もう一人の雷光   作:爆鎮P

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衝突と賭け

アガートラームが完成してから数日後の夜、リニスはプレシアの許へと向かっていた。

要件はフェイトの魔法の修練が完了したことの報告、そしてリュウとフェイトへの接し方について問いただすためであった。

本来であれば使い魔が主人に意見することは珍しい事ではあったが自身の役目が終わろうとしている事、そして二人への思いがリニスを突き動かしていた。

 

「プレシア、リニスです。」

 

ついに主人の部屋の前につき中に声をかけるが、普段なら返事が返ってくるはずなのだが何の反応も帰ってこない。

 

「……プレシア、入りますよ。」

 

返事が来ないことで妙な胸騒ぎをさせつつ部屋へと入っていく。

そこで見たものは部屋の中心で口から血を流して倒れているプレシアの姿だった。リニスは慌てて駆け寄りプレシアを抱き起し容体を診るが意識を失っている以外は特に異常が見受けられなかったためひとまず安心した。

安心したことによって周囲を見渡す余裕ができ、リニスはそこで初めて部屋の奥に見慣れない物体が二つあることに気付いた。

それは二つの生体ポッドであった。中にはそれぞれ裸の少年と少女が入っておりリュウとフェイトにそっくりだった。そしてポッドにはそれぞれの名前と思われる『ドラグ』『アリシア』と書いてあった。

 

「これは……プレシアが目を覚ましたら聞かなければいけないことが増えたみたいですね。」

 

プレシアを彼女の寝室に連れていき先ほどの部屋の施錠を済ませたリニスは濡れタオルを手に看病をするのだった。

 

 

 

数十分後。目を覚ましたプレシアはまず違和感を感じた。いつの間に私は寝室に来ていたのか。なぜ私はベッドで寝ているのか。そして横にいるリニスに目をやりリニスが自分をここまで運んだことを理解する。

 

「やっと目を覚ましましたね、プレシア。」

 

彼女の瞳は普段では珍しく厳しいものになっていたがその中に僅かながら安堵の色も見て取れる。

 

「あなたが運んできたのね、少し気に食わないけど助かったわ。」

「はい、余計な事かとも思いましたけど緊急事態だったので。」

 

悪態交じりのプレシアの発言に苦笑しながらも返答をするリニス。

しかしプレシアはさらに態度を硬化させる。

 

「それで、こんな時間にわざわざ一体何の用なの?」

「フェイトの魔法の修練が完了しました。聞こえていましたか?昼の轟音。」

「雷撃系の高位魔法ね、あれをフェイトが…」

「杖も使わず身体一つでね。」

「素晴らしいわ。」

 

フェイトの成長に満足げなプレシアにリニスが意を決して言葉を続ける。

 

「これでもう、私がフェイトに教えられることは無くなってしまいました。本来ならこれでもうお役御免ですね。」

「どういう意味かしら。」

 

本来ならという一言に眉を顰めるプレシア。

 

「プレシア、私はあなたに聞かなくてはならないことができてしまったんです。フェイトとリュウへの態度、そしてアリシアとドラグの事を。」

 

「そう。予想はしていたけどやっぱり見てしまったのね。」

 

プレシアは起き上がりリニスと向かい合って話しだした。

 

「アリシアとドラグは私の大切な子供達よ。研究も二人のためのもの。」

「ですがプレシア、あの子たちはどう見てもすでに死んでいますッ!なのにどうして?」

「取り戻すためよッ!こんな筈じゃ無かった全てをッ!あの子たちを蘇らせるためにここまで来たのよ。」

「じゃあフェイトとリュウは?あの子たちはどうなるんですか!」

「あの二人はアリシアとドラグの記憶を転写したクローンよ。でもアリシアとドラグにはならなかった。姿形は同じなのに、性格も魔力資質も利き手も、私への呼び方さえ違うッ!」

「それなのにあの顔で!あの声で!私を母と呼んでくる!そんなの耐えられるわけないじゃないッ!」

「……ッ!」

 

