東方家族録   作:さまりと

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おはこんばんにちは。さまりとです
UAがなんと10000を突破しました。読んでくださっている皆さんには感謝の言葉しかありません。
それでは今回も、ゆっくりどうぞ。


第60話【思惑(裏)】

「フラン、まだまだ能力の使い方がなっちゃいないな」

「むう……もう一回!」

「もうおしまい。20回もやったんだから十分だろ」

「ぶーぶー」

 

 夕食を食べ終えたフランとの弾幕ごっこ。もちろんフランは自分の能力である『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』を使用して様々な攻撃を仕掛けようとしたが、能力に関しては目を潰す寸前に毎回妨害されすべて不発に終わり、スペルカードはすべて完璧に対処されった。20回の弾幕ごっこはすべて信の完封勝利となった。

 

「くぁあ……。俺はもう寝るからな。フランも自分の部屋に戻りなさい」

「ぶーぶー……お兄様、まだ9時だよ?」

「ああ、もう9時だ。フランも早く寝ろ」

「いーやーだー!もっとお兄様と戦りたい!」

「早く寝ないとでっかくなれないぞ?」

「ぶーぶー。じゃあお兄様と一緒に寝る!」

「なら着替えてきなさい」

「はーい」

 

 嬉しそうに返事をしたと思ったら、恐ろしいスピードで部屋を出て行った。もちろん扉は跡形もなく壊れている。

 

「あちゃー……」

『信!』

『ん?なんだフェリーチェ』

 

 フランが出て行ったのと同時に突然フェリーチェがいつもより高いテンションで語りかけてきた。こういう時は大体何かに付き合うことになる。

 

『寝たらクトゥルフ神話TRPGやろう!!』

 

 少し前に何か面白い遊びがないかと聞かれ、HDDが何もないためいろいろ都合のいいクトゥルフ神話TRPGを勧めた。結果としてフェリーチェと共が特にドハマりして最近は寝た後、明晰ルー夢でいつもメンバーは変わるがセッションをしている。

 

『お前ほんと最近そればっかりだよな。毎回発狂するのに』

『面白い物は何があっても面白いの!それと今日は全員参加するって』

『KPは?』

『信!』

『はいはい。じゃあ今日は6人もいるから……大スケールのヒューマンドラマが楽しめるシナリオにしてやろう。キャラシは作っておいてくれ』

『やった!じゃあまた寝た後でね!』

 

 と言って連絡を切った。寝たあとでと言うのは少し変かもしれないが……そこはご愛敬。

 そなこんなでパジャマに着替え、寝る準備を進める。

 

「出来た!!」

 

 といつもの勢いで戻ってきたフランは寝巻きに着替え、右手には最近のお気に入りのぬいぐるみを抱き抱えている。

 きちんと部屋に入りきったところで扉を直し始める。直した瞬間にぶっ壊されたんじゃなんか嫌なのだ。

 

「よし……寝よう。そろそろ俺が限界だ……」

 

 体力には自信のある信ではあるが、明らかに目が細くなっている。何分、今日は無双乱武を使ってはいるためその時点で一旦体力を使い切っている様なものなのだ。加えてフランとの20連戦の弾幕ごっこだ。疲れ具合で言うと全力でシャトランをやった後、100mダッシュを20本。それを朝昼晩やったようなものだと思ってほしい。

 電気を消しベッドに倒れこむ。それに続けてフランも潜り込みもぞもぞと信の体の上に収まった。

 

「そこに寝んのか?」

「うん。ここがいい」

「そうか。お休みフラン」

「お休みなさい。お兄様」

 

 電気を消し一度深く呼吸をし完全に眠ろうとする。

 

「ねえ、お兄様」

 

 そこでいつものテンションの高い声とは違い、何かを考え込んでいる様なフランの声が彼の就寝を中断させた。

 

「ん?」

「あの……ありがとね」

「何だ急に改まって」

 

