『何故、泣いてる?』
母さんと父さんに会えなかった……
『……生き返らせてあげる。
望は何だ?』
父さんと母さんの傍にいたい。
目を開ける明日花……鳥の鳴き声と木から差し込む陽射しで、眠い目を擦りながらあくびをした。
(何だったんだろ……さっきの)
「やっと起きたか。
行くぞ」
傍にあった上着を腕に通しながら、明日花は雷之介の後を追い駆けていった。
山道を歩く二人……
「なぁ、雷之介」
「ん?」
「父さんと母さんって、昔武田軍の隊長と副隊長だったんだろ?」
「そうだな」
「どんな感じだったの?!」
「あ?何でそんなこと聞くんだ?」
「二人共、昔の事全然話してくれないから……
何か、聞いても口閉じて何も教えてくれないから」
「まぁ、あんな事があったからな。
あんまり、昔の事は思い出したくないんだろうよ」
「あんな事って?」
「そういう詳しいことは、直接親に聞け」
「その本人達に聞いても、何も教えてくれないから昔仲間のお前に聞いてんだろ!」
「オメェ……
口の利き方、どうにかしろ。そんなんじゃあ、誰も雇ってくれねぇぞ」
「雷之介だって、口の利き方悪いじゃん」
「俺は男だからいいんだ。
オメェは女だろ」
「母さんもこの喋り方だよ」
「アイツはいいんだ。昔から武田に忠実に使えてた上に、殿様のお気に入りだったからな」
「……お気に入り」
ふと思い出す、幸村と大助の姿……
「ま、紫苑は特別だって話だ」
「フーン……」
場所は変わり、ここは深い森の中……
優助は滝に打たれていた。
『ねぇ、何でいつも滝に打たれてるの?』
蘇る過去……
まだ若い頃の紫苑は、不思議そうに優助を見ながら質問した。
『滝に打たれてる方が、一番落ち着くんだ』
『フ~ン……』
『それに、考えがまとまる』
『あともう一つは、涙を見せずに済む』
『!?』
『バレてないとでも思った?』
『……』
悪戯笑みを浮かべながら、紫苑は手拭いで体を拭いていた優助を見た。
(何度流したか……涙を。
もう、失わない。紫苑……明日花)
目蓋の裏に浮かぶ二人の姿……優助はゆっくりと目を開け、滝から出てきた。手に水の弾を作り、それを近くにあった岩にぶつけた。岩は粉々に砕け散り消えた。
その様子を、木の陰から紫苑が眺めていた。優助は手拭いで顔を拭きながら、彼女がいる方向に目を向けた。
すると彼女の背後の茂みから音が聞こえ、紫苑は後ろを振り向いた。そこにいたのは、晃三達だった。
「何か用?晃三」
「やっと姿を現したか……待ってたぞ紫苑」
「待ってても、困るわ。
で、何の用?」
「頼みがある。
お前と優助、二人で真田と徳川を殲滅しろ。もちろん俺等も手伝う」
「断ったらどうするの?」
「お前等のガキの命はない」
「……」
「どうだ?聞き入れるか?」
「……いいわよ」
一瞬笑みを浮かべた紫苑は、不敵な笑みを浮かべながら承諾した。
「やれやれ……素直に聞き入れましたか」
茂みを歩きながら、優助はそう言った。紫苑は合図を送るかのようにして、目を光らせ別の所へ行き、優助は彼女とは反対方向の所へ行った。
焼けた境内……その中を歩く明日花と雷之介。
「随分焼けちゃってる……」
「公智神社か……
焼けた後に、来た事は?」
「無い。
行きたいって言ったけど、駄目だって父さんが」
「そうか」
「ねぇ、何でここ来たの?」
「何か分かるかと思ったからだ」
「何かって?」
「この神社には、久久能智神が祭られてんだ」
「え?久久能智神?
あの大地の神の?」
「何だ、知ってんのか」
「うん。話だけなら……?」
何かに気付いたのか、明日花は上っていた瓦礫から降りどこかへ行った。その後を雷之介は追いかけて行った。
付いた場所……そこは、焼けていない木の場所だった。
「何で、この木だけ……」
「……」
木を見上げる明日花……その時、微風が吹き彼女の髪を靡かせた。その時、頭にいくつもの記憶が蘇り、フラッシュバックした。
「……この木」
「?」
「この木の下……私が捨てられてた所」
「?!」
「母さんが話してくれた……ここで、私を拾ったって」
木の幹に触りながら、明日花はそう言った。
「何でこの木だけ燃えてないんだ」
「そう言えば……
何でだろう?」
「……」
「新たな器」
「?!」
声が聞こえ、明日花は辺りを見回した。
「フフフ……まさか、貴女から来てくれるなんて」
声の方に顔を向けた……そこにいたのは、紫苑と同じ姿をした女性だった。
「か、母さん?」
「久し振りね……明日花」
「違う……母さんじゃない!!」
「誰だテメェ」
「私は久久能智神……
あなたを待っていたのよ。明日花」
「私を?」
「さぁ、一緒に行きましょう……明日花」
「……」
手を伸ばす久久能智神……明日花は後ろへ下がり、その彼女の前に雷之介は立ち雷を放った。
「雷之介!!」
「テメェか。久久能智神ってのは……やっと見つけた」
「え?」
「紫苑から頼まれていた。
倅を連れて、お前を探し出してくれって……そしたら、まんまと餌に釣られて現れてくれたな」
「……あの女も、余計な事をするわね」
「母さんの悪口言うな!!」
「悪口でも何でもないわ。
私は伊佐那美と同様、器が欲しいの……それを探してたの。そしたら紫苑を見つけたけど、あの子は人の幸せを掴み『闇』が消えてしまった……
けど、運は私を見捨ててはいなかった……黄泉を彷徨っていた、紫苑の子供を私は自身の器にしようと思った」
「紫苑のガキって……まさか」
「あなたの隣にいる、子供……明日花よ」
「!?」
その時、久久能智神は手から木の刀を放った。雷之介は隣にいた明日花を抱え、すぐにその攻撃を避けた。
「余所見すんな!!」
「分かってる!!」
「避けるとは、さすがね……」
「お前の器なんかに、ならないからな!!」
「それは困るわ。
あなたが私の器になってもらわないと、伊佐那美に力を貸せないでしょ?」
「力を貸すって……何をする気なの!?」
「決まってるじゃない……
この世を無に還すのよ……伊佐那美の力を借りて」
「そんなことさせない!!
山本流雷術雷流!!」
久久能智神目掛けて、明日花は雷を放った。放ってきた雷を、久久能智神は木で防ぎ、防いだ木で明日花の片腕を拘束した。拘束された瞬間、明日花は手に持っていた刀で、木を切り雷之介の後ろへ下がった。
「あらあら……随分と逞しくなったじゃない」
「そりゃ裏切り者に、半年も面倒みて貰ったら、我が強くなるに決まってる」
偉そうに言った明日花の頭を、雷之介は殴り突っ込みを入れた。
「痛い……」
「一言余計だ」
「まぁ、あなたが強くなったところで何も変わりはしない」
「?」
「もう少しすれば、光坂一族の殺し合いが始まる……」
「?!」
「殺し合い、全てがいなくなれば私も伊佐那美も封印することは出来ぬ……」