昔、何度聞かれたか……人並み外れた速さと特有の技。
全ては、あの人を守るために得た力……
『私の背中は任せたわよ!優!』
『なら、僕の背中も任せましたよ。紫苑』
睨み合う二人……同時に刀を勢い良く振り下ろした。鉄と鉄がぶつかり合い、その衝撃で二人は後ろへ飛ばされ、距離を置いた。
互いを見る優助と紫苑……
紫苑の目に映っていたのは、明日花だった。
(……あの時)
息が整った紫苑は、刀を振り下ろし攻撃したが、その攻撃を優助は軽々と避け、紫苑の後ろへ回り刀を振りかざした。
(あの時……全てを捨てて、源三郎……信幸の元へ行った。
私が行けば、明日花は知られずに安全だと思って……)
優助の攻撃を、紫苑はすぐに刀でその攻撃を防ぐかのように振り回し、振り回した刀は優助の腕を斬り、彼は腕から血を流しながら後ろへ引いた。
「随分と荒ぶってますね?
アレですか?弟子の成長が見られないのが悔しいんですか?」
「……」
「……見て分かるように、背が伸びましたでしょう?
髪が伸びましたでしょう?」
紫苑の目に映る明日花……彼女の隣には、幼い彼女が笑顔で自分にを見ていた。
(明日花……)
一瞬動きが停まった紫苑に優助は刀を握り直し、彼女の空いた足の間に足を踏み込んだ。
(ヤバい!!)
「山本流剣術隼斬!」
一瞬何が起こったか分からぬような刀を振り回した優助は、紫苑から離れ後ろへ引いた。その瞬間、彼女の体は刀に斬られたように、ズタズタに斬られ紫苑はその痛みでその場に膝を付いた。
「紫苑!!」
「死合い中です。余所見をしないで下さい」
「そうね……
そうしなきゃいけないのに……何でかしら。あの子を見てたいのよ……成長したあの子を。
この死合いが終われば、また離れ離れ……あの子の姿、しっかり目蓋に焼き付けとかないと」
「そうですか……なら、約定を破棄しますか?」
「?!」
「破棄することぐらい、可能ですよ。
方法は一つ。二人の前か姿を消し、あなたの一族の元に身を置く……」
「……そんな無理よ。
すぐに徳川が動きだすわ」
「……」
「それに、主の命令を破棄できるわけないでしょ。
特にあなたは。
そうでしょう?元、武田軍隊長して、武田二十四将にいた武将」
「そう言うあなたもでしょ?」
「……」
「まぁ、最も僕は勘助の息子としてですけど」
「あら?そんな事言うなら、私もよ!」
立ち上がり紫苑は刀を振り回した。優助は迫って来ていた刀を、飛び避け着地すると紫苑の首目掛けて刀を振った。その刀を彼女は刀を上げ防いだ。
「君、やり合う度に首狙うのやめて貰います?
結構大変なんですよ?受け止めるの」
「首狙わなきゃ、死なないでしょ?」
「ニコヤカに言うのやめてください!!」
「何で面着けてるのに、笑ってるの分かるの?!」
「分かりますよ!!君の考えぐらい!!」
「何か面着けてて分かんねぇけど、あの人の今の顔、明日花そっくりだ」
「よぉし!才蔵、首取るか!」
「何でそうなんだよ!!」
「じゃあ、幸村の首でいいや」
「明日花!!」
刀を握り直し、優助は紫苑に向かって刀を振り下ろした。紫苑は避ける様にして背中を反りながら飛び上がり、後ろへ着地しながら、手から火の玉を放った。優助はすぐに水の盾で防いだが、火花が彼の脚に辺り火傷を負った。
「クッ……」
体制を立て直し、優助は刀を突いた。紫苑は刀を振り払い、そして握り直し彼の肩を斬った。肩から血が噴き出し、優助は肩を抑えながら後ろへ引き、紫苑を睨んだ。
「優助!!」
「優助のオッチャン、あんなに血が」
「才蔵!このままじゃ優助さんが」
「オッサン!!
あの女、優助を殺りかねねぇぞ!!」
「……」
「オッサン!!」
「黙って見ておれ」
「!!」
「止めんじゃねぇぞ、才蔵」
煙草を吸いながら、甚八は静かにそう言った。才蔵は甚八に目を向け怒鳴った。
「何言ってやがるんだ!お前は!!」
「……」
「優助さんは、お前の義理兄弟なんだろ!!だったら」
「だったら、どうすんだ」
「っ……」
「これは、アイツ等の戦いだ。誰も口を出すな……黙って見とけ」
「……」
「明日花……お前も、ジッとしてろ」
立ち上がり、駆け寄ろうとしていた明日花を、甚八は呼び止めた。明日花は拳を強く握り、舞台を見ていた。
「やれやれ……あの子前で、こんな血塗れになった姿を晒すとは」
「それはお互い様。私もあなたに血塗れにされたわよ。
女の身体を、よくも傷つけて」
「どうせ、傷跡は残らないのでしょう?」
「まあそうね」
立ち上がる優助……刀を、肩に乗せながら振り返り笑みを浮かべた。
「そろそろ飽きましたし、終わらせえますか」
「そうね……この舞台で喧嘩してちゃ、死合いが進まないものね。
終わらせる前に、あなたの愚痴聴くわよ?」
「君のせいで、あの子随分と君に似てきちゃいましたよ?