 突然のことにキョトンとした顔で頭を起こした。共のことならすでに一度お礼は言われたし、その後フランだけに何か特別なことをやった覚えもない。

 

「ちゃんとお礼言っておかなきゃって……ずっと思ってたの。あの時、私と一緒に来てくれたこと」

「あの時?レミリアを説得しに行った時か?」

「うん。たぶんあの時、私一人だったら結局お姉様のところに言ってなかったと思うの。あの時はまだどうしても怖かったし……」

「……」

「あと、外に出るキッカケをくれたことも」

「外は楽しいか?」

「うん!あの日からね?どんどん楽しみが増えていくの!」

「ほお……例えばどんな?」

「例えばチルノはどんなに惨敗しても私を怖がったりしないの。いっつも『弾幕ごっこよ!アタイがサイ……信の次にサイキョーだってこと今日こそ証明するんだから』って言って。そしたら大ちゃんが『それって最強って言わないんじゃ』って冷静に突っ込んだり」

「うんうん」

「あとね、慧音先生はたくさん初めてのこと教えてくれるの。でも先生の頭突きはもう食らいたくないなあ。すっごい石頭なんっだもん」

「確かにあれは痛いな」

「紅魔館のみんなとも前と全然違ってね、パチュリーは図書館のいろんな本を見せてくれて魔法も教えてくれるし、美鈴はいつも私の相手をしてくれて……近接だとすごい強いのに離れたら何もできなかったり。咲夜も今は私に色んな事を話してくれるの。何が食べたいか?とかね。それに…お姉様も。たまに皆に弄られて半泣きになるくせに、私たちの事をずっと考えてくれてるのも分かる。……本当に……本当に私は今まで何も知らなかったんだ。って思ったの」

 

「それとね。今みたいになれたのはやっぱりお兄様のお陰なんだって、皆言ってる。前の私じゃどうしても身構えちゃうって……」

 

 残酷ではあるが、誰もが少し前のフランを知っていたらYESと答える事だろう。生きるものとしての当然の考えだ。それほどに前のフランは危険だった。

 

「それでね?やっぱりちゃんと改めて言うべきだって、私が思ったの。だから……」

 

 伏せていた顔をあげ、まっすぐ目を見て彼女は言った。

 

「ありがとうお兄様。私今、スッゴい幸せ」

 

 その顔は、ただただひたすらに純粋な笑顔だった。見るものすべてに好奇心を抱き、明日に希望を見ている様な。

 

「そいつは良かった」

 

 正直な話、彼はずっと心配だったのだ。外に連れ出したのは事はフランのストレスになっているのではないか?共を抜き取ったことで今と前の自分にギャップを感じて苦しんでいたりしないか?などと。ずっとかかっていた肩の荷が下りたような気がして、彼は安心できた。

 

「ねえ、お兄様」

「どした?」

「私……いつか共ちゃんを受け入れられるかな」

「……それは分からないな。どうなるかはお前次第だ」

「うん。……やっぱりそうだよね」

「でも、だ。お前がいつか共を受け入れたいって気持ちがあるんだったらきっと大丈夫だよ。人生は長い。ゆっく頑張っていけばいいさ」

「うん。……ありがと」

 

 分からない。そう口では言ったが、心の中では確信していた。どれだけ時間がかかろうと、どれだけ困難に見舞われようとも、フランは共を受け入れることが出来ると。また一つ、フランの思いを聞いたおかげで肩が軽くなったような気がした。

 

「さあ、早く寝よう」

「ねえ、お兄様。お願いしてもいい?」

「ん?」

 

 今度はなにかと思い再び顔を上げる。正直かなり眠いがフランが自分に妹として信頼を寄せてくれているのだ。寝不足になってでも願いを聞こう。

 

「子守歌……歌ってくれない?やっぱりまだ眠くないや」

「お安い御用………………♪♪♪」

 

 その歌声は……どう説明しようか。もし聞いたとしたならいい歌声だとは思わないだろう。はっきり言ってうまくはない。綺麗というわけでもない。ましてや聞き入るようなものでもない。

