才蔵は、すぐに後ろへ下がり剣を構えた。
(何だ!?見えなかった!!)
「鎖鎌か……」
(あの野郎、何をした!?
鎌之介の武器が、一瞬で奴の手に……)
「テメェ!!
それは、俺の得物だ!!」
奪われた鎖鎌を取り戻そうと、典膳に突進を仕掛ける鎌之介の足の脛に、錘が付いた鎖が当たった。脛に当たったと同時に、鎌之介は吹っ飛び転がり足を押さえた。
(動きが速い……
いや……動きに気配がねぇ!!)
「今のは、一体……
鎖鎌が、典膳の手に渡ったのが、全く見えませんでした」
「典膳の師、伊藤一刀斎は丸腰の時も敵の刀を、奪って戦ったというが……
目にした今でも、信じられん早業だな(まるで、明日花と優助の死合いの様だ)」
「そりゃそうだ。
俺も敵に回したくないほどの男だからな。
こんな使い手がもったいねぇ、何で徳川なんかに仕官してんだが……
ま、コイツがいる限り、うちの負けはねぇんだよ真田の!」
「俺の鎖鎌を返さねぇと!!ぶっ殺……」
「相手にならねぇって」
走って来る鎌之介は、先程攻撃を受けた脛がまだ痛むのか、足を押さえまた立ち上がり突っ込んだ。そんな鎌之介ましたから、錘の着いた鎖が振り上がって来ていた。
その重りを、才蔵は剣で叩き防ぎ、同時に鎌之介に蹴りを入れて後ろへ引いた。
「何すんだよ、才蔵!!」
「黙れ!!このバカ!!
相手はお前の武器を瞬時に奪ったうえ、間を閉じたまま攻撃してくるような化け物だ!!(まるで、京都で会った優助さんの元部下、晃三と動きが一緒だ)
奴の間合いに、ノコノコ入ってんじゃねぇ!!」
「ああ!?」
「鎌!
お前、奴の動き見えてねぇだろ!」
「だったら、何だよ!!」
「まずは距離を取って、奴の手を見極め」
「あー、うるせぇ!!
ゴチャゴチャ言ってんじゃねぇよ!!」
「俺のクナイ!!」
才蔵のクナイを奪い、鎌之介は典膳に攻撃をしようと後ろを振り返った。その時、目の前に重りの着いた鎖が飛んできて、振り向いた鎌之介の顔面に当たった。
顔面に当たった鎌之介は、鼻から血を出しそのまま倒れてしまった。
(あーらら……)
(あの阿呆が!)
「動物ですね」
「うーむ」
「醜い……」
「捉えるのは容易い……
乱れた足音、息づかい……」
「お前、ホントに馬鹿な!!使えねぇ!!
せっかくオッサンが、二対一の有利な状況に持ち込んだってのに!!
お膳立てが台無しだ!!
むざむざやられやがって!!少しは考えて行動しろ!!」
その言葉にキレたのか、鎌之介は才蔵の足を掴み引っ張りその場に倒した。才蔵は見事に顔面から倒れ、倒した鎌之介を睨んだ。
「仲間割れかよ」
「鎌之介!」
「お膳立て!?
んなもん、クソッ喰らえだ!!このヘタレ野郎!!
今は、目の前の敵を殺る!!ただそれだけだろう!!
見極める!?考える!?アホか!!
いちいち考えなきゃ、動けねぇのかよ!!殺し合いの舞台に、上がってんだ!!滾る血に体を、任せりゃいいんだよ!!
考えるもんじゃねぇ!!感じるもんなんだ!!快楽は!!
そうだろ、才蔵」
「……」
「腰抜け野郎は、そこで寝とけ!!オオラアァ!!」
典膳に突っ込む鎌之介……
典膳は目を閉じ、意識を集中させていた。
典膳の世界は、自分の周りに水が張り、その水を踏み荒らしやってくる音……
そのやってきた音は、黒く巨大な影が映り、典膳はその黒い影に重りの着いた鎖を振り下ろし攻撃した。
その攻撃は、突っ込んできた鎌之介の顎に当たり、鎌之介はヨロケその場に倒れてしまい動かなくなった。動けなくなった鎌之介に、典膳はさらなる攻撃をしようと鎖を振り下ろした。
才蔵は鎌之介の服に剣を刺し、鎌之介を自分の後ろへ移動させ攻撃を避けさせた。
「おい、この馬鹿!!