プレシアのあまりに悲痛な叫びに息をのむリニスしかし彼女も譲れない。

 

「フェイトとリュウはアリシアやドラグの代わりじゃありません!フェイトはあなたに褒めてもらいたくて魔法も勉強も一生懸命やっていますし、リュウだってフェイトがあなたに構ってもらえない分あの子を守ろうと必死に才能が無いことに腐りもせず強くなろうとしてるんです!二人ともちゃんとした一人の、あなたの子供なんですよッ!」

 

その言葉にプレシアはこらえきれないとばかりにリニスの肩をつかむ。

 

「あなたに一体何がわかるの、私とアリシアとドラグの何が解るっていうの!?」

「何も解りませんよ!忘れさせたのはあなたじゃないですか。だけど!山猫生まれの使い魔にだって解ることがありますッ!」

 

リニスはプレシアの目をまっすぐに見据える。

 

「今ならまだ引き返せます。」

「もう無理よ。あの子たちを蘇らせるためだけにここまで来てしまったのだから。それに失敗したと解ってからあの二人を私の子供として扱ったことなんて今まで一度も…「あります!」――ッ!?」

「自分の子だと思っていないんならなんで失敗だと解った後でも名前を与え、テスタロッサを名乗らせ、一人前に育てるために私を作ったんですかッ!」

「あなたは自分でも気づけていないだけであの子たちを愛しているはずです、そうでなければあの子たちはとっくに壊れてしまっています!」

「じゃあどうすればいいの!?今更全部投げ捨ててあの子たちの母親にでもなればいいのッ!?そんな事アリシアとドラグへの裏切りよ。それにずっと放っておいて今更どの面さげて母親すればいいのよ……」

「あの子たちは…フェイトとリュウは、あなたを求めています。」

「やっぱり無理よ……アリシアとドラグは裏切れない。それにこんな私が自分から幸せになんてなっていいはずがないもの。」

「ならプレシア、一つ賭けをしましょう。もしかしたらがあるかもしれませんし、あなたは無茶をしない範囲で研究を続けてください。それでもいつかはあの子たちも真実を知ってしまうでしょう。その時に、それでも折れずにあなたを求めたら優しく受け入れてあげてください。きっとその時には……私はもういませんから。」

 

プレシアは黙ってその言葉を自分の中で噛み砕いていく、そして約十分が経ち落ち着いてきてから。

 

「そうね。いいわ、その賭けに乗ってあげる。最後以外はね。」

「最後?どういう意味ですか。」

 

怪訝そうに尋ねるリニス、しかしそれには答えず。

 

「――汝、使い魔リニスは主、プレシアとの契約の下制約を以下のものに変更し順守せよ。その四肢と心をもってフェイトとリュウを見守り続けなさい。如何な状況であっても命尽きるまでその制約を胸に。」

 

その意図を理解したリニスもそれに応える。

 

「――我、使い魔リニスは山猫の血と誇りにかけてフェイトとリュウの成長を見守り、テスタロッサ家に訪れる災厄をこの手で振り払うことを誓います。」

「使い魔リニス」

「主プレシア」

「今、ここに契約の更新を。」

 

契約の儀を終えた二人の顔には薄くだが笑顔があった。

 

「ありがとうございますプレシア。でもどうして?」

「あの子たちが真実を知り、それに立ち向かうまでにはまだ時間がかかる。ならあの子たちを支えてあげる役目が要る。こんな賭けを始めたのはあなたなんだから責任もってその役目を果たしなさい。」

「はい、任せてくださいマスター。」

 

今夜はこれで失礼しますと部屋を後にしたリニスについてプレシアは考え、ひとりごちる。

 

「山猫として飼っていた時はまさかこんな使い魔になるとは思っていなかったわね。」

「私はいつだって気づくのが遅すぎる。だから今回こそは。」

 

そう決意したプレシアの心にはアリシアとドラグだけでなくフェイトとリュウも入っていた。




主人公出番なし
何処へ行ったッ!?
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