ダンジョンに家族(てんせいしゃ)がいるのは間違いじゃないだろうか   作:口から砂糖会

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プロローグ(前)

――お祖父ちゃんが死んだ。

正確には、姿が見えなくなった。ある日突然、いなくなった。

その日、祖父が用事があると外出し、そこで血だまりと死んだモンスター、そして、赤く染まった見慣れた服の破片がそこにあった。

村の人たちが3日ほど辺りを探してくれたが、手がかりは見つからず、モンスターに襲われてそのまま、と影でささやいているのが聞こえる。

そして1週間が経ち、--ベルに限界が見え始めた。

あのジジイが見えなくなってから今日まで、ベルは一口も食べ物を食べていない。

ベルの目が、表情が、雰囲気が、全体が生気を感じられない。

何度か食べさせようとしたが、呑み込む寸前で吐き出してしまった。

水だけはなんとか飲めていたが、それも涙で流してしまったのか、唇に水気を感じられない。

 

ベルの目の前に、スープで煮込んで、柔らかくなったパン煮込みを置く。

 

「食べて、ベル。死ぬよ?」

 

ベルは目の前で揺れる食べ物の湯気を見ているようだが、違う。その目の焦点が合っておらず、何も見ていなかった。

 

「――しんだら、おじいちゃんのところにいけるかな?」

 

ボソリっと呟くように言う。それは沈黙で埋まっていた部屋に響いた。

それを聞いて、何かが、弾けた気がした。

 

席を立ち、台所に行く。

ベルの質問に答えず、料理を作る。

料理が完成し、戻ってもベルはピクリともしていなかった。

 

そんなベルに近づいて――顔を掴んで口を開けさせた。

抵抗する気力のないその口はポッカリと開く。

そこに、鷲掴みで持った料理を叩きこむ。

 

「…………!!?」

「――美味しい?特製ハニートースト、蜂蜜マシマシ生クリーム掛け白雪砂糖かけミルクチョコソースを添えて、の味はどう?」

「……ガ!?ア、マァ!!?」

 

暴れて、私の手を退けようとする。

昔と違い、成長したベルに力では敵わないはずだが、今の、死にかけのベルに負けるわけにはいかなかった。

そのまま椅子が倒れ、地面に倒れこむが、それでもベルの口に手を突っ込むのを止めない。

暴れるベル。それに伴い、手はボロボロになっていく。

抵抗するベルの爪で、歯で、手から血が零れ、ベルの口元を染めていく。

 

「――苦しい?私の手を突っ込まれて。

 ――痛い?地面に叩きつけられて。

 ――暖かい?私の血は?」

 

そこで、ベルの動きが止まる。

目の焦点が、皮膚を滑るように流れる手に向けられる。

抵抗を止めたので、手を引き抜く。

 

「――死んだら、祖父ちゃんの所に行けるか?行けるかも。でも、絶対に会えないです。今のベルにいが行っても」

「…………」

「祖父さまは、全力で生きていた。子供のように純粋に。大人のように贅沢に。獣のように本能的に。だから魅力的でした。でも、--今のベルは死んでるです。人として以前に、ジジさまの孫として死んでるです。魅了を感じないのを見てくれるほど、あの人は暇じゃないです。そんなのじゃ、草葉の陰で見てるのも飽きて、どこかの女の人を見に行くに決まってるです」

「ナン、パ?」

「遅かれ早かれ、物事は終わるし、壊れるし、死ぬです。それに、自分を引き込む(サービス)するなです」

「ウァ・・・・・・」

「死ぬその時まで、死ぬのはジジイも私も、家族として許さないです」

「ア、ア、ア、ア、アアァァァァァァ・・・・・・・・」

 

涙は流れない。

でも、ベルは泣いた。悲しいという感情を全身で表現するように泣いていた。

 

「元気になったら、オラリアに行くです。英雄になるんでしょう?お祖父様に気付いてもらえるように、どこにいても、世界の果てまで名前を響かせるです」

「ヴん、わ゛がっだ」

「まぁ、私は目立つのは苦手だから、手伝いに回るですよ。なら、メシ食べるですよ」

「ヴん。--ずず」

「ん?」

「……ごめ゛ん」

「ん~謝るよりも?」

「……あ゛り゛がどう」

「どういたしまして」

 




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