ワートリSS   作:チビメガネ

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小南ファンに怒られないか少し心配です。


女子高生とどら焼き (1)

 

 

 午後 12:30 玉狛支部

 

「今日も俺が勝つ」

「あまいな、ゆうま。今日は、おれが勝つ」

 釣り竿を片手に持ち、互いに向かい合う2人。

 

「余裕をもてるのも、いまのうちだぞ、ゆうま」

 陽太郎は、そう言いながら餌をつけた釣り糸を川に落としていく。

 

 昨日の釣りは、遊真にとって、夕飯のためとはいえ、単なる暇つぶしであった。しかし陽太郎にとっては、釣り名人を賭けた男と男の勝負。たとえ遊真の魚が、小さかろうが少なかろうが負けは負け……加えて、自分は生き物を釣ってすらいない。このままでは釣りの先輩としての威厳が失われてしまう。そう考えた彼は、今日もこうして宿敵、空閑遊真に挑むのである。

 

「おー、昨日のより引きが凄い」

「甘いな、おれのほうがすごい」

 何食わぬ顔で釣り竿を引き上げる遊真と、遊真の引きを横目で確認しながら、勝ちを確信して自分の竿を勢いよく引き上げる。

 

 粋のいい川魚が餌を食らっている。遊真は、そのことを魚が川から顔を出す前に察知して、隣に無造作に置いていた玉網たもを取り、竿を引き上げるのと同時に魚を捕まえる。

 一方陽太郎の竿は、彼の勝ち誇った顔とは裏腹に、想像より早く浮きが空中に上がる。そして釣り針の先にある物体は、彼の目の前に小さな音をたてて落ちていく。

 

「でかいな……」

 水で濡れているからか光沢を帯びた長靴が、2人の視線を落とした先に存在感を放っている。

 

「……そうだな」

 一瞬残念そうな顔をしたものの、何かを思ったのか頷いて釣り竿とバケツを持って、立ち上がり、玉狛支部へ戻るために歩き出す。

 不思議そうに見つめる遊真の視線を背中に受けながら、何歩か歩いた後、振り返り親指を立てる。

 

「ゆうま、おれが教えることはもうない。よくがんばったな」

「遊真くんは、あんたの弟子でもなんでもないでしょ」

 いつの間にか、釣りざおとバケツを地面に置いて、腕を組んで遊真の成長を勝手に喜んでいる陽太郎に対して、デコピンをする今日の玉狛飯当番の宇佐美 栞。

 

「しおりちゃんは、分かっていないな。おとこは、せなかで語るいきものなんだ……」

「魚1匹も釣ってないのに偉そうにしない……遊真くんもそろそろ昼の時間だよ」

「分かった。ありがとう、しおりちゃん」

 川の先の街並みをぼんやりと眺める陽太郎を再びデコピンを食らわしながら、栞は遊真にそう告げて陽太郎とともに玉狛に支部に戻っていく。

 

「明日は、おれがかつ。あのたいやきをかけよう」

「ほう、おもしろい」

 片づけを終え、後ろについてくる遊真に対して言い放った陽太郎は、靴をきちんと揃え、長靴もとりあえず邪魔にならない端に置いて、玉狛支部に入っていく。

 

 

「しょくん、おはよう」

 食事の準備のためにキッチンにいった栞と遊真より先に、陽太郎はリビングへ行き席につく。

 

 今日は、林藤支部長は、本部で会議があるので夜まで帰ってこない。レイジさんは午後まで防衛任務。烏丸は、バイトではあるもののそれまでの暇つぶしとして、玉狛に立ち寄っている。また、修たち玉狛第二も同様、束の間の休日として昨日からここ玉狛支部で休んでいる。迅はどこにいるかは正確には分からないが、おそらく本部。そして、最後に忘れてはならない人物がもう1人。

 

「ない!! わたしのどら焼きがない!! 」

  昼から元気よく大声を出して叫んでいる女子高生小南 桐絵である。

 

「陽太郎!! またあんたが食べたんでしょ!! 正直に言いなさい」

 陽太郎を見つけるや否や胸ぐらを掴みそうな勢いで、近づいていく小南。

 

 陽太郎はたい焼きやどら焼きなどの甘いものが好きで、隙を見ては小南だけではなく客人のどら焼きを奪おうとする猛者である。従って彼女が真っ先に疑うのも無理はない。しかし、今回に至っては違う。真犯人は別にいるのだ。それは陽太郎が一番良く分かっている。だから彼は堂々と主張する。

 

「まだまだだな、こなみ。おれは、つぶあんのどら焼きはデザートに食べる派なんだ」

「何よ、それ」

 コップの麦茶を飲み干してドヤ顔で語る陽太郎に対して、小南は呆れるように息を吐く。

 

 そこに陽太郎を助けるため……ではないが、烏丸が陽太郎と自分用の麦茶を注ぎながら口を挟んでいく。

 

「知らないんですか、先輩。つぶあんって食後に食べるとダイエット効果があるらしいですよ」

「えっ!? そうなの」

 小南も太っているわけではない。しかし、そこは華の女子高生。そういった話に敏感なお年頃なのです。

 