 だが、彼女は心地よかった。川などにに行けば必ず聞こえる水の流れる音のように。外に出れば必ず聞こえる動物達の話声のように。耳を塞いだ時の静寂のように。常にこの空間に存在している空気の流れる音のように。

 何の違和感も感じず、何も考えず、何も思わず、ただ、その歌を聞き流していた。ただ、ふわふわとした心地よさを感じていた。

 そして、眠った。信が醸し出す安心感と、彼の歌の心地よさを全身に感じながら、彼女は眠った。恐らく自分でもいつ眠ったのか分からないだろう。

 

「……zZZ」

 

 そして、信も寝落ちした。恐らく自分でもいつ眠ったのか分からないだろう。フランが寝たことを確認したのか……または感じ取ったのか。

 歌が止まり、その部屋は静寂に包まれた。その何もない空間で、ただぐっすりと、二人の兄妹は眠り続けた。

 一時間後、二人の来客が訪れるその時まで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~約一時間後~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フッフー。今日こそは発狂しないで信のシナリオを攻略して見せるぞ」

 

 と、リビングのテーブルの上にキャラシ、ダイス、ジュース、お菓子を準備したフェリーチェがムフフと浮かれまくっている。

 

「随分と張り切っているな、フェリーチェ」

「旦那も知ってるでしょ?信が作るシナリオはいちいち面白いからね。だから張り切りすぎるくらいでちょうどいいんだよ!」

「それもそうですよ旦那。……そういえば信殿、今日はずいぶん遅いですね。もうそろそろ22:00ですが」

「あれ?ホントだ」

「まあ見てみればわかるでしょ~」

 

 と、ノームはテーブルの上に置かれたリモコンTVを付ける。もちろん何かの番組が映るわけではなく、信を客観的に映したリアルタイムの映像が流れるようになっている。それを付けてみるが…… 

 

「真っ暗じゃねえか……ん?」

「信……もしかして……ノーム、暗視モードに切り替えてくれ」

「おっけー。ポチっとな」

 

 リモコンに置かれている一つのスイッチを押すと画面が切り替わる。そうすると、見づらくはあるがしっかり目視できるくらいの映像が画面に映し出だされる。

 

「ん?寝て……るね」

 

 そこに移ったのはベッドの上で気持ちよさそうに熟睡している信の姿だった。一定のリズムで深く行われる呼吸から、彼の睡眠状態は安眠の一言に尽きるだろう。

 

「あっちゃ。やっぱりか」

「やっぱり?共、何か知っているのですか?」

「ああ。たぶん信は寝落ちしたんだ」

「寝落ち……とは?」

 

 ディーネの言葉とともに今日以外の面々は首をかしげる。妖精や妖怪がそうそう見る事でもないだろうし。

 

「人間って疲れがたまってたりだとか、ふと気を抜いた時だとか自分の意志に関係なく寝ちゃうことがあるんだよ。それが寝落ちだ」

「で、さっきのやっぱりってのはなんなんだよ?寝落ちしたらなんかあんのか?』

「信はな、寝落ちしたらこっちに来れないんだよ。こっちとは別の空間で普通に夢を見て、朝を迎える。毎回、寝落ちしたときは六時間半ぴったり寝るんだ。それまで起きることはそうそうない」

「って、ことは……」

「今日、信はKP出来ないな」

「ええ!ちょっと信!!起きてよ!」

 

 ガタガタとTVを乱暴に揺さぶりながら画面に向かって叫び続ける。が、信の表情は安眠のまま変わる事は無い。すやすやと気持ちよさそうに寝ているばかりである。

 

「起ーきーてーよー!!!」

「あ?誰か来たみてえだぞ?フェリーチェ、どけ」

 

 人の気配を誰よりも敏感に感じ取ることが出来る魔鬼が何かを感じたようで、彼の言葉に渋々画面から離れ、ソファにズボンと無駄に勢いをつけて座りこんだ。ほほを膨らまし分かりやすく不機嫌になっていた。

