「何故生きてるかって?」
「すみません……僕等、蛇みたく執念深いんで」
笑顔で言いながら、優助は攻撃してきた木の根を真っ二つに切り裂いた。
「ちょっと弁丸!
あなたが死んだら一体誰が、信濃と甲斐を守るのよ!」
「困るんですよね。
主が守り抜いた国を、壊されては」
「ええい!!
次こそ、骨の髄まで吸い取ってやる!!」
木の根を放つ久久能智神に、二人は攻撃を軽々と避けた。そして刀を持ち構え、二人は彼女を挟み立った。
「どっちが早いかしら?」
「君が僕等を殺すのと、僕等が君を殺すのと」
振り下ろした二本の刀を、久久能智神は素早く避け後ろへ下がり、悔しそうに二人を睨んだ。
「あ~ら、おっかない顔」
「君も、悔しがる時ああいう顔になってますよ?」
「!!うるさい!優!!
あなただって、悔しがると私より酷い顔になるくせに!!」
「僕は、あんな顔した記憶は」
「子供の頃、刀の手合わせして負けた時の、悔しい顔にそっくりよ」
「負けた?それは、君ではありませんか。
僕に勝ったことなど一度も無いくせに」
「勝ったわよ!!主の前で、剣術披露の際に!」
「あれは君が女だったから、主が勝たせたんですよ!」
「またそうやって、女扱いして!!」
攻めてくる無数の木の根を、口喧嘩をしながら八つ裂きにする紫苑と優助は、後ろへ下がると同時に技を出し攻撃した。
「才蔵!早くその素戔嗚尊を倒しなさい!」
「こいつの相手は、私達に任せて!早く!」
「頼みます!!」
「怒(ヌ)ううぅ!!邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔!!妾の邪魔をするな!!
この世に渦巻く憎しみの怨情が、妾をこの世に呼び起こした!!妾の裁きを必要としておるのだ!!
伊佐那海……伊佐那海と……それ程までに救いたいか、この『器』を。
この者がどう生まれ落ちたか知っておるか?
こやつの最初の記憶は『絶望』よ。産まれてすぐ親に捨てられ、無自覚に……この世を恨み呪った。
その強い無垢な絶望は、妾を引き寄せるのに十分であった。それはもう根から繋がるように……
出雲の神主は聡くもそれを見抜き、『伊佐那海』として赤子を育て上げ妾を封じた。同じ器に光と陰……只々、陰に気付かぬように明るく育った。笑って、闇を撥ね退ける事が巫女の運命だと言い聞かせてな。
我が事ながら維持らしく、巫女としての責務を全うし様としておったわ。
あのまま、守られる幼子であれば良かったものを……強くなる事を望んだこの女は、妾の手を取った。
自分の愛すべき場所、人の為に……何より才蔵、お前の為に」
『才蔵……アタシ、強くなったんだよ』
「知っているか?照らす光が強ければ、闇はより深く影を落とす」
「!!」
「我が名は『伊佐那美』。闇より出でし『死をもたらす神』である!
戦の繰り返しで、死と怨念が渦巻く混沌たる現世を、闇でもって洗い清めるためにここに在る!!
それ以外の何者でもありはしない」
伊佐那美の体から黒いオーラが放たれ、六郎はすぐに能舞台で拘束されている信之と七隈を水鏡胞の術で囲い守った。同様に優助も自身と紫苑に水球を作り、その中へ入り身を守った。
「道敷大闇(チシキノオオヤミ)!!」
黒いオーラは辺りを闇へと包み込んだ。
真っ暗な世界……
「どうじゃ、漆黒じゃ」
その時、黒い世界に皹が入った。皹が入った箇所から一気に割れ、そこから剣を持った才蔵が姿を現した。
「テメェから与えられる『死』何ざ、欲しくねぇんだよ!!」
「ならば、妾を斬ってみよ」
「いくらでも」
飛び上がっていた才蔵の背後に、鎌之介がいた。
「由利式風術天照神風!!」
竜巻を起し、伊佐那美を攻撃した。
「は!!」
「地上を、お主の好きにはせんのよ。
ここは我等の生きる世界……漏れて出てしまった神等迷惑この上ない。早々に退場して頂こう」
「馬鹿め!!まだ分からぬか!!妾を呼んだのは、主等人間よ!!
