馬を走らせ上田へ向かおうと先遣部隊……向かい始めてからもう何時間も、馬を走らせていたが一向に辿り着けなかった。
「先刻と同じ場所だ……馬鹿な……
林をグルグル回っている!」
「落ち着け!辿り着けぬはずがない!
兵士の士気を落としてはならん!もう一度行くぞ!」
もう一度馬を走らせ上田に向かった。すると先程の道が嘘のようにして、林を抜けたのだ。
「開けた……
迷っていたのか……何たる失態……ハハ」
走らせる馬……その時、蟲達の大軍が先遣部隊に向かって飛んできた。だがその蟲達は、兵士の一部を襲い始めた。蟲達から逃げようと、更に馬を走らせるが馬は飛び交う蟲に怯えていた。
何とか馬を落ち着かせようとするが、馬は落ち着かず暴れ主を振り落とし暴れた。
「あ、足並みを乱すな!!」
「どけ!!」
「虫が!!」
「静まれい!!おい!」
主の言う事を聞かず、走る馬。だが走っていた道がついに途絶え先遣部隊は一斉に、奈落の底へと落ちていった。
一方別の先遣部隊は……
「な、何だと!?い、行き止まり……だと?」
目の前にある断崖絶壁……
「道を違えたか?」
「いや、そんなはずは……
上田までは一本道……行き止まりなど」
「あり得ないってぇ」
その声と共に、一人の者が拳を構え飛び降りそして、地面へ着地するなり岩を崩した。
「が、崖崩れ?!」
「ひ、退け!」
退こうと後ろを振り返ったが、道には岩が崩れ落ちその下敷きとなった無数の仲間の死骸があった。
「お前等は上田に辿り着きもしないのさ!!」
岩を崩した者は、次々に岩を蹴り落としていった。その下敷きになり先遣部隊は全滅していった。
「フフフ……
上田に至る道は、全て私の幻術によって歪められている。
この幻術士、朽葉の『冥漠ノ辻』からはな!」
「ホホホホ!
そして迷い込んだ生き餌は、食べ尽くされる運命!愚かな兵士共に、逃れる術は無い!
この蟲使いの灰桜の妖術によって!」
「まあ、運が無かったって諦めな!
この剛力の白群、逃げ惑うお前等を潰すなんて、造作も無いのさ!」
「そりゃあ、我等伊賀異形衆が集まったら、こんなモンでしょうよ」
「ですわよね!半蔵様!」
「ハイハイ、良く出来ました。後で可愛がってあげますねー(それよりも……驚くべきはあのガキか)」
『こことここ、そしてここに罠を張る』
地図を見ながら大助は、作戦を立てそれを半蔵に伝えた。
『ほうほう。確かに敵が上田に侵入するなら、その辺が妥当ですね。
しかし、大軍の進行を止める程の、大掛かりな罠となると不可能でしょうよ。
そもそもここ(上田)は、手練れの数が少なすぎる。
才蔵、佐助、アナは城の守りで、木偶の坊は小娘を守る。色小姓何て、数の内にも入らない』
『他にもいるよ』
『?』
『幻術と妖術と剛力……この三つがあれば、罠は実現可能』
『!』
『生きてるよね?三人』
『ですねー(あの時は腰抜かしてるだけのガキかと思ったが、よく見てやがる……しかし、異形衆を戦に使うとはね)』
『オイラはさ、町も田も城も守るのさ。
そのためには、使える者全てを計算に入れる!!』
「(いやいや、中々に鋭いガキじゃねぇか)
たった三人の軍を、退けられたなんて知ったら秀忠は頭くるでしょうね」
「確かに!たわいもなさ過ぎて、退屈ですわ!」
「つまらん」
「上田には、将来有望な軍師がいるんですよ」
「壊走!!壊走!!壊走!!」
秀忠の元へ駆け付けてくる一人の兵士。
「申し上げます!、小笠原隊、仙石隊、成瀬隊、共に壊走!!先遣部隊はほぼ全滅です!!」
「あん?」
「街道が延々続くかと思えば行き詰まり、上田に近付くことも出来ず……
まるで狐に化かされているかのような……」
それを伝える部下を、秀忠は足で彼の頭を思いっきり蹴った。
「アホか!!たかが狐が人を化かすかよ!!
