別の部屋で目を覚ます七隈……
(ああ、そうだ……
ここは、上田だった)
そこへ、障子を開ける音と共にやってきた六郎……
「起きていましたか」
「……」
目覚めた七隈は、起き上がり服を脱いだ。体には、左肩から腰まで斜めに斬られた傷跡が残っていた。
「傷は大きく残ってしまいましたけれど、もう命の心配はないでしょう」
「あれからもう半月……
何故上田に、留まらねばならぬのか……心外だ」
「信幸様が、そうお命じになられたのです。仕方ありません」
半月前……
『俺は、沼田に戻らねばならん。
が、あの状態の七隈は動かせん。かといって、紫苑もまだ目覚めてはおらん』
『分かっておる、心配するな』
信幸は七隈の治療をする、佐助とアナスタシアを見た。
『手を煩わせるな』
『七隈と紫苑のこと、お願いね』
小松はそう二人にお願いすると、信幸と共に上田を後にした。
その時の事を思い出す七隈……
「あの時、よく退きましたね……
風魔の一撃、咄嗟に半歩下がったでしょう。そのおかげで、一命を取り留めたとアナが言っていましたよ」
「……それくらい、できて当然のこと」
「そうですね」
七隈の体に包帯を巻く六郎の話に、答える七隈……
「私のことより、あなたのその右眼」
「?」
「多くは使わぬ方が良いでしょう。
そこまでして、あの自堕落な主に尽くすなど、犬の様に」
「犬の様なのは、あなたでしょう」
「……」
「ハイ、できました」
「二人共、幸村様と信幸さんが大好きなんだね!はい、お菓子の差し入れ!」
お菓子が入った皿を持って部屋へと入ってきた伊佐那海……
伊佐那海の言葉に、引っ掛かった六郎は質問した。
「伊佐那海、誰が誰の事を大好きですって?」
「六郎さんが幸村様のこと」
「断じて違います!訂正なさい!」
「えー?何で?」
「訂正しなさい」
自分を睨む六郎の眼に、伊佐那海は異様な恐怖を感じ訂正した。
「六郎さんは……幸村様の事、好きじゃないです」
「ハイ、その通りです」
「耳が痛いわ、六郎」
六郎の答えを聞いていた幸村は、部屋へと入ってきながらそう言った。
「幸村様!」
「おや、おいででしたか」
「体はもう大丈夫か?七隈」
「あなたに心配頂かなくとも、御覧の通りです」
「そうか!
うちの忍達は、優秀だからのう!大事なくて、本当によかったな!
それから、紫苑も心配いらんぞ。無論優助もだ。今は明日花が、傍についておる。
多分、もう目が覚めておるだろう。
二人共、ゆっくり養生するがいい」
そう言うと、幸村は部屋を出て行った。幸村に続き、六郎も部屋を出て行った。
七隈の部屋に残った伊佐那海は、二人が出て行った後七隈を見た。
「七隈さん、淋しい?」
「馴れ馴れしいぞ、貴様!」
「貴様じゃないもん!伊佐那海だもん!」
「下がれ!
私はもう休む!」
布団を頭から被り、横になった七隈……
「……早く信幸さんの所に、戻れるといいね!
離れているの、淋しいもんね!
私もね……
才蔵がいないと、淋しいからその気持ち、よく分かるよ!
明日花ちゃん達と紫苑さんも多分、離れていた時同じ気持ちだったと思うよ。
でもね……淋しいけど、強くなるために我慢しなくちゃね」
「女子と一緒にするな!!出て行け!!」
怒鳴られた七隈に、伊佐那海はびっくりして驚き慌てて部屋を出てた。出た伊佐那海は縁側歩き、ふと足を止め空を見上げた。
(淋しくても……一人でも……強くなるんだ!!)
「体はもう大丈夫のようだな」
紫苑達の部屋へと来た幸村……
紫苑の膝の上には、気持ちよさそうに明日花が頭を乗せ眠っていた。
「弁丸」
「幸村様」
「やはり、母親の膝枕の方がいいみたいだな。久しぶりだわ、明日花のこの様な寝顔を見たのは」
「僕とはまた別の寝顔ですよ。紫苑の膝で寝ると、いつもこの様な寝顔です」
「そうかそうか!
いやぁ、大した子だ。まさか伊達が用意した輩に、見事勝ったのだからな。紫苑、優助しっかり褒めてやれ」
「言われなくても、褒めるわよ」
「ハハハハ!
兄に代わって、謝る。
すまんなぁ……」
「本当よ。伊達の口車に乗せられて、弁丸と勝負だなんて……あれでよく殿が務まるわね」
「まぁ、そう言うでない。
兄上も、真田を守るがためにやっていることだ」
「どうだか……滅ぼそうとしてんじゃないの?」
「紫苑」
「ハイハイ、黙りますよ」
「あの竜(伊達政宗)が、あの会場にいたとは誰も予想が付きません。あの時、信幸様に怒鳴ってしまったことを、お詫びしたいです」
「優!」
「そうか……なら、儂が後で兄上にそう手紙で伝えとこう」
「ありがとうございます」
「弁丸!」
「誰にだって間違いを犯します。今回は大目に見ましょう」
「……」
「ハッハッハッハ!これでは、当分の間兄上は紫苑に頭は上がるまい」
「当然よ」
「ま、しっかり体を休めるがよい。明日花にも、甘えられなかった分、思いっきり甘えさせろ」
「あなた、甚と同じ事言うのね」
「そりゃ言うわ。別れた後、ずっと頑張っておったんだ。褒美を挙げたって、罰は当たらんじゃろ?
他の者には、ここへ余り近付かぬよう言っておく。家族水入らず、別れの時が来るまで、一緒にいろ」
「……ありがとうございます」
「どうも」
「では……六郎」
部屋を出て行きながら、幸村は六郎の名を叫び六郎を呼び叫んだ。幸村が去った後、自分の膝の上で眠る明日花に目を向け、頭を撫でた。
「ここへ来て、正解のようでしたね?明日花は」
「そうね……」
心地よい風が、三人の髪を靡かせた。