東方家族録   作:さまりと

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おはこんばんにちわ。さまりとです。
東方家族録では、紅霧異変はまだ起きてません。
それでは、ゆっくりどうぞ。


第2話【博麗神社にて】

「ここが博麗神社です」

「やっとついたか」

 

 ルーミアと別れてからしばらくして、博麗神社に着いた。建造物自体は古く見えるが、庭の手入れもされていて、ありがたみが感じられる。しかし見渡してみても周りに元の世界に戻れそうな装置なんかは見当たらない。

 

「ここからどうやって帰るんだ?」

「ごめんなさい。詳しいことはあまりわからないんです。今日ここには初めて来たもので」

「初めて来たのか。そりゃあ大変だったな」

「本当に信さんが来てくれて助かりました。それでは僕はお賽銭してきます」

「ここに来たのも何かの縁だしな。俺もやっとこう」

 

 続いて賽銭箱の前に移動すると、ケンは本当にお参りだけをしに来たようで、持っていた巾着袋には財布しか入っていなかった。お金を投げ入れ後真剣な表情でしっかりと拝んでいた。

 

「さて、俺も……!?」

 

 すっかり忘れていた。今日、スーパーで買い物をしたときに小銭がきれいに無くなってしまったことを。そしてちょうど二千円のおつりが何故か今じゃ相当レアな二千円札で出てきたことを。その結果、俺の財布に入っているのは、二千円札と一万円札のみ。金額をとるか、レア度をとるか。こういうと時決まってある方を選んでしまう。

 

「諭吉さんを生け贄に捧げる日がくるとは……」

(無事、戻れますように)

 

 家で待ち続けている弟妹達を思いながらしっかり願う。すると、障子が勢いよく開けられる音が聞こえた。目を開け正面を見てみると、お賽銭箱の中を覗き込んでいる人物がいた。赤と白を主体にし、何故か脇のあいた巫女服を纏い、赤いリボンをつけている少女だ。

 

「いくら入れたの?」

「えっと...」

「いくらなの!?」

 

 彼女の必死な様子から隣のケンが完全に怯えてしまっている。安心させるために頭をなでながら一万円を入れたことを伝えると、目の前の少女は拳を硬く握りガッツポーズをとった。

 

「ここの巫女か?」

「そうよ。私がこの博麗神社の現巫女。博麗霊夢よ。あなたには感謝してるわ」

 

と、握手を求めてくる。握手に応じながら自己紹介を返す。

 

「俺は明渡 信。で、こっちは……」

「ケンです」

「信にケンね。よろしく」

「ところで感謝するってどういうことだ?ここの神様はそんなに力があるのか?」

「いえ、ここ最近お賽銭が少なくて本当に生活に困ってたのよ」

 

 お賽銭箱から諭吉さんを救出しようと蓋をおもむろに取り払うと、その瞬間博麗霊夢に手首を捕まれ止められる。

 

「どういうつもり?」

「見ての通りだ。金を意味もなく他人に渡す趣味はない」

 

 手を振りほどき賽銭箱に向かうが、今度は羽交い締めをされ止められる・・・が、それを気にせづ力ずくで近づいていく。

 

「えっ!なにこの馬鹿力。ちょっと待って!話だけ!話だけでも聞いて!!」

「おk。話を聞こう」

「聞き分けいいわね」

「話だけは聞く。納得するかどうかはそれ次第だけどな」

「わかったわ。とりあえず中にどうぞ」

「了解」

 

 中へ通され座っていると、ケンも隣に座って待っている。またあんな危険な場所を一人で歩かせるわけにはいかないので、今は少しばかり待ってもらうことにした。

 

「日本茶しかないけどよかったかしら?」

「大丈夫です」

「あぁ、むしろ好みだ」

 

 淹れたての熱いお茶を一口に含んで口を開いた。

 

「まず最初に、お賽銭がお前の生活費として使われる正当な理由を聞かせてくれ」

「わかったわ。改めて、私はこの博麗神社の現巫女、博麗霊夢よ。博麗の巫女は基本的に害をなす妖怪を退治したり、ここと外界を隔離する結界を管理したり、異変を解決したりといったことをやってるわ。外界っていうのが……」