「初耳よ……先に食べてたじゃない。何で早く言わなかったのよ、とりまる!! 」

  小南の頭の中は、とりまるは、今まで私が太るのを嘲笑うかのように見ていたのねという気持ちで溢れていた。そしてそれと同時に、どうしよ、ここ1週間我慢できなくて先に食べてたんだけど……運動しないと、という気持ちも存在し、太ってしまうことにはこちらにも非がある分真正面から怒るのもなんか違う気がする、そんな複雑な心境だった。

 

 そこで、烏丸は麦茶を一口含んで一言。

 

「俺も初耳です」

「え……」

 小南は、まさかのカミングアウトに閉口し、なおかつその場から動けないでいた。

 

 それを見た烏丸は、涼しい顔でもう一言。

 

「すいません。嘘です」

「う……そ」

「はい、嘘です」

 騒がしかったリビングは、3分にも満たない会話で静けさを取り戻す。

 

 ようやく動いたと思ったら、深呼吸をして烏丸の方ではなく、回れ右をして、この前買ったクッションを手に取りもう一度方向転換。

 

「騙したなー」

 花も恥じらう女子高生の叫び声とともにクッションが宙に舞っていく。

 

 

「……本題に戻るわね。やっぱり陽太郎が食べたんでしょ、どら焼き」

 クッションを何食わぬ顔でキャッチされた小南は、咳を1回してもう一度犯人を捜す作業をしていく。

 

 陽太郎は再び違うと述べた後、席から立ち上がって、そそくさと歩いて、リビングを出てしまう。小南は逃げられると思ってそれを止めようとする。しかし陽太郎は、その行動に動じず、ニヤリと笑う。

 

「あいぼうを呼んでくる」

「誰よ、相棒って」

 陽太郎は、小南の顔をきちんと見据えて、腕を組む。

 

「らいじん丸を呼んでくる」

「ああ……相棒ってそういうこと」

 その返答を聞いて、小南は納得すると同時に、陽太郎のやろうといることが分かった。そして、それはできないのだろうと心の中で思いながらも、陽太郎のしようとしていることをさせてあげるのだった。

 

「わがあいぼうの、らいじん丸です」

 ほんの数秒で戻ってきた陽太郎の隣には、雷神丸が歩いてくる。

 

 陽太郎のサイドエフェクトの能力は、『動物との意思疎通能力』である。

 文字通り、動物との意思疎通ができる能力である。その動物が犬だとしても猫だとしても、そしてカビパラだったとしても意思を通わせることができる。私達にはその動物と通じ合っているかは分からないが、陽太郎の言動は、その動物の意思を理解はしているのだろうと判断することができる。

 

「らいじん丸。お前は、おれといつもいっしょにいるあいぼうだ。そうだな……おれが、無罪ならはないきをしてくれ」

「……」

 ただ1つ、問題がある。

 

 それは、動物たちが陽太郎の言葉を理解できるだけで、言う事を聞くことがないと言っても過言ではないことだ。

 

「おい、らいじん丸!! 」

「ふぉ……」

  欠伸をした後、座りこみ後ろ脚で頭を掻く雷神丸を、陽太郎は両手で揺らす。

 

「……他の方法を探しなさいよ」

 小南は、その姿を見て陽太郎の無罪を何となく感じ取ったのであった。

 

「あの……先輩」

 そこで本当に助け舟を出したのは、修である。

 

「犯人知ってるの? 修」

「いえ、そういうわけではないんですけど……」

 犯人を陽太郎から他の誰かに絞った小南に、修は口を開き始める。

 

 修曰く、昨日小南どら焼きを持って帰って来たとき、陽太郎は遊真とすでに釣り勝負を始めており、取ることは不可能だったとのこと。その釣り勝負が終わった後は、夕飯後すぐにソファで寝てしまっていたことを、ここで話し込んでいた玉狛第二のメンバーが目撃。そして、今日は、陽太郎はどら焼きを探しもせず、朝食を食べ、遊真との再戦に対する調整と称して、遊真が来るまでずっと釣りをしていたらしい。

 

「……陽太郎はシロね。悪かったわね、陽太郎」

「まあいい、終わったことだ」

 改めて陽太郎の無罪を確信した小南の肩を叩く陽太郎。

 

「ということは、昨日誰かがあたしが寝た後に食べたか、今日あたしが寝ている間に食べたかのどっちかになるわね」

 一呼吸置いて、独り言のように小南は、呟く。

 

 小南は、最近陽太郎にどら焼きを取られることの対策として、ある場所にどら焼きを隠すし見張るという策を講じていた。この結果、陽太郎にどら焼きを取られる回数が平均週5日から週1日に減少し、どら焼きの防衛に成功している。

 しかし、今回は陽太郎ではなく、違う誰か。自分の完璧な対策をすり抜け、どら焼きを奪取した知能犯。心してかからなくてはならない。

 そう……たとえ知能犯だろうが、なんだろうが捕まえて、ブースでボコボコにし反省される必要がある。

 改めてそう思った小南は、忌まわしき盗人を探し始める。

 

 

 容疑者No.1 三雲 修

 

