「やっと起きた」
「……えっと」
「今日から、あなたの部隊に配属になった光坂一族の光坂紫苑」
「……あぁ。君か」
「パッとしない男ね」
「一言余計です」
「そんなんだから、仲間から見放されるのよ!」
「少し黙ってて貰えますか?」
「そういえば、あなた名前は?」
「……優助」
「優助か……
じゃあ、優だね」
「何故そうなるんですか?」
静けさが漂う戦場……
そこら中に転がる死体を、一体一体見る優助。彼の後を、紫苑はついて行き辺りを見回した。
「酷いね……」
「こんなの、日常茶飯事ですよ。
いずれ、僕もこの人達のように、死ぬんですから」
「不吉なこと考えるのね」
「僕などいなくとも、部隊は動きます。
代わりなど、沢山いますから」
「でも、優の代わりはいないよ」
「……」
その言葉に、優助は少々驚いたが再び前を向き、歩き出した。その後を、紫苑は嬉しそうに追い駆けた。
「ねぇ、少しは笑ってみなさいよ!」
「笑ってどうするんですか?」
「気持ちが晴々するよ」
「しません」
「もう……つまんない男」
「つまんなくて、結構です」
「何でそんなに、張り詰めてんの?」
「張り詰めてません」
「嘘吐き。顔が顰め面よ」
「生まれ付きです」
「生まれた赤ちゃんは、皆泣いて笑う顔だけ。
顰め面の赤ちゃんなんて、見たことない」
「……君、いくつですか?」
「十四よ」
「……」
「あなたは?」
「……ヨン」
「え?」
「君と同い年です」
「……嘘ぉ!?」
「嘘じゃありません」
「てっきり、年下かと……」
「年下じゃなくて、本当に良かったです」
「……」
「あの、君そろそろ別の所に行ってくれませんか?」
「え?何で?」
「はっきり言って、うるさいし邪魔です」
「……何考えてんだが知らないけど……
一人にさせるつもりはない!」
「……
君、周りから変わってるって言われません?」
「時々言われるわね!」
二人が喋っている時だった……死体の陰に潜んでいた敵軍が、二人に向けてクナイを投げてきた。
優助はクナイをすぐに、刀で弾き飛ばし紫苑を守るようにして、彼女の前に立ち辺りを警戒した。
「な、何?!」
「敵軍です。
すぐに戦闘態勢に、入って!!」
「言われなくとも!」
地面に向けて踵落としをする紫苑。すると地面から無数の木の根が生え伸び、死体の陰に潜んでいた敵軍を次々に倒していった。
「よっし!!命中!」
「……君、強かったんですね」
「こう見えても、戦場ではこう呼ばれてるのよ!
戦場に咲く白い殺人花ってね!」
笑顔を見せる紫苑……その時、木陰から飛び出してきた敵軍に、彼女は背後を取られてしまった。優助は紫苑を後ろへ倒し、そして敵の攻撃を食らった。
血を出しながらも、優助は刀を敵に向けて振り下ろし倒した。それと同時に、彼は口から血を吐き出してそのまま倒れてしまった。
「優!!」
紫苑の呼び声が頭に響くのを最後に、優助は目を閉じ意識を失った。
城内……
傷の手当てをされ、布団に寝かされる優助。その傍らに、紫苑は座っていた。
「まだいたのか……」
「……お頭」
「少しは休め」
「……私のせいなんです。
私が……油断しなきゃこんな事に」
「……この男は、そう簡単に死にはせん。
何せ、山本勘助の血を引いているのだからな」
「山本?優が?」
「優助は勘助の子として、生きろと親類からキツく言われていたそうだ。
だが、それはこいつ自身の負担になっていた。
負担になるにつれ、子供らしい感情を露わにすることはなくなった……
それと共に、仲間はどんどん彼から離れていき孤立していたんだ」
「……
私、何も知らなかった……」
「誰とも、馴れ合う気など無いのだよ。
この子には……誰とも、親しくするつもりも」
「……じゃあ、私が親しくしよう!」
「話を聞いておったか?」
「いいの!
あっちが馴れ合いたくないんなら、こっちから馴れ合えばいいんだから!
それに……」
眠る優助の顔を見る紫苑。頬を赤らめながら、彼の手を握った。
「何か、ほっとけなくなった!」
それから毎日、紫苑は優助の看病をした。
やがて彼は目を覚まし、起き上がれるまでに回復した。
布団の上で、書物を広げ読む優助。その時、数人の仲間を連れた紫苑が、障子を勢い良く開けて入ってきた。
「ヤッホー!!優!」
「どうもです!優助さん!」
「……帰って頂けますか?」
「何よ~。せっかくご飯持ってきたのに!」
「いりません」
「いらないって……
一昨日から食べてないのよ!平気なの!?」
「そうですよ!!
紫苑さん何て、朝から飯三」
「余計なこと言わないで!!恥ずかしい!!」
「食べないと、死んじゃうよ」
「食欲が無いんです……もうほっといてくれませんか」
「嫌です!
無理にでも、食わせる!三月(ミツキ)!夜方(ヨガタ)!」
「アイアイサー」
「ラジャー」
自分の体を抑える三月と夜方を、優助は軽々と庭へ投げ飛ばした。突然飛んできた二人に、他の仲間達は驚き足を止めた。
「隙あり!!」
「ちょっと!うわっ!」
紫苑に倒された優助は、起き上がろうとしたが彼の上に彼女は跨がり馬乗りした。そして、持っていたおにぎりを優助の口に押し込んだ。
「ひほん(紫苑)!!」
「食べなさい!!」
おにぎりを一口口にすると、優助は手から水を放ち紫苑に当てた。紫苑は頭からびしょ濡れになり、優助は彼女を退かすと、痛む体を動かして立ち上がりどこかへ行こうとした。
「……し、紫苑?」
「……
もう!!優助!!何一人、殻に閉じ籠もってんのよ!!」
足を止める優助は、鋭い目付きで紫苑を睨んだ。濡れた髪を上げながら、彼女は仁王立ちになり腕を組んだ。
「怪我したのに、何で仲間に甘えないのよ!!
