「ん……」
日が昇り始める頃、少年は目を覚ました。時刻は午前4時。いつも通り起きているのは動物達だけで、それ以外の声や音は聞こえない……そんな朝。
そして少年は、目を覚ますと同時にある異変に気付く。
「腕の感覚がねえ……しかも両方……」
皆さんも試しにやってみてほしい。寝る前、枕の下に自分の片方の腕を潜り込ませ、腕に頭が乗った状態で就寝する。するとびっくり!次の朝には自分の腕の感覚が全く無くなっています。それが今朝、自分の両腕に起こっていることに彼は気が付いた。
『信、起きたか?』
『ん……ああ。おはよう共。フェリーチェが旦那をぶっ殺して大変だったな。いやー笑った笑った』
『お前寝落ちしてたぞ?』
『……マジ?』
というのも普段明晰夢を見ている彼だが、普通の夢の中での記憶はぼんやりとしており、明晰夢との区別をつけられないのだ。
『ってことはすっぽかしちゃったのか。みんなに謝っておかなきゃな』
『まあ、みんなお前が疲れてるから何も気負う必要はないって言ってたぞ。それに昨日、セッションは予定通りやったしな。私の初KPだ』
『マジかよ……俺もやりたかったな』
『それはまた今度だ。そっれよりもだ、信』
『昨晩お楽しみでしたね』
なかなか聞くことが少ない共の丁寧語。それは基本的に何か共にとって面白いことが起こったことを示す。
その直後、自分の体の腕以外にも違和感を覚えた。それは左半身だ。何かがもたれかかっている様な重量感と、何かを押し付けられている様な圧迫感。それらが目を覚ました信には感じ取れた。最初はフランかと思ったが、彼女はこんなに重くないし、そもそもちゃんと腹部にしっかりと収まっている。
だったらこの違和感の正体は何なのか。そう考えながら首を左へと傾ける。
「は?」
そこにいたのは、心地よさそうに眠る咲夜だった。自分の体を抱き枕のように抱え、安心しきった顔で寝ている。しかも着ているのは下着のみのようだ。
そうして左腕の違和感を確認するためにも首を180°反転させる。今度彼の目に映ったのは美鈴だった。長く美しい髪に見事な寝癖をつけ、自分の腕を枕にしてぐっすり寝ている。しかも着ているのは下着のみのようだ。
「俺が寝てる間に何があったんだよ……」
『二人をベッドに連れ込んだのはお前本人だからな?』
『……また寝ぼけてたか』
『ご名答』
愉快そうに答えるその声は非常にご機嫌なものだ。恐らく昨晩のセッションの初キーパリングがうまくいったのだろうと思う。
「さて、どうしようか。どうやっても起こしちゃうよな」
三人同時に自身の体を基礎に寝ているため、さすがにこのまま誰も起こすことなく自分だけが部屋から出ていくことは不可能なんじゃないか……?と感じた。いろいろ考えた結果
「……zZZ」
彼はもう一度、夢の世界に意識を沈めた。
「よう、色男」
「何が色男だよ」
明晰ルー夢を経由して魂のシェアハウスに入ると、愉快そうにモーニングコーヒーを飲んでいる共だけがリビングにいた。
「他のみんなは?」
「セッションが終わった後、フェリーチェは不貞腐れて、旦那とディーネはシナリオを作るから、魔鬼とノームは疲れたからってみんな自室に戻った」
「そうか。で、初めてKPをやった感想は?」
「あれだ。個人的にPL以上に神経使う。が、非常に楽しめたな」
と、コーヒーに口をつけながら笑った。あまり笑わない彼女が健やかに笑う。昨日のフランの件もあって、なぜかちょっと泣きそうになっていた。
「それは良かった」
「ああ、そういえば、だ」
とってつけたような思い出し方だ。さっきの丁寧語のように、共のこういう口調は大抵何かがある。
「さっき、みんなが気負わなくていいって言ってたと言ったな?」
ドドドドドドドドドドドドドド!!!!と廊下につながる扉の向こうから聞こえる。
「あれは嘘だ」
「うがあああああ!!!!!」
扉がバタン!と開け放たれ、大砲のようにフェリーチェがダイブしてきた。その表情は、泣きべそをかいた近所の小学生のようである。
