「あの小娘、御せますか」
廊下を歩いていた小十郎は、前を歩く政宗に向かって話し掛けた。
「ああ?」
「先日の拠城消失の件で、諸国が騒ぎ立てております。
奥州の独眼竜は、人ならざる力を使役している、妖に、成り果てたと」
「おうおう、なかなかいい噂じゃねぇか。
いい牽制になる」
「……あの力、人にどうにか出来るとは思えません」
「そうかあ?」
「……間違えば、我々も危うい。
お分かりか」
「……怖ぇだろ。
あの女見てると、心の底から竦み上がるだろ?胸の下辺りが、せり上がる恐怖を覚えるだろ?
……あれは死だ。戦場で味わうアレだ。誰もが迎える絶対的な恐怖だ。
俺はそれを超える。ねじ伏せる。その全ての先にあるのが天下だ。
俺を信じろ小十郎。おめぇだけは、何があってもブレんじゃねぇぞ。
この国総て、俺のものにする」
「……ほう」
「「ほう」じゃねぇよ!テメェ!!」
「何、信じておりますとも」
「全っ然、そう聞こえねぇ!!」
「殿には、天下を取っていただきたいとはこの小十郎、常々思っております。
ただもう少し、女の扱いが上手いと安心なのですが」
「なーに、女なんて者はなぁ、煽てて好きにさせときゃあいいんだよ。最初はな。
それよりな、真田だよ。あの食わせ者が大人しくしているはずがねぇ」
「そうでしょうか?
かの曲者も九度山に流されてからは、すっかり落ちぶれたとの話ですし。
しかも、十番勝負の折にいた十勇士も幸村の傍を離れたと聞きます。無論、優助と明日花も離れたと……
家臣にも見放されたとなると、もう威厳も何もありますまい。
真田幸村……彼はもう、表舞台に上がることは無いでしょう」
京都……
町を歩く明日花と雷之介。雷之介が、居酒屋で何かを聞いている間、明日花は店の前で懐に隠していた簪を手に取り、それを太陽に翳しながら見ていた。
(……母さん)
「その簪、どこで手に入れた?」
「?」
声が聞こえ、明日花は声がした方に目を向けた。黒い布で顔を隠す一同……明日花は簪を握り締めながら、ゆっくりと立ち上がり彼等を見た。
「倅、悪い。待た……
これはこれは」
居酒屋から出てきた雷之介は、その一同を見るなり、悪戯笑みを浮かべながら明日花を自身の背後へ隠した。
「雷之介?!なぜお前が?!」
「久し振りですなぁ、お頭」
(頭?この人が……)
真ん中に立つ一人の男……男は覆面を外しながら、雷之介に話し掛けた。
「まさか、お主とここで出会うとは……」
「珍しいですな?頭が、京を歩くなんて」
「お主も聞いているであろう。晃三達の事を」
「えぇ。晃三の手に優助が渡ったってことも」
「なら話は早い。
お主、紫苑がどこへ行ったか知らぬか?」
「聞きてぇのはこっちだ」
「そうか……?
雷之介、お主の後ろにいる童(ワッパ)は?」
「あぁ、こいつ……紫苑からの預かりもの」
「?!」
雷之介の後ろから姿を現した明日花は、口元に巻いていた襟巻を取りながら口を開いた。
「名は明日花。
光坂紫苑と山本優助の子供」
「!?」
「こ、この子が?!」
(……ああ……血だ)
場所は変わり、ここは崖下……体から血を流し倒れる鎌之介。
(血のにおいがする。いつも嗅いでた臭い……
いつも、自分の体から流れてた臭い……
ああ、俺……落ちたんだっけ。
体が……動かねぇ。息も……出来ねぇ……クソが……
才蔵……才蔵と殺り合えねぇ内に、こんな所でくたばるのかよ俺……)
『自分の力量も、推し量れなかったのかい?』
(うるせぇ!!俺は強えんだ!!
ずっとずっと、それだけで生きてきた。殺して殺して、殺して……
強く…ただ強く、痛みも快楽に……快楽も痛みになるまで……
それが絶頂……絶頂だ!!)
木陰に座り、書物を読む髪を結った男……
「ふわぁ……腹ぁ減ったなぁ。
そろそろ飯取りに行くかなぁ。こんな時、弟子の一人でもいれば、扱き使うんだけどね。あいつ等、元気かなぁ……?
随分、丈夫だねぇ……生きてたのかい」
臭いを嗅ぎ、男は手に持っていた書物を地面に置き、自分に向かって歩み寄って来る鎌之介を見た。
「……んだ……
イ……クんだ……
イクまで!!死ねねぇんだよ!!」
叫び声と共に、鎌之介の体から強風が起こった。
「テメェテメェ!!
まずテメェ!!テメェを殺す!!」
「同じ事を二回も……
猿決定だな」
「そして強く!!もっと強く!!
才蔵に巡り付くまで、殺して殺して殺して!!強く、すっげぇ強くなる!!今決めた!!」
「才蔵?」
「まず一発目ぇ!!
由利鎖鎌奥義」
奥義を使う瞬間、男はジャンプしその場を離れようとした。
「逃げても無駄だぁ!!
大追手!!」
男の上から風の玉が押し寄せてきたが、男は難なく避けそのままその玉を、鎌之介に当てそして彼の背中に着地した。
「テメェ!!」
「懐かしい名前を聞けたついでに一つ、提案してあげよう。
強くして下さいって、可愛くお強請りしてご覧」