確認を終えた俺は宛てがわれた部屋に戻ってきた。感情のままに飛び出した部屋は多少整理したつもりだったが、冷静になってみると服やら袋やらが散らかったままだった。
どうやら俺は思ったよりも死神御一行にあって動揺していたようだ。
部屋を片付けている途中に、船長と思わしき人の挨拶と出港するというアナウンスがかかった。
だがアナウンスがかかってしばらくしても、乗り物が動く時に感じる慣性に引っ張られるような感覚がいつまで経ってもやって来ない。
片付けが終わり5分ほど経ってもやって来ないその感覚に、いつ出発するんだと窓から外を見てみればすでに船は波を切って進んでいるのが見えた。
全く気が付かなかった。さすが、豪華客船の名は伊達じゃない。
初めての体験に一人テンションを上げ、軽い足取りで最低限の物だけもって部屋を出た。
面白いものはないかとパンフレット片手に通路を歩く。
パンフレットを1枚めくってみるとレストランや映画館、ビリヤード場やトランプゲームなどで遊べる所や舞台なんかがあるらしい。
トランプゲームとは言っても7並べなどではなく、ポーカーなどディーラーが配るようなものが主なようだ。通りすがりにすこし覗いてみたら落ち着いた雰囲気でなんとなく入りにくくてそのまま通り過ぎた。
もう少し精神年齢の低いお子ちゃまに優しい施設はないのだろうか。
大人な香りが漂う物や場所はどうも苦手で、近づきがたくてかなわない。
自分でも楽しめそうなところはないかとパンフレットをパラパラ捲ると写真付きでプールの記載がされていた。
たしか水着は荷物の中にいれてあったはずだ。
いってみても良いかもしれない。
ふむ、プール…プールかぁ…
少し考えてからハッとする。
ここは少年漫画の世界、主人公達がいる、プールがある、この条件から導き出される答えは…そう、サービスシーンだ。
しかも今回は毛利蘭がいる。彼女の水着姿だけでも見ておかないと損だろう。
これから事件が起こるということはサービスシーンはその前にあるということ。タイミング的にもいる可能性は高い。
こちとら健全な男子高校生。プールで泳ぎたくなっても全然不思議じゃないし、その結果女子高生の水着姿が目に入ってもそれは偶然の産物で決して俺の意図したところではない。
よし、完璧な推理とアリバイだ。
これは行くしかない。
――――
やってきました、おおきなプール。
部屋に水着取りに行く途中に関係ない俺が一瞬立ちすくむほどの言い争いを見かけたけど、ああいうのには関わらないにかぎる。
見た感じ知り合いっぽかったし、一緒に旅行に来るくらい仲がいいなら変なこともないだろう。
気迫が怖かったけど言い争いとかよくある、よくある。
正直、アレが今回の被害者と加害者かな?と思ったけどきっと気のせいだ。
俺は何も見なかった。いいね?
そんなことは置いておいて未来の事件よりも今のサービスシーンだ。
プールを見渡し目当ての人物を探す。
プールがあるシチュエーションでヒロイン枠が水着にならない道理はない。
目をカッ開いて辺りを見渡す。
見た感じお年寄りの方が孫らしき子供と居るのがちらほらと見え、若いカップルや団体は思い思いに広いプールを楽しんでいるようだ。
…だが、目当ての人物が見あたらない。
まだ船が出発したばかりだからか?
水着イベントは明日なのだろうか。
「ねぇ、お兄さんって前に喫茶店にいた人だよね?」
「ヘアッ!?」
辺りを見渡していると、後ろから声をかけられた。
思わず変な声が出たが振り向いてみると、浮き輪を装着した名探偵が浮かんでいた。
遠くから眺めるだけのつもりだったのに向こうから話しかけてくるとは。
完全に想定してなかった。誰だよ、完璧な推理とアリバイなんて言ったヤツ。
「さっきから誰か探してるみたいだけど、どうしたの?」
「えー、あー…」
「コナンくーん」「ちょっとガキんちょ!何やってんのよ」
追撃を仕掛けてくるコナンにまさか、あなたたちを探そうとしてました。と言うわけにもいかず、答えあぐねてくるとザブザブと水を掻き分けてこちらにやって来る華の女子高生二人。
二人ともビキニだ。これだよ、俺が見たかったのは!
心の中でガッツポーズしている俺をよそに、コナンが二人に向き直る。
「蘭ねーちゃんこの人、前の喫茶店の事件の時にあった人だよ。見覚えがあってつい話しかけたくなっちゃったんだ。」
「ああ!あの時の!」
「何?またこのがきんちょ事件に巻き込まれたの?