 

「この方々は……咲夜さんと美鈴さんですね。何か言い争っている?ようですが……」

「それに何なんだろうね二人の恰好。お風呂上りなのかな~」

 

 画面に映る二人のバスローブ姿の少女は、部屋に入ったあたりで何か言い合いをしたかと思うと、美鈴は急にそのまま出ていこうとした。

 

「何を話しているかわからんな」

「じゃあ音量あげるよ~」

 

『(そう。『夜這い』とは『夜』に『這い』、寝ている相手気付かれない様にする行為だと思われるわ)』

『(さ!流石咲夜さん!!)』

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 あげた音量から聞こえたとんでも発言が、その場の全員を固めた。

 

「この娘たちは何を言っておるのだ……」

「こんな格好してるし、大方夜這いでも仕掛けに来たんだろ?レミリアに焚きつけられたってところだと思うが」

「冷静に分析してる場合かよ」

 

 そんなこんな言っていると、咲夜がバスローブをするりとその場に落とした。もう彼女の身につけられているものは下着のみとなった。

 

「うわめっちゃエロい下着つけてる!!」

「スタイルもすごくいいですね」

「ふむ。無駄に痩せすぎてるわけでもなく肉が付きすぎてるわけでもない」

「普段からちゃんと食べてちゃんと動いてる証拠だね~」 

 

 と四大精霊は各々の咲夜のプロモーションに関する自分の見解を述べていく。フェリーチェはどこから取り出したのか、【93】と書かれた札を掲示していた。

 

「揃いも揃って何してんだよ……」

「評価……だが?」

「真面目な顔して答えんじゃねえよ!」

「フェリーチェ、その数字は?」

「咲夜の体の点数。非の打ち所がないほぼ完璧なプロモーションと言っても過言ではないね」

「なんかデジャブを感じるが……」

 

 そうしている内に今度は美鈴がバスローブを脱ぎ捨てた。四大精霊(審査員)の評価は……

 

「でかいな」

「でかいね~」

「でかいですね」

「【でかい】」

 

 満場一致ででかいの一言だった。何がとは言わないがでかいの一言だった。フェリーチェの得点版も【でかい】とだけ書かれており何も言わない。

 

「「……」」

 

 なんだか取り残される感じのした魔鬼と共。精霊とはこんな奴等ばかりなのかと呆れながらも、確かに思うところがある。

 

「でかい」

「でけえな」

 

 何がとは言わないが、二人も精霊たちと同じ感想だった。

 

「ですがこのままだと本当に信殿は寝取られてしまいますが……止めなくてもいいのですか?彼今、起きないのでしょう?」

 

 皆の表情が少し変わる。責任感の強い信のことだろうから、このままだと明日の朝、起きた瞬間から心情になるか大体わかるだろう。

 

「まあ、その辺は大丈夫だ」

 

と共は断言する。今のところ大丈夫そうな条件は一つもないが……

 

「なんで?信って今何をしても起きないんでしょ?」

「それはこっちからの話。外側からの刺激だったらいつも通り結構敏感だぞ。それに……」

 

 二人の乙女が信の体に触れようとした瞬間、掛けられていた布団がめくれ上がる。

 

「今はフランが一緒にに寝てるからな」

「ああ……ダブってた気配はフランのだったか」

 

 わかりやすく画面の中で慌てふためいている。なんというかタイミングが悪かったというか運が悪かったというか。

 

「でもまだ起きないね~」

「まあ今日は無双乱武使ったからな。いつもと疲れのレベルが違うから仕方ないさ」

『んあ?』

「っと、お目覚めのようだ」

 

 皆画面を同時に見ると、うっすらとだが確かに目が開いているのが分かった。

 

「しーん!!起ーきーてー!!!」

「残念ながら寝ぼけててもこっちの声は聞こえないからな。目と口以外は寝てるようなもんだから」

「器用なものだ」

『また雷でも落ちたのか?愛、静』

『『え?』』

『ほら、はあく来い』

 

