あの日見た夢
「明日花!明日花!」
庭を歩きながら、六郎は彼女の名を呼び叫び探していた。その時、地面が緩みそれと同時に穴が空き、彼はそのまま穴へ落ちた。
「ハハハハハハハハ!!
また引っ掛かった!」
「明日花!!
また、この様な悪戯をして!!」
「引っ掛かる方が悪いんだよーだ!」
六郎に向かってあっかんべーをする明日花……その時、背後からただならぬ殺気を感じ、恐る恐る後ろを振り向いた。そこには、怒りに満ちた優助が腕を組み立っていた。
「随分と、楽しそうですね……」
「と、父さん」
「何度も言っているでしょ!!ここで悪戯をしてはいけないと!!」
怒鳴り声と共に、何かを叩く音が庭に響いた。
「ハッハッハッハ!!」
その話を聞いた幸村は、腹を抱えて大笑いした。
「笑い事ではありません!!」
「スマンスマン!
しかし、六郎を落とし穴に入れるとは、中々やりおるのぉ明日花は」
「若!!」
「そう喚く出ない。
小さい子供がやることに」
「……」
「はぁ……何故、あの様に聞き分けがないのやら」
「全くです。
まるで、もう一人の若の面倒をみている様で」
「来る前は、多少は聞き分けありましたのに……」
翌日……
優助は紫苑から一族の仕事を頼まれ、夕方まで城を開けることとなった。
「明日花も行くぅ!!」
「駄目です」
「行くぅ!!」
「駄目です」
「何で駄目なのさ!?」
「今から行くところは、危険が多くとてもじゃありませんが、まだ小さい明日花には無理です」
「小さくても、刀使えるもん!!」
「そういうことは、僕から一本取ってから言って下さい」
羽織りに腕を通すと、優助は刀を腰に挿し部屋を出て行った。明日花は彼の後をついて行きながら、ずっと文句を言い続けた。
門前まで行くと、六郎に抑えられた明日花は頬を膨らませながら、彼を睨んだ。
「そう膨らんでも、連れて行きませんから」
「ケチ!!意地悪!!」
「ケチで意地悪で結構です。
この子が何か悪戯したら、遠慮なく怒って下さい。殴っても構いません」
「そう怒るでない」
「甘やかさなくていいです」
軽くため息を吐くと、優助は森から微かに聞こえる音に気付き、目を向けた。
「着ておるのか?」
「一応」
腰に下げていた面を、優助は顔に着け森の方へと行った。
「優助のバーカ!!」
そう叫ぶと、明日花は六郎から離れ町の方へと行った。
「明日花!!」
「しばらくほっておけ。
父親に構って貰えなくて、拗ねておるのだ」
「……」
町へ来た明日花……道を歩き、やがて畔道へ出た。ふとある風景が目に入った。畑で何かを収穫する農民達。草の束を持った女性に、明日花は声を掛けた。
「なぁ!」
「ん?
アンタ、誰?見掛けない顔だね?」
「山本明日花!
あそこの城に父さんと住んでるの!」
「上田城……あぁ!真田の若君が居るあの城」
「知ってるのか!?」
「時々、手伝いに来るんだよ。若君様」
「手伝い?何の?」
「米の収穫」
「……なぁ!明日花もやっていいか?」
「別に構わないけど、キツいよ?」
「平気!これでも、いつも刀と組み手で体は鍛えてるから!」
靴を脱ぐと、明日花は一目散に田んぼへ入り駆けて行った。女性は慌てて、彼女の後を追い駆け手順を一つ一つ教えていった。
しばらくして、六郎が目を離した隙を狙い、幸村は畑へ来た。すると、農民達の笑い声が聞こえ彼はそこへ行った。
そこには、泥まみれとなった明日花が尻を着き、その様子を見ていた者達が大笑いしていた。
「嬢ちゃん、大丈夫か?!ハハハ!」
「姉ちゃん、さっきから転けてばっか!」
「土が泥濘んで、上手く力が入らないの!」
「お!若君様のご到着だ」
「……あ、幸村!」
「どこに居るかと思えば、ここにおったのか」
「別にいいじゃん。明日花がどこに居ようと!」
「今年は随分と、豊富だのぉ」
「あぁ!」
「幸村!あれ全部明日花が採ったんだよ!」
畔道に積み上げられた米の束を、明日花は嬉しそうに指差しながら言った。
「ほぉ!これはまた」
「一度教えると、すぐに覚えてね。
よく出来たお嬢さんだよ!」
「へへ!」
夕方……泥まみれになった明日花は、自身の靴を持ち幸村と道を歩いていた。
「凄い収穫だったな!」
「そうだな。
皆が丹精込めた米を、儂等はいつも貰っているのだ。感謝せんとな」
「だな!
なぁ、幸村」
「?」
「母さんは信幸に仕えてんだよな?」
「あぁ、そうだが」
「父さんは幸村に仕えてる」
「そうだが……
それが、どうかしたか?」
「明日花は、誰に仕えてるんだ?そうなると」
「ん?」
「だって、明日花は父さんに釣られて幸村の所に来たんだぞ。
じゃあ、明日花の主は誰だ?」
「う~ん、そうだなぁ……
今は、不在かのぉ」
「不在?