「しいいいいいんんんんんんん!!!!!!!!!」
「いでででででで!!!!!!」
飛び出してきたフェリーチェは、信の長い髪を両手でかっちり掴み、まるでロデオのようにして直立している彼の体に座り込んだ。
「信!!信!!!信!!!!信!!!!!信!!!!!!」
「ば!フェリーチェ!!髪はやめろって!痛いから!それかなり痛いから!!おい共!なんでフェリーチェこんなことにで!!やめろフェリーチェ!リズミカルに引っ張るんじゃねえ!!」
「まあ、セッションを一番楽しみにしてたってのに、最終局面で自分だけ気絶してたからな。ちょっといじけてるんだ」
「ちょっとってレベルじゃでえ!!抜けるから!抜けるから!!……はっ!!」
「ふぎゅっ……」
その猛攻から逃れるために信は意識を覚醒させた。勿論体重全部を信にかけていたフェリーチェはその場に落ち、間抜けな声を漏らしている。そんな二人のやり取りを見て共は爆笑するのを堪えていた。
「はあ……。これで夢に逃げることは出来なくなった訳か……」
問題が元通りとなる。全員を起こして部屋から出るというのも手のひとつだが、三人とも気持ち良さそうに寝ているため出来ればそれはやりたくない。かといってこんな状況どうすればいいのかと悩んでいると。
「美鈴と俺を入れ替えれればなあ……」
『出来るだろ?』
『どうやって?こっちはガッチリホールドされてるんだぞ?』
『お前瞬間移動出来るだろ』
『それを今やったら三人とも起きるから困ってるんだ』
『いや、美鈴をお前のところに瞬間移動させればいいだろ?』
「………ああ。成る程」
信は自分の能力を普段はDBの瞬間移動のようにしか考えていない。自分のいる座標を誰かの座標に『共有』させることでそれは実現する。だが、彼の能力は『共有する』だけではなく『共有させる』事も出来るのだ。つまり……
美鈴と俺。お互いの座標を……同時に……
ポンッ と二人の位置が入れ替わった。
『お、出来た』
『だろ?』
得意そうにしている共と裏腹に、自分以外の2つの重さが突然加わった美鈴はとても寝苦しそうにしていた。まあ咲夜とフランは心地よさそうにしてるから問題ない。そう割りきり、そろりとベッドから抜け出した。
「(おやすみ~)」
まだ寝ている三人が起きないように挨拶をして出ていく。
その隣の部屋で身支度を整えこの後どうするかを口に出しながら整理していく。
「さて、と。美鈴はまだ寝てるし……久々に一人でやるか」
やるというのは朝稽古である。紅魔館には美鈴がいるため、彼女が起きていれば一緒にやろうと考えていたのだが、寝ている彼女を無理やり起こすのも気が引けるため一人でやることにする。
と、その時彼の頭の中でドドドドドドドドドドドドッ!!!という今日二度目となる音を耳にした。
「(しいいいいいいいいんんんんん!!!!)」
「(いでででででで!!!)」
第二回 人間ロデオが始まった。
その後、フェリーチェに卓をすっぽかしたことを許してもらうために違う種類のパフェを10個準備する約束をした事で、彼女の癇癪は治まった。
「大体信は人間なのにいろいろ出来過ぎるんだよ!」
「別にいいだろ。何も出来ないよりは何でも出来る方が絶対いいんだし」
出てきたフェリーチェをそのまま肩車し、玄関から外に出て門の前につく。流石に人様の家内でやるのは気が引けたので門の前でやることにした。
「ほら、準備できたからそろそろ戻れ」
「今日こそは信のシナリオやるんだからね!寝落ちしないでよ!?」
「はいはい」
絶対だからね?と最後に念押ししてフェリーチェは戻っていった。その直後、「んんんんん!!♡」とうれしそうな声が聞こえたから機嫌はもう大丈夫そうだと思った。
一つの問題がひと段落したところで日課を始める。いつも通りの柔軟から始まり、型の見直し、相手をイメージしたシャドーボクシングならぬシャドー組手と淡々と進めていく。
「そういえば最近あいつらの稽古見てやれてないな。近いうちに顔出すか」