この戦世の禍々しい絶望の渦が、妾を産み落としたのよ!!
妾は力を生み出す母よ!!「神生み」!!」
斬られた箇所から、禍々しい黒い煙が上がりその煙から黒い雷が浮き出てきた。
「ほんっと、邪魔なクソ女!!」
才蔵の剣に黒い雷が触れた……触れたと同時に、黒い雷は自分の体へと侵食していった。それを見た才蔵はすぐに剣を離し、その衝撃で足場を崩し座り込んでしまった。
「鎌之介!!雷に触れんな!!体を侵食す…痛!!」
「風を起す暇など与えぬ!!」
雷は飢えへと上がり、伊佐那美は上げていた手を勢いよく下へ下ろしその合図と共に、雷は地上へ落ちて行った。
才蔵達に当たる瞬間……彼等の真上に、土の壁が黒い雷の攻撃を防いだ。
(妾の子(雷)が!!)
(ま……さか)
才蔵はゆっくりと後ろを振り返った。根の国に引き摺り込まれたはずの佐助の姿があった。
「佐助!!」
「我は根の国から還りし者……黄泉平坂に落ちはしない」
「チィイイ!!」
「儂の元に集った勇士達は、そなたを抑え込む力を持つ。
佐助が力を依るのは、あの大国主(オオクニヌシノミコト)よ」
土の壁から飛び降りた佐助は、素早く動き伊佐那美を攻撃しようとした。
「キャアアアア!!」
「!!」
「やめて……佐助」
涙を流し、佐助に訴える伊佐那海……その姿を見た佐助は、一瞬攻撃の手を緩んでしまった。
「馬鹿!!止まんな!!佐助」
才蔵の叫び声と共に、佐助の肩に黒い槍が貫いた。
「フフフフフ……感謝するぞ真田幸村!お前が伊佐那海を大事にしてたおかげで、この者達は手を下せぬ!
伊佐那海は伊佐那海のまま終わればよかったのになぁ……貴様先を見る目が無いのう」
「火術迦楼羅炎!!」
その時、突如伊佐那美の下から炎が燃え上がり彼女を攻撃した。
(この炎は!!)
「この俺を、火の勇士にしたなんてホント見る目ありますよ。
テメェなんざ、この『火之迦具土(ヒノカグツチ)』の炎で、苦も無く焼き尽くせる」
(半蔵!!)
「伊佐那美さん、陰部(ホト)焼かれるのお好きでしたっけ?」
「火……ヒィ!!」
「遅え!!
奥義紅蓮炫炎!!」
激しく燃え上がる炎が、伊佐那美を攻撃しさらに能舞台を焼き壊した。
能舞台を見る小十郎達……
「おい……あの炎」
(政宗様……)
「ハイハイ、いつまでも腑抜けてんじゃねぇですよ。
何チンタラやってんすか?アンタ等あの女『止めるん』だろ?」
「っっ」
「だな!
コイツ等も助けた事だし、後は殺るだけだな」
能舞台には、水鏡胞に守られながら信之を担ぐ甚八と七隈を支え歩く十蔵の姿があった。
その時、久久能智神が放った、無数の木の根が甚八達に向かって襲ってきた。
「攻撃させないよ!!
優!!」
手に雷を放ちながら、優助は紫苑の元へ駆け寄り彼女は無数の火の玉を作り出した。
「山本流雷術!!雷獣牙!!」
「光坂流火術!!鬼灯籠!!」
雷を纏った火の玉が、木の根を焼き尽くしていった。それを見た甚八は、口笛を吹きながら驚いていた。
「こりゃ、たまげたわ」
「さっさとその馬鹿、連れ出しなさい!」
「言われずとも!」
持ち直した甚八は、先に行った十蔵に続いてその場を離れた。