目を覚ます紫苑……痛む体を抑えながら、起き上がった。
「やっと起きましたか」
「!」
隣りを見ると、今起きたのか首を動かし起き上る優助がいた。
「優……」
「相変わらずの寝坊助ですね」
「うるさいわね。早起き爺が」
「爺で結構です。
婆よりはマシでしょう?」
「誰が婆じゃ!!」
「君のその性格のせいで、明日花にどれだけ礼儀を教えても全然身に付かず……」
「知らないわよ、そんなの!!あなたの躾が悪いんじゃないの?」
「君の性格に似ているせいで、全然聞き入れてくれないんですよ。
まぁ、修業に関しては耳を傾けてくれますが」
「あらいいじゃない、それで。
この先、戦えなきゃ生きていけないんだから」
「礼儀を知らなければ、どこの主にも就けませんよ?」
「いいのよ。あの子は真田に仕えればいいんだから」
「適当な事言わないで下さい。
真田だって、いつかは滅びます」
「滅んだらその時」
「何で君は、そういつも考えが甘いんですか!!」
「そういうあなたは、いつも考えが固いのよ!!
あの時の戦だって、私が前方に出ていれば!!」
「出来るわけないでしょ!!あんな何千といる中を、前方しかも一人で行くなど命を出せるわけないじゃないですか!!」
「何よ!!あなたは普通に、前方に出て大怪我負ってたくせに」
「僕だったから、あの程度の傷で済んだんです!!」
言い争う二人……水の入った桶を持った明日花は、二人の言い争う声に怯え、入ることが出来ず離れた場所で立ち往生していた。すると、彼女の頭を手で触れながら、甚八は部屋へと行った。
「だいたいですね!!」
「テメェ等は、犬猫か!!」
怒鳴られた二人は、即座に口を閉じ耳を塞ぎながら部屋の前に立つ甚八を見た。
「いきなり怒鳴らないでよ、甚」
「騒がしいと思って来てみりゃ、起きた瞬間から喧嘩かよ」
「そうよ、聞き分けのない旦那に文句言ってたの」
「その言葉、そっくりそのまま返します」
「何ですって!!」
「いい加減にしろ!!」
「!」
「深手負って、半月も寝っぱなしだったくせに、よくまぁ喧嘩するな」
「……」
「昔っから変わんねぇな。
いつも喧嘩して、俺様達と酒飲んでる時も喧嘩して……終いには、船の上で戦闘になりかけた」
「昔話はいいわよ」
枕もとに置かれていた煙管を取ろうと、後ろを向いた紫苑。だが、その手は煙管ではなく隣に置かれていた桜の簪へと移動した。
「これ……」
「京都へ行った際、明日花が君にあげようと思って買った簪だよ」
「……」
「全く、お前等は喧嘩ばかりしてるが、ガキはしっかり成長してるなあ。
お前等が刺された後、明日花はあの一族の裏切者とやったんだぜ」
「え……」
「結構ド派手だったぞ。戦い方がお前等そっくりだった」
「結果は?」
「見事勝利した」
甚八の言葉に、二人は笑みを溢した。
「オラ、さっさと明日花を部屋に入れさせろ」
「え?明日花、いるの?!」
「いるぞ。
お前等が喧嘩してるせいで、廊下で立ち往生してる。
紫苑」
「?」
「八年ぶりの再会だ。思いっきり甘えさせろ、明日花に。
強くなって、テメェに会うってアイツは今まで頑張ってたんだからな」
「……」
「じゃあな」
煙草を喫いながら、甚八は部屋を出て行き前で立っていた明日花の頭を軽く叩くとそのまま去って行った。去って行く彼の姿を、明日花はしばらく眺めていた。
「明日花……」
「!」
呼ばれた声に、明日花は振り向き歩み出し部屋を覗いた。並んで敷かれた布団の上に座る、優助と紫苑……優助は笑みを浮かべながら口を開いた。
「桶を置いて、こちらへ来なさい」
「……うん」
桶を床に置いた明日花は、優助の隣に座り紫苑を見た。紫苑は手を伸ばし彼女を、自身に抱き寄せた。
「……大きくなったね、明日花」
紫苑はそう言いながら、優しく明日花の頭を撫でた。
「……明日花、強くなった?」
そう問いかけながら、明日花は顔を上げ紫苑の顔を見た。彼女は笑みを浮かべて、答えた。
「えぇ。強くなったわ。
良く頑張ったわね、明日花」
「……」
撫でられる明日花……自然と目から涙を流れ落ち、明日花は紫苑に抱き着いた。
「ずっと……ずっと会いたかった。
母さん」
「……ごめんね明日花、寂しい思いさせて」
次第に嬉しさと寂しかった思いが込み上げ、明日花は泣き出した。泣き出した彼女を紫苑はあやすかのようにして、頭を撫でたが彼女も涙を流していた。そんな紫苑達を、優助は目に涙を溜めながらも、笑みを溢した。