東方家族録   作:さまりと

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第62話【話さない】

 まったく……結局信の言うとおりになったね。

 

 自らの体を大小に変化させ、萃香は襲いかかってくる弾幕をやり過ごしていた。その最中、信が自分に向けた忠告。それを思い出しながら目の前の3人に目を向けていた。

 

「魔理沙!回り込んで!」

「言われなくても!!」

 

 鬼を覚えてないっていうからちょっと懲らしめてやろうと思ったけど……ったく……本当に厄介だね。それぞれかなりの実力者だってのに。しかも3人同時と来た。……これは流石にきっついねぇ。

 

「妖夢!」

「分かってます!!」

 

 にしてもあの博麗の巫女……何だか随分と殺気だってるねえ。また信がなんかやったのか……っていかんいかん。今は余計なこと考えてる場合じゃない。

「合わせろよ霊夢!妖夢!」

「「言われなくても!!」」

 

 掛け声と同時に3人が己の札を束ね、ミニ八卦炉を突き出し、刀を握り直し、力を込めなおす。

 

「夢想封印!」

「マスタースパーク!!」

「未来永劫斬!」

 

3方向から同時に大技が放たれる。それまでに放たれた弾幕によって動きを制限された為、萃香に逃げ場は残っていなかった。

 

私が負ける……か。これが弾幕ごっこじゃなくて実戦だったら……何てこと考えるのは野暮ってもんなんだろうね。

 

3人の強者の必殺の一撃をその身に受ける寸前、本来であれば彼女の顔に浮かぶのは悔しさ、又は痛みに耐えるめの我慢の表情。もしくは負けを認めるスッキリとした顔であるはずだった。しかし、彼女がしたのはどれでもない。

 

「まったく……いいじゃないか幻想郷。退屈なんてしそうにないねえ……」

 

 口は裂けたように横に広がり、目は爛々と輝く。無邪気さと狂気を感じさせるその表情は、追い詰められている者のそれではなかった。

 そんな表情に3人の少女は、本人でさえ気づかないまま3人の技は萃香を捕らえる。

 大技の衝突による爆発が起こり、今回の異変の首謀者である伊吹萃香は、煙幕の中に隠れたその表情は誰に知られることもなく垂直に落下していく。その速度は増し続け、地面に追突した瞬間巨大なクレーターが出来上がる。地中に隠れたその体は、しばらくの間動くことは無く、勝利した三人は舞い上がった砂埃がはれるまで警戒を続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ……大丈夫か?頭地面に埋まっちまってるぜ?」

「大丈夫よ。自分のこと鬼?だとか自慢げに言ってたし……そう簡単にくたばったりしないでしょう」

「まあ霊夢さんがそういうならそうなんでしょうけど……」

「まあ、これで異変は無事解決だな!」

 

 魔理沙がまとめ、他の二人も納得した様子で頷いた。

 

「さあ!異変が終わったら宴会だ宴会!!早速準備しようぜ」

「あの人には私が言っておきますね」

 

 と妖夢が言うのは、宴会に異変の首謀者を招待することだ。何度やっても幻想郷の住民でもない限りこの習慣に驚くものは多い。だから今のうちに連絡を入れておこうということだ。

 

「いや、それは俺がやっとくよ」

「「「ッ!!!……はあ」」」

 

 突然現れる信に一瞬驚くが、もう慣れたといった感じで三人はため息を漏らす。

 

「なんだか……結局お前の掌の上って感じだな」

「勝って終わったのに……なんだか悔しい感じです」

「ハハ!そう言ってもらえると何よりだ。今回は裏で糸を引いてる感じがして新鮮で楽しかったな。またやってみるか」

「二度とごめんよ。あんたを敵に回すとホント面倒くさいんだから……」

「悪かったって。じゃあ……そうだな……。今日の宴会の準備は俺が全部やっとくよ。それで機嫌治してくれ」

 

 今回のことの詫びも込めてそう提案する。と、三人の表情が一変する。なんだか納得のいかない表情だったはずが、途端ご機嫌に変わっていき、三人でハイタッチを交えていく。

 

「やっぱり信ならそういうと思ったわ」

「なぬ?」

「自分が相手より上の状況だった時大体信は面倒ごとを引き受けてくれると思ったからな。ちょっと三人で一芝居打たせてもらったぜ」

「少し悪いと思いましたが……今回は幽々子様もご参加なされますので」

「げ……」

 

 信の顔から余裕が消える。そして何かを言いかけた途端魔理沙が手で制止する。

 

