BRAVE10S~二つの力   作:花札

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心地良い風が、少年の髪を揺らした。彼はゆっくりと目を開けた。


「やっと起きた」

「……えっと」

「今日から、あなたの部隊に配属になった光坂一族の光坂紫苑」

「……あぁ。君か」

「パッとしない男ね」

「一言余計です」

「そんなんだから、仲間から見放されるのよ!」

「少し黙ってて貰えますか?」

「そういえば、あなた名前は?」

「……優助」

「優助か……

じゃあ、優だね」

「何故そうなるんですか?」


家族

静けさが漂う戦場……

 

 

そこら中に転がる死体を、一体一体見る優助。彼の後を、紫苑はついて行き辺りを見回した。

 

 

「酷いね……」

 

「こんなの、日常茶飯事ですよ。

 

いずれ、僕もこの人達のように、死ぬんですから」

 

「不吉なこと考えるのね」

 

「僕などいなくとも、部隊は動きます。

 

代わりなど、沢山いますから」

 

「でも、優の代わりはいないよ」

 

「……」

 

 

その言葉に、優助は少々驚いたが再び前を向き、歩き出した。その後を、紫苑は嬉しそうに追い駆けた。

 

 

「ねぇ、少しは笑ってみなさいよ!」

 

「笑ってどうするんですか?」

 

「気持ちが晴々するよ」

 

「しません」

 

「もう……つまんない男」

 

「つまんなくて、結構です」

 

「何でそんなに、張り詰めてんの?」

 

「張り詰めてません」

 

「嘘吐き。顔が顰め面よ」

 

「生まれ付きです」

 

「生まれた赤ちゃんは、皆泣いて笑う顔だけ。

 

顰め面の赤ちゃんなんて、見たことない」

 

「……君、いくつですか?」

 

「十四よ」

 

「……」

 

「あなたは?」

 

「……ヨン」

 

「え?」

 

「君と同い年です」

 

「……嘘ぉ!?」

 

「嘘じゃありません」

 

「てっきり、年下かと……」

 

「年下じゃなくて、本当に良かったです」

 

「……」

 

「あの、君そろそろ別の所に行ってくれませんか?」

 

「え?何で?」

 

「はっきり言って、うるさいし邪魔です」

 

「……何考えてんだが知らないけど……

 

一人にさせるつもりはない!」

 

「……

 

 

君、周りから変わってるって言われません?」

 

「時々言われるわね!」

 

 

二人が喋っている時だった……死体の陰に潜んでいた敵軍が、二人に向けてクナイを投げてきた。

 

優助はクナイをすぐに、刀で弾き飛ばし紫苑を守るようにして、彼女の前に立ち辺りを警戒した。

 

 

「な、何?!」

 

「敵軍です。

 

すぐに戦闘態勢に、入って!!」

 

「言われなくとも!」

 

 

地面に向けて踵落としをする紫苑。すると地面から無数の木の根が生え伸び、死体の陰に潜んでいた敵軍を次々に倒していった。

 

 

「よっし!!命中!」

 

「……君、強かったんですね」

 

「こう見えても、戦場ではこう呼ばれてるのよ!

 

戦場に咲く白い殺人花ってね!」

 

 

笑顔を見せる紫苑……その時、木陰から飛び出してきた敵軍に、彼女は背後を取られてしまった。優助は紫苑を後ろへ倒し、そして敵の攻撃を食らった。

 

血を出しながらも、優助は刀を敵に向けて振り下ろし倒した。それと同時に、彼は口から血を吐き出してそのまま倒れてしまった。

 

 

「優!!」

 

 

紫苑の呼び声が頭に響くのを最後に、優助は目を閉じ意識を失った。

 

 

 

城内……

 

 

傷の手当てをされ、布団に寝かされる優助。その傍らに、紫苑は座っていた。

 

 

「まだいたのか……」

 

「……お頭」

 

「少しは休め」

 

「……私のせいなんです。

 

私が……油断しなきゃこんな事に」

 

「……この男は、そう簡単に死にはせん。

 

 

何せ、山本勘助の血を引いているのだからな」

 

「山本?優が?」

 

「優助は勘助の子として、生きろと親類からキツく言われていたそうだ。

 

だが、それはこいつ自身の負担になっていた。

 

 

負担になるにつれ、子供らしい感情を露わにすることはなくなった……

それと共に、仲間はどんどん彼から離れていき孤立していたんだ」

 

「……

 

私、何も知らなかった……」

 

「誰とも、馴れ合う気など無いのだよ。

 

この子には……誰とも、親しくするつもりも」

 

「……じゃあ、私が親しくしよう!」

 

「話を聞いておったか?」

 

「いいの!

