門の前で、跪く七隈。そこへ刀を腰に掛ける信之が、姿を現した。
「……うむ。いざ、参る」
「信之様!私も参ります!」
防具を身に纏い、薙刀を持った小松は信之の元へと駆け寄った。
「そなたまで、ここを離れてしまうと城の守り手がいなくなってしまうだろう……」
「でも……」
「小松、留守は任せた」
「……
はい……お任せ下さいまし」
近くの木から二人を見ていた佐助は、すぐにその場を離れた。
(信之様。伊達討伐、出陣。
戦になる。
伊佐那海……)
「才蔵!!
ちょっと!!才蔵!!」
(半蔵の声が遠い……
もう、全て……闇)
『おいで……
愛しい人』
周りが闇に包まれた時、どこからか不気味な声が聞こえた。才蔵はゆっくりと目を開けた。
そこには幼い伊佐那海が、泣きながら歩いていた。
『怖い……暗いの怖いよ……
神主様、姐様助けて……闇が追い掛けてくる』
(伊…佐那海!?)
『お兄ちゃーん!』
(伊佐那海!!伊佐那海!!)
泣いている伊佐那海に、才蔵は手を伸ばした。するとそこへ、黒く染まった手が彼の手を掴み阻止した。
『駄目よ……あなたは私と一緒に行くのよ。
あの大岩を越えて、安らかな闇の中へ……愛しい人』
(アイツの手を離さねぇと決めた!!
やめろ……俺はもう)
「奇魂(クシミタマ)幸魂(サキミタマ)、守りたまえ」
突然才蔵の胸が光りだし、背後にいた黒い影は消え辺りは光りに包まれた。そして才蔵の目の前に、神主が現れた。
「お忘れですか?貴方様自身が、あの子が選んだ闇を払う光りではありませんか」
『才蔵はアタシにとって、たった一つのあったかい光だから』
『眩しいよ才蔵』
(そうだった……アイツは俺を光だと言っていた)
「蔵!!」
半蔵の声に、才蔵はようやく意識を取り戻した。
「大丈夫っスか?!」
目の前にいた半蔵に驚いた才蔵は、勢い良く起き上がろうとし、彼の頭に自分の頭をぶつけた。
「てめ……忍なら避けろよ!」
「アンタも忍でしょうよ……」
「……!
あれ?なんで光ってんだ?」
「あ?何言ってんスか?真っ暗スよここ。俺達は辛うじて見えますけど」
「いや」
「ちょっと」
立ち上がり、才蔵は大岩に近寄った。
「……読める」
「読めるって……それが出雲文字じゃないんですか?
アンタが読めんなら、来なくてもよかったんじゃ」
「前来た時は、全然分かんなかったんだよ。
でも今は……読める」
岩に書かれていた字を読む才蔵……すると彼は、突然笑い出した。
「何スかもう、何て書いてあるんスかー」
「十勇士か……つまりそれが、“十勇士”って訳か。あのオッサン全て分かってやがったな」
「何!?全っ然分かんない!!」
その時首に紙を巻いた佐助の使いの鼬・雨春が、才蔵達の元へと来た。
その頃、伊賀では……
アナと才蔵の師である百は、酷い火傷を負ったアナの元へと帰ってきた。
「こっぴどくやられたねぇ……少し、無茶な戦い方したんじゃあないの?」
「師……匠?」
「うん、久しぶり」
「……私」
「ちょっと傷が深かったみたいだね……でも大丈夫。すぐ治るよ。
アナは神様に愛されてる子だから、きっと遠い異国の強い神様が守ってくれるよ」
淡路国……
「懐かしいなぁ……(長居は無用だな。甚八の行方を聞いたら早々に……)」
町を歩く十蔵……その時、擦れ違った女性に声を掛けられた。
「十蔵様!!」
「藤(トウ)……」
「お久しゅう……お久しゅうございます!ご健在であられましたか!」
「誰かと人違いを」
「お待ちを!鹿乃様もすぐそこにいらっしゃいます!
それはそれは、十蔵様の事を案じておりました」
「何をやっているの藤次……お魚は貰えたの?
そちらはお知り合」
風が吹き、十蔵の顔を隠していた襟巻きが外れた。
「十蔵……様」
某所廃寺……
中の奥で座る幸村達……寺へ来た才蔵は、幸村を見るなり怒鳴った。
「テメェ!!何上手いこと、九度山から脱出してんだよ!!」
「健在で何よりだ。才蔵。
腑抜けになったとでも思うたか?素直だなぁ、お主」
笑いながら、幸村はそう言った。才蔵は怒りを抑えながら、笑う幸村を睨んだ。
「まあ、無事で何よりだよ。
オッサンも、六郎さんも、大助も……
佐助は?」
「斥候に出ておる。兄上に伊達討伐の命が下ってな。
才蔵、伊佐那海の事も聞いておる。彼女を闇から救うぞ、我等で。
儂は、一度懐に入れた者は、何があっても受け止める。間違った方向へ進んでしまったなら、道を正してやる。どんな痛みを伴っても、決して見捨てはせん」
「痛み……
『黄泉の女神、地上に蘇りし時は、八つの根源と一つの光……そして根源を作り出した者の命を持って、これを鎮めよ』」
「それは!」
「伊佐那海を鎮めるためには、俺等(勇士)に死ねって事だろ?
知ってやがったな、オッサン」