「……!
父さん!!母さん!!」
面をしていた二人を見つけた明日花は、一目散に二人の元へ駆け寄った。二人は彼女の姿に自身の目を疑いながら、面を取り明日花を見た。
「ま、まさか……」
「明日花……」
駆け寄ってきた明日花を、優助は彼女を受け止め力強く抱き締めた。彼に抱き着いた明日花は、顔を胸に埋めながら涙を流していた。
「よかった……よかった、無事で」
「父さん……
もう、怪我平気なの?」
「えぇ、もう大丈夫です……
ご心配をおかけしました」
しゃがみながら、優助は明日花の頬を撫でた。明日花の後ろにいた紫苑は、二人に歩み寄った。彼女は優助から紫苑へ抱き着き、紫苑は抱き着いてきた明日花を抱き締め撫でた。
「これはこれは、大変な時に帰ってきたもんだな」
そう言いながら、晃三は雷之介と明日花を交互に見た。紫苑と優助は明日花を後ろへ隠し、彼を睨んだ。
「相変わらず、馬鹿な事をやってるみてぇだな?晃三さんよ」
「そういうお前も、一族裏切っときながら、何紫苑達のガキの世話なんざしてたんだ?半年も?」
「気まぐれだ」
「気まぐれねぇ……」
晃三の言葉に、明日花は疑問を持ち紫苑に質問した。
「母さんが恃んだんじゃないの?」
「え?何を?」
「信幸の所を出た後、雷之介に私の事頼んだんじゃないの?
晃三達が何かを企んでて、私を人質にとるかもしれないからって」
「何の事?」
「雷之介、どういう事ですか?」
「その馬鹿に取られたくなかったからだ」
「雷之介、あなた……」
紫苑達に背を向けていた雷之介は、ポケットから煙管を出しそれを口に銜えた。その姿を見た二人の脳裏にある記憶が過ぎった。
若い頃、夜遅くに雷之介は仲間と大喧嘩をした。
喧嘩は優助と紫苑、お頭の三人がかりで止まった。止められた雷之介は、三人を振り払い外へ出て行った。
『何があったの?』
『……』
何も答えない仲間達……お頭にここを任せ、二人は雷之介の元へ行った。
彼の元へ来た紫苑と優助は、訳を聞こうと話し掛けたが雷之介は何も答えなかった……主に呼ばれ、二人はその場から立ち去ろうとした時だった。
『あの馬鹿の言った事にムカついたからだ』
それだけを言うと、雷之介はその場から去って行った。
後で聞いた話によると、仲間の一人が自分を庇って死に、その恩人を嘲笑っていたという……その話の恩人には、一人息子がいた。息子は恩人の兄弟に引き取られ世話になっていると聞いていた。話を聞いて、ようやく分かった……雷之介がなぜ、仲間を殴ったかを。
その時の事を思い出した二人は、互いを見合った。
「雷之介ぇぇええ!!
よくも騙しやがったな!!この野郎!!」
刀を引き抜きながら、明日花は二人の後ろから姿を現し雷之介に攻撃した。彼女の攻撃を雷之介はのらりくらりと避けた。
「騙された方が悪い」
「騙した奴の方が、ずっと悪い!
ねぇ、そうでしょう!?父さん!」
「それは、何とも……」
「いちいちキレるな。
そういうキレるところ、そこにいるクソ婆にそっくりだ」
「誰が婆じゃ!!
