BRAVE10S~二つの力   作:花札

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茂みから出て来たのは、明日花だった。彼女に続いて、雷之介も茂みから出て来た。


「……!

父さん!!母さん!!」


面をしていた二人を見つけた明日花は、一目散に二人の元へ駆け寄った。二人は彼女の姿に自身の目を疑いながら、面を取り明日花を見た。


「ま、まさか……」

「明日花……」


駆け寄ってきた明日花を、優助は彼女を受け止め力強く抱き締めた。彼に抱き着いた明日花は、顔を胸に埋めながら涙を流していた。


「よかった……よかった、無事で」

「父さん……


もう、怪我平気なの?」

「えぇ、もう大丈夫です……

ご心配をおかけしました」


しゃがみながら、優助は明日花の頬を撫でた。明日花の後ろにいた紫苑は、二人に歩み寄った。彼女は優助から紫苑へ抱き着き、紫苑は抱き着いてきた明日花を抱き締め撫でた。


脅威

「これはこれは、大変な時に帰ってきたもんだな」

 

 

そう言いながら、晃三は雷之介と明日花を交互に見た。紫苑と優助は明日花を後ろへ隠し、彼を睨んだ。

 

 

「相変わらず、馬鹿な事をやってるみてぇだな?晃三さんよ」

 

「そういうお前も、一族裏切っときながら、何紫苑達のガキの世話なんざしてたんだ?半年も?」

 

「気まぐれだ」

 

「気まぐれねぇ……」

 

 

晃三の言葉に、明日花は疑問を持ち紫苑に質問した。

 

 

「母さんが恃んだんじゃないの?」

 

「え?何を?」

 

「信幸の所を出た後、雷之介に私の事頼んだんじゃないの?

 

晃三達が何かを企んでて、私を人質にとるかもしれないからって」

 

「何の事?」

 

「雷之介、どういう事ですか?」

 

「その馬鹿に取られたくなかったからだ」

 

「雷之介、あなた……」

 

 

紫苑達に背を向けていた雷之介は、ポケットから煙管を出しそれを口に銜えた。その姿を見た二人の脳裏にある記憶が過ぎった。

 

 

若い頃、夜遅くに雷之介は仲間と大喧嘩をした。

 

喧嘩は優助と紫苑、お頭の三人がかりで止まった。止められた雷之介は、三人を振り払い外へ出て行った。

 

 

『何があったの?』

 

『……』

 

 

何も答えない仲間達……お頭にここを任せ、二人は雷之介の元へ行った。

 

 

彼の元へ来た紫苑と優助は、訳を聞こうと話し掛けたが雷之介は何も答えなかった……主に呼ばれ、二人はその場から立ち去ろうとした時だった。

 

 

『あの馬鹿の言った事にムカついたからだ』

 

 

それだけを言うと、雷之介はその場から去って行った。

 

後で聞いた話によると、仲間の一人が自分を庇って死に、その恩人を嘲笑っていたという……その話の恩人には、一人息子がいた。息子は恩人の兄弟に引き取られ世話になっていると聞いていた。話を聞いて、ようやく分かった……雷之介がなぜ、仲間を殴ったかを。

 

 

その時の事を思い出した二人は、互いを見合った。

 

 

「雷之介ぇぇええ!!

 

 

よくも騙しやがったな!!この野郎!!」

 

 

刀を引き抜きながら、明日花は二人の後ろから姿を現し雷之介に攻撃した。彼女の攻撃を雷之介はのらりくらりと避けた。

 

 

「騙された方が悪い」

 

「騙した奴の方が、ずっと悪い!

 

ねぇ、そうでしょう!?父さん!」

 

「それは、何とも……」

 

「いちいちキレるな。

 

そういうキレるところ、そこにいるクソ婆にそっくりだ」

 

「誰が婆じゃ!!