 二人の半裸の美女を自分の眠るベッドに連れ込む映像が画面に映し出される。字面はひどいが……まあ……寝てるからセーフでしょ。

 

「おーきーて!!」

 

 先程より強く連続でTVをガタガタガッタン!と揺らしまくる。そんな健闘が報われる事は無く……

 

『スゥー……』

「一瞬で寝やがった……」

「まあ、もう朝まで起きる事は無いな」

「しいいいいいいいん!!」

 

 その場に崩れ落ちた。今日のセッションを誰よりも楽しみにしていたフェリーチェだ。見た目のコミカルさとは裏腹に内心かなりショックを受けていることだろう。

 

「まあまあ、今日は私がかわりにKPをやるから気を落とすな」

「ホント!?やった!」

 

 先程のリアクションはいったい何だったのかと言いたくなるような態度の目まぐるしい変化。まあドハマりしてるしね。仕方ないね。

 

「そういえば共がKPというのは初めてだな」

「まあ今までディーネや旦那が進んでやってくれてたからな。そのせいで自作シナリオが26個もあるぞ」

 

 何気にTRPG歴がこの六人の中で最も長い共だ。去年の夏、信にTRPGを教えてもらった時から完全にハマり、睡眠も必要としないため暇なときはずっとシナリオを描いていたのだ。

 

「じゃあ皆もうPCは出来てるわけだし、シナリオ名【絶望の先に】早速始めていこう」

「「「「「よろしくお願いします」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあ、最終決戦直前の最後のSAN値チェックだ。今まで少しずつ削るようにやってたが最後ということで思いっきりやらせてもらうぞ。1D6/1D20。それでは最後の運命の分かれ道。各々ダイスロールどうぞ」

 

 祈るように、狙うように、思うように、挑むように、各々の形で覚悟を決めてダイスを振った。絶望に落とされた中で、やっと見つけることのできた一筋の光。ここで発狂してしまったら間違いなく、全ての苦労が水の泡となることをPL達は直感していた。

 

「よし!成功!2の減少だ」

 

 まずは魔鬼が成功。最もSAN値が低かった彼が成功したため皆が少し安堵した。

 

「私も成功です。4減少」

 

 続いてディーネもセーフ。ギリギリではあるが見事発狂を回避。

 

「っく……失敗だ。13減少」

 

 が、ここで旦那が失敗。不定の狂気一歩手前まで一気に減らされる。

 

「あ、僕も失敗……でも1しか減んなかったや」

「なんで1D6より低い数値出してるんだ」

「ダイスの女神さまは僕の味方みたいだね~」

 

 こんなちょっとした奇跡を楽しむのもTRPGの魅力だ。

 そして最後のSAN値チェック。ある意味魔鬼よりも危ないフェリーチェのロールだ。

 

「行くよ……」

 

 全員が息をするのも忘れ、ダイスの行く先を見守る。コロコロと転がりダイスが示した数字は……

 

「…………成…功?やった成功だ!!」

「よかった……」

 

 皆が安堵の息をつく。気が抜けたフェリーチェはそのままの勢いで6面ダイスを振った。だが、TRPGを嗜む者は忘れてはいけない。

 

「あ、6減った」 

 

 ダイスの女神さまは気まぐれだということを。

 一気に全員の顔色が青ざめていくのが分かった。なぜなら皆体験したことがあるからだ。この流れはまずい。

 

「では、旦那とフェリーチェ。アイディアロールだ。成功したら一時的狂気に陥るぞ」

 

 KPの共が目で訴えていた。ここで二人が発狂したら絶望的だと。

 そして、二人はダイスに願いを込め、同時に振った。

 

「1クリ!」「100ファン」

 

 極端!!まあCoCでは稀によくある事。

 

「旦那は正気度が減ったが理解することを本能的に止め、発狂する事は無かった。じゃあフェリーチェ。2D10だ。最初に期間、後に内容な」

「3。だから7ラウンドか。狂気の内容は……6。6ってなんだっけ?」

 