性格と言い、口の訊き方と言い……昔の君を見てるみたいです」
「あらそう……
だったら、外見何てあなた似じゃない。透き通った青い目……顔立ち。それに武器を持たせた時の目付き……昔のあなたみたいよ」
「そうですか……」
動かない二人……互いに背を向かせていた二人だったが、次の瞬間刀を投げ飛ばした。刀は互いにぶつかり合い弾き返され、それを合図に二人は炎と雷の技を出し投げぶつけ合った。技はぶつかり合い、激しい爆発が起こった。
舞台に漂う煙……その中から、二つの影が飛び出してきた。
幸村側に転がって出てきた優助と、信幸側に出てきた紫苑……
「紫苑!!」
「優助!!」
煙が晴れ、二人が居なくなったに気付いた審判は、慌てて両手を上げた。
「両者共に舞台から落ち失格。よってこの勝負、引き分け!!」
審判をの結果を聞いた観客は、盛り上がり一斉に歓声を上げた。声が鳴り響く中、明日花は倒れている優助の元へ駆け寄った。
「優助」
「大丈夫ですよ……心配しないで下さい」
「……」
「優助さーん!傷大丈夫!?」
「大丈夫です!掠り傷ですよ……」
伊佐那海にそう答えながら、優助は明日花に支えられながら起き上り膝を立て座った。
「明日花、棍棒を取りに行って来て下さい。それから……この刀を、紫苑に返して来てください」
「うん、分かった」
刀を受け取ると、明日花は舞台脇の地面に刺さっている棍棒の元へ向かった。優助は深く息を吐くと、チラッと甚八の方に目を向けた。
「……煙草、持ってますか?」
「あぁ。
辞めたんじゃねぇのか?」
「いいじゃないですか……紫苑だって、吸ってましたし」
甚八から煙草を受け取った優助は、ポケットに入れていたマッチに火を点け煙草に付けた。面を外し、口に銜えると深く吸うと一気に吐き出し煙を出し、笑みを浮かべた。
「やっぱり、美味しいですね。煙草は」
「あー、痛ったぁ。飛び過ぎたわ」
信幸の元へ飛んできた紫苑は、体を抑えながら立ち上がった。そんな彼女に、信幸は睨みながら怒鳴った。
「いったい、どういうつもりだ?!技を使いおって!!」
「……」
「答えよ!!紫苑!!」
「いいじゃない、別に。何?使っちゃいけないわけ?」
「っ」
「それに負けてない。それでいいじゃない……
貴方、固過ぎるのよ。いつか滅ぶわよ?信幸」
「……」
「そんじゃ、槍取りに行くのと、優に刀を返してくるんで」
棍棒の元へ着いた明日花は丁度その時、信幸側から来る紫苑の姿が目に映った。
歩んでくる紫苑の姿を見る明日花……
優助の棍棒の隣に突き刺さっていた槍を引き抜いた紫苑は、刀の束部分を明日花の前に差し出した。
「これ、優助に返しといて」
「……」
黙りながら受け取った明日花は、黙って手に持っていた刀を差し出した。紫苑はしゃがみ、その刀を受け取った。
「確かに受け取ったわ」
「……紫苑、また会える?」
「……明日花がもっと、強くなったら会えるわよ」
「……」
「じゃあね。
元気でね、明日花」
振り返り、明日花から受け取った刀を鞘にしまいながら去ろうとした。
「カアサン……」
「!」
小さい声だったが、ハッキリとその言葉は紫苑の耳に届いた。紫苑は振り返らず面を外し、懐から煙管を出し口に銜え煙を出しながら去って行った。
その様子を見ていた優助は、去って行く彼女の背中を見つめていた。
(強がって……
君が振り返らず煙管を吸う時は、大抵涙を流してましたよね)
「それでは十番勝負を開催します!
第五死合い、両者前へ!」
「ほいほーい!
今度はオイラが、勝っちゃうから!!」
「弁ちゃん、頑張って!!」
「まっかせといて!!」
張り切りながら、舞台へ降り立った弁丸……
だがそこに、対戦相手が来なかった。
「あれー?
オイラの対戦相手は?」
「信幸様方の武芸者!早く舞台へ!」
籠を持ち上げようとしているのか、籠を揺らす弁丸の対戦相手……
すると、ようやく籠が上がったかと思った瞬間、その籠は爆発した。
「な!?」
「ええ?ば、爆発!?」
「やったな、ガキ」
「へっへー!
ここに来る前に、籠見つけたからさ。ちょちょいと細工しといたんだー!
ま、戦は先手必勝だよね!」
「うわぁ……」
「さすが弁丸、としか言いようがありません」
「弁丸!ナイスー!」
棍棒を握り、明日花は叫び抜けた拍子に地面に尻を突いた。
「これは、勝敗どうなりますか……」
「うーむ」
「誰だ!!こいつは!?」
籠を見ながら叫ぶ信幸……
籠の中にいた者の襟を掴み上げながら、信幸は言い放った。
「これは、俺が選んだ武芸者ではない!!
もしや!!」
他の籠を見る信幸……
「幸村様!」
そこへ、町の偵察に行っていたアナスタシアが、姿を現した。
「やっと、出番かよ」
その時、『陸』と書かれた紙が貼られた籠が、中から真っ二つに斬られ、その中にいた者が出てきた。
「よ!真田の!」
中から現れたのは、長剣を担いだ政宗だった。その姿を見た伊佐那海は、才蔵の腕を掴み身を縮込ませた。
「伊達……政宗!!」