……死んだか!?」
才蔵の言葉に、全く反応しない鎌之介……
(厄介な相手だ……)
息を切らす才蔵……
ふと、伊佐那海の方に目を向けた。心配そうに才蔵を見る伊佐那海……
(やるしかねぇ!!)
才蔵は剣を握り直し、意を決意したかのように典膳に突っ込んでいった。
(こいつはおそらく、こっちの動きを察してんだ!!
真正面から責めるのは無謀)
典膳の目の前に来た才蔵は、ジャンプをし典膳を飛び越えた。
(捉えきれねぇ速さで反転!!
背後を取る!!)
背後へ回り、剣を振り下ろす才蔵……
だが振り下ろした途端、才蔵の手から突然県が消え、ハッと典膳の手元を見ると、手には才蔵の剣が握られていた。握られた剣で、典膳は飛び上がっていた才蔵を攻撃した。
才蔵は、瞬時のその攻撃を避け典膳から離れた。
(俺の剣!!)
「随分重い剣だが……フン、使えぬこともない」
(クソが!!
忍法五月雨!!)
五本のクナイを取り出し、典膳に投げ放った。だがそのクナイは、典膳が持っていた剣防がれてしまい、投げてきたクナイを典膳は全て受け取り、才蔵に攻撃し返した。
(の野郎……)
飛んできたクナイを避け、地面に着地しようとした時、クナイは才蔵の着地地点に向かってきた。
(着地地点に!!)
才蔵は着地地点を素早く変え、クナイを避け後ろへ着地した。
「躱したか」
才蔵と典膳の戦闘を見る、十蔵と甚八……
「何が起こったんだ?全く見えなかったぜ?」
「才蔵の武器が一瞬で、相手の手に渡り……全ての攻撃が完全に封じられた……
その上奴は、才蔵を見ていない」
「ハハハハハ!!
御子神典膳の夢想剣!破った奴はいねぇよ!!」
(夢想剣!?)
「夢想剣?初めて聞きます」
「己の意識を完全に虚無に置き、敵を気取れば無心でこれを切り捨てるという」
「無心ですか……
まさに剣を、極めた者の境地……
その様な相手に……いかがいたしましょう?」
(あの野郎……
動きじゃなくて、気配で捉えてやがんのか……)
「儂は才蔵に賭けた。賽が投げられたら采配など無用よ」
(おいおいおい、冗談じゃねぇ。
目を閉じられちゃ、逆に死角がねぇ!間合いに入れば、獲物は瞬時に奪われ反撃される!どう攻めても、堂々巡り……
どうする?頭回せ!!考えろ!!考えろ!!考えろ!!)
『いちいち考えなきゃ、動けねぇのかよ!!』
ふと、鎌之介の言葉を思い出す才蔵……
すると才蔵は、何かを思いついたのか手に持ち構えていたクナイを下ろし、平然と立った。
「才蔵?」
目を閉じ、才蔵を待つ典膳……
「攻めて来ぬか……」
気配を感じず、ついにあきらめたかと思った……
その時、典膳の真後ろに突如現れた才蔵の気配……
典膳が眼を開くと、既にクナイが目の前まで突いてきていた。
(間に合わぬ!!)
クナイに頬を掠り、何とか才蔵から避けバランスを崩し、その場に転ぶ典膳に。才蔵は容赦なく膝蹴りを、典膳の頬に喰らわせた。攻撃を喰らった典膳は、手に持っていた剣を才蔵目掛けて振り下ろした。
才蔵はすぐに典膳から離れ、距離を置いた。同時に典膳も素早く立ち上がり、距離を置き剣を構えた。
「これは驚いた!貴様も夢想を!」
「あん?
