BRAVE10S~二つの力   作:花札

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二人の前に立つ素戔嗚尊……


伊佐那海の選択

素戔嗚尊を見上げていた伊佐那海は、ゆっくりと後ろで倒れている清海の方に振り向いた。

 

清海の胸には、素戔嗚尊が刺した大剣が突き刺さっていた。

 

 

「お、お兄ちゃん!!」

 

「逃げ…ろ……

 

伊佐那海……ガハ!!」

 

「(待って待って!!そんなまさか)

 

お兄ちゃん!!動かないで!!」

 

 

「おかあさん」

 

 

その時、伊佐那海は素戔嗚尊の気配ハッと振り向いた。彼は微笑んでいた。

 

 

「お…かあ…さん」

 

「何…なの……アンタ」

 

 

自分の頬を触っていた素戔嗚尊の手を叩いた伊佐那海は、息をしながら自分を落ち着かせた。

 

 

(落ち着け……落ち着け!!

 

アタシに出来ることを考えろ!!お兄ちゃんを助けなきゃ!!)

 

 

伊佐那海をジッと見ていた素戔嗚尊は、突如怒りに満ちた表情になった。その時、伊佐那海は背後から何かに引っ張られ、そして奥の部屋へと投げ込まれた。投げ込まれたと同時に、その扉を虫の息で立ち上がっていた清海が鍵を閉め、入らせまいと前に立った。

 

 

「お兄ちゃん!!」

 

「すぐに才蔵や佐助が来る!!それまで持ち堪えるぞ!!」

 

「お兄ちゃん、辞めて!!ここを開けて!!」

 

「ならん!!

 

 

誰の手にも落ちぬ事!!それがお前の勤め!!自分の役目を違えてはならん!!

 

そして拙僧は、お前の守りを託された!!お前を守るのが拙僧の……勇士の勤め!!」

 

「……」

 

「……今、それが我が悟りと知る」

 

「邪魔……するな!!」

 

 

清海目掛けて、素戔嗚尊は突進してきた。清海は突進してきた彼を何とか持ち堪え抑えた。すると素戔嗚尊は、清海の腹に刺さっていた大剣を引き抜こうとした。その行為をさせまいと、清海は大剣を抑えた。抑えたられた大剣を、素戔嗚尊は引き抜くのを辞め、代わりに横へ振り抜いた。

 

その瞬間、清海の体が裂け噴水のように血が出た。

 

ふらつく脚で、清海は素戔嗚尊の大剣を握り、そして彼を蔵から押し倒し追い出した。

 

 

「……渡す……ものか。

 

(伊佐那海……ずっと、ずっと笑っておれ)

 

 

後は任せたぞ……勇士達よ。

 

妹を……頼む……」

 

 

その言葉を最期に、清海は目を閉じそして息を引き取った。

素戔嗚尊は雄叫びを上げながら、剣の束を握る彼の手を剥がし剣を持ち上げた時だった。背後から二つの弾丸が飛んできた。

 

 

「貴様がやったのか!!?」

 

 

火縄銃を構えた十蔵が、清海の亡骸を見ながら怒鳴った。

 

 

「清海を……

 

許さん!!」

 

 

怒りに任せ、火縄銃を素戔嗚尊目掛けて撃ちまくった。

 

すると素戔嗚尊は、雄叫びを上げて煙を出し蔵を壊した。爆発に巻き込まれた十蔵は、傷だらけになりその場に倒れた。

 

壊された蔵に、座り込む伊佐那海を見て素戔嗚尊は微笑んだ。

その時、彼の前にアナスタシアが降り立った。彼女に続いて伊佐那海の前に才蔵が降り立ち、彼等に続いて佐助と優助、明日花は屋根の上に立った。そして清海の亡骸を見た。

 

 

「……清海」

「三好」

 

「そんな……清海が」

 

「……」

 

 

「何があったんです?!」

 

「?!」

 

 

騒ぎに駆け付けた幸村と六郎は、変わり果てた清海を見て息を呑んだ。

 

 

「……清海」

 

「何て態だよ……アホ坊主。

 

 

守ったんだな。

 

 

凄ぇ兄貴だな、伊佐那海」

 