 

明日花!さっさとそいつ、叩き切りなさい!!」

 

「応!」

 

「止めなさい!!そういうことは」

 

 

明日花が振り上げた刀を、優助は手で止めながら紫苑と雷之介を睨み怒鳴った。二人は知らん顔をしながら、そっぽを向いた。

 

 

「まぁ、あなたがこちら側でよかったわ。

 

おかげで、やりたくないことをやらなくて済むんだから」

 

 

そう言いながら、紫苑は晃三を睨み武器を構え前へ出た。

 

 

「チッ。せっかく上手くいくと思ってたのによぉ……」

 

「そう簡単に、いくわけねぇだろ?」

 

「お前がそちら側にいたということだけが、想定外だ」

 

「裏切り者のことも、しっかりと把握しとかねぇとなぁ」

 

「晃三、今ここで降伏するなら見逃すわよ?」

 

「降伏?するわけねぇだろ!」

 

 

晃三の声に反応するかのようにして、突然強い風が吹き出した。木の葉が舞い上がる中、明日花と雷之介は目を疑った。

 

 

空から降り立つ、紫苑と瓜二つの姿をした久久能智神……

 

 

「初めまして……そして、お久し振りね。皆さん」

 

「し、紫苑が二人……」

 

「……」

 

 

降り立った久久能智神は、晃三の隣に立つとスッと明日花を見た。

 

 

「またお目にかかれて嬉しいわ。明日花」

 

「気安く呼ぶな!!」

 

「あら、おっかない」

 

「俺には、久久能智神という強い味方がいるんで」

 

「神を味方に付けるとは」

 

「ククク……俺は生まれた時から、光を見たことがない。

 

そんな俺に、久久能智神は言ってくれた……『あるものを私に渡してくれれば、光を与えよう』って」

 

「あるものって……」

 

「お前等二人の子供と偽ってる」

「偽りじゃない!!」

 

 

晃三の言葉を遮るかのようにして、明日花は怒鳴った。

 

 

「何言ってやがる……テメェは捨て子なんだろ?」

 

「……確かに、捨てられてた。

 

他人から見ればそうかも知れない……

 

 

 

けど……母さんと父さんからして見れば、死んだ自分の子供が戻ってきたっ言ってた!!それに、私も!!」

 

「……」

 

(……明日花)

 

「暗い中……ずっと歩いてた。何かを求めて……

 

そしたら、光が声を掛けてきた。『望は何だ?』って質問された。

 

 

だから答えた……母さんと父さんの傍にいたいって!!

 

だから、私は生き返った!!」

「だから、こいつを生き返らせた」

 

「?!」

 

 

突然明日花の傍に木の葉が舞い、その木の葉の中から彼女と同じ姿をした少女が現れた。

 

 

「黄泉の世界を彷徨っていた……泣きながら。

 

不憫に思った……可哀想に思った……

 

 

だから、私はこいつを生き返らせそして、親の元へ返した」

 

「……」

 

「やはり思い出したか……お前をこの世に蘇らせた際に、黄泉での出来事は全て、消したつもりだったが」

 

「……ねぇ」

 

「?」

 

 

震えた声で、紫苑は明日花の隣りにいる少女に声を掛けた。

 

 

「さっきの話は……本当なの?」

 

「本当だ」

 

「じゃあ、明日花は……」

 

「紫苑と優助……正真正銘、お前達の子供だ」

 

 

その言葉を聞いた瞬間、二人の目から涙が一筋流れた。流しながら紫苑は、傍にいた明日花を力強く抱き締めた。

 

 

「母さん、痛い」

 

「……ずっと傍にいたんだね……

 

ずっと私達の傍に……」

 

「……」

 

「もう会えないと思ってた……もう会えないって……ずっと」

 

「……

 

私も……

 

 

私も、母さんと父さんにもう会えないって、ずっと思ってた!母さんのお腹にいた時、二人の声聞いて……ずっと会うの楽しみにしてた!

 

でも、目を開けたら……暗い中にいて…二人の事をずっと呼びながら、歩いてた……」

 

「……

 

紫苑の親は、彼女を産んだと同時に死んだ」

 

 

後ろにいた頭は、三人に近寄りながら話し出した。紫苑は顔を上げ彼の方を向いた。明日花は彼女から離れると、傍にいた優助に抱き寄せられ、そして強く抱き締められた。

 

 

「生まれた場所が、丁度戦場になってしまった。

 

俺が駆け付けた時には……生まれたばかりのお前を守るようにして、抱いていた。お前の顔には、二人の血が付いていた……」

 

「恐らく、そこで恨みが芽生えたんだろう……

 

その恨みを餌に、あの久久能智神はお前を器として、生かしたのだろう」

 

「お前とあいつ、何が違うんだ?」

 

「あれは……

 

 

闇に染まったもう一人の私だ」




紫苑達がまだ、武田に仕えていた頃。


とある社……そこでは、光坂一族の宴会が行われていた。


「しっかし、お前等に子供が出来たとは!

