言い訳は後書きにて。
高町なのはは一人歩いていた。
時刻は既に夜と呼べる時間帯でありそんな時間に肩にフェレットをのせた少女がビル街を歩いているのに違和感を覚える者も居たが数瞬後には気にもとめなくなる、そんな人波の中を歩きながらなのはは何かを探すように歩いている。
そして探し物は唐突に見つかった。
「こんな街中で強制発動!?広域結界、間に合えッ!」
街を駆け抜ける魔力、それにいち早く気付いたのはユーノだった。急ぎ結界を張ることにより周囲への被害を抑えるべく行動した。
そして魔力に共鳴し発動したジュエルシードの光の柱が立ち上る。それを目にしてからのなのはの行動は早かった。
「レイジングハート、お願い!」
瞬時に自身のデバイスであるレイジングハートを展開しジュエルシードを封印するために魔力砲を放った。
着弾の後、ジュエルシードの光が収まったのを確認した二人はすぐさまジュエルシードのもとへと飛んでいった。
その数分前、フェイトとアルフ、そしてリュウの三人はとあるビルの屋上から街を見下ろしていた。
事前の探査魔法でこの辺りにジュエルシードがあることは確信していたが正確な場所までは分からなかったのである。
「大体この辺りのはずなんだけど。」
「こんだけ人がいるんじゃ仕方ないがやっぱり面倒だな。」
帰宅中のサラリーマンや買い物がえりの主婦などで混雑している地上をみれば二人の心情も当然のものでありまともに探す気などうせてしまう。
「ちょっと乱暴だけど周囲に魔力を流して強制発動させてみるよ。」
「まった、それはあたしがやるよ。」
「大丈夫か、結構疲れるぞ。」
「このあたしを誰の使い魔だと?それともリュウがやるかい?」
「勘弁してくれ。まぁ魔力切れの俺の面倒見ててくれるんならやってもいいが。」
「あいつらと会う前から一人脱落なんてごめんだね。」
「ふふっ、それじゃあアルフ。お願い。」
「あいよっと、そんじゃあやるとするかね。」
アルフが気合いを入れると全身から魔力が溢れビルを伝い街へと流れていき、その魔力に反応し発動したジュエルシードから光の柱が立ち上る。
それを視認したフェイトは素早くバルディッシュより封印の為の魔力砲を放つ。すると全く同じタイミングで別の場所からも桜色の砲撃が撃ち放たれ同時にジュエルシードへ着弾した。
それを確認したフェイトは相手より先にジュエルシードへ辿り着くためにジュエルシードへ向かって飛行を始め、狼形態となったアルフ、その背中にまたがったリュウが後に続く。
ジュエルシードは活動こそ停止させられたが未だ封印状態ではなくその場に浮遊し続けていた。
三度ジュエルシードの前で相対するフェイトとなのは。ジュエルシード間に挟みこちらを見下ろすフェイトになのはは敢然と叫ぶ。
「フェイトちゃん!この前は自己紹介出来なかったけどわたしはなのは……高町なのは。私立聖祥大付属小学校3年生!今日はフェイトちゃんとお話するために、本気で向き合うためにここにいるの!例えぶつかり合ったって向き合うことから逃げないって、そう決めたから!」
畳み掛けるように言い切ったその言葉にフェイトは目の前にいる少女がもはや今までと違い全力をもって対処しなければならない相手であることを理解した。
「なら、もう遠慮も手加減もできない。ジュエルシードは絶対に譲れないから。」
「うん、フェイトちゃんと本気で向き合うために本気でぶつかって勝つ。勝ってお話をしてもらう!」
こうして少女たちは三度激突する。そしてそれに呼応するかのように地上でも戦いが始まろうとしていた。
「さて、こっちもそろそろ始めようか。」
「あぁ、僕だってやられっぱなしではいられないからね。」
空中での二人のやり取り見ていたリュウとユーノは互いに向き直り構える。
しかし余裕が透けて見えるリュウとは対照的に焦りを隠しきれないユーノ、更に続くリュウの言葉にその焦りは決定的なものとなる。
「アルフ!お前は手を出すな。一対一だ。」
「なっ、大丈夫なのかい!?」
「心配するな、防御やサポートは優秀だがろくに攻撃手段もない相手にそうそう遅れはとらないさ。むしろこの場において最悪なのはバインドで二人まとめてやられること。だからもし俺が負けても無傷のアルフが後に控えている方がやりやすい。」
(これはマズイ、数的有利な状況をこんな使い方してくるなんて。長引けば長引くだけ僕が不利だ。だったら勝機は一瞬、こっちに攻撃手段がないと思っている隙をつくしかない!)