「……才蔵」

 

 

攻撃しようとした素戔嗚尊目掛けて、前に立ったアナスタシアは膝蹴りを食らわし、屋根にいた佐助は屋根から素戔嗚尊目掛けて、飛び膝蹴りをした。さらに明日花と優助は、火と水の攻撃を素戔嗚尊に放った

 

そして、四人の攻撃に続いて、才蔵は素戔嗚尊目掛けて剣を振りかざした。

 

 

振り下ろした才蔵の剣は、素戔嗚尊の腕を切り落とした。

素戔嗚尊は雄叫びを上げ、手に持っていた大剣を振り回した。

 

その瞬間、激しい風が吹き五人を攻撃した。五人は何とか攻撃を避け、離れた場所に着地した。伊佐那海を抱いていた佐助は、屋根の上に降り彼女を下ろした。

 

その光景を見ていた幸村と六郎に、十蔵は傷だらけの体で意識を取り戻したかのようにして、息を切らしながら口を開いた。

 

 

「っ……

 

うかつに……近付いては、ならん……」

 

「十蔵!」

 

「そいつは……得体が知れん」

 

「……さん」

 

「?」

 

「おかあ……さん」

 

 

『私は母に会いたくて……』

 

「オォオォオオオ!!」

 

『泣き叫んでいるのです』

 

 

「素戔嗚尊か!」

 

「何……ですと」

 

 

「母を恋うて、泣き喚くあの姿……

 

人とは思えないあの力………そして、雲を纏う力……

 

 

それしか、考えられぬ」

 

「伊佐那美と久久能智神がいるのなら、それがいたとて不思議はありません……しかし今は」

 

「(秀忠め!何てものを解き放ったのだ……人間がどうこう出来る力ではないのだ……しかも、この間が悪い時に……)愚かな!!」

 

 

「本当……人間は愚か」

 

 

幸村達の前に降り立ちながら、その者は幸村の言葉を繰り返した。

腰下まで伸ばした銀色の髪を揺らし藍色の瞳で、不敵な笑みを浮かべて彼等を見た。その人物に三人は息を呑み、驚きの顔を隠せないでいた。

 

 

「……し、紫苑」

 

「な、何故あなたが……

 

七隈と帰ったのでは?!」

 

「二人いちゃ、イケないのかしら?

 

あなた達の目の前にいるのは、闇を消すために生まれた……久久能智神」

 

「?!」

 

「まさか、闇を蘇らせるとは……それも二つ」

 

「……明日花が……明日花が、久久能智神ではないのか?」

 

「……明日花ねぇ。

 

ハッキリ言って、あの子は私の道具に過ぎないわ。

 

 

まぁ、道具と言っても、あの子の中に生きてる久久能智神は力だけ。

 

本体は私だもの」

 

「……」

 

「紫苑は私がこの世に生まれるために作り出した人間……

 

けど、人の幸せを手に入れちゃって…使い物にならなくなったわ……急遽、私の力を別の器に移し替えたの……」

 

「別の器……それが明日花か」

 

「私は命の種を、ある生命に宿した……そして、その生命は木から生まれそして二人の手に渡った」

 

「紫苑と……優助」

 

「二人に似せたのは、二人の子供として受け入れさせるためですか?」

 

「……いいえ。その生命体が、勝手に似ただけよ。

 

 

それにしても、いつの時代も人は勝手ね……

 

欲望のために生きる……そろそろ目覚めるんじゃないかしら……闇の女神が」

 

 

 

「伊賀亜流氷術!極氷冠」

 

 

アナスタシアが出した氷の技により、素戔嗚尊は動きを封じられた。その隙を狙い才蔵と佐助は飛び出し攻撃した。

 

 

「忍法霧隠式!燐光!!」

「甲賀転身術!隼!!」

 

 

武器を振り下ろしす佐助と才蔵。だが攻撃は浅く、素戔嗚尊は雄叫びを上げながら雲を出し、体を覆っていた氷を砕いた。

 

 

「山本流雷術雷竜流し!!」

「山本流水術五月雨!!」

 

 

無数の水の槍に、竜の姿をした雷が纏い素戔嗚尊に攻撃した。攻撃は当たったが、素戔嗚尊は倒れることもなくもう一度雄叫びを上げた。そして出した雲は熱を発し、空を覆った。

 

 

「(大きい……速い!それにこの熱!)六郎!」

 

 

アナスタシアの呼び掛けに、六郎は幸村と十蔵の前に立った。

 

 

「あ~らら……本気を出しちゃうのね?