「おっと!今更協力してくれなんて言わないでくれよ?今回は思わぬ敵のせいで疲れてるんだからな」

 

 揚げ足をとるかのようにニヤニヤと告げていく。そしてその表情は他の二人も同様である。

 

「じゃ!今夜は楽しみにしてるぜ!」

「ええ。絶対手伝わないから頑張ってね」

「それでは皆さん!また宴会で」

 

 ご機嫌になった少女三人はそそくさと自宅の方向へと向かっていく。それを何を言うわけにもいかずただ見送り、その場に呆然と浮いていた。しばらく呆然とし悔しそうに頭を掻きながら今回の異変の首謀者に近づいていく。

 

「はあ……一杯食わされたか。調子に乗るといっつもこうだよなあ。それで、どうだった?霊夢たちの実力は。いった通りかなりやるもんだろ?」

「ぷはあっ!」

 

 問いかけられ、今まで微動だにしなかった萃香が地面に埋まった頭部を自力で抜き出し、再び少量の砂埃が舞う。髪に着いた砂を頭をふるって落とすと嬉しそうな顔を向けて問いに答え始めた。

 

「いやぁ、正直弾幕ごっことはいえあそこまでやられるとは思わなかったよ!多分タイマンでも負けてたんじゃないか?どっちにせよ昔よりも楽しめるってのは間違いないねえ」

 

 嘘を嫌い、強い相手を常に求める鬼らしく、見た目に反した豪快な態度で機嫌よく大笑いし、自分の思っていることをすべてを前面に表す。

 

「いやぁ……こっちに来てよかった。これでまたしばらく退屈しなくて済む」

「ならよかった。じゃあ俺は早速宴会の準備はいらないといけないから行くな?」

「おう!美味いつまみたっぷり用意しておいてくれよ!」

 

 了解だと答えてその場を後にする。なにせあの幽々子が宴会に参加するということだから準備を急がねばならない。ギン一行も来るだろうし余計に多く用意しておかなければならない。さあ、今日は何を作ろうか。紅魔館のみんなも来るだろうし、せっかくだ。幻想郷ではあまり食べることが出来ないものにしよう。

 

「せっかくの大人数なんだ。あれにするか」

 

 

 

 

-----------数時間後-----------

 

 

 

 

「と、いう訳で。異変が無事解決されたことを祝して」

「「「「かんぱーい!!!」」」」

 

 信の号令に合わせてそれぞれが手にしているコップを前へと突き出す。それと同時に大皿に盛られた料理がものすごいスピードで減り続けていく。今回はせっかくだからということで中華の形態の1つ、【満漢全席】を用意した。その為種類も量も相当数作ったのだが……。

 

「ねぇ信?あの熊の手煮込んだやつ食べる前に無くなってしまったのだけど?まだない?」

「ちゃんとまだあるぞ。藍やギンがたくさん仕入れてくれたからな。それはいいんだが、ゆかりん……」

「どうひたの?」

 

 別の料理を口に運び、ほほを緩ませながら返答をする。首をかしげて周りを見渡すと納得したように苦笑いした。

 

「萃香ったら……分裂して料理をキープして……」

「あ!お前最後の一口!!」

「ちょっと待て!それまだ食ってねえんだよ!」

「にゃはは~。早い者勝ちだよ~だ!」

 

 小さいたくさんの萃香が様々な料理を頭の上に乗せた小皿に乗せ、ジンや魔理沙達から楽しそうに逃げ回っている。たまに取り損ねて拗ねている個体もいるが、それすらも愉快そうにしていた。

 

「楽しそうだな」

「ええ、そうね。あんなに笑っているのを見るのは久しぶりよ。最近全然あの子のああいう顔全然見れなかったからうれしいわ。ありがとね、信」

 

 長年の付き合いだという紫が微笑み、感謝を述べながら再度料理を口に含む。普段他の誰かが聞いているときは演技臭い表情ばかり見せる為、信でさえもこういった紫の表情は見ることは中々ない。

 

「ゆかりんっていい女だよな」

「ゴホッ!」

「うお!ほら、水!」

 

 褒められ慣れてない紫は吹き出した。急いで差し出された水を口にすることによって何とか治まっていく。

 

「大丈夫か?」

「大丈夫だけど……急にどうしたの……!?」

「いや、ゆかりんって普通に友達の為に悩んだり色々頑張ったりとかしてるからさ。そういうとこを霊夢や魔理沙にもちゃんと見せたらあんな風に胡散臭がられたりしないのにって思ってな」

