BRAVE10S~二つの力   作:花札

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徳川秀忠が上田を攻めあぐねていた頃、美濃の関ヶ原ではあっさりと戦の勝敗が付いていた。
徳川家康率いる東軍に敗れた西軍、石田三成は六条河原で斬首に処された。


殺戮女神の覚醒

そして西軍に付いていた上田、真田一族も……

 

 

「腹を切れと?」

 

 

忠勝が放った言葉に、信幸は驚きの顔を隠せないでいた。

 

 

「上田、真田は根絶やしにせよとの、大殿からのご指示だ。しかし、石田殿のようにさらし首にするのも忍びない。あの劣勢で秀忠様の軍の足を、止めたのは見事な働き」

 

「だから、腹を切る名誉を与えると?」

 

「そんな!!父上!!納得いきません!!

 

幸村はただ、上田を守っただけではありませんか!!」

 

「うむ……そうであるな」

 

「お言葉ですが義父上……そうなったのは、誰のせいでございましょうか」

 

「?」

 

「あの大戦であんな時に、何故大軍で上田に進んだのか……上田のような小さき城ならば、本来捨ておけばよいのです。

しかし秀忠様は、執拗に付け狙い何かを欲していらっしゃった。私欲で真田を狙っていたのではありませんか?」

 

「……何が言いたい?」

 

「どうか……真田にご容赦を!!」

 

 

そう言いながら、信幸は頭を下げた。彼に続いて妻の小松、小姓の七隈そして紫苑も頭を下げた。

 

 

「戦で負けたのならば、領を召し上げられるのは当然!!幸村もそれを承知しておりましょう!!

 

しかし、腹を切れとは余りにも無慈悲ではありませんか!!幸村はもう、大殿様に逆らうこともいたしませぬ!!私がさせませぬ!!(幸村よ……今はこの兄がお前を生き延びさせてやる)ですから!!」

 

「お父上!!」

 

(真田を守れるとはお前の言……違えた責は取って貰う。

このまま真田を終わらせはせんだろう!)

 

「……

 

 

分かった。

 

 

大殿に掛け合ってみよう。聞いてくれるかどうか分からんがな。

 

真田幸村……確かに、殺すには惜しい強か者ではある」

 

「……あ、有難く!!」

 

「それとは別に、紫苑」

 

「?」

 

「秀忠様からで、話を聞きたいとのことだ。

 

お主等の子供……明日花について」

 

 

その言葉を聞いた途端、優助は自分の耳を疑った。そして固まったかのようにして、忠勝を見た。

 

 

「……

 

 

あの子と私は……関係ありません」

 

「……しかし、お主等三人は真田に引き取られるまで、ずっと一緒だったと聞いたが」

 

「……確かに一緒だったわ。

 

けど、源三郎の元へ着てから、その後の二人のことは知知らないわ……秀忠には話すことは何も無いと伝えといて。悪いけど、席を外すわよ」

 

 

信幸を睨みながら紫苑は部屋を出て行った。しばらく廊下を歩いていた紫苑は、立ち止まり壁を力任せに思いっ切り叩いた。

 

 

(守るために、あの子と別れたのに……)

 

『母さん!』

 

 

ふと蘇る明日花の姿……

 

 

その時背後に気配を感じ、後ろを振り返った。そこにいたのは信幸だった。

 

 

「……紫苑」

 

「……そこまで、天下が欲しいの?」

 

「……」

 

「悪いけど……

 

もうあなたに、仕える気はないわ。

 

 

さよなら、源三郎……いいえ、真田信幸」

 

 

それだけを言うと、紫苑はその場を去った。その翌日、紫苑は信幸達の前から姿を消した。

 

 

 

春日山城……

 

文を読む兼続。

 

 

「……そうですか。

 

首を落とされたのですね」

 

「あ、あの兼続……大丈夫?