 

あっちが馴れ合いたくないんなら、こっちから馴れ合えばいいんだから!

 

 

それに……」

 

 

眠る優助の顔を見る紫苑。頬を赤らめながら、彼の手を握った。

 

 

「何か、ほっとけなくなった!」

 

 

それから毎日、紫苑は優助の看病をした。

 

やがて彼は目を覚まし、起き上がれるまでに回復した。

 

 

 

布団の上で、書物を広げ読む優助。その時、数人の仲間を連れた紫苑が、障子を勢い良く開けて入ってきた。

 

 

「ヤッホー!!優!」

 

「どうもです!優助さん!」

 

「……帰って頂けますか?」

 

「何よ~。せっかくご飯持ってきたのに!」

 

「いりません」

 

「いらないって……

 

一昨日から食べてないのよ!平気なの!?」

 

「そうですよ!!

 

紫苑さん何て、朝から飯三」

「余計なこと言わないで!!恥ずかしい!!」

 

「食べないと、死んじゃうよ」

 

「食欲が無いんです……もうほっといてくれませんか」

 

「嫌です!

 

無理にでも、食わせる!三月(ミツキ)!夜方(ヨガタ)!」

 

「アイアイサー」

「ラジャー」

 

 

自分の体を抑える三月と夜方を、優助は軽々と庭へ投げ飛ばした。突然飛んできた二人に、他の仲間達は驚き足を止めた。

 

 

「隙あり!!」

 

「ちょっと!うわっ!」

 

 

紫苑に倒された優助は、起き上がろうとしたが彼の上に彼女は跨がり馬乗りした。そして、持っていたおにぎりを優助の口に押し込んだ。

 

 

「ひほん(紫苑)!!」

 

「食べなさい!!」

 

 

おにぎりを一口口にすると、優助は手から水を放ち紫苑に当てた。紫苑は頭からびしょ濡れになり、優助は彼女を退かすと、痛む体を動かして立ち上がりどこかへ行こうとした。

 

 

「……し、紫苑?」

 

「……

 

 

もう!!優助!!何一人、殻に閉じ籠もってんのよ!!」

 

 

足を止める優助は、鋭い目付きで紫苑を睨んだ。濡れた髪を上げながら、彼女は仁王立ちになり腕を組んだ。

 

 

「怪我したのに、何で仲間に甘えないのよ!!

 

皆、あなたのこと心配してるのに!!」

 

「……嘘を言わないで下さい」

 

「嘘なんか」

「一度たりとも、来たことなんかありません。

 

怪我した僕の所に、仲間など」

 

「……」

 

「母親ですら、死ぬまで来ませんでしたから。

 

どんなに仲間を庇っても、誰も来やしません。謝りにも来なければ、礼にも来ない。いつもそうですよ……

 

怪我が治り、再び戦場に立っても……誰一人、守ろうとも庇おうともしません」

 

 

喋る優助の目から、ポロポロと涙が流れた。その涙を見た紫苑は、腕を崩し彼をジッと見つめた。

 

 

「僕はもう……死にたいんですよ。

 

 

誰からも、必要とされていないなら……とっととあの世へ逝きたいんです!!」

 

 

怒鳴ったと共に、紫苑は優助に抱き着いた。その光景に、三月と夜方は顔を見合わせて驚いた。

 

 

「必要だもん!!

 

 

私には、優助が必要!!だから、死にたいなんて言わないで!!」

 

「でたらめなことを言わないで下さい!!

 

 

どうせ、殺すのが惜しいからそう言って」

「そうじゃない!!