なんだかんだで真面目な集団であるため心配はいらないと思うが、教えるといっておいて放ったらかしすぎるのは責任感がない。
いつ行くかの見当を頭のなかでつけながら、彼は朝の稽古を終えた。
「さて、咲夜もたぶんまだ寝てるだろうし……泊めてもらってる代わりに朝飯でも作るかな……って、幻想郷でも俺やってること変わんねえな」
いつも通りの朝稽古にいつも通り朝食の準備。あまりに変わらない自分の生活リズムにちょっとした面白さを感じながら、彼は食堂へと向かった。
~~~数時間後~~~
静寂に包まれ、閉じられたカーテンの隙間からこぼれる朝日が強くなり始めた客室。本来は信のみが使う予定だったこの客室に本人は居らず、代わりに三人の少女が同じベッドで眠っていた。
「これは……一体……」
意外にも、一番早く目を覚ましたのは居眠り門番こと紅美鈴であった。その理由は実に単純。寝苦しかったのである。体の左半身は現在も熟睡中の咲夜に占領されており、腹部ではフランが気持ちよさそうに寝息を立てている。
「確か昨日は……夜這いにきて……信さんに引き込まれて……/////////」
どうしてこうなったかを自分の記憶から推測しようとすると、一瞬恥ずかしさでどうしようもなく二度寝したくなった。意中の男性に夜這いを仕掛けにきて、そのまま何事もなく就寝する。美鈴は珍しく自分の寝つきの良さを呪った。
「しかしどうしましょうか。もう朝ですし咲夜さん起こした方がいいですよね?……でもこんなに気持ちよさそうに寝てる咲夜さんを起こすのもなんだか気が引けますし……」
毎日門の前に立っているだけの自分と違い、少ない睡眠時間で激務をこなし続けている彼女の安眠を邪魔するのはどうしても気が引けた。間違いなく今起こさなければ後で怒られるだろうが、それでもいいからせめて今だけでもゆっくり眠ってほしい。そう彼女は思った。
「でも信さんはどこに行ったんでしょうか?朝早くから居なかったようですし……咲夜さんがまだ起きてないから朝食を待っているわけでも……ないで…しょう……し!?」
朝食という単語で彼女は気づいてしまった。信は宴会が開かれるたびに料理を担当し、その腕の良さは幻想郷全域で有名になるほどだ。そして彼自身は料理自体が非常に好きであることも。そして彼の性格上、自分だけが何かをしてもらうだけでは気が済まないことも十分にあり得ると。
「まずい!信さんにアレを見せては……すいません咲夜さん、フラン様、少し強引に行きます!」
美鈴は自分の『気を操る程度の能力』を用いて一時的に、少しくらい自分が動いても二人が起きないようフランと咲夜の眠りを深くした。そうして細心の注意を払いながらベッドから抜け出し、二人の眠る体制を楽になるよう整えた。
そして俊敏にその部屋から厨房へと向かった。
「間に合え!間に合え!!間に合え!!!」
自分がこんなにも必死になるのはいつ振りか。そんなこと考える余裕もなかった。アレを見せてしまえば人間である信はこの紅魔館に今後一切近づかないことだって十分にあり得る。彼女はそれが恐ろしく、とても嫌だった。
必死に寝起きの体を動かし、厨房の扉を視界にとらえた。
「信さん!!」
「お、起きたか美鈴。おはよう」
そのまま普段なら絶対にやらない扉バーンで厨房に突入した。そこで目に入ったのはトマトやレタスなどの野菜を扱っている信の姿だった。
「おはようございます!」
勢いのまま挨拶をし、アレのある場所に目を移す。それは紅魔館内でも重要な部類の物の為他とは違い厳重に保管されている。あれがある扉にはまだ、南京錠が付けられている。つまるところ……
「ま、間に合った……」
安心と安堵。その二つが一気に押し寄せて美鈴はその場にへたり込んだ。その美鈴の姿を目にして信はなんとなく彼女の心情を理解した。
「ああ、その扉の先はもう見たぞ」
「え?」
咄嗟に扉の南京錠を再確認する。すると確かについてはいるが、鍵をかけられた状態の時よりも少し下がっているのが分かった。つまり、南京錠は扉に引っかかっているだけで閉められていない。
「え……あの……その……」
