『鬼』
その昔、幻想郷の地上において鬼は存在した。
鬼達は妖怪の山に住み着き、山の妖怪達の頂点に君臨していたという。
その昔、幻想郷の地上において鬼は存在した。
人間達の恐れとなり、妖怪達の畏れとなり、幻想の地に深く根付いていたという。
その昔、幻想郷の地上において鬼は存在した。
喧嘩好きで、勝負好きで、己の力を誇示したがり、己の力に絶対の自信を持っていたという。
その昔、幻想郷の地上において鬼は存在した。
嘘が嫌いで情に厚く、決して仲間を裏切ることはなかったが、敵に対しては獰猛で容赦がなかったという。
その昔、幻想郷の地上において鬼は存在した。
強い人間に勝負を挑んでは負かし、しかし弱い人間には決して手を出さなかったという。
その昔、幻想郷の地上から鬼はその姿を消した。
時代が流れるに連れて次第にその数を減らしていき、博麗大結界が創造されたころにはもう、ほぼ見かけなくなったという。
その昔、幻想郷の地上から鬼はその姿を消した。
鬼は鬼退治の専門家にしか退治出来ないため、一時は彼等の仕業かと思われた。しかしいくら専門家といえども、数多くいる鬼を短期間で全滅するなど容易に為せる事ではなかった。そして鬼が姿を消したため専門家の価値が無くなり、彼等も次第にその数を減らし、今では鬼退治の方法は失われてしまっている。
その昔、幻想郷の地上から鬼はその姿を消した。
とある歴史編者は、鬼が地上から消えた理由について次のように語った。
『あまりに平和な世に飽きて、どこともわからぬ世界に移り住んだのではないか』
だが、事の真相は未だに謎のままとなっている。
その昔、幻想郷の地上から鬼はその姿を消した。
しばらくすると鬼達は地底へと移り住んでいた事が明らかになった。地底には地上を追い出された荒くれ妖怪達が集っているため、喧嘩好きの鬼達には都合が良かったようである。
幻想郷の地上から鬼が姿を消してしばらく年月が経過した頃のこと。『異変』という形で地上に再び鬼が姿を現した。
異変の首謀者は『小さな百鬼夜行』伊吹萃香。
彼女は幻想郷の数多の少女達と『喧嘩』をするのだが、この異変についてはまた別の物語として語られていよう。
物語の舞台は、萃香が異変を起こしてからまた少し月日が流れた後の幻想郷。事は萃香と勇儀への、とあるひょんな依頼から始まる。
これは、小さな鬼と大きな鬼が巻き込まれた
不思議で、辛くて、悲しくて、
そして優しさの詰まった物語。
萃儀物語 ~Missing Demon~