 

幸村」

 

「?」

 

「運命からは逃れられないと……

 

三人に伝えといてい」

 

「何……」

 

「フフフ……じゃあね。また、会えるのを楽しみにしてるわ」

 

 

久久能智神は不敵な笑いをしながら、木の葉を舞いその場から姿を消した。

 

 

彼等の前に立った六郎は、右目に巻いていた包帯を取った。

 

 

(蒼玉水術……瀑壁!)

 

「邪魔者は……」

「伊賀亜流氷術!」

 

「消えろぉぉおおお!!」

「極光氷河!!」

 

 

熱湯が降り出す前に、六郎が出した水をアナスタシアは凍らせ防壁を作った。だが、その壁は無様に溶け熱湯は伊佐那海以外全員当たった。

 

熱湯を浴びたアナスタシアは、気を失いその場に倒れた。優助は、明日花を守るようにして彼女の上に覆い被さっていた。

 

 

「……と、父さん」

 

「怪我は……無い……」

 

「父さん!!」

 

 

背中に大火傷を負った優助は、力無く倒れた。

 

 

火傷を負った才蔵は、何とか剣の柄を掴み立ち上がろうとしたが、その瞬間に素戔嗚尊は攻撃をし、動きを封じられた。

 

 

そんな彼を屋根の上から、伊佐那海は眺めていた。

 

 

『負けられんな、伊佐那海』

 

「お兄ちゃん」

 

『ここは良い所だ。お前がここに辿り着いて良かった』

 

「……負けられない。

 

(そう……大好きな家。

 

このままずっと……いつまでも皆で、楽しくいられると思ってた)」

 

 

素戔嗚尊の攻撃を受け、口から血を出す六郎と才蔵そして佐助……彼女の目に一瞬、清海の姿が映った。

 

 

(皆で……

 

 

ずっと何て無い……いつまでも何て無かった。

 

出雲も神主様も姐様達も、簡単に脆く無くなっていく……いなくなる)

 

『嫌だと思うなら、強くならなきゃ』

 

「(一人で……独りで)私が」

 

 

屋根から降りる伊佐那海……

 

 

「かあさん?」

 

「止せ、伊佐那海!!

 

それに近付いてはならん!!」

 

「……幸村様。

 

アタシ、上田のお城大好きなんだ。だから守りたいの……

 

 

これしか出来ないの」

 

「辞め……伊」

 

「才蔵……アタシ、強くなったんだよ」

 

 

涙を流して、伊佐那海は才蔵に笑顔を向けた。

 

そして伊佐那海は、ゆっくりと素戔嗚尊に近付き、奇魂を外した。

 

 

「そう……

 

貴方は『私』を待っていたの……」

 

「かあ……さん。

 

おかあさん」

 

 

「行っちゃ駄目」

 

 

優助を退かし、奇魂を外した伊佐那海の元へ明日花は駆け寄った。

 

 

(明日……花)

 

「行ったら、戻れなくなるよ……」

 

 

次の瞬間、素戔嗚尊は大剣を振り上げ明日花目掛けて振り下ろした。

 

 

「!!?」

 

 

明日花の前に立つ優助……彼は胸から大量の血を流しながら倒れた。彼の血を浴びた明日花は、その場に座り込み倒れている優助を見た。

 

 

「行きましょう……ここではない、どこかへ。

 

連れて行ってくれるんでしょ?」

 

「うん」

 

 

素戔嗚尊は雲を放ち、伊佐那海と自分を包んだ。

 

 

「伊」

「伊佐那海!!」

 

 

いなくなる前に、伊佐那海は雲の切れ目から不敵な笑みを浮かべ、そして上田から素戔嗚尊と共に消えた。

 

 

「馬鹿な!

 

あんな小娘に、救われるなど……真田の名折れだ!!」

 

 

『上田のお城、大好きなんだ』

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