言葉が出なかった。どう話せば彼に納得してくれるのか。それが彼女には分からなかった。説明したところで簡単に割り切れるものではない。そんな人間の視点からすると凄惨な光景が扉の先には広がっている。
「咲夜ー、朝食はいつになる……かしら」
「おはようレミリア」
そんなことを話しているとこの館の主が少し寝ぼけた様子で厨房を覗いてきた。未だにパジャマを着ていることから少しだらしないイメージを受けるが、それもまだ咲夜が寝ているためなのだろう。
そんな彼女が信の姿を確認した瞬間、眠気が覚めたように顔つきが変わる。
「見られました」
その短い言葉を発しただけであるが、彼女も美鈴のように理解した。どう説明したものかと困った表情で頭をグシグシとかき、考えがまとまらない様子でいた。
「俺は別に気にしないから安心しろ。ショッキングと言えばショッキングだったけど覚悟はしてたからな」
その言葉で二人は面を食らった。自分たちの検討が全く外れたのだから仕方ないだろう。
「それより二人とも着替えてきたらどうなんだ?美鈴もいくら最近暑くなってきたからってそんな恰好でウロウロするもんじゃないぞ」
そしてその言葉で美鈴は思い出した。自分が今どんな服装であるかを。いや、もはや服とは言えないものしか身に着けていないのだ。一度自分の体を確認し、次に信に目をやった後、再び自分の体に目をやる。
「し!失礼しまああああああす!!!」
その瞬間、顔を真っ赤に染め上げて脱兎のごとく部屋から出て行った。「ははは」と笑う信にやれやれといった表情で未だ曇った表情をするレミリアがこの場に残った。
「レミリアも着替えてきたらどうだ?」
「咲夜が来ないから髪のセットが出来ないのよ」
「ああ。じゃあやってやるからちょっと待ってろ」
そう言うと慣れた手つきで調理を進め、ひと段落したところで二人が別室へと移動し、鏡の前で鎮座したレミリアの髪をとかし始める。
「フ~ンフフンフフ~ン♪」
「随分とご機嫌ね」
「まあな。人の髪いじるなんて妹たち以来だから」
ご機嫌な様子でそのまま目の前の幼女の髪をいつもの状態にセットし始める。
「見たのでしょう?あの扉の先を」
その言葉を聞いた瞬間、信の手の動きが鈍くなる。だが止まることは決してなく、徐々に元のスピードに戻っていく。
「見ない方がよかったか?」
「いえ、見る分には構わないわ。けど……」
「『関わり方を変えないか?』か?」
「……」
無言のままレミリアはうつむく。それは声には出してはいないが肯定を表していた。これは自分だけではなく紅魔館全体に関わる問題である。だからこそ、下手なことを言うことはできなかった。
「さっきも言ったが、あんまり気にしてないからな」
「それは
「それ言われたら答えにくいんだが……」
「あはは」と気まずそうに笑う彼をちらりと見るが彼の心情が読めない。いつもの余裕そうな顔と違い何かを考えるような。
「
「それもそうだよなあ……」
厨房にあった扉の先にある物。それは人肉だ。動物の中でも特徴的な見た目をしているその肉は一見しただけでそれが何なのかが理解できてしまう。この館で育った者、もしくはそれを食べる種族でもなければその光景は見るに堪えない。それを見た
「でも、だ。レミリアやフランだって生きるためにやってることなんだから俺がとやかく言うことじゃないし、幻想郷で人里の人たちを狩るのははルール違反だ。そもそも実際やってたらゆかりんや霊夢が黙ってないだろうしな。それに……」
続ける信の言葉に首をかしげる。
「それに、だ。完璧主義に近いお前が交流が多くなる人間をそんなリスクを犯してまで狩るわけないだろ?」
その言葉を聞き、珍しくレミリアの表情が固まった。呆気にとられたというか、鳩が豆鉄砲を食ったようだとか、とにか驚いていた。そんな間が空いた後、いじられている彼女の頭がプルプルと震え始めた。
「ククク……ハハハ!!その通り、確かにその通りだ。お前はそういう奴だったな」
突然高らかに笑いだしたレミリアを全く動揺せずそのままセットを信は続けた。
