才蔵の部屋へ来た伊佐那海は、嬉しそうに頷きながら話した。
「さっき町の人が言ってたの!
今夜、花火大会やるんだって!才蔵、一緒に見に行こう!」
「嫌なこった」
「えぇ~!!
一緒に行こうよ~!才蔵!」
横になった才蔵に、伊佐那海は揺らしながら駄々を捏ねた。
城下町……
町を一人歩く優助……その時、風に吹かれて飛ぶ一枚の紙を、彼は拾った。
(……花火大会)
「この上田でやるんですよ!花火!」
声が聞こえ後ろを振り返ると、そこに見覚えのある顔があった。
「……もしや、花代?」
「お久し振りです!隊長!」
「花火職人に成られたと聞いていましたが……
立派になりましたね?」
「ヒヒ!
隊長達も見に来て下さいよ!凄いの打ち上げますから!」
嬉しそうな笑みを見せると、花代は去って行った。紙を見ながら、優助は軽く溜息を吐くとふと昔のことを思い出した。
それは、明日花がようやく立ち始めた頃のことだった。
先程みたいに花代は来るなり、近くの町で花火を打ち上げるから来て欲しいと、やって来た。優助はあまり乗り気では無かったが、紫苑と明日花は乗り気だったため仕方なく行った。
約束の町へ着き、空を見上げた時だった。
“ドーン”
爆発音と共に、空に大きな花火が上がった。
『うわぁ!綺麗!』
『これは凄いですねぇ』
『いいもの見せて貰ったなぁ……
ねぇ、優!』
『?』
『また花火大会があったら、皆で来よう!』
『……
そうですね』
笑みを浮かべた紫苑に釣られ、優助も笑みを浮かべた。二人に釣られるかのようにして、紫苑に抱かれていた明日花は、笑い彼に手を伸ばした。伸ばしてきた手を優助は握り一緒に、花火を見た。
その事を思い出しながら、優助は城へ戻った。
「才蔵!いいでしょー?ねぇー!」
城から出て来た才蔵に伊佐那海は、纏わり付いていた。彼は嫌そうな顔をしながら、聞かぬふりをしていた。
「どうしたんですか?こんな真っ昼間から」
「あ!優助さん!
優助さんも、花火大会行きませんか?」
「花火大会(もう知っていたんですか……)」
「お菓子持って、皆で!
ねぇー才蔵!行こうよ!」
「行きたきゃ、清海達と行け!
俺は忙しいんだ」
「えぇ!!」
「……才蔵」
「?」
「断れなくなるかも、しれませんよ?」
笑みを溢した優助は、そのまま城へ入って行った。その笑みに才蔵は、恐怖を抱いた。
夕方……
町を見渡せる丘……そこに敷物を敷く十蔵と六郎。
「いやぁ、優助!花火大会を教えてくれて感謝するぞ!
酒を飲みながら花火!実にいい」
「仲間から、是非皆さんでと言われたものですから」
(確かに、断れない……)
「珍しいね!父さんが、才蔵達を誘うなんて」
「こういうのは、大勢で見た方が楽しいですから」
「フーン……!
あ!甚と清海!」
三つの酒が入った樽を持った甚八と清海に、明日花は駆け寄った。
二人が樽を地面に置いた時だった。
“ドーン”
「わぁ!上がった上がった!」
「見事な花火だのぉ!」
「こりゃ酒が進む」
「甚、明日花も!」
「明日花!!」
優助に怒鳴られた明日花は、彼から拳骨を貰った。
「何度も言っているでしょう!お酒は駄目だと!」
「母さん飲んで良いって言ったもん!!」
「そうだぞ、優助。
堅苦しい事言うな!」
「言うな!」
「甚八さん!!」
「いいじゃないですか!優助さん!」
「そうだよ!明日花の姉ちゃん、お酒強いんだから!」
「飲んでいる間は未だしも、その後の処理が大変なんです」
「大変?何が?」
「……それは」
“ドーン”
また大きな花火が空に上がった。その花火に、幸村達は見取れ空を見上げた。甚八の傍にいた明日花は、優助の膝に座り、一緒に空を見た。
花火を見ていた才蔵は、ふと後ろの茂みから何かの気配を感じ取り振り返った。生える木々や茂みに降り立つ無数の人影……
その気配に、アナスタシアと佐助も気付き、武器を握ろうとした時だった。
「大丈夫ですよ」
「?」
「彼等は僕の元部下達です。
恐らく、この花火を見に来たのでしょう」
「わざわざ上田に来たのか?」
「この花火自体が、仲間が上げているんです。
その人が声を掛けたのでしょう」
「……」
「皆、出て来て一緒に見れば良いのに」
「あの人達は、陰でこの信濃を守っているんです……
そう簡単には、姿を現しません」
「フーン……
あ!」
空に大きな武田菱の花火と六文銭の花火が、同時に上がった。
「ほぉ、真田の家紋に武田の家紋か」
上田の町にいた雷之介も、上田の町を見渡せる場所から紫苑、町の別の場所にいたお頭達も、その花火を見ていた。
「ねぇ、父さん」
「?」
花火が上がる中、明日花は小声で優助に話し掛けた。
「花火大会またあったら、今度は母さんと一緒に見よう!」
「……そうですね」
「約束だよ!
次見る時は、母さんと父さんと明日花、それに才蔵達!皆でお酒飲みながら!ね!」
笑顔を見せながら小指を出した明日花に、優助は自身の小指を絡ませ指切りげんまんをした。
“ドーン”
上田に上がる無数の花火……
その光景を、離れた場所から才蔵達は眺めていた。
その中には、明日花もいた……彼女は腰に挿していた脇差と短刀を地面に置き、その前に酒が入ったお猪口を置いていた。
「……約束、果たせなかったね。
皆で来ようって言ったのに」
お猪口に入っていた自分のお酒を、飲みながら明日花は打ち上がった花火を見た。
花火の光が照らす幸村達に目を向けた時だった……
彼等の傍に、十蔵にアナスタシア、清海と伊佐那海が共に花火を見ている姿が見えた。
「……!」
何かの気配を感じた……
後ろに懐かしい気配を。振り向くことが出来なかったが、そこには恐らくいる……優助と紫苑が。
(……そうだよね……
父さんが、約束破るはず無いよね……)
「母上ー!!」
声が聞こえハッとした時、先程まで見えていた清海達は消えていた。
駆け寄ってきた髪を結った子供は、明日花に駆け寄ると彼女の膝にダイブした。その後から黒い袴を着た男が、やって来た。
「才蔵達と見るんじゃなかったの?」
「やっぱり母上と一緒がいい!
あ!また上がった!」
上がった花火を指差しながら、子供は嬉しそうな顔をして言った。男は明日花の隣に座りながら、共に花火を見上げた。