素戔嗚尊を見上げていた伊佐那海は、ゆっくりと後ろで倒れている清海の方に振り向いた。
清海の胸には、素戔嗚尊が刺した大剣が突き刺さっていた。
「お、お兄ちゃん!!」
「逃げ…ろ……
伊佐那海……ガハ!!」
「(待って待って!!そんなまさか)
お兄ちゃん!!動かないで!!」
「おかあさん」
その時、伊佐那海は素戔嗚尊の気配ハッと振り向いた。彼は微笑んでいた。
「お…かあ…さん」
「何…なの……アンタ」
自分の頬を触っていた素戔嗚尊の手を叩いた伊佐那海は、息をしながら自分を落ち着かせた。
(落ち着け……落ち着け!!
アタシに出来ることを考えろ!!お兄ちゃんを助けなきゃ!!)
伊佐那海をジッと見ていた素戔嗚尊は、突如怒りに満ちた表情になった。その時、伊佐那海は背後から何かに引っ張られ、そして奥の部屋へと投げ込まれた。投げ込まれたと同時に、その扉を虫の息で立ち上がっていた清海が鍵を閉め、入らせまいと前に立った。
「お兄ちゃん!!」
「すぐに才蔵や佐助が来る!!それまで持ち堪えるぞ!!」
「お兄ちゃん、辞めて!!ここを開けて!!」
「ならん!!
誰の手にも落ちぬ事!!それがお前の勤め!!自分の役目を違えてはならん!!
そして拙僧は、お前の守りを託された!!お前を守るのが拙僧の……勇士の勤め!!」
「……」
「……今、それが我が悟りと知る」
「邪魔……するな!!」
清海目掛けて、素戔嗚尊は突進してきた。清海は突進してきた彼を何とか持ち堪え抑えた。すると素戔嗚尊は、清海の腹に刺さっていた大剣を引き抜こうとした。その行為をさせまいと、清海は大剣を抑えた。抑えたられた大剣を、素戔嗚尊は引き抜くのを辞め、代わりに横へ振り抜いた。
その瞬間、清海の体が裂け噴水のように血が出た。
ふらつく脚で、清海は素戔嗚尊の大剣を握り、そして彼を蔵から押し倒し追い出した。
「……渡す……ものか。
(伊佐那海……ずっと、ずっと笑っておれ)
後は任せたぞ……勇士達よ。
妹を……頼む……」
その言葉を最期に、清海は目を閉じそして息を引き取った。
素戔嗚尊は雄叫びを上げながら、剣の束を握る彼の手を剥がし剣を持ち上げた時だった。背後から二つの弾丸が飛んできた。
「貴様がやったのか!!?」
火縄銃を構えた十蔵が、清海の亡骸を見ながら怒鳴った。
「清海を……
許さん!!」
怒りに任せ、火縄銃を素戔嗚尊目掛けて撃ちまくった。
すると素戔嗚尊は、雄叫びを上げて煙を出し蔵を壊した。爆発に巻き込まれた十蔵は、傷だらけになりその場に倒れた。
壊された蔵に、座り込む伊佐那海を見て素戔嗚尊は微笑んだ。
その時、彼の前にアナスタシアが降り立った。彼女に続いて伊佐那海の前に才蔵が降り立ち、彼等に続いて佐助と優助、明日花は屋根の上に立った。そして清海の亡骸を見た。
「……清海」
「三好」
「そんな……清海が」
「……」
「何があったんです?!」
「?!」
騒ぎに駆け付けた幸村と六郎は、変わり果てた清海を見て息を呑んだ。
「……清海」
「何て態だよ……アホ坊主。
守ったんだな。
凄ぇ兄貴だな、伊佐那海」
「……才蔵」
攻撃しようとした素戔嗚尊目掛けて、前に立ったアナスタシアは膝蹴りを食らわし、屋根にいた佐助は屋根から素戔嗚尊目掛けて、飛び膝蹴りをした。さらに明日花と優助は、火と水の攻撃を素戔嗚尊に放った
そして、四人の攻撃に続いて、才蔵は素戔嗚尊目掛けて剣を振りかざした。
振り下ろした才蔵の剣は、素戔嗚尊の腕を切り落とした。
素戔嗚尊は雄叫びを上げ、手に持っていた大剣を振り回した。
その瞬間、激しい風が吹き五人を攻撃した。五人は何とか攻撃を避け、離れた場所に着地した。伊佐那海を抱いていた佐助は、屋根の上に降り彼女を下ろした。
その光景を見ていた幸村と六郎に、十蔵は傷だらけの体で意識を取り戻したかのようにして、息を切らしながら口を開いた。
「っ……
うかつに……近付いては、ならん……」
「十蔵!」
「そいつは……得体が知れん」
「……さん」
「?」
「おかあ……さん」
『私は母に会いたくて……』
「オォオォオオオ!!」
『泣き叫んでいるのです』
「素戔嗚尊か!」
「何……ですと」
「母を恋うて、泣き喚くあの姿……
人とは思えないあの力………そして、雲を纏う力……
それしか、考えられぬ」
「伊佐那美と久久能智神がいるのなら、それがいたとて不思議はありません……しかし今は」
「(秀忠め!何てものを解き放ったのだ……人間がどうこう出来る力ではないのだ……しかも、この間が悪い時に……)愚かな!!」
「本当……人間は愚か」
幸村達の前に降り立ちながら、その者は幸村の言葉を繰り返した。
腰下まで伸ばした銀色の髪を揺らし藍色の瞳で、不敵な笑みを浮かべて彼等を見た。その人物に三人は息を呑み、驚きの顔を隠せないでいた。
「……し、紫苑」
「な、何故あなたが……
七隈と帰ったのでは?!」
「二人いちゃ、イケないのかしら?
