萃儀物語 ~Missing Demon~   作:Kano

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閻魔からの手紙

 蝶は萃香を誘うかのように、彼女の回りをひらひらと舞う。

 

 「仲間の中には、地上の奴らとの交流を一切断っている者もいる。そんな中で地上に染まりつつある私が居たら、皆はいい気がしないはずだ」

 

 萃香は蝶を上手に誘導すると、そのか細い指先にとめた。休み所を見つけた蝶は、指先で黄色い羽を休ませている。花畑にでも行けばすぐに見つけられそうなほどどこにでもいそうな蝶だが、今はひときわ存在感を放っている。

 

 「異変の目的って仲間を地上に戻すこと、でしたよね? 異変自体は自然解決しましたが、そちらは成功しなかったのですか?」

 

 物凄い勢いで手元の手帳にメモを取りながら、文は萃香への質問を更に重ねた。

 

 「うん……。いや……、それより天狗。私に用事があったんだろう?」

 

 しばらく指先の蝶を眺めていた萃香は、軽く腕を上げて蝶を飛ばすと、文の隣に再び腰掛ける。

 

 「まさか取材が用事だとは言わないだろうね」

 「あやややや、これはこれは失礼いたしました。ついブン屋の癖で……」

 

 そう言うと文は、手に持っていたペンと手帳をまたどこかに仕舞い込んだ。代わりに一枚の封筒を懐から取り出す。

 

 「手紙?」

 

 萃香は文から封筒を受け取ると、早速封を開け、中から一枚の便箋を引っ張り出した。二つ折になった便箋の表面には、『伊吹萃香殿へ』と書かれた仰々しい文字と、なにやら複雑な印が押されている。

 

 「……これは……確か閻魔の印じゃないか。閻魔から手紙だなんて、滅多なこともあるもんだね。さあて、私のお迎えの案内かな?」

 

 冗談を言いつつ萃香は便箋を開くと、書いてある文字を黙って読み始めた。

 

 ◆

 

 「……なるほどね」

 

 小さく唸り声をあげる萃香。

 手紙の内容を要約すると、手紙には書けない直接頼みたい仕事があるので、星熊勇儀と二人で自分の所へ来てほしい、とのこと。しかし重要な文は以上の内容を含むほんの数行で、文章のほとんどが時効の挨拶や末文などで埋め尽くされている。とても堅苦しい手紙に、萃香は読み終わっても眉間にしわを寄せている。

 

 「な、長い手紙ですねぇ……。閻魔ともなると、やはり気楽に手紙すら書けないのでしょうか」

 「幻想郷を仕切る立場にあるんだ、何をするにしてもいろいろ制約があるんだろう。まあ手紙と呼べるほど気楽なものでもなかったけどね」

 

 細々とした文字から萃香が目を離すと、その目が捉えたものは間近に迫った文の顔。萃香は彼女の顔の近さに驚いて距離をとる。

 

 「……これは天狗が読んでもいいものなのか?」

 「読むな、とは言われていませんから」

 「見つけたぁ!」

 

 文のにこやかな返事に被さるように、神社の中から霊夢の声が聞こえてきた。

 

 「霊夢さん、ようやく目的のものを見つけたみたいですね。あれは……石?」

 

 霊夢が大事そうに手に乗せて喜んでいたものは、何処にでもありそうな見た目はただの石。それこそ先ほどの蝶がその石で羽を休めていても、誰も気にも留めないほど普遍的なものだった。

 萃香と文の視線に気が付いた霊夢は、何故か石を自分の体の後ろへ隠す。

 

 「……あんたらって、意外と仲が良かったのね。鬼と天狗って、犬猿の仲だと思っていたわ。この場合、狗鬼の仲っとでも言うかしら?」

 

 霊夢はごまかすように二人に話し掛ける。萃香と文はお互いに顔を見合わせた。

 

 「こんなふうに接することができるのは、鬼の中でも萃香さんくらいですよ」

 

 萃香が親しみやすいのか、それとも萃香を侮って見ているのか、様々な捉え方が出来る物言いを文はする。やはり萃香は疑惑の視線を文に送るが、文は涼しげに微笑み返すだけだった。

 

 「……ふぅん。ま、仲が良いに越したことはないわ。平和が一番よね。お願いだからここでは喧嘩はしないでね」

 

 自分から話を振っておいて興味が無さそうな声色の霊夢は、喉が渇いたと言い残しスキップをしながら奥へと入って行った。

 

 「しかしあんな小さな石ではしゃげるなんて、まるで幼い子供みたいだな。河川敷にでも行けば仲間がいそうだ」

 

 霊夢が見えなくなった後、萃香は小馬鹿にするように笑った。

 

 「萃香さんこそ、『鬼の畏れ』さえ無ければ、ただの幼女じゃないですか」

 

 文はクスクスと笑う。ところが瞬く間に笑顔は消え、変わりに青ざめていった。いつも通りの冗談を言ったつもりだったが、相手は鬼でありそれは完璧に完全な失言。あまりにも気が緩みすぎていたため、相手が天敵であったことをさっぱり忘れていたのだ。

 

 「ほぅ……」

 

 自分の指の骨をゆっくりと鳴らす萃香。

 ────今回の文の冗談を許す気は、全く無いようだ。

 

 「ひぃっ! で、では失礼しますぅっ!!」

 

 先程よりも格段に身の危険を感じた文は、置き土産に数枚の黒羽を散らすと、来た時以上の速さで空へと逃げて行く。

 

 「萃香ぁぁ!!」

 

 それと入れ代わりに萃香の『畏れ』を察知した霊夢が、鬼よりも鬼の形相で神社の中から出て来た。こうして文が遥か彼方へと飛び去った後、萃香は霊夢から小一時間こっぴどく叱られることとなった。

 

 そして、神社に夜が訪れる。

 

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