「まさかとは思うけど、修じゃないわよね」

「おさむ……おれは、しんじていたのに」

 まずは1人目の修に声をかける小南。しかし、彼女も本気で修が犯人だと思っていないようで、修が違うと述べたらすぐに信じた。そして……

 

「昨日も先輩が帰ってからは、空閑か千佳とここにずっといました。朝は、空閑は陽太郎と釣りをしていたし、千佳は宇佐美先輩の手伝いをとしていたので、2人とも可能性はないと思います」

 という証言の下、玉狛第二のシロを確定させ、他の隊員のアリバイを聞いていった。

 

 

 容疑者No.2 木崎 レイジ

 

「レイジは、そんなことはしない。おれは、知っている」

「まあレイジさんは、確かにない」

 昼食後、栞と修たち3人が皿洗いしている中、2人でたい焼きを食べながら頷く。

 

 一応言っておくと、昨日のレイジさんのアリバイは、用事があり玉狛にいる時間があまりなかったという点と、いたとしても千佳の練習に付き合っていたという点がある。そして、今日は防衛任務でそもそも玉狛にいない。どら焼きを奪う暇もない。忙しい人なのである。

 

「やはり……『えんこん』か」

「絶対意味分かってないでしょ、あんた」

 テレビで流れているサスペンスは終盤にさしかかり、崖の上で刑事が犯人を追い詰めていた。

 

 

 容疑者No.3 烏丸 京介

 

「とりまる。本当のことを言いなさい。あんた誰が食べたか知ってるでしょ」

「やめるんだ、こなみ。そうして『えんざい』がうまれるんだ」

 小南は、机を左手で叩きながら勢いよく立ち上がり、右の人差し指で、烏丸の方を指差す。一方、陽太郎は、椅子からは立ち上がりもせず、左手で小南を制し、諭すように言う。

 

「誰が食べたかは知らないですけど……」

「けど? 」

  陽太郎からかつ丼の代わりとしてもらった、たい焼きを一口食べる烏丸。

 小南もたい焼きを頬張りながら、烏丸の言葉の続きを促す。

 

「先輩が最近、どら焼き隠してることを面白がって、迅さんとかが隠したんじゃないですか」

「え!? バレてるの!! 」

 小南にとって、衝撃の真実が明かされる。

 

「こなみの考えることぐらい、おれは手にとるようにわかるぞ」

「……だそうですよ」

 たい焼き2匹目を見事に平らげてドヤ顔をする陽太郎の言葉を聞いきながら、烏丸は麦茶を飲み干す。

 

「……ほんとに? 」

「全員分かってると思いますよ」

 小南は、あまりのことに呆然としており、コップを持ったまま固まっていた。

 

 小南のどら焼き死守作戦は、確かに無防備に置かれていたどら焼きの防衛にある程度は成功していた。

 隠し場所だって、陽太郎の手の届かない高い位置のかごに入れ、布も被せた。不自然ではないように、普段から布を被せていたかごを選んだ。しかも場所は、自分がそこに居座っていてもおかしくないある程度人が来る部屋を選んだ。それに釣りとしてあえて奪われる用のどら焼きも用意し、陽太郎がたまにその餌に引っかかり食べていることも確認していた。そして何回かに一度きちんと隠し場所も変えていた。

 まさしく完璧な作戦のはずだった。

 

「でも、目線が泳いでて、どこに隠しているかまるわかりだったよ」

 皿洗い終えリビングに入ってきた栞は、小南の呆然としている後姿を見て、右肩に手を置いてニヤつきながら言う。

 

 本人曰く、たまには場所を変えて勉強したかっただけで、何かがあるわけじゃないという言い分であったが、そのセリフも目線が相手ではなくかごを向いていたのでは意味がない。

 

「それに小南先輩、誰かが部屋に入ったり、通り過ぎたときにうろうろしてたじゃないですか」

「あれは、あれよ。ちょっと教科書を忘れたから取りにいこうと思っただけ」

 陽太郎の分の麦茶を注ぎ終えた烏丸は、立ち上がり小南の左肩に手を置いて言う。

 

 場所を変えて勉強する振りをしているわけだから、教科書を入れてある学校も鞄は足元に置いてあるはずであるが、後日このような言い分をするのでは意味がない。

 

「それに陽太郎対策するなら、椅子とか近くに置いちゃダメでしょ」

「ですね。結局届きますから」

 小南の視線の先には、雷神丸に跨ってドヤ顔をしている陽太郎。

 

「それで、結局のところ誰なのよ。とりまるでもしおりでもないんでしょ」

 とりあえず深呼吸をして、会話を続ける小南。

 

「まあ、林藤支部長か迅さんじゃないですか」

 彼女は烏丸の言葉を受けて、3人に背を向けてリビングを出ていく

 

「ちょっと本部に行ってくる」

 次は完璧にどら焼きを隠すと誓いながら、リビングの扉を閉じる小南であった。

 

 






ようやく少しずつ書く時間が生まれました。


次回は、太刀川対小南に突入できる……はず

だいぶ書き方とか忘れているので、アドバイスとかあればお願いします。



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