(あのオッサン!!)
幸村達の部屋から抜け、城壁の上へ移った才蔵……
(死合うだって!?アホか!!
考えてもみろ、絶対ロクな事にならねぇんだ!!
勇士ったって、変な奴の集まりなんだからよ!!特にあの、変態がいるっつーのによ!!)
その頃、信幸に無理矢理跪かされ、正座をしていた鎌之介がようやく意識を取り戻した。
「誰だが知らねぇが、あんの野郎!!
この俺に膝を付かせやがって!!ぶっ殺してやる!!」
叫びながら、角を曲がろうとした時、誰かとぶつかった。
ぶつかった箇所を押さえながら、文句を言おうと顔を上げると、そこにいたのは六郎にそっくりの男だった。
「おう、小姓!さっき、こっちに変な男来なかったか?」
「……」
「態度も声もデカイ野郎よ!……あ?
テメェ、聞いてんのか!?」
鎌之介の質問に何一つ答えず、黙り込んでいる男に鎌之介はキレ手を上げた。その瞬間、男は鎌之介の頬を叩いた。
「不躾な!!
汚れた手で、触れるでない!!」
「小姓!!」
「おやめなさい!!」
殴りかかろうとした鎌之介を止めるかのように怒鳴る声……
声の方に振り向くと、そこにいたのは本物の六郎だった。
「は?(え?……小姓が、二人)」
「久しぶりですね」
「フンッ……
しばらく、来ぬうちに上田は、無法者の集まりになったようですね。
まあ、主が主なら、そうなるのが必定でしょうが」
「海野家が、代々仕える真田の本家ですよ。口を慎みなさい」
「いかに主筋といえど、あのような放蕩者……仕えては恥というもの。
徳川家も一目置く、信幸様と違ってただの田舎の小侍……
私はつくづく思いますよ……
私の主が、信幸様でよかったと」
「それは良かったですね。
うちの若より、お行儀が良いようですから」
「この」
「オイ!!
テメェ等、俺を無視すんな!!
そっくりな面しやがって、気持ち悪い!!」
「気持ち……」
「あら?何であなた、ここに?」
「?」
その声に、鎌之介は庭の方を見た。そこにいたのは煙管を口に銜え、狐の面を頭に着け、腰まで伸ばした銀髪を耳下で結い、髪留め紐に引っ掛けるようにして雪の結晶が着いた簪を挿した女性が立っていた。
「アー!化け狐!」
「久し振り、山賊さん。
それに、六郎」
「紫苑…さん」
「固くならなくていいわよ。
元気だった?」
「おかげさまで」
「何だ?化け狐、コイツの気持ち悪い奴と小姑と知り合いなのか?」
「気持ち悪いって……」
「何だ、鎌之介は双子を見たことないのか?」
鎌之介を止めるかのように、二人のもとへ幸村がやってきた。鎌之介は、幸村の方を向きながら言葉を繰り返した。
「双子?」
「そんなことより鎌之介よ。
あそこに才蔵が、潜んでおるぞ?」
「お!」
「遊ばなくていいのか?」
城壁にいる才蔵に目を向けながら、幸村は鎌之介に言った。才蔵の姿を見つけた鎌之介は、喜びに満ちた顔をしながらその場から立ち去り、才蔵のもとへ駆け寄った。
「キャッハー!!才蔵ぉ!!」
「オッサン!!」
駆け寄って来る鎌之介から、才蔵は逃げるようにして城壁から離れ鎌之介と共に、森の方へ行ってしまった。
「あらあら、随分と楽しい玩具が出来たのね」
いなくなった才蔵達の後ろ姿を見ながら、幸村は鼻で笑った。
「お久しぶり、弁丸」
「久しいなぁ、紫苑。健在であったか?」
「おかげさまで。
毎度の事、源三郎にはしょっちゅうコキ使われるけど」
「ハッハッハ!そうかそうか!
お主も久しいな、七隈。
健在であったか?」
「見れば、お分かりでしょう。
健在でなければ、上田などに来るものですか」
「七隈!!」
「おい!
七隈!!帰るぞ!!」
六郎に怒鳴ろうとした時、後ろから信幸がやってきた。信幸の姿を見た七隈は、幸村にぶつかりながら信幸へ近寄った。
「信幸様!お話は済みましたか!」
「ああ」
「やれやれ、兄弟喧嘩はやっとすんだの?源三郎」
「その名で呼ぶなといつも言っているであろう!!紫苑!!」
「うるさいわねぇ。
元は武田の部下のくせして、天下取ったからってえばるのやめてくれる?」
「っ」
「しかし、その真田がいるからこそ今の信濃は、守られているんですよ」
その声と共に姿を見せたのは、優助だった。
「優……」
「お久しぶりですね。紫苑」
「お変わりないようね?」
「えぇ」
「……あの子は?」
「さぁ。その辺にいると思いますよ」
「そう……
用が済んだんなら、早く帰りましょう」
「……」
「では」
「……半月後、上田で死合い。
分かっておるな?」
「分かっております」
「死合い?