二人の会話をもとに状況を把握し計画をたてるユーノはまだアルフの方へ気を向けているリュウへ魔力を纏い突っ込んでいった。
(来たか、魔力を纏っての突進くらいはあるだろうと踏んでいたがやはりあんな話をされれば速攻で決めるためなんの捻りもなく突っ込んでくると思っていた。そしてそれだけならば対処は可能だ!)
魔力弾の如き状態で突っ込むユーノだったがあと少しで着弾というところで突進の勢いはいなされ別方向へと向けられていた。
「覇王旋衝破ッ!」
投げられたユーノは付近のビルの外壁に魔力を纏ったままめり込んでいた。
その好機をリュウが逃すはずもなく追撃が飛ぶ。
「覇王断空拳ッ!」
放たれた拳はユーノが纏う魔力の壁をこそ破ることは出来なかったが殺しきれなかった威力がめり込んでいたビルの壁を砕きその衝撃でビルはユーノを巻き込みながら轟音をたて崩れ落ちた。
「ちょっとやりすぎじゃないのかい?」
「心配ない、動きを封じただけだ。アレくらいで破れるほど柔な防御じゃないさ。」
やや心配そうに尋ねるアルフにリュウこともなげに答え崩れたビルにめをやる。
その時、二人は言い知れぬ悪寒を感じ振り向くと目に飛び込んできたのはまばゆい光だけだった。
なのはとフェイトの戦いはフェイトがやや押しているもののほぼ互角の様相を呈していた。
「フェイトちゃん!」
「ッ……」
例え言葉だけで分かり合えなくとも、ぶつかり合い、全力全開で自分の気持ちをぶつけあえばきっと通じ合える。
アリサやすずかとそうだったように。
故になのはは吠える。魔法と共に自身の思いをぶつけるために。
「わたしがジュエルシードを集めるのは、それがユーノ君の探し物だから。ジュエルシードを見つけたのはユーノ君で、ユーノ君はそれを元通りに集めないといけないから。わたしはそのお手伝いで。だけどお手伝いをするようになったのは偶然だったけど今は自分の意思で集めてる!自分が暮らしてる街や自分の回りの人たちに危険が降りかかったら嫌だから!これがわたしの理由!」
「わたしは……ッ!?」
なのはの強い思いにフェイトも口を開きかけるが地上から轟音が響きそちらの方へ気をとられる。
そこには崩れたビルの残骸とその前に立つリュウの姿があった。
「ユーノくんっ!」
ユーノが瓦礫の下に居るだろう琴を察したなのはの叫びで我に帰ったフェイトはなのはがジュエルシードから完全に気をそらしていることに気づく。
その時フェイトの脳裏にはジュエルシードを欲するプレシアの姿が浮かびジュエルシードを手にいれなければならないという使命感が生まれなのはとの決着よりジュエルシードへと向かうことをフェイトに選ばせた。
「ッ!」
「あ、待って!」
それに気づいたなのはは慌てて後を追い二人のデバイスが同時にジュエルシードへと伸びる。
レイジングハートとバルディッシュがジュエルシードを挟んだ瞬間まばゆい光を放ち強い衝撃に二人は吹き飛ばされた。
弾き飛ばされたフェイトが見たものは自分と同様に弾き飛ばされたなのはとその手にある損傷の激しいデバイス、そして彼女と自分の間に浮かぶジュエルシードだった。
デバイスの状態から相手はもはやろくに戦えないであろう事を理解し迅速にジュエルシードの封印を行うべく向かおうとしたところでひとつの考えに思い至る。それはつまりレイジングハートがアレだけのダメージを受けているのであれば自分のバルディッシュも無傷ですんではいないのではないかというものであり、気付いてしまったからにはそのリスクは無視できるものではなく右手に握るバルディッシュへと意識を向けた。そこには予想通りフレームに亀裂が走り今にも壊れてしまいそうな状態のバルディッシュがあった。