「俺は外来人で、外界からこの幻想郷に迷い混んだって言うのはケンから聞いた」

「あぁ、あなたやっぱり外来人なのね。服装から何となくわかってはいたけど」

「で、異変っていうのは?」

「簡単に説明すると、誰かが起こした変なことよ。その対価として、お賽銭やお供えものを生活に当てているの」

「ひとつ質問いいか?」

「いいわよ。なに?」

「この幻想郷は弱肉強食なのか?」

「どういうこと?」

「さっきケンが森の中で大量の妖怪に襲われてたんだ。もし、本来それを助けるのが博麗の巫女の仕事だとしたら、職務怠慢ということになるが?」

「それは、多分そこにいるケンがよくわかってると思うけど」

「……ケン?」

 

 促されケンの方に目をやると、彼はうつむいたまま体を震わせている。なんとなく察しはするが、今は彼本人が話すのを待ったほうがよさそうだ。

 

「本当は人里からは一人で出てきちゃいけないって言われてたんです。森には人を食べる妖怪がたくさんいるからって。でも、妹が半年くらいで産まれるって思うと嫌なことばかり想像しちゃうんです。母さんの体に何かあったらどうしようとか、妹が産まれてこられなかったらって。僕にできるのは二人の無事を祈ることだけなので、先生に近くの神社の場所を聞いて来たんです。まだ半年も先のことで他の人に迷惑をかけるわけにいかないので…一人で」

 

 自分の思いをとにかく伝えようと、ただやってはいけないことをした事への罪悪感があるからか、涙をだがしながら言葉を紡いでいた。

 

「そういうこと。基本的は博麗の巫女は妖怪が何かしてからじゃないと動けないの。人間との共存の道を選んでる妖怪もいるからね。もちろん、人里の近くにも妖怪を退治できるくらいの人はいるわ」

「なるほど」

 

出来るだけ静かに。問いかけるような声色でそれを伝えた

 

「今お前がいなくなったらお前の両親も、産まれてくる妹も一生悲しみ続けることになるんだ。もう少し自分のことを周りのためにも、自分のためにも大事にしろ。わかったな?」

「……はい」

 

 頭はいいがまだ幼い。仕方ないことだ。今話をちゃんと理解し、考え、涙を流せるなら今後同じことをしてしまう事は無いだろう。

 

「それで……」

「霊夢でいいわ」

「そうか。霊夢、まずは謝らせてほしい。いきなり疑ったりしてすまなかった」

「別にいいわよ。私にも悪いところはあったし」

「それじゃあもうひとつ。俺は外来人な訳だが、どうしてここに迷い混んだんだ?」

「博麗の結界はたまに緩んじゃうときがあるのよね。そのときに多分来ちゃったんだと思う」

「なるほど。最後に、俺は外界に戻れるのか?」

「えぇ。結界を少し緩めればもどれるわ」

「そいつは良かった……」

 

 心から安堵した。一生戻れなかったらどうしようかと思っていた。やっと戻れる。

 

「早速頼んでいいか?」

「わかったわ」

 

 霊夢が鳥居の近くで時々呟いたりお札を鳥居に貼ったりと、恐らく結界を調整しているのだろう。その作業が終わったのか手招きで俺たちを鳥居の前へ誘導する。

 

「さ、これでいいわ。鳥居をくぐれば外界に戻れるわよ」

「すまないな」

「これも博麗の巫女の仕事だからね」

「信さん」

「じゃあなケン。お前はまだ子供なんだからもっと周りを頼れよ」

「はい!助けてくれて、本当にありがとうございました!」

「霊夢。ケンをよろしく頼む」

「えぇ」

 

 ケンは深々と礼をし、霊夢は手を振って見送ってくれていた。

 二人を背にして鳥居をくぐる。やっと帰れるのだ。心なしか体が軽く、一瞬浮遊感に似たものを感じた。どこに送られたのか周りを見渡し確認すると、先ほど見送ってくれた二人と目があった。

 

ケ「あっ」

霊「えっ」

信「・・・・・・・。」

「ケン。じゃあな。お前はまだ子供なんだからもっと周りを頼れよ」

「え……は、はい。あ、ありがとうございました」

「霊夢。ケンをよろしく頼む」

「……うん」

 

 鳥居をもう一度くぐり、もう一度見渡してみるとやはり目が合う。

 

「「「・・・・・・・」」」

「どうして?」

「よくわからないけど、帰れないみたいね」

 

 一度は希望を与えられ、それは何故かわからないがやっぱり無理という現実を叩きつけられる。

 そのショックからか全身の力が抜けていき、その場に膝から崩れ落ちた。

 




返すわけないでしょう。

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