あれ?誰の声ですか……
『父さん』
あぁ……この声は……
『父さん』
暗い部屋……そこに寝かされる優助。
「半年も寝っぱなし……一体いつになったら起きるのやら」
「さぁな……」
「紫苑もどっか行っちゃうし、倅も結局発見できず……」
「まぁいい……二人はいずれ見つかる」
某所……
町を歩く明日花と雷之介。道の隅には、似顔が張られた立て札が立っていた。その立て札に、群がる住民。
「首を取られたんでしょ?」
「殺ったのは、子供だって言うじゃねぇか」
「話だと、昔滅んだ武田の部下、光坂が動き出したんじゃないかって」
「この手配書の奴等は、光坂のもんか?」
「さぁねぇ」
手配書を目にする明日花……デタラメに描かれた顔と特徴。
「どうした?倅」
「私、あんな顔じゃない!!」
「俺に文句言ってどうすんだ……」
茶屋で団子を口にする明日花。雷之介はそんな彼女を眺め、鼻で笑いながら茶を飲んだ。
「なぁ雷之介」
「?」
「父さん、目ぇ覚めたかな?」
「さぁな」
素っ気なく雷之介は答えた。
そして蘇る過去……
半年前……
晃三の話を聞いていた明日花は、勘が働いた。
晃三について行ったら、二度と才蔵達に会えない……そう思った彼女は、上田城を飛び出し森の中を駆けていた。
茂みに入った明日花は、手で口を塞ぎ息を殺した。
『見つかったか?』
『いや』
『くそ、どこに』
『晃三の奴、紫苑達の倅を連れてどうすんだ?』
『聞いてないのか?
紫苑と優助の力を借りて、徳川を滅ばせ更に真田を滅ぼさせるって』
『は?!』
『隊長と紫苑の実力なら、簡単にできる』
『けど、何で倅が?』
『人質だよ。
二人が素直に聞くはずがない』
『それで、倅をこちら側に』
『そういうこと』
話を聞く明日花……恐怖で体が震えだし、体を縮込ませていた時だった。
『?!』
突然背後から口を布で塞がれ、その上から麻袋に入れられた。すると袋の外から声がした。
『お前は!!』
『ガハァ!!』
肉を刺す音と共に、何かが倒れた……おそらく、先程の追っ手。
『やれやれ……徳川は滅ぼさせていいが、真田は駄目だろう』
聞き覚えのある声……すると袋は持ち上がり、移動を始めた。
どれくらい歩いたかは分からない……水の音が聞こえそこで下ろされた。そして、袋の口が開いた……恐る恐る目を開けると、目の前にいたのは雷之介だった。
『ら……雷之介』
『安心しな。今回俺はテメェの味方だ』
『……』
茂みを歩く二人……その間、雷之介は話した。自分は紫苑に頼まれ、明日花を預かることになっていた……迎えに行こうと上田に来たが、一足先に一族が優助を連れて行こうとしていたところだった。辺りに警戒していると、向こうの茂みを駆ける明日花とその後を数人の一族が追い掛けているのが見えたと……
『そんで、あいつ等の後を追い駆けて、お前を確保したってこと』
『何で母さんは、お前に……それに何で』
『真田信幸だっけ?
アイツがお前を徳川に言ったのは、知ってんだろ?』
『うん……』
『それを耳にした紫苑は、一族がこれから何をするか全てを悟った。
だから、一族を裏切っている俺にお前を任したって訳だ』
『ちょっと待って……
一族の皆、何やろうとしてるの?』
『話聞いてただろ?
徳川殲滅と真田殲滅』
『父さんと母さんは、その二つを同時に殲滅できるほどの力がある……
それで、素直にやらせるように私を人質に』
『そういうことだ』
『……でも、京都で会った一族の仲間はそんな風には』
『一族の中で、分かれてんだ……』
『分かれてる?』
『さっき話したみたいに、徳川殲滅と真田殲滅側。
そして、徳川殲滅で終われば真田に仕える側って……
殲滅側のトップに晃三。
仕える側のトップにお頭だ』
『母さんと父さんは?』
『どっちにも所属してない。
あいつ等は、武田の条約で真田に就かなきゃいけなかったからな』
『……じゃあ、父さんを連れてったのは』
『上田から追放された幸村に、優助が仕えていても殿はもう使いものにならない。
連れて行くには、絶好の機会だと思ったんだろうな。オマケに大怪我負って、意識が無い……尚更思っただろ。
?』
立ち止まる明日花……その目からポロポロと涙が流れた。
『父さん……私のせいであんな酷い傷負ったの……』
『……』
『私のせいで……私の』
座り込み、明日花は泣き出した。雷之介は彼女の元へ歩み寄り、胸元を掴み顔を上げさせた。
『あぁそうだ。お前が油断してたから、隊長は大怪我を負った。
けどな、こんな所でウジウジ後悔しても意味ないだろ?』
『……』
『あん時の勢いは、どこにいった?
お前は、そんな弱なガキじゃねぇだろ?』
その言葉に、明日花はすぐに涙を拭い彼から離れた。
『そうこねぇとな。
ついて来い。殺しの心得、色々教えてやるよ』
『殺しって……そんなの、もう父さんと母さんから教わったよ!』
『もっと激しい奴だ。
それから、確認しとく。お前は一族から狙われの身だ。それだけは頭ん中に入れとけ』
『うん……』
『それから、町に着いたら格好変えるぞ』
『格好?』
明日花の格好は、青い腹出しの袖無し服に上から白い羽織を片腕だけに通し、両手には肘まである黒い手袋を着け、紺のハーフパンツに足首上まである西洋のブーツを履いていた。手首に青いブレスレットを着け、耳下で結っている髪には紫苑から貰った簪を挿していた。
『紫苑の真似だが何だか知らねぇが、そんな目立つ格好してらぁすぐに捕まる』
そう文句を言いながら、雷之介は歩き出した。明日花はふと後ろを振り返り、しばらく森を眺めた。
(……皆)
『倅行くぞ!』
雷之介に呼ばれ、明日花はすぐに彼の元へと駆け寄り森の中へと姿を消した。
「なぁ雷之介!!」
「?」
道を歩いていた明日花は、あとを歩く雷之介の前に立ち彼を見上げながら彼の名を呼び叫んだ。
「どうかしたか?暗い顔して」
「……何でもねぇよ」
「それより次はどこ行くんだ?」
「その辺だ」
「教えろよ!」
先に歩き出した雷之介に文句を言いながら、明日花は彼の後を追い駆けた。
「全てのものは、無に還す」
「テメェ、まさか……」
その時、頭上に雲が広がり中から素戔嗚尊が姿を現し大剣を振り下ろしてきた。
「お前、邪魔」
素戔嗚尊の攻撃を、才蔵は避けた。
「伊佐那海!!目を覚ませ!!」
「目を覚ませ?
妾は目覚めたのだ。長い…長い眠りだった。
やっとこの世界に出てこられた。やっとだ」
「……」
「可愛い子よ。あの男はこの母に仇を成す。
屠ってしまえ」
伊佐那美の命に、素戔嗚尊は大剣を振り下ろした。才蔵は腰ポーチから閃光を出し瞬時に逃げた。
「……ほんに、いつの世も逃げるのが得意よの」
腹部に怪我を負った才蔵は、森の中を歩き木に手を掛け地面に膝を付いた。
「……クソッ……クソが……
(伊佐那美だった……
本当に、こんなのは嬉しくねぇよ。伊佐那海)」