明日花!さっさとそいつ、叩き切りなさい!!」
「応!」
「止めなさい!!そういうことは」
明日花が振り上げた刀を、優助は手で止めながら紫苑と雷之介を睨み怒鳴った。二人は知らん顔をしながら、そっぽを向いた。
「まぁ、あなたがこちら側でよかったわ。
おかげで、やりたくないことをやらなくて済むんだから」
そう言いながら、紫苑は晃三を睨み武器を構え前へ出た。
「チッ。せっかく上手くいくと思ってたのによぉ……」
「そう簡単に、いくわけねぇだろ?」
「お前がそちら側にいたということだけが、想定外だ」
「裏切り者のことも、しっかりと把握しとかねぇとなぁ」
「晃三、今ここで降伏するなら見逃すわよ?」
「降伏?するわけねぇだろ!」
晃三の声に反応するかのようにして、突然強い風が吹き出した。木の葉が舞い上がる中、明日花と雷之介は目を疑った。
空から降り立つ、紫苑と瓜二つの姿をした久久能智神……
「初めまして……そして、お久し振りね。皆さん」
「し、紫苑が二人……」
「……」
降り立った久久能智神は、晃三の隣に立つとスッと明日花を見た。
「またお目にかかれて嬉しいわ。明日花」
「気安く呼ぶな!!」
「あら、おっかない」
「俺には、久久能智神という強い味方がいるんで」
「神を味方に付けるとは」
「ククク……俺は生まれた時から、光を見たことがない。
そんな俺に、久久能智神は言ってくれた……『あるものを私に渡してくれれば、光を与えよう』って」
「あるものって……」
「お前等二人の子供と偽ってる」
「偽りじゃない!!」
晃三の言葉を遮るかのようにして、明日花は怒鳴った。
「何言ってやがる……テメェは捨て子なんだろ?」
「……確かに、捨てられてた。
他人から見ればそうかも知れない……
けど……母さんと父さんからして見れば、死んだ自分の子供が戻ってきたっ言ってた!!それに、私も!!」
「……」
(……明日花)
「暗い中……ずっと歩いてた。何かを求めて……
そしたら、光が声を掛けてきた。『望は何だ?』って質問された。
だから答えた……母さんと父さんの傍にいたいって!!
だから、私は生き返った!!」
「だから、こいつを生き返らせた」
「?!」
突然明日花の傍に木の葉が舞い、その木の葉の中から彼女と同じ姿をした少女が現れた。
「黄泉の世界を彷徨っていた……泣きながら。
不憫に思った……可哀想に思った……
だから、私はこいつを生き返らせそして、親の元へ返した」
「……」
「やはり思い出したか……お前をこの世に蘇らせた際に、黄泉での出来事は全て、消したつもりだったが」
「……ねぇ」
「?」
震えた声で、紫苑は明日花の隣りにいる少女に声を掛けた。
「さっきの話は……本当なの?」
「本当だ」
「じゃあ、明日花は……」
「紫苑と優助……正真正銘、お前達の子供だ」
その言葉を聞いた瞬間、二人の目から涙が一筋流れた。流しながら紫苑は、傍にいた明日花を力強く抱き締めた。
「母さん、痛い」
「……ずっと傍にいたんだね……
ずっと私達の傍に……」
「……」
「もう会えないと思ってた……もう会えないって……ずっと」
「……
私も……
私も、母さんと父さんにもう会えないって、ずっと思ってた!母さんのお腹にいた時、二人の声聞いて……ずっと会うの楽しみにしてた!
でも、目を開けたら……暗い中にいて…二人の事をずっと呼びながら、歩いてた……」
「……
紫苑の親は、彼女を産んだと同時に死んだ」
後ろにいた頭は、三人に近寄りながら話し出した。紫苑は顔を上げ彼の方を向いた。明日花は彼女から離れると、傍にいた優助に抱き寄せられ、そして強く抱き締められた。
「生まれた場所が、丁度戦場になってしまった。
俺が駆け付けた時には……生まれたばかりのお前を守るようにして、抱いていた。お前の顔には、二人の血が付いていた……」
「恐らく、そこで恨みが芽生えたんだろう……
その恨みを餌に、あの久久能智神はお前を器として、生かしたのだろう」
「お前とあいつ、何が違うんだ?」
「あれは……
闇に染まったもう一人の私だ」
紫苑達がまだ、武田に仕えていた頃。
とある社……そこでは、光坂一族の宴会が行われていた。
「しっかし、お前等に子供が出来たとは!
