東方家族録   作:さまりと

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おはこんばんにちは。さまりとです。
今回は少し長くなってしまいました。キャラの口調は私のイメージなので違和感があったらごめんなさい。
では、ゆっくりどうぞ。


第7話 【働きたいでござる】

 

「ふぁあ。よく寝た」

 

 午前5時半、見慣れない天井の下で信は目を覚ました。伸びをし体の調子を確かめると、布団をたたみ、歯を磨いて顔を洗い、その長い髪を後ろで結ぶ。そんないつもの身支度を整えた。その間、準備を任されている朝食の献立を考え、一連の流れが終わると早速取り掛かった。

 

「おはよー、信」

 

 味噌汁の匂いが漂い始めた頃、家主が目を半開きにして起床する。よたよたと歩き信と同じく伸びをするが、それだけではどうも眠気が飛ばないらしく、一瞬柱にぶつかりそうになった。

 

「おはよう霊夢。もうすぐ朝飯準備できるから先に顔洗ってこい」

「ん」

 

 彼女が戻ってくるまでに仕上げに入る。人数分の皿を取り出し盛り付けていく。目が開いた霊夢が昨日と同じ場所に座ると、味噌汁とご飯をよそい、準備を完了させた。

 

「「いただきます」」

 

 お決まりの言葉と共によく噛み、体に蓄えるようにゆっくりと食を進めていく。霊夢の顔を見ると、薄く笑顔を浮かべていたので口に合ったようで何よりだと信は心の中で思う。

 

「この魚美味しいわね。味付けはなに?」

「お!流石お目が高いな。それは……」

 

そんな、のんびりとした空気で朝食を体に馴染ませていく。それが終わると機嫌のいい霊夢は後片付けは自分がやると慣れた様子で食器を洗い始める。袖をまくり、鼻歌を混ぜながら行う彼女にお茶を入れながら話しかけた。

 

「なあ、霊夢」

「なに?」

「今日人里に行ってもいいか?バイト仕事探したくて」

「別に気を使わなくてもいいのに」

「そうじゃなくて、気がすまないんだ」

「そ。まあ私に制限する権利はないし、好きにしたらいいんじゃない?」

「そうか。じゃ、いってきます」

「気を付けて……って言っても心配ないか。いってらっしゃい」

 

 やり取りを終えると財布だけを持ち今を出ようとした。しかし何か思いついたようで出た直後に顔だけが戻ってくる。

 

「霊夢、さっきのなんか夫婦みたくないか?」

「私の旦那になりたいならさっさと安定した収入を稼いできて頂戴」

「はーい」

 

 しっしと手を振ってその少年を追いやる。彼がちゃんと出発したことを確認すると、彼女は背後の壁に額をぶつける。

 

「……はあ。冗談でもそんなこと言わないでよ。心臓に悪いわ」

 

 額と頬赤く染めた少女は、誰に伝えるわけでもない。そんな言葉を秘かに呟く。

 

 

 

 

 

「昨日ぶりですね」

「おぉ、昨日はケンが世話になったな。今日はどうしたんだ?」

「簡単に帰れそうにないんで、仕事でも探そうかと」

「真面目だな。そういうことなら慧音さんに相談するといい」

「そうですか。ありがとうございます」

「若者よ、頑張れよ!」

 

 そのまま門番の人たちと別れ、取り敢えず寺子屋に向かった。向かう間もきょろきょろとあたりを見渡しながら歩いていくが、結局目的の人物は寺子屋の周りを掃除していた。

 挨拶を済ませ早速事情説明し、何か仕事は無いものかと聞いてみると、丁度いいといった様子である提案を投げかけた。

 

「信、君は勉強は得意な方か?」

「自慢になるが、人並み以上に出来ると思ってる」

「なら話は早い。ここで……寺子屋で働かないか?」

 

 背後にある建物を指し示す。人里は最近人材が豊富になっては来たが、人に教える時間と知識が両立している人物というのは不足しているのだという。

 