いないのか?」
「まぁ、俺に子供が出来ればそいつに仕えることになる」
「じゃあ一生仕えられないじゃん」
「こら、儂はまだそう決まった訳じゃ」
「母さんが言ってた。幸村はまず、女癖をどうにかしないと、一生子供出来ないって」
(子供に余計なことを言いおって)
「……あ!そうだ!」
「?」
嬉しそうな顔をしながら、明日花は先に歩き幸村の方を向くと自信満々に言った。
「真田に仕えればいいんだ!」
「……」
「母さんと父さんは、信幸と幸村に仕えてる。
だから、明日花は“真田”そのものに仕えればいいんだよ!
そうすれば、母さんも父さんも楽できるし、それにまた一緒に暮らせる!」
「良い案だが、なるには相当な時間を削るうえ、優助より強くならなければならぬぞ?」
「そんなの百も承知!
明日花の目標は、二人と同じ立場に立つこと!そのためには、早く強くなって父さんの右腕になる!」
「……」
「待ってろよ!
絶対強くなって、お前と信幸に認めさせて、真田に仕えてやるからな!」
夕日を背に堂々と立つ明日花……その姿に幸村は薄く笑みを浮かべた。
「だが、なる前に悪戯を辞めんとな」
「……見てくれないんだもん」
「?」
「……母さんが信幸の所に行ってから、父さん……
明日花のこと、見てくれなくなったもん。
神社にいた頃、母さんも父さんもずっと、明日花のこと見てくれてた。クナイ投げて、的の真ん中に当たったら、母さん凄い喜んでくれて……刀で一本取ったら、父さん凄い褒めてくれた」
「……」
「でもここに来てから、父さん変わった。
全然見てくれなくなった。城の中にいる刀使ってる奴と組み手して、一本取っても……褒めてくれない。
いつも、違うとこ見て……明日花のこと、見てくれない」
「……寂しいのか?」
「別に、寂しくはない……けど、見てくれないのが嫌だ」
「そうか……
それで、悪戯をしていたのか」
「昔、神主さんと二人が仕事してる間、構って貰えないのが嫌で、姐さん達に悪戯したことがあったんだ。
そしたら母さん、明日花の悪戯に大笑いして、逆に父さんは怒ってたけど……
呆れてため息吐いたら、明日花のこと抱っこしてくれた。
悪戯すれば、父さんまた昔みたいにしてくれるかなって……」
「……?」
門前の方に目を向けると、そこに六郎と優助がいた。六郎は幸村を見つけるなり、怒りのオーラを放ちながら彼により責めた。幸村は逃れようと言い訳を並べるが、どれも通用しなかった。
そんな彼を見ながら、明日花は大笑いした。優助はその光景を見て、軽くため息を吐くと大笑いする彼女の肩を掴み自身に体を向けさせた。
「全く、こんなに泥だらけになって」
持っていた手拭いで、泥の付いた彼女の顔を拭いた。
「集会、母さん来たの?」
「いいえ。
紫苑が来られない代わりに、僕が行ったんです」
「……」
「何をしていたんですか?そんな泥だらけになって」
「畑仕事!幸村と一緒に、米収穫の手伝い!」
「おや、そんなことを」
微笑しながら、優助はある程度泥を拭くと明日花を抱き上げた。彼女は少々驚きながらも、喜び嬉しそうに彼に頬擦りした。
「一族の方に言われたみたいです」
遠くでその光景を見ていた六郎は、一緒に見ていた幸村に話した。
「仕事を熟すのは立派だが、子供のことも考えろと……
彼も、その辺は反省したみたいです。一刻も早く仕事に慣れようと焦る余り、明日花を見ていなかった……
彼女の悪戯が自分への主張だと言うことを、分かっていたみたいです」
「互いを分かっていたつもりが、擦れ違っておったのか……」
照らす夕日の中、明日花は顔を上げ優助を見て笑顔を見せた。彼女に釣られ、優助は微笑を浮かべながら頭を撫でた。
現在……
木の上から、遠くを見る明日花……
「あ~らら、真田丸が壊された」
「ヒョー!スッゲぇ!」
「相変わらず、役に立ちませんね。伊賀と甲賀の忍は」
「そういうこと言わない!」
「頭!あれ!」
仲間が指差す方に振り向くと、その方向に巨大な竜巻が起こっていた。
「デッケぇ竜巻!」
「あれが起きてるって事は……(鎌之介だな)」
「お頭、あれって……」
「合図だ。
全員、戦闘配置に着いて!そっから、攻撃開始!」
「応!」
各々の面を着けると、仲間達は一斉に木から飛び降り戦場へ出た。
「相変わらず、テンション高いね~」
「そう言うお前も、さっきから高ぇじゃねぇか」
「まぁね!
さぁて、お仕事お仕事!」
頭に着けていた面を下げ、明日花は雷之介と共に木から飛び降り、風の如く戦場へ出た。
戦場を舞う瞬光の殺人花……
明日花は、戦場でその名を響かせた。かつての紫苑や優助達のように……