 

い、石田殿とは仲良かったから……

その…えーと」

 

「……

 

 

ご心配痛み入ります。

 

 

戦は負けたらそれまで。私は上杉が守られただけでよいのです。(三成殿……さぞ悔しかっでしょう)

 

それでは失礼いたします」

 

「う、うん……」

 

(狸を藪から出したまではいいが、相次ぐ味方の裏切りに……

 

罠を掛けられていたのは我々だったのか……人の欲という罠に、志半ば……本当に口惜しい。

 

 

しかし、あの幸村が生き延びたならば、このままでは済まさない。なぁ……幸村)

 

 

 

 

それから、半年後……

 

 

戦から半年、真田は流罪になった。

 

伊佐那海が守ってくれた上田から、あっさり引き剥がされ、今は紀州九度山に住んでいた。

 

 

才蔵達は、あの戦の後散り散りになってそれぞれどこかへ行った。佐助は時々情報を持って帰ってくるがアナスタシアは、かなりの深傷を負い半蔵が伊賀へ連れて帰った。

 

その中優助は、アナスタシアと同様に深傷を負った……それをどこかで聞きつけた光坂一族の者が、彼をどこかへ連れて行った。優助が連れて行かれる寸前、明日花は彼を残して上田から姿を消した。

 

 

 

その頃、政宗は……

 

 

「はぁーーー」

 

 

深いため息を吐きながら、政宗は畳の上に横になった。

 

 

「何ですか?」

 

「面白くねぇなと思ってよ……

 

先の戦もさっさと終わっちまって、いつの間にやら家康が大将っつう空気。あれ以来、戦も起きねぇし、力の広げようがねぇな……手詰まり感、半端ねぇ」

 

「で?」

 

「戦なら誰にも負けねぇんだよ。

 

戦さえ出来りゃあ、この奥州をもっと大きくできんだよ」

 

「出る杭は打たれる……石田殿をお忘れか?」

 

「やりにくい世の中になったと思わねぇか?一国が動けば、他国全てから睨まれる……

 

一対一なら負けねぇっつうのにな!」

 

「そういえば先の戦では、上田がかなりの少数で秀忠軍を負かしたと聞きます。

 

そうなると、数云々とは言えぬでしょう」

 

「真田だろ?アイツの飼い犬共は、曲者だからな。

 

特に優助と明日花は。

 

 

しかし、あの秀忠は何でまた上田なんかに寄ったんだ?あんな数でよ。

本隊に遅参して、狸爺に相当怒られたみてぇじゃねぇか。

 

 

何を狙ってたんだろうな?」

 

「さぁ」

 

「あーーーー!!クソ!!

 

 

このまんまじゃ終わんねぇぞ!!

 

あの狸爺の好きにはさせねぇ!!このまま天下渡して溜堪るか!!

 

力だ!!力が欲しい!!」

 

 

政宗の叫び声に答えるかのようにして、城の近くの森から黒い霧が上がった。しばらくして黒い霧は、風と共に消えた。

 

 

丘の上に寝そべる才蔵……手に持つ奇魂を太陽に翳し眺めていた。

 

 

半年前……

 

 

火傷を負い、冷えた布で体を冷やされ寝ていた才蔵に、幸村は奇魂を置きながら言った。

 

 

「伊佐那海は、人としての己を捨てることで上田を守ったのだ」

 

「……これが無きゃ、アイツ」

 

「黄泉の神となるだろう……

 

一日千人を殺すと宣言した女神だ。この世に死をもたらす……」

 

「アイツにゃ、似合わねぇな」

 

『アタシ強くなったんだよ、才蔵』

 

(いつも笑ってたくせに……人間を捨てて強くなったって、嬉しくねぇよ伊佐那海……

 

 

いや、全部俺の未熟さのせいだ……何も見えちゃいなかった)

 

「無論、手を拱いて伊佐那海を殺しの女神にしてしまうわけにはいかん……

 

ましてや、明日花に彼女を殺させることもいかん……

 

 

が、儂はここまでだ。才蔵、お主の手でまた髪を纏めてやってくれ」

 

 

その事を思い出しながら、才蔵は立ち上がり何かを決意したかのようにして、どこかへ向かった。

 

 

奥州……

 

 

「ギャアアア!!」

 

「勘弁して下さいってばぁ!!」

 

「うるっせぇ!!

 

逃げんな!!壱丸!!弐虎!!」

 

 

長刀を振り回しながら、政宗は部下の二人を追い回していた。

 

 

「手合わせなら、茂実様とか鬼庭さんとやって下さいよ!!」

 

「あいつ等は国境の、上杉残党鎮圧に手こずってんだよ!!」

 

「こ、小十郎様は!?小十郎様とヤリャいいでしょう!!」

 

「奴と闘ったら、うっかりどっちか死んじまうだろうが!!」

 

「それもう、手合わせじゃ無いっすよぉ!!」

 

「つうか、俺等がヤバい!!俺等が死ぬ!!」

 

「つべこべ言わずに、掛かってこい!!」

 

「無理ですって!!」

 

 