「もちろん人を相手にするから十分な報酬は払うつもりだし、悪くない提案だと思うが?」

「断る理由が無いな。ありがたく受けさせてもらうよ」

「なら、さっそく今日から入ってもらうぞ」

 

 二人が寺子屋内に入り、職員室の様な部屋で打ち合わせをする。今日は初めてという事もあるので生徒の名前と顔の認識。授業の主な進め方を認識してほしいとのこと。

 打ち合わせの合間、職員室内を見渡すと慧音の話の通り教員が少ない。その認識が余計に信のやる気を増させた。

 

「そろそろ生徒たちも入り始めるころだし、私たちも向かうとしよう」

 

 慧音と信が並んで教室へ向かっていくと、ちょうど着いたところで見覚えの人物と鉢合わせた。信の数少ない人里の知り合いであるケンだ。

 

「信さん!どうしてここに?」 

「色々あってな、今日からしばらくここで働くことになった」

「ホントですか!?」

「ああ。ほら、もうすぐに授業が始まるんだろ?早めに準備しとけ」

「はい!」

 

 ケンが教室に入り、それに続こうとするが慧音に肩を掴まれ止められる。どうにもここには好奇心が旺盛な生徒が集まっているから、いきなり入っていくと収拾がつかなくなる可能性があるらしい。だから最初に紹介するためタイミングよく入って来て欲しいとの事。

 信が了解の意を伝えると彼女は教室に入っていく。幼さを感じる元気な挨拶が聞こえ、先ほどまで賑やかだった教室が静かになった。

 

「さぁ、授業を始めるぞ。が、その前に紹介したい人がいる」

 

 そう言われると信は教室に入っていき、生徒達に体を向けた。そうしてみると人間の子の他に明らかに人間じゃない子もいた。羽が生えてたり、猫耳だったり。

 

「今日からしばらくの間、慧音と一緒にみんなに教えることになった明渡 信だ。よろしくな」

「分からない問題があったら彼にも聞いてくれ」

「「「はーい」」」

「フンッ!天才のあたいには必要ないわね!!」

「チルノちゃん、うるさくしちゃダメだよ」

 

 氷の様な水色の髪の少女が騒ぎ始めると、その隣に座っているうっすら透けた大きな羽を生やした少女がそれを注意する。今の会話だけで信は青い方は多分バk……頭が弱いと確信した。

 

「よし、じゃあ始めるぞ」

 

 最初は算数の授業だった。長めの文章問題で、ちょいちょいひっかけが入った物。出席表と生徒の顔を見合わせながら出来の方を見ていくと、全体としてはよろしくない。テレビも普及していない幻想郷では文字を読む機会が比較的少ない為か、はやとちりで間違ってしまう生徒が多かった。

 

「ほらここ、もうちょいしっかり読んでみろ」

「え!?あっほんとだ」

 

「頭のなかだけじゃなくて実際に書いた方が分かりやすいぞ」

「は、はい」

 

「こういうときは分けて計算した方が楽だぞ」

「なるほど」

 

 簡単な指摘をすると素直にそれを受け止める生徒が大半であった。しかし大勢集まればそうではないものが必ず一部いるものだ。

 

「ほら、ルーミア頑張れ」

「難しいのかー。眠くなってくるのかー」

 

 言葉の通り、最初は鉛筆を持ち考える姿勢を見せていたルーミアだが、名前以外の欄は全く埋まっていない。

 

「ちゃんとできたら飯作ってやるから」

「本当なのかー?」

「ああ。ちゃんと教えてやるから頑張れ。まずこれはな……」

「そーなのかー……じゃあここはこうなのかー?」

「おっ、いいぞ!そのまま自分だけでもやってみろ」

「わかったのかー」

 

