気付いたら、真っ白な空間にいた。仰向けになっていたので、起き上がり身体を見る。傷一つ無い、至って健康体だ。私は、トラックに撥ねられて死んだ筈じゃ……そして、どうしてこんな所に居るのだろうか?
『気が付いたか……翠。いや、龍愛神社15代目神主、龍愛信翠』
「だ、誰!?」
男か女かも分からない様な声が脳内に直接響いて、頭が痛くなる。
『我の名は、風神。主が信仰している神じゃ』
「ウソ……何で、風神様が?」
『主が死んだと聞き、慌ててこの神の間に引き上げたのじゃ』
「神の間?」
『所謂、我が安らぐ場じゃ』
「そうだったんですか……やっぱり、死んじゃったんですね、私 」
『やけに冷静じゃな、やはり、我が見込んだだけあるな』
「何と言うか……1周回って落ち着いたって感じですね……」
『ふむ、そうか……では、主に問おう。主は何故ここにいるか分かるか?』
風神様からの問いに答える事は出来なかった。
「さっぱり分かりません」
『もう少し考えて欲しかったがのぅ……まぁ、そこも主らしいと言えば主らしいが……我が主を此処に引き上げた理由、それは我への信仰心を消さない為じゃ』
「信仰心……?」
『そうじゃ。我ら神々は人間からの信仰心を糧としている。その糧が無くなれば、神は消える。我も、主の信仰心が無ければ消えいくところじゃった。人間は、死ぬと記憶を失うからのぅ。』
「そうだったんですか……」
初耳である。風神様は本当に危ない所だったという訳らしい。
「風神様……私はこれからどうすれば?」
『そうじゃのぅ……このまま此処に住まわせる訳には行かん……ならば転生の神に頼み、主を転生させるかのぅ』
「転生の神!?そんなのがいるんですか!?」
驚いて思わず声を張り上げてしまった。
『神にも色々役割があるんじゃ』
「なるほど……転生って何処に転生するのですか?」
『それは分からぬ。転生の神は途轍も無い程気まぐれで残酷じゃ。新しい世界に過酷な運命を背負わせて転生させる様な奴じゃ。本当はあやつには頼りたく無かったのじゃがのぅ……』
何だか、不安になって来た。どうか、平和な世界に転生したいものだ。
『安心しろ。もし何かあれば、我が力を貸す。』
「それは有難いですね……それで、1つお願いしたい事が……」
『何じゃ?』
「どうして黄依子があんな事を言ったのか、分かりますか?」
『何故それを聞く?その者は主を殺したのだろう?』
「それはそうですけど……でも、あんな優しい黄依子が……どうして」
『……あの者は、主たちと仲良くしていた。だが、それを良く思わなかった連中がいた。何故あんな大人しい奴が、陸上部なんかと一緒にいるんだ、と言う具合にな。そしてその者は連中に脅された。陸上部を辞めなければ、主たちがどうなるか分からんぞと』
「そんな……」
黄依子が脅されていた……何故言ってくれなかったのだろうか?
『言えば、苛めるとも付け加えてな。それで黄依子と言う者は陸上部を去ってしまった。しかし、それでは終わらなかった』
「えっ……?」
『連中は、黄依子を苛め始めた。元々苛めるつもりだったが、主たちが邪魔だった様だった。だから脅して辞めさせたのじゃ。そして連中は、黄依子にこう言った。私達は、翠に指示されて苛めていると』
「な、何それ……そんなの一言も言ってない!」
『勿論それは嘘だったが、黄依子は精神的に参っており、信じてしまったのじゃ』
「じゃあ……黄依子があんな事を言ったのは」
『とてつもなく大きなすれ違いだった様じゃ』
私は、眩暈がした。私の知らない間に、そんな事があったなんて……
「何で……早く気づけなかったんだろう……黄依子……ごめんね……」
いつの間にか、涙が溢れ出て来た。黄依子には、謝罪の気持ちしかない。
「風神様……もう1つお願いがあります」
『何じゃ?』
「皆の記憶から、私の存在を消して下さい。そうすれば、黄依子が苛められる事も無くなるし、碧や朱音が私の死に際に会わなくて済むから」
『……良いのか?』
「はい。もう心残りはありません。一種の罪の償いって奴ですし……」
『……分かった。主がそこまで言うのなら仕方が無い。記憶の神にでも頼んで、主が存在していたという記憶を消してもらうかのぅ』
「ありがとうございます!」
私は空間に向かって頭を下げた。
『では、もうそろそろ転生と行くかのぅ』
「えっ!?早くないですか!?」
『善は急げ、じゃ。主が新たなる世界で生きる日を楽しみに待っておる』
「ありがとうございます……風神様、私が例え転生しても、前世の事とかは覚えてますよね?」
『あぁ……思い出すのに少し時間が掛かるがな』
「そうですか……では、またいつか」
私が風神様にさよならの挨拶をした所で、また目の前が真っ暗になった。しかし今度は、痛みも何も感じず、まるで何時も通りに寝ているような感じがした。