東方家族録   作:さまりと

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第30話【増強】

 

 

「ただいま~」

「おかえり。なんか随分疲れてるね」

 

 帰ってくると真、愛、恭助、静が居間のテーブルで勉強会をしていた。各々の得意教科と苦手教科がいい感じにかみ合っているためよく四人だけで勉強会をやっている。

 

「ちょっと異変解決してた」

「へー、えっ!?」

 

 ノートに向かってうんうんと唸っていた愛が、首をグルんと回しキラキラした目線を送ってきた。兄弟の中で東方に一番のめり込んでいるのは恭助だが、幻想郷での出来事を一番楽しみにしているのは愛なのだ。

 

「なに!?なに異変!?」

「本能異変っていうやつ」

「本能異変だあ?」

「そんなんあったっけ?」

「いや……なかったはずだけど……」

 

 そう呟き、顔を見合わせて首を傾げた。思い出そうと目をつむり、再び開けたが全員が首を振る。

 

「もしかしてゲームに登場しないのか?」

「みたいだね。でもまあ、ゲーム通りじゃないのはもうわかってることだし」

「なんか貴重な体験を独り占めしたみたいだな。で、明日その異変の後の宴会やるから1日いっぱい居ないと思う」

「信にいずるいよ。私だって参加したい!」

「「俺だって!」」

「私もです」

「お前ら絶対魔理沙に勧められたら避け飲むだろ?」

「「「「勿論(です)」」」」

 

 即答かよと心の中で思い、突っ込もうとしたところでフッと眩暈がおきた。無双乱武を使ったことによる疲れが全身に来ているのだ。

 

「悪い。今日はもう風呂入って寝るわ」

「あ、ごめん信にい。風呂に入るなら風人も一緒にいれて。あの後すぐに寝ちゃって……」

「わかった……どこだ?」

 

 と聞くと皆一斉にテーブルを指さした。下を覗き込んでみると、テーブルの下に丸くなり寝息を立てている風人がいた。

 

「ほら風人~、風呂入るぞ~」

 

丸くなっている風人の足を引っ張り、ずるずるとテーブルの下から引きずり出す。目を弱く何度もこするが全く開く気配がない、とても眠そうにしていた。

 

「……うん」

「じゃあささっと入ってくるな」

 

 

 

「おぉ~力強くなったな風人」

「うん。いつかお兄ちゃんより強くなるんだ!」

「いいや、俺の方がずっと強いな!」

「僕だって負けないよ!」

「楽しみだ。ほら、兄ちゃんのはもういいから先に温まってろ」

「はーい!」

 

 いつもは男全員で一緒に風呂に入っている為、二人きりで話す機会というのがなかなか無い。お湯を浴びて目が覚めた風人はそう言われると、湯船に飛び込み1から順番に数を数え始めた。

 背中を流してもらっている間信は自分の髪を洗っていたので、弟の声を耳にしながら丁寧に泡を流した。

 

(息子ってこんな感じなのかな?)

『気が早いよ』

 

 妄想を共に突っ込まれ苦笑する。確かに何年先の話になるか……もしかしたら出来ない可能性だってある。どっちにしろ自分の子供のことなど出来てみなければわからない。

 そうして風人の声が60に差し掛かるころだ。

 

『なあ信』

『なんだ?』

『風人の声が途切れたぞ』

「風人おおおおおおおおおおおおお!!!!!湯船で寝るなあああああああ!!!!」

 

 風呂のお湯は泡だらけになった。

 救出した後も起きる気配が無く、仕方ないので信は風呂を出た。流石に完全に眠ってしまった人一人を風呂から寝どこまで送るのは今の体にはとてもつらく、入る前より疲れが出たような気がした。

 

「じゃあおやすみ」

「「「おやすみ」」」

 

 今で勉強を見ながら髪を乾かすと流石に限界が近い。今日は四人より早く寝ることにし自室へと向かった。

 ヨタヨタとした足取りで何とかたどり着くと、先に来ていたコトが目に入る。

 

