千夏は話し始めた。琴美を騙すことになっても女の子として生きていた理由を...
「わた... 俺はな、産まれる数日前まで女の子だと言われていたらしい。何故かはわからない。機械が悪かったのか...運が悪かったのか。母さんは女の子が欲しかったみたいでさ、男だと知ってから変わっちまったらしい。」
思い出すような目で千夏が遠くの空を見る。
「それからは拷問さ... 死にかけたこともあった。だから俺...言っちまったんだよ。女の子になりますって。そうしないと確実に死んでたからさ。で、母さんとの約束は...」
俺が高校卒業まで女の子になることだったんだ
不意に観覧車が止まった。入った時と同じく係員が「楽しめましたか?」と聞いてくる。
「はい。楽しかったです」
と千夏は作り笑いをする。
「琴美ちゃん... 明日の午後は時間ある?」
女口調に戻った千夏がこっちを見ずに言う
「...あるよ」
琴美も正面を見たまま言う
「じゃぁ、明日の午後は私の家で話そう。母さんは仕事で帰ってこないからさ」
返事は言わない
「明日の帰りに声かけるから... 琴美も覚えていてね?」
赤いスカートをふわりとさせながら千夏は琴美の前に行き、「それじゃね。また明日... 今日は楽しかったよ。」
と言い走っていった
琴美は頭の中がぐちゃぐちゃで何をすればいいのかわからず、ベンチに座る。怒りは既に抜けていて、代わりになにかの感情が心の中を回っている。
「どうしてなの?...」
勝手に口から声が漏れる。
なぜ男の子に会って目線を合わせても、吐き気が来なかったのか。なぜ、普段なら話せないのに、千夏となら話せるのか。なぜ怒りが消えたのか。
答えを聞いても何も出てこない。
「私にはわからないよ。千夏ちゃん」
いつの間にか横に野良猫が座り、慰めるような目でこちらを見ていた。 琴美は野良猫を持ち上げて膝の上に乗せる。
「明日話そう。勇気出さなきゃ!!」
元気を取り戻したことをわかったのか、野良猫が再び琴美を見つめる。今度の目は「帰らなくていいの?」と、言っているような目だった。
「琴美ちゃん...一緒に帰ろう?」
千夏はいつもと変わらない笑顔で琴美を誘ってくれた。
その心遣いに琴美の心が少し痛む。変な意地を張り、午前中ずっと無視していた自分が恥ずかしい
「...うん。 帰ろうか」
返事をした瞬間、千夏が琴美を抱きしめてた。
「?!!」
「琴美ちゃん、ありがとね...」
抱きしめてきた千夏は暖かかった。心が柔らかくなる感じがした。その暖かさは、友達がいない琴美には、わからないものだった。でも悪くないなと、少し笑ってしまった。
2人は千夏の家に向かった。千夏の家は、琴美の家の近くにある一軒家だった。
「お、おじゃまします...」
もちろん友達の家に入ったことのない琴美は、心臓が破裂しそうになっていた。
「そんなに緊張しないで? さ、私の部屋はこっちだよ」
と千夏は笑いながら言った。
千夏の部屋は二階だった。綺麗な木の階段を登り、ドアを開ける。
「私飲み物とってくるけど、オレンジとお茶...あとリンゴ。どれがいい?」
「え?あ、じゃぁリンゴで...」
すると千夏は「りょ〜かい。琴美は座ってて」と言い階段を降りていった。琴美はゆっくりと部屋に入り、カーペットの上に座る。ゆっくりと部屋を見回すが、完璧に女の子の部屋だ。ピンクと白を中心とした家具がとても可愛かった。
「はい。リンゴジュース」
「うわっ!?」
いつから居たのか、トレイの上にジュースとシュークリームを乗せた千夏が立っていた。
「そんなに驚いた? 部屋見てたから、邪魔しないようにしたつもりだったけど」
「男の子の部屋なんて...初めてのだから」