いや~、愉快愉快!」


酒瓶を手にした男が、紫苑と優助の肩に腕を回しながら、嬉しそうに言った。


「出来たと言っても、まだほんの小さな生命体ですぅ!」

「それに産まれるのは、来年の春頃ですし」

「そうそう!」

「でも、出来てよかったじゃん!

紫苑、ずっと隊長の子供が欲しいって言ってたし!」


女性が言った言葉に、酒を飲んでいた優助は思わず口に入れていた酒を吹き出した。紫苑は顔を真っ赤にしながら、彼女に怒鳴った。


「ちょっと!!優の前で言わないでよ!」

「いいじゃな~い!熱々の夫婦なんだから」

「ヒューヒュー!」

「媚びるな!!」

「使い方、間違ってるぜ」

「間違ってない!!」

「ところで、名前決まってるの?」

「?名前?誰の」

「アンタ等二人の子供の名前だよ」

「そうねぇ……」

「産まれてからの方がいいんじゃねぇ?

まだ、男か女かも分からねぇんだし」


「女」


お腹を擦りながら、紫苑はそう言った。


「私は、女だと思うよ」

「何で?」

「何となく」

「単純だな」

「ほっといて!」

「僕も女の子だと思いますよ」


擦る紫苑の手の上に優助は、自身の手を乗せながら彼女の後ろに座った。


「隊長さんは、何でそう思うんだ?」

「……勘です」

「め、珍しく隊長が単純だ」

「明日、雨降らなきゃいいけど……」

「僕を何だと思ってるんですか!!」


笑い合う仲間達……その賑やかな声は、夜を通して辺りに響き渡った。


夜明け前……紫苑は目を覚まし、外へ出た。薄暗い森の中を歩き、そして崖へ出た。その時心地良い風が吹き、風は紫苑の髪を靡かせた。


「ガキ産まれるんだってな」

「?」


声がした方に目を向けると、木の幹に凭り掛かり枝に立つ雷之介がいた。


「産まれるのは春!まだ産まれないわよ!」

「フーン……また、うるさくなるな」

「いいじゃん。子供笑い声なんて、すぐに慣れるよ」

「どうだか……」

「産まれたら、あなたに抱かせてあげるよ!」

「別にいい」

「嫌でも抱かせるから!」

「っ……」


その時、暗かった場所が明るくなり出し、紫苑はふと振り返った。山の隙間から朝日がゆっくりと昇ってきていた。


「綺麗……


あ!そうだ!」

「?」


「ここにいたんですか」


茂みを掻き分けながら、優助は木の上にいる雷之介に目を向けながら、紫苑の元へ駆け寄った。


「起きたら君の姿が見えなくて、心」
「決まった!」

「え?」

「子供の名前!」

「……」

「明日の花って書いて、『明日花』!」

「明日花……」


紫苑はお腹を擦りながら、日が昇っている方を向いた。彼女と一緒に優助も向き、朝日を見た。


「未来に咲く花……

きっと、産まれてくる子は未来に花を持ってるわ!」

「花?ですか」

「希望の花!」


満面な笑みを浮かべる紫苑……彼女の顔を見た優助は、釣られて微笑んだ。


「女の子が……産まれてくるといいですね」

「絶対女の子よ!

産まれたら、とことん可愛がってやるんだから!」

「それは僕もだよ」

「そんで、大きくなったら私達の武器全部教えよう!」

「そうですね。

それと共に礼儀も教えましょう」

「いいわよ、礼儀なんて。

この子は、武田の次の倅に仕えるんだから」

「あのねぇ……


まぁ、全部この子が無事に産まれてきてからの話だけど」


そう言いながら、優助は紫苑のお腹を擦った。


「無事に産まれてきてね……
「無事に産まれてきて下さい……

明日花」」


朝を迎えた森の木々は、風に靡きながらざわついた。その中に光のオーラを纏った者が、三人の姿を見ていた。光は薄く微笑むと、木の葉と共に姿を消した。
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