いや~、愉快愉快!」
酒瓶を手にした男が、紫苑と優助の肩に腕を回しながら、嬉しそうに言った。
「出来たと言っても、まだほんの小さな生命体ですぅ!」
「それに産まれるのは、来年の春頃ですし」
「そうそう!」
「でも、出来てよかったじゃん!
紫苑、ずっと隊長の子供が欲しいって言ってたし!」
女性が言った言葉に、酒を飲んでいた優助は思わず口に入れていた酒を吹き出した。紫苑は顔を真っ赤にしながら、彼女に怒鳴った。
「ちょっと!!優の前で言わないでよ!」
「いいじゃな~い!熱々の夫婦なんだから」
「ヒューヒュー!」
「媚びるな!!」
「使い方、間違ってるぜ」
「間違ってない!!」
「ところで、名前決まってるの?」
「?名前?誰の」
「アンタ等二人の子供の名前だよ」
「そうねぇ……」
「産まれてからの方がいいんじゃねぇ?
まだ、男か女かも分からねぇんだし」
「女」
お腹を擦りながら、紫苑はそう言った。
「私は、女だと思うよ」
「何で?」
「何となく」
「単純だな」
「ほっといて!」
「僕も女の子だと思いますよ」
擦る紫苑の手の上に優助は、自身の手を乗せながら彼女の後ろに座った。
「隊長さんは、何でそう思うんだ?」
「……勘です」
「め、珍しく隊長が単純だ」
「明日、雨降らなきゃいいけど……」
「僕を何だと思ってるんですか!!」
笑い合う仲間達……その賑やかな声は、夜を通して辺りに響き渡った。
夜明け前……紫苑は目を覚まし、外へ出た。薄暗い森の中を歩き、そして崖へ出た。その時心地良い風が吹き、風は紫苑の髪を靡かせた。
「ガキ産まれるんだってな」
「?」
声がした方に目を向けると、木の幹に凭り掛かり枝に立つ雷之介がいた。
「産まれるのは春!まだ産まれないわよ!」
「フーン……また、うるさくなるな」
「いいじゃん。子供笑い声なんて、すぐに慣れるよ」
「どうだか……」
「産まれたら、あなたに抱かせてあげるよ!」
「別にいい」
「嫌でも抱かせるから!」
「っ……」
その時、暗かった場所が明るくなり出し、紫苑はふと振り返った。山の隙間から朝日がゆっくりと昇ってきていた。
「綺麗……
あ!そうだ!」
「?」
「ここにいたんですか」
茂みを掻き分けながら、優助は木の上にいる雷之介に目を向けながら、紫苑の元へ駆け寄った。
「起きたら君の姿が見えなくて、心」
「決まった!」
「え?」
「子供の名前!」
「……」
「明日の花って書いて、『明日花』!」
「明日花……」
紫苑はお腹を擦りながら、日が昇っている方を向いた。彼女と一緒に優助も向き、朝日を見た。
「未来に咲く花……
きっと、産まれてくる子は未来に花を持ってるわ!」
「花?ですか」
「希望の花!」
満面な笑みを浮かべる紫苑……彼女の顔を見た優助は、釣られて微笑んだ。
「女の子が……産まれてくるといいですね」
「絶対女の子よ!
産まれたら、とことん可愛がってやるんだから!」
「それは僕もだよ」
「そんで、大きくなったら私達の武器全部教えよう!」
「そうですね。
それと共に礼儀も教えましょう」
「いいわよ、礼儀なんて。
この子は、武田の次の倅に仕えるんだから」
「あのねぇ……
まぁ、全部この子が無事に産まれてきてからの話だけど」
そう言いながら、優助は紫苑のお腹を擦った。
「無事に産まれてきてね……
「無事に産まれてきて下さい……
明日花」」
朝を迎えた森の木々は、風に靡きながらざわついた。その中に光のオーラを纏った者が、三人の姿を見ていた。光は薄く微笑むと、木の葉と共に姿を消した。