才蔵は、幸村の部屋で他愛のない話をしていた。
「久々の伊賀、どうであった?」
「ああ?」
「懐かしかったであろう」
「……別に。
刀を新調しに、行ってきただけだからな」
「そうか?
里に昔の女の一人や二人いて、楽しくやってきたものかと」
「オッサン!!アンタの基準に、俺をはめ込むな!!」
「何をぉ!?
それでは儂が、女たらしみたいではないか!?」
「その通りだろ!!」
「ゴホン!!」
二人の口喧嘩を仲裁するかのように、六郎が席をして喧嘩を止めた。
「ま、何はともあれ、無事に帰ってこられて何よりだ。
勇士が一人欠けると、なんだか居心地が悪くていかんのう」
「最終的に四人も欠けてただろうに!!
誰だよ、奴らを外に離したのは!?」
「楽しい道中であったろ?」
「!?」
「それの、試し斬りはどうであったか?」
「!」
「使う羽目になったろう?」
笑みを溢しながら、幸村は全てを見通すかのような言い方をした。
(このオッサン(真田幸村)……
どこまで、見透かしてやがんだが……
ったく、相変わらず、飄々として、食えねぇ男だ。
この世に、何一つ怖いもんなんかねぇ様な、顔しやがって……)
「幸村様」
侍女の声と共に、襖が少し開き、紙が差し出された。
「書状が届いております」
「ご苦労」
差し出されてきた書状を、六郎は受け取り幸村に手渡した。幸村は書状を開き、内容を読んでいると、突然その書状を勢いよく閉じ、驚いた表情を浮かべた。
「若、いかがいたしました?」
「な、何でもないわい……」
(……なんだぁ!?)
数日後……
縁側で寝そべり、いびきをかきながら気持ちよく寝る鎌之介……
「コラァ!!」
そこへやってきた一人の男が、鎌之介を見るなり突然大声を上げて怒鳴った。
その大声に驚いた鎌之介は、飛び起き男を睨んだ。
「んだぁ!?誰だ、デケェ声出しやがって!!」
「貴様!!どこで寝ておる!!」
「ハァア!?
俺の、昼寝の邪魔しやがって、やんのかコラ!!」
「この、無礼者!!
そこに、直れい!!」
男は鎌之介に近付き、頭を掴み鎌之介を無理矢理跪かせた。
鎌之介は、何の抵抗もなくその場に跪くされ、それとともに意識が無くなってしまった。
その頃、庭では明日花は木刀を振り優助は木刀で、彼女の攻撃を受け止めていた。
「もっと腰を下ろし、狙いを定めなさい。
腕だけで攻撃するのではなく、体全体で攻撃するイメージです」
「おりゃー!!」
力を込め思いっ切り木刀を振る明日花……彼女の木刀を優助は木刀で防ぎ、隠し持っていた短い木刀で攻撃した。
「わ!
危ないなー!父さん!今のズルイ!」
「油断せず、最後まで警戒しなさい。
戦いは刀を収めるまで、油断は出来ません……?」
何かの気配に気付いたのか、優助は後ろを振り返った。
「父さん、どうかした?」
「……」
「父さん?」
その頃、別の部屋では伊佐那海達が、楽しく笑い声を上げながら話していた。
「でねでね!佐助が、狼の子供抱かせてくれてね!」
「いいなぁ、オイラも見たかったなぁ!」
「今度一緒に行こうね!」
「伊佐那海!お兄ちゃんも一緒に……」
「それは嫌!!」
「何故に―!?」
「静かにせんか!!」
突然障子が開くなり、外から男が現れ伊佐那海達を大声で怒鳴った。
「昼日中から、お前ら何様だ!?」
「……
えぇっと……こんにちは?」
「……それが、礼儀のつもりか……
平伏せよ!!」
「何でだよ!!」
「押し入って来ておいて、人に礼を求めるとは烏滸がましい!!」
「……平伏?
ねぇ、筧さん!平伏ってなーに?」
意味が分からなかった伊佐那海は、後ろにいた十蔵に質問しようと後ろを振り返った。
ところが、十蔵は佐助と共にいつの間にか頭を下げ平伏せていた。
「皆!!平伏せよ!!頭が高い!!」
「えぇえ!!何でだよぉ!?」
「いいから、早くせんか!!」
「チェー」
十蔵に言われ、伊佐那海達は渋々頭を下げ平伏せた。
「筧!!
お主が供にいながら、この輩共無礼にもほどがあるぞ!!」
「申し訳ございませぬ!!」
「誰だよ、あのオッサン」
「黙!!」
「ひょっとして、偉い人なの?」
「口を慎め、伊佐那海!!
このお方は、幸村様の兄上でいらっしゃる」
(兄?)
(お兄ちゃん?)
「真田信幸様だ!!」
(真田信幸!!?)
(上田を出て、今は沼田城の城主の?
確か、徳川派だろ?)
(誰?)
「……して、幸村は?」
「お、奥の自室に……」
(か、顔ちゃんと見ればよかったぁ……)
「これはこれは、珍しいお方がお見えになっていることで」
その声と共に、庭へやって来た優助は持っていた木刀を腰に差しながら、信幸の前に姿を現した。
「優助か」
「お久しゅうございます」
「変わりは無いようだな……?
明日花はどうした?」
「お会いになりますか?
会っても、決して文句は言わないよう」
「父さーん!
何で、そっちに……」
木刀を手に、明日花は優助の元へと駆け寄ってきた。だが彼女は、信幸の姿を見るとすぐに優助の元へ行き後ろへ隠れた。
「ほらね。文句は言わないように、お願いします」
「っ……」
「信幸様!」
そこへ、膝を付き頭を下げる六郎が現れた。
「お久しゅうございます!」
「六郎か!」
「事前に、お知らせくだされば、お迎えに上がりましたのに……
此度の急なご来訪、何様でございましょうか」
「お知らせくださればだと!?」
信幸は六郎の横へ立ち、目の前で床を強く叩き、幸村の部屋へ向かった。
「の、信幸様!!」
部屋にいた伊佐那海達は障子から覗くようにして、信幸を見た。
「ふぇー……」
「あれが、幸村様のお兄さん……」
「随分とご立腹のようで」
「何しに来たんだろ……アイツ」
優助の後ろから覗くようにして、明日花は去って行く信幸の背を見ながら呟いた。
上田の丘……煙管を手にそこに立つ、一人の女性。
「変わらないわねぇ……上田は」
そんな女性の姿に、アナスタシアは警戒していた。
「そんな殺気、ビンビンに立たせちゃ獲物逃げるわよ」
「?!」
クナイをしまいながら、アナスタシアは木から姿を現した。女性は振り返り、彼女に笑みを向けた。
「アンタ、弁丸(幸村)に仕えてる忍?伊賀の」
「えぇ、そうよ」
「こんな綺麗な女を入れるとは……大した子ね」
「あなた、一体何者?」
「私?
安心して、あなたと同じ真田者」
「……」
「そろそろ、城に行きますか。
源三郎が喚く頃だから。
あ!そうそう、貴女にお願いしてもいいかしら?」
「?」
「『こないだ、会いに行けなくてごめんね』って、明日花に伝えといて」
「……まさか」
「じゃあねぇ。頼んだよ!」