どういうことですか?若」
「幸村が上田で安泰だと、大口を叩きおってな!
ならば、その護りを試させて貰おうというわけだ」
「戦うって……」
「まさか、幸村様」
「私達まで、戦わせる気じゃ」
「無論戦って貰う」
「源三郎!!アンタねぇ!!」
「信幸様が、この脆弱な上田を叩くのです。
堕落した主と、堕落した家臣達諸共に」
「逃げるなよ、幸村!」
「分かって……おりますって……」
「では、これにて!」
振り返り、七隈と紫苑と共に信幸は去って行った。
去っていく信幸の背を見届けた幸村は、汗を流しながら困った表情を浮かべた。
「おー、怖い怖い!
のう、六郎」
「何がどうなったのか、説明していただけますか」
「僕もその話、聞かせて貰いたいです」
「どうもこうも、今兄上が言った通り!
十対十の死合い、そして武田同士の特別死合いをすることとなった」
「十対十?
まさか勇士を、公に……
それより、武田同士の死合いって……」
「……ハァ…
まずは…布令を出さねばなるまい。
六郎!墨を持て!」
「はい!」
部屋へ戻り、二枚の垂れ幕に筆で何かを書く幸村……
「いよーし!!」
書き終わり、六郎に二枚の垂れ幕を見せる幸村……
垂れ幕に書かれていたのは、一枚目には『上田城十番勝負』……
そして二枚目には『武田勝負』と書かれていた。
「は?」
「まずは、城下に振れ回れ!
出店も考えなければな!民を大勢呼んで、祭りにするぞ!
六郎!忙しくなるぞ!」
「……落ち込んでいたのでは、ないのですか?」
「一旦、息の根を止めますか?」
上田の森へ才蔵を追い駆けてきた鎌之介……
「クソ!!見失ったか!!
どこに隠れやがった!!
アイツの隠形は、見破れねぇ……あぁあ、チキショウ!!」
見失った才蔵をあきらめた鎌之介は、文句を言いながら森を出て行った。
そんな鎌之介を、才蔵は近くの木の上から眺めていた。
(ハァ……ようやくあきらめたか…)
「何やってんの?」
その声と共に、才蔵の前に明日花が逆さになって現した。彼は一瞬驚きながらも、上にいたアナスタシアに気付いた。
「よう、アナ。
物見(監視)か?」
「……見ての通りよ」
「そっか……
(……正直、コイツ(アナ)がここ(上田)に残るとは、思わなかった。
あんなこと(裏切り)があったんだ……忍らしく、抜けるか自害するもんかと……
オッサンとの間に、何かあったのか?)
そういや、お前何でここにいんだ?」
「アナの手伝い」
「あっそ……」
「騒がしいけど、城で何かあったの?」
「幸村の兄貴の、信幸が来た」
「ああ……信幸様ね…」
「俺達十人と、向こうのサンとで死合うんだと。
ま、大名同士の腕比べだろ。よくある話しっちゃあ話なんだが……
相手に恥かかせるわけにもいかねーし、あしらいが難しいトコだよなぁ……」
「ふうん……」
「そのために来たの?」
「そうらしい。
まあ、やるにしても適当にするさ。忍は手の内が、商売道具……
明かすわけにはいかねぇだろ。お前(アナ)も数の内だぞ」
「あらそう」
「そこは『お断り』って、言うとこだろ?お前なら」
「そんなこと言わないわ。
私を殺さず、ここに置いておく酔狂な男との、約束があるから……」
(約束?)
「十人て言ってるけど、明日花と父さんは出ないの?」
「いや、お前は出ないと思うけど……優助さんは出る。確か相手が、紫苑だって」
「え?母さんとやるの?!父さん」
「あぁ」
「じ、じゃあ……死合い見に行けば、母さんに」
見る見るうちに、明日花は笑顔になっていった。その笑顔を見たアナスタシアは、何かを思い出したかのようにして口を開いた。
「そういえば、言付けを頼まれているのよ」
「言付け?誰に?」
「明日花よ。
こないだ、会いに行けなくてごめんねって」
「誰が言ったの?」
「そう言えば……名前を聞くの忘れたわね。
その人、耳に桜の花弁のピアスして、銀色の長い髪を一つに結ってて」
「母さんだ……」
「?」
「それ、母さんだよ……
母さん、ここに来てたの!?」
「ちょっと待て!銀色の髪の女って、さっき城に来てたぞ。
優助さんとも話してたし」
「……間違いない。母さんだ」
「……」
「母さん……何で、明日花に会ってくれないんだろ」
死合いは次第に、勇士達に伝えられ……
「アタシもアタシも!」
「新しい武器を作んなきゃ!」
「神仏の尊さを、教えてやろう!」
「誰かお止めせ何だか……」
「無問題」
「棄権していいか?
俺ぁ酒飲んで、見物してる方が良いんだけどよぉ」