 全員の顔が青ざめた。一時的狂気の6。それは間違いなく、その場に危険をもたらす。

 

「殺人癖、もしくは自殺癖だな。どっちになるかはダイスだ。……殺人癖だな」

「やっべえ……」

「待て、KP、この瞬間から誰が狂気に陥ったか確認できてもいいか?」

「それは幸運だ……と言いたいところだが、全員一度狂気に陥った人物を目の前で見ていることだし気づけていいぞ」

「よし、なら大丈夫だ。今回は精神分析持ちが2人いる。魔鬼、ディーネ頼む」

「「失敗!!」」

「ファ!?」

 

 二人の精神分析はそれぞれ85ある。それが同時に、それも連続して失敗するというかなり予定外の事態に見舞われ、普段絶対出ないような声が旦那から漏れる。

 

「KP、マーシャルアーツ+キック」

「待って旦那!!殺さないで!!!」

「もちろん。KP、ノックアウト宣言だ」

「ロールどうぞ」

「両方成功。ダメージは……16」

「「「えっぐぅ……」」」

 

 現在のフェリーチェの耐久値は12。つまり70の確率でノックアウトは出来るのだ。決して安心できる数値ではないが、ショットガンを所持している殺人フェリーチェが7割で気絶してくれるのなら十分すぎるほど幸運だ。

 

「ノックアウトが出来たか判定を……あ」

「え……」

 

 ノックアウト攻撃というのは現実ではかなり高度な技だ。相手の体の強さと自分の攻撃力がかみ合って初めて気絶させることが出来る。今回は7割で成功だが。しかし、経験者の方々は知っていることだろう。

 

 CoCにおいて7割なんて信用できないことを。

 

出た目は71。CoC名物【妖怪1足りない】の出現である。CoCにおいてはこれもまた、稀によくある事。

 

「待て待て。ノックアウト宣言をしているからダメージは1/3になるはずだ」

「ああよかった。まだ生きてる……」

「旦那、フェリーチェ……それは成功した場合だよ」

「「へ?」」

 

つまり……だ。

 

「旦那のはなった蹴りは、正気度をこの場の誰よりも多く減らしたことが原因だったのだろう。気絶させるつもりだったフェリーチェをその足で、一蹴し、絶命させた。フェリーチェは耐久値-4だ」

「いやああああああああああああ!!!」

「応急手当+医学します!!」

「ロールどうぞ」

「成功……5回復!」

 

 ディーネが焦ったように振ったダイスは、その必死さが女神に伝わったのか見事蘇生することに成功した。そのギリギリの攻防に思わず全員の力が抜けた。

 

「生きてる……私生きてるよ……」

 

 自分の分身である探索者の生存に感動すら覚えていた。だがしかし、忘れてはいけない。

 

「あれ?でもこれって~……」

「自動気絶だな。フェリーチェはギリギリ息を吹き返したが、目を覚ます事は無いぞ。それに攻撃を受けた回数は1回だけだからもう回復もできない」

 

これはあくまで最終決戦前のSAN値チェックであることを。

 

 

「って、ことは……」

「さあ、最終決戦だ」

 

 フェリーチェの疑問を遮るように共は宣言した。さすがにちょっと気の毒だった。

 

「え?」

 

 誰よりも楽しみにしていたフェリーチェの探索者は、最終決戦を前に何もできなくなってしまったのだ。

 

「え?」

 

 他の全員は行動を始める。目の前の脅威を取り除くために

 

「え?」

 

 その後、シナリオ【絶望の先に】は無事ハッピーエンドを迎えた。戦闘やトラップが少し多かったにもかかわらずロストなしでだ。

 しかし、最終決戦を前に……最終決戦のみに全く参加できなかったフェリーチェは、この不完全燃焼をモヤモヤを全部信に八当てることを心に誓った。

 

 

 

 




CoC楽しいよ。みんなやろう


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