その指示を出す六郎……
「それは城の倉に。
そちらのは二の丸に、運びなさい」
「おお、六郎。
某も手伝おう」
そこへ手伝いにやってきた十蔵……
「ありがとうございます」
手伝いに来た十蔵だが、少し浮かない顔を浮かべていた。
「どうしました?」
「正直、意外であった。弁丸の件……」
「若はいつも、唐突にお決めになりますから。
十蔵もよくご存じでしょう」
「それはそうだが……」
「どこからも不満の声は、上がっておりません。問題ないでしょう……
これで、若がいつくたばっても、真田は安泰です」
「勝手に人を殺すな!」
六郎の放った言葉に、文句を言いつけるかのように表れた幸村……六郎は、平気な顔で幸村に振り向き続けた。
「事実です。
その覚悟の上で、若は弁丸を養子にしたのでしょう」
「それだけではない。
弁丸……大助は、儂以上の器を持っておる。あ奴は化けるぞ」
「それでは、優助と同様、明日花は大助様に?」
「まぁ、そのつもりだ。
大助も大助で、あ奴に懐いておるしのう」
「しかし『十勇士』は、一人欠けてしまいましたな」
「うむ……
そのことであるが」
「うわっっ!!凄ーい!!」
近くにいた伊佐那海は、住民が持ってきた物に喜び燥いでいた。
「幸村様!
里で蕎麦を打ったんで、城の皆様に食べていただこうと、参りました!」
「ほほう。これはこれは」
「早速、皆を呼んでいただきましょう」
「わーい!!」
「皆で、食べるのだぞ?」
「はーい!」
「オイラ、一人で歩けるよ!」
佐助に抱えられていた大助は、佐助の腕の中で暴れながら訴えた。
「しかし……」
「大丈夫だって!
どこも怪我してないし!」
「大助様、守る、我の仕事!」
「っ……
佐助」
「?」
「オイラ、もう十勇士じゃないのかな……
侍にはずっと、なりたかったけど……
でも……」
「??」
「何でもないや!早く帰ろう。
まだ、色々やんなきゃいけないことあるもんね!」
そう言いながら、佐助に下ろされた大助は彼の手を引っ張って、上田城へと戻って行った。
「何だそれは?」
仕事が終わり、幸村の部屋へと戻ってきた清海は、部屋にあるものに驚いていた。
蕎麦が大盛りに盛られた桶を真ん中に、伊佐那海達は周りに座り、その傍にはたくさんのお膳が積み重なれていた。
「お兄ちゃん、お帰り!
今日ね、上田の皆にお蕎麦いっぱい貰ったのぉ!」
「おお、清海!座れ座れ!」
「力仕事で、腹も空いておろう」
「ほう!美味そうだな!」
「領内の実りと、検分するのも、領主の役目……
いたただきます!」
「いっただきまーす!」
傍を口へと運ぶ幸村達……
「これは……」
「うっまーい!!」
「ホホ!この香り、この喉越し……箸が止まらんわ!」
「方々で、蕎麦を食してきたが、これが一番の美味!!」
「疲れた体に、沁みたわる……」
「いくらでも入っちゃう!」
「これは名物になるだろう。
ほかの皆にも、早く食わせたいのう」
「声をかけて回ったのですが、他の者は城外にいるらしく……
伏せっている七隈と優助達には、部屋まで持って行かせました」
七隈の部屋では……
「何だ、そなたは?」
キレ気味の七隈は、目の前で蕎麦を食べる鎌之介に質問した。
「あ?小姓に、蕎麦持ってけって言われたから来ただけだ。
んじゃなきゃ、テメェのとこなんか来るかってんだ」
「何故、ここで食べている?」
「テメェもムカつくから大嫌いだけど、クソ女と一緒の方がもっとムカつくから。
明日花はあの青二才と化け狐の所にいるし、才蔵はいないし、暇だしよぉ……」
そう言いながら、蕎麦を頬張る鎌之介……
「解せぬ」
一方優助達の部屋では……
「蕎麦、ですか?」
明日花が持ってきた蕎麦を見る優助と紫苑……
「住民が打った蕎麦だって。
食えって、幸村が」
「あら!良いわね!」
「そうですね……って、コラッ!」
「痛っ!」
注意を出しながら、優助は明日花の額にデコピンをした。当てられた額を手で撫でながら、明日花は紫苑に抱き着いた。
「幸村様でしょ。
ちゃんと、敬語を使いなさい」
「いいじゃない、優!
それに弁丸は、気にしてないんでしょ?だったら尚更」
「あのですね」
「優助、固くて嫌ーね!」
「ねー!」
「紫苑!!」
「ほら、固い事言ってないで蕎麦食べましょ」
幸村の部屋で蕎麦を食べている伊佐那海は、汁入れに黄色掛かった茶色い塊を入れ混ぜた。
「伊佐那海、何だそれは?」
「お台所の姐様たちに聞いたの!
胡桃を磨り潰したのを練って、蕎麦汁に混ぜて……」
清海に説明しながら、伊佐那海は蕎麦を汁に着け食べた。
よほど美味しかったのか、微笑みながら蕎麦を次々に食べて行った。
「そんなに美味いのか?
ならば、拙僧も一口!」
「儂にもくれ!」
「皆、何してるの?」
そこへ、森から帰ってきた佐助と大助……
大助が、部屋へ入って来るなり伊佐那海は顔を上げた。
「あ!弁ちゃ……じゃなかった。
大助様、お帰り!
一緒にお蕎麦食べよぉ!」
「うん!丁度、お腹空いてたんだぁ!」
騒ぐ大助……
そんな中、佐助は幸村の傍へ行き耳元で、先程の事を伝えた。その事を聞いた幸村は、動かしていた箸を止めた、立ち上がった。
「皆の者、ゆっくり蕎麦を楽しんでくれ」
そう言うと、幸村は六郎と共に部屋を出て行った。
「どうしたんだろう」
「お姉ちゃん、お蕎麦もうないんだけど!」
大助の言葉に、ハッとした伊佐那海は桶を見た。桶に山盛りに盛られていた蕎麦は、跡形なく消えていた。
「いっけない!食べ過ぎちゃった!
もっと、茹でて貰ってくるね!」
そう言うと伊佐那海は、桶を持って部屋を出て行った。
木の上で、空を見上げるアナスタシア……
「おーい、アナ!
もう暗いし、帰ろうぜ!」
「……
どうしようも、ないわ……
どうしようも」
空が暗くなるにつれ、居心地悪い風が吹き荒れた。
その風に少し恐怖を感じた明日花は、蕎麦を食べていた箸を置き紫苑に抱き着いた。
「どうしたの?明日花」
「……嫌な気配、なんか近くにいるような気がして」
優助は、箸を置き立ち上がり部屋を出て行き、紫苑は怖がる明日花の頭を優しく撫でた。
羽織を肩に掛け、風に靡かせながら外へと出てきた幸村……
「待っておったぞ」
(あれ?幸村様、何をしてるんだろ?)
城外に出ていた幸村を、縁側を歩いていた伊佐那海は気になり、目を凝らして幸村の方を見た。庭へ来た優助は、その光景に目を見開き驚いていた。
「!!」
「服部半蔵……
『火の勇士』」
突然言い放った幸村……
「おや、俺はそういう位置付けっすか」