 先程までとは違った様子で問題に取り組み始めた。一問だけ覗いてみると、ゆっくりではあるがちゃんと解き進めている。

 次に信は自称天才であるチルノの出来栄えを伺った。どうやら全て終わらせ時間を余らせているようだ。まさか本当に天才なのかと反省しかけながら答案を覗くと、……酷い有様だった。

 

「……なぁ、君」 

「え!は、はい」

 

 その隣でちょうど問題を解き終えた、先ほどチルノを静めていた隣の大妖精に声をかける。今まで集中していたこともあり少し驚いた声を上げた。

 

「チルノは本気でその回答であってると思っているのか?」

「彼女は正直ですから、ふざけてることはないですよ」

「そうか。ならよかった」

 

 ふざけている訳でも無ければやる気もある。なら、道筋を一つ一つ示せばいいのだ。

 

「よう、天才。もう終わったのか?」

「ふっふっふ。天才のアタイにかかれば、こんな問題ぞうさもないね!」

「流石天才だな。ただ、ちょっとこの問題をみてみろ」

「ん?この問題?」

「この問題で聞かれてることは?」

「野菜がどのくらいで買えるかでしょ?」

「で、お前の回答は?」

「かまくら4つ!」

 

 なんでやねん

 

「おしいな。ホントはそうじゃないんだ。問題の最後を読んでみろ」

「何円で買えるでしょう?」

「そう、この問題では何円で買えるのかを聞いてるんだ。つまり本当の答えは?」

「えっと、人参が80円で、キャベツが170円で、ジャガイモが140円で、買うのはキャベツとジャガイモがだから...310円ね」

「ご名答。流石天才だな」

「でしょ?ほんとにアタイって天才!!」

「よしっ。他の問題も今みたいにやってみろ。」

「うん!!」

 

 今まで書いた回答を一気に消し、再び問題を解き始めた。がりがりと筆圧が強い字を連ねていき、制限時間ギリギリのところですべてを解き終える。

 そして答え合わせは生徒が順番に発表していく方法で、チルノが正しい答えを出すと他の生徒がざわざわと騒ぎ出した。

 

「チルノが問題を…理解した……だと!?」

 

 他の生徒も驚いている。そんなにバカだったのか。

 そんな風に他の授業でもちょいちょいアドバイスしながらその日の授業はすべて終わった。丁度昼時だ。

 

「君はすごいな。ルーミアやチルノがあんなに自分で正解できてたのは始めてだぞ」

「弟も妹いるからな。教え慣れてたんだよ。それと台所借りていいか?ルーミアに飯作ってやんないと」

「構わないが、材料はいまないぞ」

「ちょっと買ってくるよ。そんなに混んだもの作るつもりもないし。なんなら慧音の分も作ろうか?」

「頼もうかな。材料費は私が出すよ」

「悪いな。すぐに準備するよ。ルーミアも呼んできておいてくれ」

 

 材料を買いそろえ、戻ってくる途中で今日何度も聞いた声が聞こえてきた。

 

「新参者のあんたに最強のあたいが弾幕ごっこしてあげるわ」

「これから昼飯作るけど、一緒に食うか?」

「ホント!食べる!!」

「チルノちゃん……」

 

 やはり扱い易いな。大妖精もその素直過ぎる性格を少し残念に思っているようだ。

 

「すいません。私達もご一緒させていただいて。」

「ご飯は大勢で食った方がうまいからな、

「し~ん!大ちゃ~ん!早く行こー!」

「あいつといると楽しそうだな」

「はい、本当に。いい友達に恵まれました」

「多分あいつもそう思ってるぞ。まあ、自覚してないだろうけどな」

「は~や~く~!」

「私達もいきましょうか」

 

 三人で寺子屋に戻り、台所を借りて全速力ででチャーハンとそれに合う中華スープを作った。料理の匂いが漂い始めたあたりでチルノとルーミアの腹の虫が本人よりも元気になっていたのが台所から聞こえた。

 