「主、その霊力はどうしたのですか……」

「ん?あぁ、向こうで人助けをな。結果こうなった」

「あまり無理をしないでください」

「でも、無理をしなきゃ助けられなかった」

「主はそういう人ですものね……ですから私がサポートします」

「どういうことだ?」

「とりあえず寝てください」

「お、おう」

 

 言われるがままにベットに横になる。それを確認すると、コトは犬どころか人間も出せない音を出し始めた。

 

「どうやってるんだ?」

「私の能力です。『癒す程度の能力』とでもいうのでしょうか。全快するには一晩かかりますが。」

「それじゃあお前は寝不足になるんじゃないか?」

「主が寝た後は近くにいるだけでいいので大丈夫です。だから早く寝てください」

「わかったよ。ありがとうな。おやすみ」

「よい夢を」

 

 コトが出す音はとても心地がいい。昔歌ってもらってた子守唄を思い出す。そしてすぐに意識が薄れ、抗うことなく夢の世界に潜り込む。

 

「さあ、話を始めようか」

「俺のことをどうするってんだ?」

 

 いつも通りの明晰夢。しかし今回は今日の他にもう一人いるのだ。ただ、人というには少し抵抗のある姿だが。

 

「一部だけ奪うってのは出来ないんじゃなかったのか?」

「ぬのぼこの剣を通じて紛れ込んだみたいなんだよなあ」

 

 そこにいたのは先程まで戦っていた本能だ。共の時と同じモヤのように漂っていて、今回は色が暗い黄色だ。

 

「あんなに細かくしてくれやがって、しかも本体と切り離されて力を集めることも出来やしねぇ。完全体に……完全体になれさえすれば……!!」

「なんか第二形態のセルみたいなセリフだな」

「で、どうするんだ?ほんとに力がないみたいだし」

「まあ、とりあえず話を聞こうか。お前はなんの妖怪なんだ?」

「……牛鬼。周りにはそう呼ばれてた」

「牛鬼か、それならあの強さも納得だ」

「クソッタレが!完全体になれればお前の体も乗っ取ってやれんのによぉ!!」

 

 黄色いモヤが多きなったり小さくなったりと、正直恐ろしさや威厳は全くと言っていい程無い。むしろクスッと来るような面白さも感じた。

 

「どうする信、ここまで言うなら完全体にしてやったらどうだ?」

「俺の能力じゃ無理だよ」

「私ならできるぞ?」

「え!?」

「『増強する程度の能力』が私の能力だ。言ってなかったっけ?」

「聞いてない!でもまあせっかくだしやってみてくれるか?」

「おう」

 

 共が牛鬼に手をかざして能力を使う。するとそのモヤの密度が増した。先程の吹けば消えるような弱々しさはどこかへ消え、大妖怪にふさわしい圧が空間に広がった。

 

「力が……グハハハハハハハハハハハ!!!馬鹿めぇ!さっきまでのナメた態度膝ついて後悔させてやらぁ!!」

 

 高笑いしながら牛鬼の本能はそのモヤを大きく広げ、信の意識と共に真っ白な夢の世界を包み込もうとした。

 

「……あれ?」

 

 まあもちろん、そんなこと出来るはずもないのだが。

 

「馬鹿めっ!!!」

「どうなってやがる!?なんで支配できない」

「まあ、それはこいつの精神力は半端じゃないからな。他人に支配されることはまずないと思うぞ?」

「なん……だと!?」

「「馬鹿めっ!!!」」

「ん?」

 

 声が重なった。この場にいるのは共と牛鬼、その二人のどちらでもない可愛らしい声だった。きょろきょろと首を振り声の主を探そうとするが、なかなか姿を視界に入れるが出来ない。

 

「上だよ」

「上?」

 