「ああ……そういう事」

 

(そういう事サラっと言われるとこっちの心臓が持たないのだけれど!?ああもう!なんでこう今まで私が言われたことが無いようなことを面と向かって堂々と話してくるのかしら私の想い人は!?でもずっとこんな調子のお陰でやっと耐性がついてきたけど……)

 

「見せないのか?霊夢たちに」

「見せなくてもいいのよ。私みたいな(胡散臭い)なタイプがいた方があの子たち()がもっと綺麗に映るでしょ?だから私はこのままでいいの。あなたがちゃんと私を知ってくれてるしね。それに……」

「それに?」

「誰かに何かを隠してる方が、女として魅力的でしょう?」

 

 口元を扇子で隠していつもの調子に戻る。そうしている方がらしいとでも言うように信も笑って答える。

 

「じゃあ、いい女のゆかりんは料理を持ち運ぶのを手伝ってくれないか?」 

「私の能力使っていいから頑張って頂戴。今この料理を味わうので忙しいの……ってあら?」

 

 先程からつついていた料理に再び箸を伸ばそうとすると、皿ごとなくなっていた為空を切った。それに気づいた二人が周りを見渡すと一人の萃香がその皿を頭上に掲げ、にゃはは~となんともご機嫌そうな声を上げながら走り去っていった。

 

「ハハハ。じゃあせっかく許可をもらったことだし、一気におかわりを盛り付けていきますか」

 

 信が指をパチンと鳴らすと紫が操るスキマをいくつも出現させ、空になった皿を回収し再び盛り付けられた料理が配膳される。第一陣を多めに盛っていた為今度は酒と一緒に楽しみながらその量を減らしていく。人間妖怪妖精怪物。そんなばらばらの種族が入り乱れて楽しむ様子を目にして満足げに見ていた。

 

「本当に不思議な光景だな。外界だと絶対あり得ない光景だな。あいつらにも見せてやりたいもんだが……」

「信の知り合いならいつでも歓迎するけど……出来れば私を通してね?」

「そう言ってくれるのはありがたいんだが、タイミングがなぁ。それにどう説明してから連れてこようか」

「ん。ここにいたのね」

 

 二人が話していると別の人物がふと声をかけてきた。その人物も自分の取り皿を手に頬を膨らませており、普段の隙の無い態度とはうって変わり、フラットな口調で話しかける。

 

「ん?なんか用かレミリア?」

「少し運命が見えたからね。一応確認?しておこうと思って」

「確認?」

「あなたじゃないのよ。そこのスキマ妖怪にね」

「あら?コウモリが一体何の用かしら」

「少し癪に障るが、まあ宴の席だから大目に見よう。それでスキマ妖怪、お前妹とかいるのか?」

 

 彼女に妹がいるのかと意外に思い信はちらりと紫に目をやるが、彼女はうつむいてしまって表情がうかがえない。少し不穏な空気を漂わせてはいるが、止めないのであればとレミリアが話を続ける。

 

「まあ突然なんでこんなことを話したかというと、近々外来人がまた迷い込む。その中に……雰囲気なんかはともかく容姿がな、他人の空似とも思えたんだが……どうにも気になってな」

 

 話が一通り終わると思考を整理するように深く息を吐いた。神妙な顔をして何かを考えているようでこの騒がしい空間で三人のみが静寂を貫く。

 そしてこの静寂を破ったのはやはり彼であった。

 

「ゆかりん、()()()()()()()()?」

「ん~と。……少し待ってくれるかしら?」

「だ、そうだ」

「わかった。これ以上は聞かないさ。悪かったな空気を不味くして」

 

 そう言い残して銀髪の少女はその場を後にする。どうやら霊夢たちと一緒に飲むようでそこに加わって飲み直し始めた。

 

「さて、やることも出来ちゃったしここらでお暇させてもらおうかしら」

「ああ。まあ話したくなったら話してくれ。俺はそれまで待ってるからな」

「ありがとう。またね、信」

 

 今度は本人が開いたスキマが現れ、その空間に姿を沈めていった。やはり人付き合いをするからには隠しごとの一つや二つがあるわけだが、実際にあることを実感してしまうと少し悲しい。だからこそ、話してくれることを信じて待つしかない。

 自分にだって、家族にも話していないことが山ほどあるのだから。

 

 

 

 

 




次回は今まで投稿したものを修正した後に上げさせていただきます。
ですので、気長にお待ちください
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