逃げていた二人は、何かに躓き見事に転び倒れた。政宗は長刀を振り翳し、高笑いをしながら振り落とそうとした、

 

 

「ちょ、待っ!!殿、待ってぇ!!」

 

 

壱丸の言葉に、政宗はぎりぎりで長刀を止めた。

 

 

「おい壱、どうした?」

 

「と、殿あれ……」

 

 

壱丸が指差す方向に、それはいた。

 

 

上田から姿を消した伊佐那海と素戔嗚尊……

 

素戔嗚尊は伊佐那海を抱き、繭を作り深い眠りに入っているようだった。

 

 

「こ、この娘」

 

 

『女の人が泣いている』

 

『私は暗い闇の中……もう愛しいあの人に会えない。

 

悲しい……淋しい……かなしい。

 

許さない……許さない』

 

『やめて……やめて……

 

押し潰される』

 

『殺ス、誰モ彼モ、アノ人が作ッタモノ全テヲ』

 

『闇に飲み込まれる!!』

 

 

「オイ、生きてるか?」

 

 

政宗は声を掛けながら、伊佐那海に手を伸ばした。すると彼女はゆっくりと目を開け、そして笑みを溢しながら口を開いた。

 

 

「お主のお陰で目が覚めた。

 

この女、奇魂が無くても我を縛り付けおってな。お主の凶々しい欲に触れて、ようやく出てこられた。

 

そなたは誰じゃ?欲深い者よ」

 

「そういうテメェは、真田の巫女じゃねぇのかよ?」

 

「我が名は伊佐那美(イザナミ)。黄泉比良坂を越えたのは幾年振りか……

 

懐かしい……かつては妾の国だった所よ」

 

 

不気味な彼女の目つきに、壱丸と弐虎は鳥肌が立った。

 

 

「と、殿……これはヤバ……い」

 

「伊佐那美だぁ?!始まりの神だと?お前が?

 

何を持って、そう言うんだよ」

 

「……フム」

 

 

政宗の目を見詰めた伊佐那美は、何かを見たのか不敵に笑い言った。

 

 

「そなたの臣下が、今攻め倦ねておる城。妾が屠ってやろう。

 

素戔嗚尊!

 

 

しばし待っておれ」

 

 

素戔嗚尊が出した雲に紛れ、伊佐那美は姿を消した。

 

 

奥州を国境。上杉残党の拠城……

 

 

「何だ?あの雲」

 

「雨でも来ますか」

 

 

突如雲が広がり、中から伊佐那美が姿を現した。

 

 

「フフフ……

 

こんにちは、愛しい子孫達よ……そして……

 

 

さらばだ!!」

 

 

伊佐那美が手を翳すと、その地は突如爆発した。そして跡形も無く城は無くなり城を守っていた者達も亡くなった。伊佐那美は、高笑いをしながらその場から姿を消した。

 

 

「城が……跡形も無く」

 

「夢を見ているのか…… 

 

 

急ぎ早馬を出せ!!殿に報せを!!」

 

 

その報せは、奥州の城にいる政宗の耳に届いた。

 

 

「一瞬だと?本当か」

 

「はい。綱元と茂実が早馬で報せをよこしました。

その力、とても人のものにあらずと」

 

「……そうかそうか、なるほど。

 

馬鹿息子(秀忠)が、あの軍勢で上田に押し入ったのはこれか……

どこで聞いたか知らねぇが、あの女を手に入れるつもりだったんだな。

 

 

いや、狙いはあの女だけじゃねぇな……他にもいたなぁ」

 

「他に?」

 

「紫苑と優助のガキ、明日花だ。

 

アイツは幸魂の持ち主だ。あの馬鹿息子が、見逃すわけがねぇ……

 

 

クッククク、凄ぇな俺!いや俺の直感てやつか?

 

あの簪じゃなくて、この女に何かあるつってたよなぁ?その通りだった。

だったら明日花も、あの女と一緒だ!!

 

 

いいか小十郎……これは天啓ってやつだ!!『神』っつうもんが、今目の前に!!政宗の元に降りてきたんだ!!

この俺に……この世を手にしろと!!

 

 

今この手の中に、圧倒的な力が……ある!」




某所……


「この様な者達を知らぬか?」

「さぁ、知らないねぇ」


見せられた二枚の紙を見ながら、女は答えた。
紙を見せた十蔵は、深くため息を吐いた。


「手掛かり無しか……」


その二枚の紙に描かれていたのは、鎌之介の似顔絵と明日花の似顔絵だった。
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