 ゆっくりと降りてきたその人物は、ファンタジーでよく見るエルフのような容姿をした美しい少女だった。

 耳はとがって横に伸びており、、うっすら碧がかった金髪は肩にかかる程度で揺れていた。

 身長は小学校低学年ほど。その割には胸がでかい。

 

「初めまして信、共。私はシルフ」

「シルフってあの?」

「そう!四大精霊、風を司るシルフだよ!よろしくね!ってなんで私がここにいるのかって顔だね?君たち前にネックレス買ったでしょ?あれさ!私はあの中にいたんだ!」

 

 なぜそんな大物がこんなところに……という顔をしていると、余程わかりやすい顔をしていたのだろう。質問する前に彼女は楽しそうな笑顔を浮かべながらそう答えた

 

「でもなんでネックレスに入ってたんだ?」

「昔人間に姿を見られちゃって……そいつ精霊を中途半端にしか見れなかったみたいで幽霊と勘違いされちゃったんだよね……。それで騒ぎになってたら力の強い人間に閉じ込められちゃったって訳」

「四大精霊なのに……」

「本当に困るよね。でも結構楽しんでたりするんだ!人間の素直な面が見れたりするし、こうして君とも会うことも出来たしね!!」

 

 クルクルと信と共の周りを飛び回り、まるで何も悩みなんて無いといった口調で話している。背中から生えている羽はキラキラと美しく、このなにも無い真っ白な空間を少しばかり色付かせた。

 

「それで相談なんだけど、今更あのネックレスに戻るのもあれだし、しばらくここに住まわせてよ」

「断る理由は無いし歓迎するぞ。明渡 信。よろしくな」

「家主がそう言うなら私も問題ない。明渡 共。名前は信からもらった。よろしく」

「やったあああ!!」

 

 天井の無い空間を嬉しさを爆発させるように飛び回っていた。何年いたかは分からないが、あのネックレスの中に一人過ごしていたのだ。誰かと過ごすことが久しく、嬉しかったのだろう。

 

「そういえば、彼はいいのかい?」

「「あ!」」

「忘れてんじゃねぇよ……」

「てか本当にどうするんだ?」

「お前はどうしたい?」

「信、俺はあんたの下に着く」

「急にどうした」

 

 先程とは180度違う願望が述べられたことで信は驚き、共は何か裏があるのではないかと警戒した。しかしそれが本心であることは表情や雰囲気から分かる為、二人の頭の中は疑問で統一される。

 

「さっき支配できなくてあんたの力を探ってみた。とても高度で、洗練されている。それに惹かれた」

「なるほど。じゃあ名前つけないとな」

「名前?」

「だってなんか牛鬼って種族みたいで名前って感じじゃないんだもん」

「はぁ」

「こういうやつなんだ」

「ん~どうしようか」

 

 しばらく考え込んだ末、

 

「よし決めたっ!魔鬼まきだ!」

「どう書くんだ?」

「魔法の魔に鬼と書いて魔鬼。戦ってみたときの強さから強そうな名前にしてみた。どうだ?」

「魔鬼か……魔鬼。気に入った」

「で、また光り始めてるけど……」

「うおっ!こいつは一体なんだ!?」

「前にもこんなことが?」

「私が名前を付けてもらった時もこんな風になってたんだ」

 

話しているうちに魔鬼の姿が変わった。

 

「やっぱりか……」

 

 その姿はボスを人間にしたらこんな感じ、という容姿だった。

 身長は信より少し高く、ごつい。肌は浅黒く、髪は短くに切られた黒髪で、額に小さな角が2つ生えている。

 

「一種の主従関係みたいなのが出来てるね。それで思念体が実態を持つみたい」

「前の宿主みたいな姿になるのは?」

「さすがにそれはわかんないなぁ。まず魂がこんなに入ってる事自体前例がないだろうし」

「そういえばシルフ、お前には名前がないのか?」

「あるよ」

「何て言うんだ?」

「『フェリーチェ』。ディーネがつけてくれたんだ」

「『幸福・幸せ』か……いい名前だな」

「でしょ!って私の名前、イタリア語なんだけど」

 