信幸!!てめぇの弟の子飼いの忍の仕業だな?聞いてねぇぞ、ああ!!」
「申し訳ありません!!忍については私も存じておらず……」
『アンタの弟が、物騒な兵隊を集めて不穏な動きしてるってよ』
思い出す政宗の言葉……
(あの十番勝負の強者達……そうか、幸村。
お前は最初から、戦うことを決めていたのだな!!
馬鹿者が!!)
「チッ!使えねぇなぁテメェ!
今すぐ打っ殺してやりてぇが、これ以上兵を減らすと後々豚(親父)がうるせぇ……人数での力押しはやめだ!
この俺をナメてると、痛ぇ目見るんだぜ!?
おお、来たな」
秀忠の目の先に映ったのは、包帯を巻き封印された一つの棺桶……
(何だ、この悪寒は!
身の毛がよだつ!!)
棺桶は蓋を開けようと、必死に叩いていた。その蓋を秀忠は脚で壊した。
「お前の出番だ!」
中からおぞましい黒い煙が上がってきた。煙の中から大剣を持った一人の男が姿を現した。
「疾や駆けて、求めよ……お前が焦がれて止まない伊佐那美がそこにいるぞ!」
「イ…ザ…ナ…ミ…」
上田城……
“ガシャン”
運んでいた物を手から落とし、廊下に倒れる伊佐那海。
「どうした、伊佐那海!?」
(何……この感じ……
首が粟立つ)
「清海!伊佐那海を連れて、東の蔵へ行け!」
「ゆ、幸村様……」
「案ずるな。一仕事終えたら、儂も才蔵もお主を迎えに行く。それまで良い子にしておれよ!」
「……」
「では清海、任せたぞ」
「おお!」
「よし、六郎参るぞ」
「御意」
去って行く六郎と幸村……清海は少し心配した様子で座り込んでいる伊佐那海に話し掛けた。
「大丈夫か?」
「うん、大丈夫……(アタシに出来ることは、皆の足手纏いにならないこと)」
「行くぞ!お兄ちゃんが抱えていこう」
(自分の出来ることをする……そう、決めたんだから)
同じ頃、優助と木の上から辺りを見回す明日花は、どこからか恐怖を感じ辺りを警戒しだした。
(何……この感覚……
嫌だ……嫌だ……嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ)
「明日花!!」
優助の声に、明日花はハッと我に返り目の前にいる彼に目を向けた。
「父さん……」
「どうしたんですか?何かあったんですか?」
震えながら、明日花は優助に抱き着いた。抱き着いてきた彼女を、優助は優しく撫でた。首から下がっていた幸魂が何かに反応するかのように青白く光っていた。
櫓から道を見る大助……大助を見守るようにして、木の上から敵の情報を集める佐助。
別の櫓で見張るアナスタシア、城の屋根から見張る才蔵。
別の場所から、敵陣を待つ半蔵達。
「もうゴリ押しは止めですかね。
次はどうくるか……」
「……!!
誰か術に入った!!白群!」
「任せときな!」
「……疾い!!」
「はん?」
白群の目の前に現れた者……黒い煙に身を包み、そして白群に目掛けて持っていた大剣を振り下ろした。瞬時に白群は大剣を受け止めようと、岩を持ち上げ盾にした。だが岩は真っ二つに壊された。
「灰桜!!」
「はい!!」
幻術を使う、朽葉のマントへと姿を消すと、灰桜は瞬間移動し白群がいた所に姿を現した。
「伊賀亜流操蟲術千極雲霞!!」
無数の蟲を出し、灰桜は敵に攻撃した。
「白群!!」
「チックショォ!!何だあの野郎!!」
すると敵は大剣を振りかざし何かを唱えた。
「駄目だ!!破られる!!」
朽葉の言葉通り、結界が破かれた。
「何でしょうねぇ……こいつは」
「一騎当千何て、生温ぃ!!」
上田の森……茂みを歩く黒い影。
影は人の姿へと変わった……
銀髪を腰下まで伸ばした一人の女性……
スッと目を開けると女性は光のようにそこから姿を消した。