「私の部屋可愛いでしょ? 女の子っぽい部屋にしてますからね」
その言葉に琴美はまた笑ってしまう。昨日のことがなかったみたいに。
「私は長い時間女の子として生きてきた。そう育てられた。だから男の子の姿で人の前に出るのが怖いの。それに私は半分女の子だと思う。女の子として育てられている中で、私の中の男の子は変わっちゃったんだ。今では本物の女の子に成りたいとまで思っているの。」
昨日と違い、笑いながら話せている、それは2人の距離が縮まったということだった。
「私も、千夏ちゃんを男の子だと知った時は怒った。でも吐き気は全く来なかった。身体が拒絶しなかったの。大好きな千夏ちゃんともっと一緒に居たいという気持ちがドンドン出てきて...」
嬉しくて涙が出てくる。自分の気持ちを素直に言える友達ができたことに。
「ちょっと待ってて」といいながら千夏が立ち上がり、部屋を出ていく。琴美は気にするととなくじっと待っていた。
3分後、「ごめん、服探すのに時間かかったの。男の子用のズボンしまってたから」と言いながら千夏が部屋に入ってきた。
しかし、その姿は先ほどまでとは全然違うものだった。長い茶色の髪は短くなっており、スカートがジーンズになっている。
見れば見るほど美しい人だと思い、声をだそうとするが、緊張で声が出ない。それどころか、どんどん目が回っていく。
「あ...あぁ...」
スッと琴美が倒れる。
「琴美ちゃん大丈夫?!」
千夏が、すぐに抱き抱える。どうしていいのかわからず、取り敢えずベットに寝かせる。
「なんか...ごめんね。ホント」
数分後、琴美は目を覚ました。倒れた時の記憶が無く、なぜ自分が千夏のベッドに寝てるのかわからない
女の子の姿に戻った千夏が、心配そうな顔で座っている
琴美が身体を起こすとすぐに気付いて
「起きた? 琴美、私の姿を見て気絶しちゃったの」
と言っている。
「ごめんね。私緊張したり男の子と目が合ったりすると貧血で倒れちゃうの。だから千夏ちゃんは全然悪くないよ?」
2回目は大丈夫なのか、琴美は千夏の目を見ても倒れなくなっている。
「千夏ちゃんはホントに美しいね。女の子の姿でも男の子でも... 私よりずっと可愛いし、かっこいいよ」
さっき言えなかった感想を言う。
「琴美ちゃんも可愛いよ? ちっちゃくて...守りたくなるような...ね?」
千夏は純粋に褒めたのだが、琴美は少し落ち込んでいる
「でも身長と胸が...」
「胸?」
きょとんとしている千夏を置いていきながら、琴美がいきなり立ち上がり、話し始める
「胸が欲しいの!! 私たまに小学生と間違えられるんだもん!! ロリ美とか、ロリちゃんとか、ひどいよ」
すると千夏も立ち上がり
「わかる!!私も胸欲しいもん!!」
「...千夏ちゃん男でしょ?」
「今は半分以上女の子だもん!! あの柔らかい胸が欲しい。触ってみたい...」
琴美はなんとなくわかった。千夏は長い間女の子として生きていたせいで、心が女の子に近づいているのだと。
それはとても変なのかもしれない。でもそれが千夏なら全然許せる様な気がした
「千夏ちゃん?」
「ん?なに?」
2人が目を合わせる
「私も...男性克服頑張るから!!千夏ちゃんも頑張ろうね!!」
琴美が手を出す
「...うん。私は男の子として生きれるように頑張る」
千夏が握る
2人は似ているようで似ていない悩みがある
男の子が怖い琴美
男の子であることが怖い千夏
お互いのことを話し、知り、感じてわかったこと。それらが2人の絆を少し深くした
「あ、でもホントの女の子になるのもいいかもね。そしたら胸を...」
「さっき男の子として生きるって言ったよね?!」