一人で書類を読める。

 

 そして、僕はじっくりと最初から読んでいく。

 軽く読んだときと大筋は変わらないが、詳細には書類を持ってきた瑞鶴さんも所属するとのこと。

 瑞鶴さんの罪状は度重なる自殺未遂、執務室爆撃などの反抗。

 他の艦娘についての情報は何もないが、他の艦娘も同じように手がかかる子たちが来るに違いない。

 色々な権限を僕に付与し、場合によっては独断で処分してもいいと書いてある。

 

 艦娘好きの僕だけど、今から胃が痛くなりそうだ。

 前向きに考えるのなら、艦娘と好きなように仲良くなってもいいとある。そう、それは恋愛、すえは結婚までいいはずだ。

 

 …………しかしだ。艦娘の扱いは雑すぎないか、軍よ。熊野さんといい、軍人たちは艦娘に対する態度が悪い。

 見た目は人間だけれども、中身は深海棲艦に似て金属が混じっている体だから自分たちと違うのを嫌うのはわかるけれども。

 一緒に戦う戦友であるなら、もっと好印象を持つべきなのに。

 そして、かわいいは正義なのだから。

 落ち込んでいると、ノックもなしに扉が開いて瑞鶴さんが元気に部屋へと入ってくる。

 

「戻ったわ!」

「おかえり」

 

 早足で近づいてきて、渡してきたのはホットのおしるこ缶。

 缶コーヒーを買うのが一般的だけれど、自身が飲む分も同じのを買っている瑞鶴さんは僕と好みが同じだ。

 自然と笑みが出て「ありがとう」と言う。

 瑞鶴さんは部屋の隅に置いてある椅子を僕の前まで持ってきて座り、二人一緒におしるこを飲んで行く。

 

「瑞鶴さんは僕の部下になるんだね」

「そうなの。嬉しいわ、あなたみたいな人が」

「そうかい?」

「ええ、だって一目惚れしたもの……」

 

 元気いっぱいな瑞鶴さんが顔を赤くし、そう言ってくるも反応に困る。一目惚れなんてされるのは初めてで、どうすればいいか考えの選択肢すら思いつかない。

 

「好意があるのは嬉しいね」

 

 愛の告白的なものを無視すると、瑞鶴さんは無言でバシバシと怪我をしていないところを強く叩いてくる。

 その手をはねのけながら、一通りじゃれ終わると書類をまた見る。

 

「瑞鶴も問題児?」

「あなたの部下になるなら、そういうことになるわね」

 

 自信たっぷり小さめの胸を張り、嬉しそうな顔を向けてくる。

 そんな僕が好きそうな顔をされても困る。

 

 しかし、最初に出会ったときはとても申し訳なさそうにしてたというのに今では僕に大きな好印象を持っているみたいだ。

 一目惚れされるような外見でもないし、取り入りたくなるほどの権力やお金を持っているわけでもない。

 ちょっと悩んで答えが出ないようなら素直に聞くべきなんだろう。これから長く付き合う相手かもしれないし。

 

「聞きたいことがあるんだけど」

「スリーサイズを聞きたいの?」

「なんで一目惚れしたの?」

「んー……理由を付けるとしたら、私を受け止めてくれたから、かな」

 

 その言葉で思い出すのは、衝撃的(死にかけるほどの)な運命の出会いのことを言っているのだろう。あの飛び降り自殺未遂のを。

 僕が受け止めたことを、さも美談のように言ってくれるけど、あれはただの偶然だ。運命だから、ぶつかるべくしてぶつかったというわけでもないし。

 

「僕は瑞鶴さんのことは─―」

「呼び捨てでいいわよ。もう上司と部下の関係になるんだから」

「瑞鶴。僕は艦娘が大好きだ。友達的な意味でね。だから、いろんな子と仲良くなりたいから、まだ恋愛はしたくないんだ」

 

 この感情的である瑞鶴に、僕は言葉遣いを気を付けることを決める。

 ひとつの言葉を強く信じ、拡大解釈をするのだろうと思ったから。だから、はっきりと言う。

 浮気宣言とか、見境なく手を出す男という印象を持ったはずなのに、瑞鶴は僕の体をそっとベッドへ押し倒してくる。

 

「そんなの、私に惚れさせて面倒なのを考えないようにすればいいだけじゃないの?」

 

 その僕を見る目は獲物が手に入ったと喜ぶような笑みを浮かべ、ていた。

 顔がほんのり赤くし、僕へと迫ってきた瑞鶴の肩を押し、これ以上近づいてくるのを阻止する。

 このままだと押し倒されて色々されそうだし。

 

 いや、男としてなら色々されたほうが嬉しいけど。でもそれは相思相愛の関係になってからだ。僕は瑞鶴のことを何も知らないし、恋愛感情を持ってさえもいない。

 それに恋人になってしまうと、他の艦娘たちと仲良くなりづらいからな!! 

 

「なによ、ケチね」

「僕は清楚で落ち着いた子が好みなんだ」

「そうなんだ。でも私は気にしないわ」

「気にしてくれ」

 

 しばらくのあいだ、迫ってくる瑞鶴と押しのけようとする僕の間で力比べが始まる。でも瑞鶴も嫌がる僕に本気を出さず、少ししてから身を退いてくれる。

 これからは瑞鶴のような、もしくはそれ以上の手をかける大事な子たちが部下になるんだ。

 瑞鶴の一人ぐらいは、いい感じに距離を保てないと仕事がうまくいかないと思う。

 

 そう、女に囲まれた生活なんてのは言葉ひとつ、仕草ひとつでも爆弾になってしまう。僕の態度が悪くて、また病院送りにされたらたまらないから。

 まぁ、いつだって人と人との関わり合いは面倒だけど、楽しもうと思えば意外と楽しめるものだ。

 どこでどれぐらいの艦娘たちを相手にするかはわからないけど、気楽な態度でいれる瑞鶴と一緒なら挫折なくやっていけそうな気がする。

 とりあえずは僕に、またくっついてこようとする瑞鶴を引きはがすところからだけど。

 

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