「あ・ん・の野郎!!!
兵動かしといて、何チンタラしてやがるんだ!!」
「落ち着いてください。
逸って腰を上げれば、相手の思う壺ですよ」
「今頃、あの直江が意地悪ーく笑っているのが目に浮かびますね」
「ちっくしょ!
こんな暇なら、真田との勝負捨ててくんじゃなかった」
「ほう……」
政宗の隣にいた小十郎は、政宗の発言にキレたのか凄い剣幕で、政宗を睨んだ。
その様子を見た成実は、慌てて政宗に話した。
「失言!今のは失言だ!
な!政宗!」
「ああ!?
失言じゃねぇよ!心のままに言っただけだ!」
「なるほど……
殿は、この奥州の一大事に、国を開けても問題ないと、そう仰いますか……一国の主ともあろうお方が」
(こ、怖ぇ……)
「大丈夫だろうよ。何のために、お前残してると思ってるんだ?」
(ほう)
「そう言われて『殿は私に全幅の信頼を置いて下さるのだ』と喜べと?
生憎ですが、『全部押しつけやがって、この野郎』と思っております」
(うわぁああ!!)
「小十郎!!」
(それにしても……何で動かないでしょうね…)
その頃兼続は……
「今頃、腰を上げてうずうずしてるでしょうね……あの泥鰌(政宗)」
「あの……兼続……このままでよいのか?」
「良いのです。
殿は何もご心配なさらぬよう(まだまだ、真の戦ではありませんよ)」
兼続は不敵な笑みを溢しながら、戦場に立っていた。
上田城……
幸村の部屋から出てきた清海と伊佐那海……
「伊佐那海を、酷い目に合わせた奴が、勇士とは何とも解せん!!
伊佐那海!」
「は、はい!」
後ろを振り返り、自分の名前を呼ぶ清海の声に、伊佐那海は顔を上げ慌てて返事をした。
「あんな男が、場内にいたらさぞ怖いだろうが、いつも兄ちゃんが付いているからな!」
「うん、ありがと……
(けど、アイツ(服部半蔵)もだけど……
あの才蔵は怖い……
鎌之介と初めて戦った時に似てる……あの眼……
空気が、ピリピリする……)」
「何の御用ですか?一体」
刀の手入れをしていた優助は、口を開きどこかにいるものに話し掛けた。すると、屋根から半蔵が降り立った。
「もうバレてたんですか?
さすが、武田軍隊長さんですね」
「それ以上口を動かすのなら、その口を斬り落としますよ」
「おぉ、怖い怖い。
あれ?あなたの、娘さんと奥さんは?」
「二人なら、今は別の所にいます。
で、何用でここへ?」
刀を鞘に収めながら、優助は半蔵を睨んだ。
「あなたの娘さんをからかいに来たのですが、いないのならいいですよ」
「あの子をからかって、何が楽しいんですか?」
「娘さんの正体、ご存じなんでしょ?
だったら、その力使うべきなんじゃないんですか?」
「使えば、どうなるか分かっているのですか?」
「いいえ。
ただ俺は、娘さんの闇の力を手に入れたいのです。
!!」
突然何かに押され、壁に叩きつけられた半蔵……
座っていた優助は立ち上がり、部屋から出て行き半蔵の前に立った。
「前にも話またよね?
闇は決して、人が容易く操れるものではありません。
君にあの子の闇の力を、扱うことはできはしません」
「そうですか。
言っときますが、俺はもう、闇の力なんざに興味はありませんから」
「口を慎みなさい。
用が無ければ、もう消えてください。
君の様な者の顔など二度と見たくありません」
「そうですか、分かりました」
立ち上がり、服に付いた土を手で叩き掃った半蔵は、笑みを浮かべて優助の前から立ち去った。
「父さーん!」
半蔵が居なくなってしばらくした後、明日花は手に花を持ち優助の元へ駆け寄ってきた。その後ろに、煙管を銜えた紫苑が歩んできた。
「見てみて!ほら、さっき母さんと摘んできたの!」
「それはそれは。
とても綺麗な花ですね」
「でしょ!」
しゃがみ込み花を見る優助……彼の様子を察したのか、紫苑は歩み寄ると喜ぶ明日花に声を掛けた。
「明日花、お水汲んできてくれない?」
「お水?」
「そう。
摘んできた花に挙げるの」
「分かった、汲んでくる!」
花を持ちながら、明日花は水を汲みに行った。
彼女を見届けた後、紫苑は優助の方を見た。
「……優」
「?」
「何かあった?」
「……別に、何でも…!」
顔を上げた優助の額に、紫苑は軽く唇を当てた。優助は驚いた表情を浮かべ、そして紫苑の目を見た。
「……」
「悩むとすぐに顔を下にする……変わらないわね」
「……」
「ほら、そんな顔しない。
おまじないしてあげたでしょ?元気になる」
「……」
笑う紫苑……その笑顔は昔も今も変わらない、優助はそう思った。
花瓶に花を生けた明日花……
「へへ。まさか、台所の姐さんが花瓶をくれるなんて!
!」
庭へ降りようとした明日花だが、彼女は縁側に座り楽しそうに話す優助と紫苑の姿を見ると、降りるのをやめ屋根の上に座り、しばらく花を眺めた。
川に顔を浸ける才蔵……
(クソ!!クソ!
何もかも、煮え切らねぇ!!
十番勝負も、弁丸の事も、半蔵の事も!)
「水浴びにはちょっと、寒いんじゃない?」
川から顔を上げる才蔵の後ろから、アナスタシアが話しかけてきた。才蔵は、濡れた顔でアナスタシアの方を向いた。
「酷い顔してるわよ」
「お前もな……」
才蔵の言葉に、少し笑みを浮かべたアナスタシアは、濡れた才蔵の顔に手拭いを投げつけた。
「……幸村様は……
半蔵を仲間にしたでしょ、何事もなかったかのように」
「あぁ」
「で?アンタは、一人で憤ってるってわけ?」
「お前だって!!
お前、分かってたのか……オッサンがああするって」
「アンタも分かってたでしょ」
「半蔵見て、あんなにブチキレてたくせに」
「だって、完璧に殺ったと思ってたんだもの……
氷の柱に閉じ込めて、もう二度と会うことは無いと……甘かったわ」
「……
訊いていいか?」
「何を?」
「俺達『忍』は、雇い主のために働く……
そう里で教え込まれたし、そういうもんだって思って生きてきた。
だからお前が『反間』だったことも、半蔵に命じられて、六郎さんを襲ったことも何とも思わねぇ……
ただ……
オッサンが、お前をここに残した。そしてお前もここに残った。
その理由を知りてぇ」
「私がなぜ、自ら命も経たずここにいるのか……
そうね、不思議でしょうね……」
「俺は……オッサンが何を考えてるのか、分からねぇんだ」
「そう……迷ってるのね」
「……」
「いいわ……教えてあげる」
『何……ですって?』
『言葉の通りだ。
今まで通り、勇士として生きよ』
『……』
幸村の前に座り、命を聞いたアナスタシア……
部屋の前では、煙草を吸いながらアナスタシアとの話を立ち聞きする甚八……
『何で……
どうしてそうなのよ!!
なんて酷い男!!!』