そんな伊佐那海を見ていた才蔵は、明日花に目を向けた。
「明日花、お前か?」
「何が?」
「伊佐那海に、鉄扇の扱い教えたのだよ!!」
「さぁね~」
「この……」
「素直に、褒めてあげれば?」
「……」
「やった……勝ったぁ!!」
喜びに満ち、大声を上げ喜ぶ伊佐那海……
「凄いぞ!!あの娘!!
可愛いし!!」
「伊っ佐那海!!
伊っ佐那海!!」
「伊佐那海、お見事!!」
伊佐那海の勝利に喜ぶ幸村……
歓声を上げる観客席……
そんな観客席に、伊佐那海は一礼をし舞台へ降りた。
(アタシ、一人で勝てたよ!)
舞台から降りた伊佐那海の目に飛び込んできたのは、才蔵だった。才蔵は笑みを溢しながら、伊佐那海に話しかけた。
「勇士初勝利が、オメェかよ。
いつの間に、鉄扇の扱い明日花に習ったんだ?」
そんな言葉を聞いた伊佐那海は、顔を赤くして才蔵に飛びついた。
「おい!」
「……アタシ、凄かった?」
「?」
「アタシ凄かったでしょ!!才蔵!!」
「……
あー、ハイハイ。
頑張った頑張った」
「何よ!!何で、流すのよ!!」
「自分から褒めてくれって、強調すんなよ!!」
「酷ーい!!
明日花ちゃーん!!どうだった!?アタシの鉄扇」
「お疲れ様ー!」
「あー!!明日花ちゃんまで!!」
「才蔵!!伊佐那海!!
公衆の面前で、何をしておる!!」
(若いねぇ……)
「ハッハッハ!一気に空気が変わったな!」
「それでは、第五死合い」
“ターン”
鳴り響く靴の音……舞台に降り立った一人の女性。長い銀髪を雪の結晶が着いた簪で纏め、武田の家紋が入った白い羽織を靡かせ、顔に狐の面を着けていた。
「あれ、誰だ?」
「オイラの対戦相手?」
「最後の種目……武田勝負を今より初めて頂きたいと存じます!」
「?!」
「先程の舞、見事でした。出雲の巫女さん」
「……」
「さぁ、死合いを初めて頂きましょう。
ようやく、やる気になれたのですから」
後ろを振り向きながら、女性は信幸に言った。そんな彼女の姿に、優助はため息を吐き呆れていた。一方で才蔵達は、女性を見つめていた。
「綺麗な人……」
「うん……」
「あの人、何者なんだ?」
ふと明日花の方に才蔵は目を向けた。彼女は椅子から立ち上がりその女性を見つめていた。そして口を開いた。
「……紫苑だ」
「?!」
「紫苑だ……あの銀髪、あの狐の面……それにあの耳のピアス……
間違い……紫苑だ」
「あの人が明日花ちゃんのお」
「伊佐那海」
言い掛けた時、優助は彼女の名前を呼び黙るようにと人差し指を口元に当てた。
「十番勝負の途中ですが……
これより武田同士の戦い、特別死合いを行う!!山本優助、前へ!!」
ため息を吐きながら、優助は鳥の面を顔に着け不安な表情を浮かべている明日花の頭を軽く叩くと、舞台へと上がった。
「随分と派手なご登場で」
「それはどうも」
「まさかとは思いますが……戦いを最後にしたのは、君の気分が乗らなかったからですか?」
「大当たり」
「……あのねぇ」
「部下の命令なんざ、聞きたくないわよ」
「確かに昔は部下でしたが、今は信濃を守りし殿ですよ」
「だから何?」
「素直にいう事を聞きなさいと言っているんです」
「嫌よ。
武田以外の命令は聞かないの」
「君等一族はどこまで自由人なんですか?!」
「知らないわよ。私達の主は武田只一人。
違う?」
「少しは大人になって下さい」
「とっくになりました」
「どこが?」
「結構いい体に」
「外見ではなく、中身のことです!!」
言い争う優助と紫苑……その様子に、信幸は呆れてため息を吐き、才蔵達は少し驚いた様子で見ていた。
「優助さん達、何か喧嘩してない?」
「死合いやる前に、口喧嘩かよ」
「ハァ……
紫苑……優助……」
「そ、それでは死合いを始める!!
死合い開始!!」
審査員の声と太鼓の音と共に、紫苑は弓矢を優助は小型の火縄銃を取り出し構えた。
「火縄銃?!」
「撃てるのかしら?」
「撃てますよ。
覚えていますか?隊長を決める時、戦ったことを」
「えぇ、覚えてるわ。確か同時に放ったのよね!」
その声と共に、紫苑は弦を手から離し矢を放った。同時に優助は引き金を引き、弾を乱射した。ほぼ同時に放たれた矢と弾は、互いにぶつかり合い地面へ落ちた。それを合図に、二人は槍と棍棒を手に取り攻撃した。
「速い!?」
「凄ぉ!」
「へ~、腕は落ちてないようね」
「当たり前です。戦になれば、君と対等に戦えるのは僕しかいないんですから」
「それもそうね」
「それより、よくもまあ十代に着ていた服を三十過ぎて着ようと思いましたね?」
「あ?
それはあなたもでしょ?」
「僕は動きやすさを重視して作って貰ったので」
「だったら、私もよ。
一族の伝統で、男女共に露出度が高いのよ!」
槍を上げ跳び上がった紫苑は、優助に向かって槍を振り下ろした。その槍を優助は棍棒で受け払い、空いた紫苑の頭上に棍棒を突いた。その棍棒を、紫苑は難なく避け花弁が落ちるかのようにして、地面へ着地し前を見た。
「綺麗な舞……」
「当たり前だよ」
「え?」
「紫苑は情報収集で、いつも敵陣の中に入って舞をした。舞に見取れている隙に、仲間が情報を入手して……
入手を終えると……自分の技で敵を一人残らず殲滅した。それで着いた名が、白い殺人花」
「さ、殺人花って……」
「何か、怖い名前」
優助を見つめる紫苑……
「舞をするのであれば、鉄扇の方がよろしいのでは?」
「槍も綺麗に見せられるでしょ?」
「おやそうですか……」
「……ねぇ」
「?」
「あの子は元気?」