このまま封印を敢行をしては間違いなく修復不可能なまでの破損状態となってしまう。そるはこれから戦い抜く上で、そして何よりもリニスからもらった大切な相棒を失うことになり絶対避けるべきである。
「大丈夫、戻ってバルディッシュ。」
『Yes sir』
力なくコアを点滅させているバルディッシュを待機形態へと戻しデバイス無しでの封印を決意したその時、フェイトの横を黒い影が駆け抜ける。
ジュエルシードによる膨大な魔力の奔流とそれにより弾き飛ばされたフェイトとなのは。その光景を目にしたリュウは一瞬最悪の可能性に考えが至る。
しかし危なげなく着地した二人を見てその可能性を否定するが同時に二人のデバイスを見て今この場で無事なデバイスを持つ魔導師が自分だけであることを理解する。
「だったら俺がやるしかないよな。」
「ちょっとリュウ、アンタまさか?」
「この場で無傷のデバイスを持っているのは俺だけだろ、ならやるしかねぇ。アルフはフェイトを頼む。大してダメージは無さそうだがかなり消耗してるだろうからな。」
「わかった、そっちも無理するんじゃないよ。」
その言葉に頷くとリュウはジュエルシードへと走り出す。駆け出そうとしていたフェイトの横を駆け抜け両の手に展開したアガートラームにて封印するために。
そしてその左手がジュエルシードに届く。
「取ったッ!」
左手で握りこみ足下にはベルカ式の魔方陣を展開し押さえつけようとするがジュエルシードの中でうねる魔力を御しきるには足りず指の間から光が漏れ出している。
それでも構わず制御を試みるとジュエルシードの反発は輪をかけて強くなり指の何本かが嫌な音と共にあらぬ方へと曲がり始める。それに対抗するため上から右手で握り全力で制御にかかる。
「止まれ……止まれ止まれ止まれ、止まれッ!」
強く念じる度に魔方陣は色濃く輝き、その輝きが一際強くなった時。ジュエルシードの輝きが収まり封印が成された。
「ジュエルシード……封印。」
『封印完了。』
己の全てを出しきり精魂尽き果てながら封印を成し遂げたリュウだったが限界をとうに越えており糸が切れたように崩れ落ち、自身を心配する声を遠くに聞きながら意識を手放した。
ここまで更新に間があいてしまいもうしわけありませんでした。
前書きでは言い訳と書きましたが言い訳のしようもなく仕方のない事情といったものがこれといってなくただ筆が進まなかっただけでありまして私自身こんなに期間があくとは思っていませんでした。
その間も書けないなりに何かをしていたわけでもなく強いて言えば人理を修復したり古戦場を駆け回ったり選挙活動をしていたぐらいなので本当にお待ちしていただいた方々には面目次第もございません。
次回以降は最低でも月一更新でやっていくつもりです。
最後に技の解説を一つ。
プロテクションスマッシュ
ユーノが使った突進技。
自身のまわりにバリアを張って体当たりする技であり、ほぼ全ての攻撃を防ぎながら突進することが可能であり通常であれば迎撃はほぼ不可能であり基本的に対処法はほぼ回避のみという技だったのだがフェレットの姿で使ったためハンドボールサイズの魔力弾とほぼ変わらなかったため旋衝破にてなげられた。
相性が悪かっただけで本来はもっと強い技である。