ンなもん、知るか!俺はただ、そこのバカの真似をしてみただけだ!」
「それだけで、たちどころに夢想を体得するとは……
面白い……気の先の取り合いが互角なら、尋常に立ち合うまで」
「ふざけんな!
誰が尋常に立ち合うかよ!お行儀のいい剣士殿と一緒にすんな!」
不敵な笑みを溢す典膳……
「典膳が、笑ってやがる(典膳を本気にさせるほどの、腕をもってやがるのか……あの忍…)」
「さあて……
この戦いを制するのは、どちらかのう」
武器を構え、攻撃をしようとする二人……
その時……
「お、お待ちください!!」
「止まれぇ!!」
突然、試合会場へ入ってきた馬に乗った一人の人物……
その人物は、馬から降りるとズカズカと政宗に近付き、顔面を殴り怒鳴った。
「このようなところで、何をしておいでか!!」
「うわ、諸……」
「小十郎!?」
「片倉か!」
(アイツ、あの時の)
「ってぇな!!
いきなり何すんだこの野郎!!テメェ、思いっきり殴ったろ!!」
「えぇ!!殴りましたとも!!
あなた様が遊んでいるうちに、会津の直江が兵を動かしました!!
今まさに、国境まで迫っております!!」
「あん?」
「コソコソと、私の目を盗んでかのような事を!!余計な手間をかけさせますな!!
火急の事態でございますぞ!!」
「戦か!」
「そう申し上げております!」
小十郎の話に、笑みを浮かべる政宗……
「直江か……そうか、いよいよか!
話は聞こえただろう、真田の!悪いが、勝負はここまでだ!
成実!綱元!引き上げるぞ!」
「はあ!?
何のために上田まで来たんだよ!」
「うるせぇ!戦だ!戦!」
「ったく、しょうがねぇなぁ」
舞台から降りる成実と綱元に、小十郎は凄い剣幕で二人を睨んだ。
「あなた方!!
この緊迫した時勢に、国の柱となる二人が城を空けるとは……
後で、たっぷりと話を聞かせてもらいますので!!」
小十郎の剣幕に、ビビる二人……
「早く帰って、戦に備えるがいい。
直江によろしくな」
笑みを浮かべながら、幸村は政宗にそう言った。
「そうしていられるのも、今のうちだぜ。
テメェもいずれ、戦場に引っ張り出してやる。せいぜい楽しみにしてろよ、真田の!」
幸村にそう言い放つと、政宗は試合会場を出て行った。
そんな政宗御一行のやり取りを見ていた才蔵は、呆れ顔を浮かべていた。
「……なんだありゃあ」
その時、才蔵の足元に剣が投げられてきた。
「返すぞ、勝負は終わりだ」
「ハア!?」
「本来ならば、このような大名同士の死闘は、禁じられておる。
この時世なら、なおの事」
「伊達殿が去った今、最早闘り合う意味はなし」
その言葉を聞き、息を吐く才蔵……
「正直、ありがてぇ……
テメェを倒す画面が、どうしても見えなかったんでな」
「フッ……」
笑みを溢し、振り返り典膳は与一と共に舞台を降り去った。
舞台に残った才蔵達……
「まだ起きぬのか?」
舞台の上で仰向けになり、未だに目を覚めない鎌之介……
舞台の上で座り込む明日花……
「疲れた……もう無理」
「今回は、お疲れだったな」
そう言いながら、甚八は明日花を抱えた。
「あの様子じゃ、顎の骨砕けてんじゃね?」
「こいつのせいで、滅茶苦茶になっちまったなぁ……」
「いや、それを言うなら全て伊達のせいであろう」
「とんだ十番勝負だったぜ、やれやれ……」
「確かに、とんだ勝負であったな!ホッホッホ!」
「笑い事かオッサン!!」
(しかし、得たモノはあったであろう才蔵)
幸村は荷物になっている鎌之介の服の襟を引っ張り、舞台から引きずり落とす才蔵を見た。
(うちの者を強くしてくれて……
あの風雲児にも、礼を言わねばならんか)