あなた達の目の前にいるのは、闇を消すために生まれた……久久能智神」
「?!」
「まさか、闇を蘇らせるとは……それも二つ」
「……明日花が……明日花が、久久能智神ではないのか?」
「……明日花ねぇ。
ハッキリ言って、あの子は私の道具に過ぎないわ。
まぁ、道具と言っても、あの子の中に生きてる久久能智神は力だけ。
本体は私だもの」
「……」
「紫苑は私がこの世に生まれるために作り出した人間……
けど、人の幸せを手に入れちゃって…使い物にならなくなったわ……急遽、私の力を別の器に移し替えたの……」
「別の器……それが明日花か」
「私は命の種を、ある生命に宿した……そして、その生命は木から生まれそして二人の手に渡った」
「紫苑と……優助」
「二人に似せたのは、二人の子供として受け入れさせるためですか?」
「……いいえ。その生命体が、勝手に似ただけよ。
それにしても、いつの時代も人は勝手ね……
欲望のために生きる……そろそろ目覚めるんじゃないかしら……闇の女神が」
「伊賀亜流氷術!極氷冠」
アナスタシアが出した氷の技により、素戔嗚尊は動きを封じられた。その隙を狙い才蔵と佐助は飛び出し攻撃した。
「忍法霧隠式!燐光!!」
「甲賀転身術!隼!!」
武器を振り下ろしす佐助と才蔵。だが攻撃は浅く、素戔嗚尊は雄叫びを上げながら雲を出し、体を覆っていた氷を砕いた。
「山本流雷術雷竜流し!!」
「山本流水術五月雨!!」
無数の水の槍に、竜の姿をした雷が纏い素戔嗚尊に攻撃した。攻撃は当たったが、素戔嗚尊は倒れることもなくもう一度雄叫びを上げた。そして出した雲は熱を発し、空を覆った。
「(大きい……速い!それにこの熱!)六郎!」
アナスタシアの呼び掛けに、六郎は幸村と十蔵の前に立った。
「あ~らら……本気を出しちゃうのね?
幸村」
「?」
「運命からは逃れられないと……
三人に伝えといてい」
「何……」
「フフフ……じゃあね。また、会えるのを楽しみにしてるわ」
久久能智神は不敵な笑いをしながら、木の葉を舞いその場から姿を消した。
彼等の前に立った六郎は、右目に巻いていた包帯を取った。
(蒼玉水術……瀑壁!)
「邪魔者は……」
「伊賀亜流氷術!」
「消えろぉぉおおお!!」
「極光氷河!!」
熱湯が降り出す前に、六郎が出した水をアナスタシアは凍らせ防壁を作った。だが、その壁は無様に溶け熱湯は伊佐那海以外全員当たった。
熱湯を浴びたアナスタシアは、気を失いその場に倒れた。優助は、明日花を守るようにして彼女の上に覆い被さっていた。
「……と、父さん」
「怪我は……無い……」
「父さん!!」
背中に大火傷を負った優助は、力無く倒れた。
火傷を負った才蔵は、何とか剣の柄を掴み立ち上がろうとしたが、その瞬間に素戔嗚尊は攻撃をし、動きを封じられた。
そんな彼を屋根の上から、伊佐那海は眺めていた。
『負けられんな、伊佐那海』
「お兄ちゃん」
『ここは良い所だ。お前がここに辿り着いて良かった』
「……負けられない。
(そう……大好きな家。
このままずっと……いつまでも皆で、楽しくいられると思ってた)」
素戔嗚尊の攻撃を受け、口から血を出す六郎と才蔵そして佐助……彼女の目に一瞬、清海の姿が映った。
(皆で……
ずっと何て無い……いつまでも何て無かった。
出雲も神主様も姐様達も、簡単に脆く無くなっていく……いなくなる)
『嫌だと思うなら、強くならなきゃ』
「(一人で……独りで)私が」
屋根から降りる伊佐那海……
「かあさん?」
「止せ、伊佐那海!!
それに近付いてはならん!!」
「……幸村様。
アタシ、上田のお城大好きなんだ。だから守りたいの……
これしか出来ないの」
「辞め……伊」
「才蔵……アタシ、強くなったんだよ」
涙を流して、伊佐那海は才蔵に笑顔を向けた。
そして伊佐那海は、ゆっくりと素戔嗚尊に近付き、奇魂を外した。
「そう……
貴方は『私』を待っていたの……」
「かあ……さん。
おかあさん」
「行っちゃ駄目」
優助を退かし、奇魂を外した伊佐那海の元へ明日花は駆け寄った。
(明日……花)
「行ったら、戻れなくなるよ……」
次の瞬間、素戔嗚尊は大剣を振り上げ明日花目掛けて振り下ろした。
「!!?」
明日花の前に立つ優助……彼は胸から大量の血を流しながら倒れた。彼の血を浴びた明日花は、その場に座り込み倒れている優助を見た。
「行きましょう……ここではない、どこかへ。
連れて行ってくれるんでしょ?」
「うん」
素戔嗚尊は雲を放ち、伊佐那海と自分を包んだ。
「伊」
「伊佐那海!!」
いなくなる前に、伊佐那海は雲の切れ目から不敵な笑みを浮かべ、そして上田から素戔嗚尊と共に消えた。
「馬鹿な!
あんな小娘に、救われるなど……真田の名折れだ!!」
『上田のお城、大好きなんだ』