「信じてもらえたか?」
「クククク……ええ。何も心配する必要なんてなかったというのもよくわかったよ。ククク……ハハハ」
「よしと。終わったぞ」
そんな感じでレミリアが笑い、信が安心したようにセットを終えると、ガチャリとドアが開き先程出て行った美鈴がその顔をのぞかせた。
「あ、あの……」
「あら、そんなところで覗いてないで早く入ってきたらどう?」
「その……」
「彼はもう大丈夫よ。というか元々心配する必要なんて無かったのよ」
「それはもうぶっちゃけお二人の雰囲気で分かるのですが……その」
なぜかもじもじとしていた美鈴のその態度は何故なのか。レミリアにも信にもわからない。躊躇する理由がどこにも見当たらないからである。そうやってやっと全体を二人のいる部屋へ移す。
「プッ!」
その姿を見てレミリアが吹き出した。見たのは姿ではなく、頭だけなのだが。
「アハハハハハハハハ!どうしたの美鈴その頭!爆発してるじゃないか!」
「ククク……本当にどうした美鈴……その頭……」
腹を抱えて大笑いするレミリアと笑いを抑えきれない信が笑いを抑えない中で、赤い顔をさらに赤くしながらその跳ねまくった寝癖を押さえつけようとするが、一度手を放すたびにピヨンピヨンと跳ね上がり、それが更に二人を笑わせる。
「ククク……ほらこっち来いよ美鈴、直してやるから」
「むぅ……お願いします」
レミリアと入れ替わり信の前に鎮座し、長い髪をいつもの状態に直していく。
「いつもどうしてんしてんだよ?」
「ナイトキャップで跳ねないようにしてたんですが……」
「にしても自分で出来ないなんてだらしないなあ」
「むうぅ。あ、でも咲夜さんが小さかった頃髪のセット私がやってあげてたので、他の人にやる側なら出来るんですよ!?」
「「言い訳乙」」
「!?」
二人にきっぱり切り捨てられ驚愕の表情を浮かべる美鈴を見てまた笑い出す。そんなやり取りが少し続けられていた。
その後、起きてきた紅魔館メンバーで朝食をとり、今日を過ごしていた。久しぶりにフランと一日中遊ぶ機会が出来たので美鈴やパチュリーを巻き込みながら遊びまくっていた。
「あれ?咲夜は?」
「咲夜ならまだ寝てたよ?」
昼食をとる直前にやられた姉妹のやり取りで皆が気付いた。いつも居るはずの準備をしている咲夜がどこにもいないことに。瞬間咲夜の座標を共有し、その場から突然消える。
「……zZZ」
「お前どんだけ咲夜働かせてるんだよ……」
「あの子が休めって言っても休まないのよ」
昼間近となってもスヤスヤと寝息を立てている彼女の姿から疑問が一瞬で解消される。確かに咲夜なら主のためにと働き続けそうだ。
「まあ、ちょうどいいから起きるまで寝かせておきましょう」
「じゃあ昼飯持ってくるな」
準備にかかろうと厨房に向かおうとしたところで目の前にスキマが現れた。それが現れたら誰が近くにいるのかすぐにわかる為、レミリアは明らかに不機嫌な表情に切り替わる。
「信、あの子たち進展したわよ……ってあれ?」
目の前に現れたスキマとキリッと紫を華麗にスルーし準備が終わっていた昼食を持ってくる。配置された食事をの前で皆が食べ始めたところで再び切り出す。
「ひん、あのほたひひんてんひたわよ」
「口に物入れながら喋っても決まらないぞ?スキマ妖怪」
「進展したって何がでしょうか?」
「霊夢たちだよ。あいつらの異変解決がいいとこまで行ったら教えてくれって頼んどいたんだ。で、どこまで?」
改めて聞き返され、紫が再びキリッとした表情に変わる。口にソースが結構ついているがまあ気にしないでおこう。
「さっき萃香を見つけたわ。私を四人がかりでボコってね」
「へえ、そこまで行ったか」
二人の会話についていけないという様子で二人を交互に見るが、それを気にせず話を続けていく。ニヤニヤと彼にしてはなかなかレアな悪い顔をする信。
「今夜の宴会は楽しめそうだな」
一気に自分の焼きそばを食べつくし、嬉しそうにしているようにその場の皆は感じた。