「「「「「いただきます。」」」」」

「うまいのかー!」

「がふっがふっ!!」

「二人ともそんなに急いだら喉つまらせちゃうよ」

「最強のアタイがそんなこと……ぐっ」

「だ、大丈夫!?はいっ水!」

「クク……見てて飽きないな」

「本当に、毎日飽きないよ」

 

 慧音も実の子どもをみるような目でその光景をみていた。

 ずっと幻想郷に棲み続けるのも悪くないかもしれない。そんな思いが少しずつ芽生え始めた。

 

「「「「「ごちそうさま(でした)」」」」」

「信!そ今度こそ最強のアタイがあんたの実力をためしてあげるわ!!」

「その前に食器洗ってくるよ。ちょっと待ってろ」

「私も手伝おう」「私も手伝います」

 

 後片付けは慧音とだ妖精が手伝った為すぐに終わる。それが分かると待ってましたと言わんばかりにチルノは宙を舞い始める。氷柱の様な羽が日光に反射しキラキラときらめく。

 

「さ、じゃあやろうか」

「信は幻想郷に来たばかりだろう。弾幕ごっこのやり方は知ってるのか?」

「あぁ。昨日魔理沙とやって勝ったよ」

「魔理沙にか!?」「え!?」

「ああ」

「ふ、ふーん。ま、魔理沙に勝てても、最強のアタイに勝てるかな」

「ではその最強の称号を、今俺が頂戴しよう!」

 

 明渡信の幻想郷で二度目となる弾幕ごっこが始まった。

 

 

 

 

 

 

「『怪符』〈破壊光線〉!!」

「うっ!」

 

 あっさり終わった。

 

「これで最強の称号は俺のものだな」

「こ、これで勝ったと思わないでね!絶対いつか最強のショーゴーを取り戻すんだから!!」

「いつでも来い!受けてたつ」

 

 

 

「あいつは強くなれるだろうな」

「妖精って言うのは元々とても弱い種族なんだ。それなのにあいつは努力してあそこまで強くなったんだ」

 

 人によっては持つこと自体が難しい自信を。劣っていることを恨むのではなく成長すること楽しめる。そんな彼女の天真爛漫な姿を、二人は見送った。

 

「そうだ!信、会わせたい奴がいるんだが……まだ時間はあるか?」

「いいけど、会わせたい奴って?」

「私の友人さ。ちょっと待っててくれ」

 

・・・待機中・・・

 

 

「なんだ慧音。行きなり会わせたい奴がいるからついてこいって……うお!なんだこの大男」

「その大男が会わせたい奴さ。ほら挨拶」

 

 連れてこられた長い白髪を結んだ少女は少し面倒そうに頭をかく。

 

「藤原妹紅だ。好きに呼んでもらって構わない」

「明渡信だ。信って呼んでくれ。よろしくな、もこたん」

「ちょっと待て。なんだその『もこたん』ってのは?」

「似合うと思って」

「初対面の相手によくあだ名なんてつけれるな?」

「堅苦しいより馴れ馴れしい方が打ち解けやすいと思ってるからな」

「面白い人間だろ?」

「まあ、悪いやつじゃ無さそうだが……もこたんはやめてくれ」

「さっき好きに呼べって言ったろ?」

 

 言ってしまった事を後悔するように再び妹紅は頭をかいた。そしてそれを訂正しようとしたのか口を開きかけたが、声には出さない。代わりなのかはわからないが、信に右手を差し出した。

 もちろん信はそれに応じ、お互いの手を握り合う。

 

「ま、こっちの生活もまだ慣れてないだろうし、何かあったら頼ればいい。私は向こうの竹林で炭を作って売ってるから、基本は人里かそっちにいるからな」

「渋いな」

「うるせえ」

 

 初対面の二人は何気ない会話を交わす。お互い遠慮のない言葉だが決して気分が悪いわけではなかった。こうして信の交友範囲は幻想郷でもその規模が拡大していくのだ。

 




私は妹紅が一番好きです。

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