 

初めてだったもん……私のこと、助けてくれたの」

 

「……」

 

「私の両親は、戦場で死んだ……

 

だから、ずっとお頭に育てられた……周りは皆、親がいてその繋がりで、競い合う仲間がいた……でも、私には誰もいない。

 

誰も……誰も……

 

 

戦場に出たってそう!誰も私を助けてくれないし、手助けをしてくれない!!」

 

 

泣く紫苑……その姿を見た優助は、懐から手拭いを出すと、それを紫苑の顔に置いた。

 

 

「さっさと涙、拭いて下さい」

 

「え?」

 

「綺麗な花が、汚くなります」

 

「……」

 

 

そう言って、優助はどこかへ去って行った。去って行く彼の背中を見ながら、三月と夜方は紫苑の元へ駆け寄った。

 

 

「大丈夫か?紫苑」

 

「……」

 

「……紫苑、顔赤いよ」

 

「っ……

 

 

 

 

うるさい!!」

 

 

 

 

数年後……

 

 

夜の空に浮かぶ、満月を眺める優助。そんな彼の元へ、団子が盛られた皿を持った紫苑がやって来た。

 

 

「満月見てるの?優」

 

「君は、花より団子ですね」

 

「団子美味しいよ」

 

「あのねぇ」

 

 

隣に座った紫苑は、皿を置き団子を一つ手に取り口に頬張った。そんな彼女を見て、優助は微笑しそんな彼に紫苑は団子を一つ差し出した。彼はそれを受け取り、団子を頬張った。

 

 

「綺麗な月……

 

こんな月、また見られるかしら」

 

「見られますよ。生きていれば」

 

「昔のあなたなら、絶対言わない言葉ね」

 

「っ……」

 

「固まってやんの!」

 

「紫苑!」

 

「ヒヒ!

 

 

いつになったら終わるのかな……戦」

 

「さぁ。殿方がいる限りずっと続くでしょう」

 

「……

 

私が子供を産むまでには、終わるわよね?」

 

「さぁ」

 

「……まさかと思うけど……

 

子供に、戦場に出ろって?」

 

「思ってません。

 

ただ、いつ終わるかなんて分かりませんよ。

 

 

終わる頃、下手したら主がいないかもしれません」

 

「いるわよ!

 

主、私達の子供が生まれるまでは絶対に生きるって言ってたし!」

 

「……」

 

「あ!その目は、信じてないわね!」

 

「思ってません」

 

「思ってる!!

 

顔にそう書いてあるもん!」

 

「いい加減、大人らしい言葉遣いなさい。

 

お頭さんが言ってましたよ。『いい加減、大人になれ』と」

 

「……もう立派な大人です!

 

皆して、私を子供扱いして!!」

 

「……子供扱いされたくないんですね」

 

「そうよ!」

 

 

そう答えた瞬間、優助は紫苑を抱き寄せ彼女の唇に自身の唇を重ねた。

 

引き離すと、優助は手に持っていた団子を再び口に入れた。ポーッとしていた紫苑は、ハッと我に返り優助をぽかぽかと叩いた。

 

 

「優助!!」

 

「君が大人扱いしろって言ったから、扱ったんじゃないんですか!!」

 

 

「何騒いでんだ?お前等」

 

 

外にいた雷之介は、団子を一本取りながら二人を呆れた目で見ていた。

 

 

「あ、雷之介。

 

まさか、今の見てたの!?」

 

「何をだ」

 

「良かった……見られて無くて」

 

「ちなみに、いつお前等一夜明かすんだ?」

 

「!!

 

雷之介!!」

「!!

 

雷之介!!」

 

 

顔を赤くなりながら、紫苑と優助は悪戯笑みを浮かべる雷之介を怒鳴り、追いかけ回した。




「父さん!父さん!」


その呼び声に、目を覚ます優助。目が覚めた先には、明日花が顔を覗かせていた。


「……何ですか?明日花」

「やっと起きた!

父さん、よく寝てたね!」

「寝てた?」

「うん。お昼食べてしばらくしてから」

「……あれは、夢だったのか」

「夢?何の?」

「別に……昔の夢ですよ」

「どんな夢?!」


興味津々に目を輝かせながら、明日花は優助の脚に手を置き前のめりになった。そんな彼女の頭に手を置きながら、優助は笑みを見せた。


「君が、生まれる前の出来事ですよ」

「聞きたい!」

「今度話します」

「え~!」

「……明日花」

「?」

「……いつまでも、笑顔を絶やさないで下さいね」

「……


うん!」


満面な笑みを見せながら、明日花は強く頷いた。その笑顔は、かつて紫苑が見せていた笑顔と同じだった。

その顔を見て、優助は釣られて笑い明日花の頭を撫でた。
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