…アンタ本当にお祓い行った方がいいわよ?」
「アハハ…」
お祓いを勧められるコナンを見ていると三人ともこちらを向く。
これは俺から自己紹介する流れか。
「あー、こんにちは。江古田高校2年の七瀬誠っていいます。」
「……ふーん。イケメンって訳じゃないけど、ルックスはまぁまぁってとこね。」
「ちょっと、園子!すみません。
えっと、私は毛利蘭です。それでこっちが…」
「鈴木園子よ!私たち二人とも帝丹高校に通ってるの。あ、私たちも2年生ね。」
「僕は江戸川コナン!」
「…よろしく。」
深く関わって変なフラグがたっても困るので無難な言葉を返す。
だが名探偵のバトルフェイズはまだ終了していなかった。ランネー・チャンとクイーン園子が召喚された場で攻撃は続く。
「ねぇ、おにーさん周りを見渡してたけど誰か探してたの?僕も手伝おうか?」
「あら、人探し?この推理クイーン園子様の出番かしら。」
「ひょっとして一緒に来た人とはぐれちゃったんですか?」
ぅゎっょぃ。疑心と親切心がタッグを組んでダイレクトアタックを仕掛けてくる。
俺はちょっとメインキャラの水着姿が見たかっただけなんだよ。
だがこの程度の攻撃など、あらかじめ伏せていたカードを発動、もとい言い訳で誤魔化すなど造作もない。
「いや、俺は一人でこの船に来たからツレを探してた訳じゃないんだ。
ただやっぱり家族連れやらカップルが多いから俺みたいな一人で来てる客を探してたんだよ。
声かける訳じゃないけど俺だけ一人って言うのはちょっと心にクる物があるしな。」
「え、一人で来たんですか!?」
「ああ。両親が仕事で来れなくてな。絶賛団体一名様を謳歌しているところだ。…まぁ、一人には慣れているんだが、見渡しても同類はいないし居心地が悪くてな。」
嘘は言ってないぞ。一人に慣れているのもちょっと居心地悪いのも本当だしな。だからといって船旅で家と同じく引きこもってるだけなのは芸がないし、外に出たら周りはワイワイいちゃいちゃしてるし、やはり現実はぼっちに厳しい。
「…蘭ねーちゃん、僕このお兄さんと一緒にこの船回ってみたいな。」
「コナン君?」
「あのなー、ちみっこや。初対面の人についていっちゃダメなんだぞ。」
「僕、お兄さんとこの前喫茶店で会ったから初対面じゃないよ!」
「いや、確かにそうなんだが、俺が言いたいのはそういうことじゃなくてな…」
世の中のぼっちの環境について思いをはせていると、コナンが必殺おねだりで同行を申し出てきた。
暗についてくるなと言ってもコナンが食い下がってくる。
ひょっとして俺の状況はコナンが気を使うほど憐れなのか?
ぼっちにとってはそんなに珍しいことでもないとおもったんだが。
駄々をこね始めたコナンを見て蘭さんが少し考えるような素振りを見せて、口を開いた。
「あの、夕方までで良かったらご一緒しませんか?」
「え?」
「ここであったのも何かの縁ですし、良い思い出が無いまま終わるのは残念ですから。」
「いや、でも…」
「仕方ないわね、折角の旅行なんだから楽しまなきゃ損でしょ。そんな辛気くさい顔してたらこっちだって素直に楽しめないじゃないの。」
「俺辛気くさいツラしてるの?マジで?」
「わぁい、お兄さんよろしくね!」
「えっ」
「ね!」
「アッハイ」
結局断ることもできずに一緒に行動することになってしまった。これがメインキャラのチカラか。
しかしこの展開はコナンワールドでは稀に良くあることなのが辛い。
何回か他人を誘ったことがあるからこそ今回もそんな感じだったのだろう。
俗に言う、公式も使う話を進めるための大人の事情であり、おやくそくというやつだ。
つまりこの時点で事件に関わることがほぼ確定してしまったということである。
これがコナン本編であるならば俺は遠くない未来に誰かに刃物を突き付けられたり、殺されそうになって、あぶなーい!といわれてコナンに突き飛ばされたりする展開が待っているだろう。
そうならないことを願うばかりだ。
この後めちゃくちゃ水遊びした。
実はここまでが1/1日に投稿したコナンの後ろにつけるはずだったもの。
途中で切って投稿が多い。
一回書かなくなると筆が進まなくて困る。
誤字報告有難うございます。
宛がうと宛てがう、調べたら両方とも辞書に載っていましたが、せっかくなので「て」のついた方を採用します。