 どうしてすぐにわかるのか?の表情だ。理由は単純

 

「17歳でも色々あるんだよ」

「イタリア語を覚えることはなかなか無いと思うよ」

「間違いないな。ああ、そうだ。お前たちは能力とかもってるのか?俺の能力の性質上、借りることがあるかもしれないから教えてくれ」

「幻想郷流に言うなら『風を司る程度の能力』かな?」

「なら、俺のは『気配を司る程度の能力』ってところか」

 

 フェリーチェが魔鬼の肩に当たり前のように座りながら何の抵抗もなく教えてくれる。ネックレスを手に入れてからしばらく経過しているので、彼女も信をすでに信用しているのだ。

 その後、三人の能力で一体どんなことが出来るのか、なぜか共とフェリーチェの魔力、魔鬼とフェリーチェの妖力が信の中に流れていることが発覚し、家賃の様なものだから仕方ないといったり等今後に関わる話をしていた。

 

「信、そろそろだ」

「ん、了解。じゃあそろそろ起きないといけないから」

「うん!受け入れてくれてありがとね信!」

 

 自身の中の住人が3人に増え、賑やかになったことを喜びながら目を覚ました。なり始めた目覚ましを24時間の休憩を与え、昨日の疲れが気になったので体を伸ばし、肩を回した。

 

「おはようございます」

「おはよう。ありがとな、体がすごい軽いよ」

「それは何よりです」

「それじゃあちょっと行ってくるよ」

「朝の稽古ですか?」

「いや、その前に行くところがあるんだ。いってきます」

「……無理をし過ぎないでください」

 

 自分の行動を考え、言葉を選び心配してくれるコトの頭を撫で心配はいらないと目で示した。彼女もそれで安心してくれたようで、頭を下げ見送ってくれる。

 目の前の神狼に心の中で感謝をしながら能力を使い、ある人物の居場所へと移動した。同じ間違いを繰り返さないためにも。

 

「朝早くに悪いな。聞きたいことがあるんだ」

「スヤァ……」

 

 時刻は午前4時。もちろんその人物は寝ていた。

 

 




どんどん賑やかになりますね。キャラを出しすぎてステータスがごっちゃになることだけは避けたいです。


明渡 魔鬼 (あけど まき) 190cm 短髪で黒髪
能力:気配を司る程度の能力
妖怪・牛鬼の本能。
自分が手も足もでない人間は初めてで、信には忠誠心をもっている。だが敬語なんて使ったことがないので基本タメ口。
体格がやたらいい。額の2本の角は短いため牛より鬼のように見え、牛鬼の牛要素があまり無い。




フェリーチェ 132cm 碧がかった金色で肩より少し長い Dカップ
能力:風を司る程度の能力
4大精霊の1人:シルフ
実は結構前からネックレスから出ることはできたが、自由にゆらゆらと旅を(漂流)するのが結構気に入っていたためそのままでいた。日本に流れ着いた頃に眠ってしまい知らないうちに幻想入りしていた。
イタズラ好き。性格は愛に似ている。




~~~追記~~~


コト
能力:癒す程度の能力
歌の聞こえる範囲にいれば何人でも癒すことができる。
だが人数や怪我の酷さに関係なく回復には一晩かかる。
代わりに今に息絶えそうな人でも生きているうちに歌を聞かせ始めれば治せる。
誰かを癒している最中も能力は使えるが、きっちり一晩かかる。



明渡 共
能力:増強する程度の能力
なんでも強くしたり増やしたりできる。
フランの破壊衝動を増強させて自分の存在をアピールし続けていたが、全然気付かれなかった。
能力を使わなくてもなかにいるだけで媒体は基本的に狂気に陥る。

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