皆、あなたのこと心配してるのに!!」
「……嘘を言わないで下さい」
「嘘なんか」
「一度たりとも、来たことなんかありません。
怪我した僕の所に、仲間など」
「……」
「母親ですら、死ぬまで来ませんでしたから。
どんなに仲間を庇っても、誰も来やしません。謝りにも来なければ、礼にも来ない。いつもそうですよ……
怪我が治り、再び戦場に立っても……誰一人、守ろうとも庇おうともしません」
喋る優助の目から、ポロポロと涙が流れた。その涙を見た紫苑は、腕を崩し彼をジッと見つめた。
「僕はもう……死にたいんですよ。
誰からも、必要とされていないなら……とっととあの世へ逝きたいんです!!」
怒鳴ったと共に、紫苑は優助に抱き着いた。その光景に、三月と夜方は顔を見合わせて驚いた。
「必要だもん!!
私には、優助が必要!!だから、死にたいなんて言わないで!!」
「でたらめなことを言わないで下さい!!
どうせ、殺すのが惜しいからそう言って」
「そうじゃない!!
初めてだったもん……私のこと、助けてくれたの」
「……」
「私の両親は、戦場で死んだ……
だから、ずっとお頭に育てられた……周りは皆、親がいてその繋がりで、競い合う仲間がいた……でも、私には誰もいない。
誰も……誰も……
戦場に出たってそう!誰も私を助けてくれないし、手助けをしてくれない!!」
泣く紫苑……その姿を見た優助は、懐から手拭いを出すと、それを紫苑の顔に置いた。
「さっさと涙、拭いて下さい」
「え?」
「綺麗な花が、汚くなります」
「……」
そう言って、優助はどこかへ去って行った。去って行く彼の背中を見ながら、三月と夜方は紫苑の元へ駆け寄った。
「大丈夫か?紫苑」
「……」
「……紫苑、顔赤いよ」
「っ……
うるさい!!」
数年後……
夜の空に浮かぶ、満月を眺める優助。そんな彼の元へ、団子が盛られた皿を持った紫苑がやって来た。
「満月見てるの?優」
「君は、花より団子ですね」
「団子美味しいよ」
「あのねぇ」
隣に座った紫苑は、皿を置き団子を一つ手に取り口に頬張った。そんな彼女を見て、優助は微笑しそんな彼に紫苑は団子を一つ差し出した。彼はそれを受け取り、団子を頬張った。
「綺麗な月……
こんな月、また見られるかしら」
「見られますよ。生きていれば」
「昔のあなたなら、絶対言わない言葉ね」
「っ……」
「固まってやんの!」
「紫苑!」
「ヒヒ!
いつになったら終わるのかな……戦」
「さぁ。殿方がいる限りずっと続くでしょう」
「……
私が子供を産むまでには、終わるわよね?」
「さぁ」
「……まさかと思うけど……
子供に、戦場に出ろって?」
「思ってません。
ただ、いつ終わるかなんて分かりませんよ。
終わる頃、下手したら主がいないかもしれません」
「いるわよ!
主、私達の子供が生まれるまでは絶対に生きるって言ってたし!」
「……」
「あ!その目は、信じてないわね!」
「思ってません」
「思ってる!!
顔にそう書いてあるもん!」
「いい加減、大人らしい言葉遣いなさい。
お頭さんが言ってましたよ。『いい加減、大人になれ』と」
「……もう立派な大人です!
皆して、私を子供扱いして!!」
「……子供扱いされたくないんですね」
「そうよ!」
そう答えた瞬間、優助は紫苑を抱き寄せ彼女の唇に自身の唇を重ねた。
引き離すと、優助は手に持っていた団子を再び口に入れた。ポーッとしていた紫苑は、ハッと我に返り優助をぽかぽかと叩いた。
「優助!!」
「君が大人扱いしろって言ったから、扱ったんじゃないんですか!!」
「何騒いでんだ?お前等」
外にいた雷之介は、団子を一本取りながら二人を呆れた目で見ていた。
「あ、雷之介。
まさか、今の見てたの!?」
「何をだ」
「良かった……見られて無くて」
「ちなみに、いつお前等一夜明かすんだ?」
「!!
雷之介!!」
「!!
雷之介!!」
顔を赤くなりながら、紫苑と優助は悪戯笑みを浮かべる雷之介を怒鳴り、追いかけ回した。
「父さん!父さん!」
その呼び声に、目を覚ます優助。目が覚めた先には、明日花が顔を覗かせていた。
「……何ですか?明日花」
「やっと起きた!
父さん、よく寝てたね!」
「寝てた?」
「うん。お昼食べてしばらくしてから」
「……あれは、夢だったのか」
「夢?何の?」
「別に……昔の夢ですよ」
「どんな夢?!」
興味津々に目を輝かせながら、明日花は優助の脚に手を置き前のめりになった。そんな彼女の頭に手を置きながら、優助は笑みを見せた。
「君が、生まれる前の出来事ですよ」
「聞きたい!」
「今度話します」
「え~!」
「……明日花」
「?」
「……いつまでも、笑顔を絶やさないで下さいね」
「……
うん!」
満面な笑みを見せながら、明日花は強く頷いた。その笑顔は、かつて紫苑が見せていた笑顔と同じだった。
その顔を見て、優助は釣られて笑い明日花の頭を撫でた。