プリクラを撮り終え、俺は今にも吐血しそうになりながら、ゲーセンを出た。ダメだこれ、古鷹さん可愛すぎて生きるのが辛い。今思えば、俺こんな可愛い人と一つ屋根の下で暮らしてるんだよね?
……あ、やばい。今更ながら緊張してきた。いやいや、やめろ。好きになるな。だって告白する勇気ないもん。影であの子を見つめるだけの青春になるのは目に見えている。
過去に一度でも告白したことがあるか?中学の時の彼女は向こうから告ってきたんだろ。
「あの、福島さん?」
「ふぇっ⁉︎な、なんですかっ?」
へ、変な声が出た!
「次は、プラモデル屋さんでしたっけ?」
いやその通りなんだけど、プラモデル屋さんって可愛いな。せめて模型店とか言おうよ。
「そ、そうですね。行きましょうか」
「はい」
俺の取ったクッションは、ゲーセンの人にもらった袋の中に入れられ、古鷹さんの手にぶら下がっている。
「あの、福島さん」
「はいっ」
「福島さんって、好きな食べ物とかありますか?」
え、何急に。しかも俺が昨日「小学生か!」っていの一番に罵った質問だよこれ。
「えっと……ラーメンと油そば」
「あぶらそば?」
ああ、この人知らないんだ。というか、うちで出したことはないものは食べたことないんだろう。ラーメンも名前だけ知っててもどんなものかは知らない可能性だってある。
「あー……かなり美味しいものです。良かったら行きますか?」
「これから、ですか?」
「はい。もうお昼にしても良い時間ですし」
「そうですね、分かりました」
「どっちがいいですか?ラーメンと油そば」
「うーん……じゃあ今日はラーメンで」
「分かりました」
俺は鎮守府で暮らす前日からこの街に引っ越して来た。その日はホテルで一泊したわけだが、その間にゲーセンとラーメン屋と本屋の場所は把握した。
「じゃあ、行きましょうか」
「はい、楽しみですね。ラーメン」
駅前。艦娘である古鷹さんと駅前に連れて行くのは、若干気が引けたが、まぁ本人はかなり楽しみにしてる様子なので、気にしないことにした。
ガララッと店の扉を開けると、「らっしゃい!」と元気な声が返ってくる。
店の扉の前には券売機が置かれていた。
「何にします?」
「と、聞かれても、ラーメンは初めてなので……」
「ああ、そうか。すいません」
まぁ、俺もこの店に入るのは初めてだ。オススメとかは紹介できない。見たところ、醤油ラーメンがメインの店のようなので、それを選ぶのがベターだろう。
「店のおすすめは醤油みたいですし、これにしときまきょうか」
「分かりました」
そんなわけで、券売機にお金を入れた。二人で1500円。まぁラーメンならそんなものだろう。
「はい、古鷹さん」
「あ、あれ?私の分まで……」
「あ、いいですよ。この位」
「ええっ⁉︎そ、そんな悪いですよ……!クッションだって取ってもらっちゃったのに……!」
「気にしないで下さい」
「き、気にします!た、確かに青葉は『男の財布は女のものと思って下さい』とか言ってましたけど……!」
「あいつはあとでオープン・ザ・ドリームナイトの刑だな……」
簡単に説明すると、口を無理やりオープンさせ、その中にカルピスの原液を叩き込む、虫歯になること必至の必殺技だ。泣いて謝るまでやめない。
「いいから気にしないでください。元々、俺の外出に無理やり付き合ってもらってるんですから」
「……うう。すみません……」
いやほんと気にしないでください。そこまでヘコタレられるとこっちにも罪悪感が……。
いやいやいや、男としてはむしろ正しいことをしてるんだし気にするな、俺。
券をカウンターの奥の店員に渡し、俺と古鷹さんはカウンター席に座った。俺の持論によると、ラーメンはカウンター席のほうが美味いと感じる。
数分後、ラーメンが俺と古鷹さんの前に置かれた。
「……おそば?」
「ラーメンです。箸で麺を摘んで口に入れたら啜ってください」
「た、食べ方くらい見ればわかります!」
まぁ、そうか。ラーメンには特殊な食べ方とかはないか。油そばはちょっと迷うけど。
「いただきます」
古鷹さんが手を合わせて丁寧にそう言うと、醤油ラーメンに箸を付け、麺を啜った。
「ーーっ!美味しい!」
良かった……。口に合ったようだ。
よっぽど美味かったのか、夢中になって麺を啜る古鷹さんを横目で見ながら、俺もラーメンをいただく。
ああ、確かに美味い。ここは当たりだな。ここの醤油ラーメンには、珍しい事に玉ねぎが入っている。これがまた絶妙にマッチしてて美味い。あと、出汁の取り方だろうな、これどうやって取ってんだろ……。
仮にも料理人の俺が分析しながら食べてると、横でパンッと手を合わせる音がした。
「ご馳走様でしたっ」
「早っ⁉︎」
スープまで飲みはしてる!俺まだ一口しか食べてないのに!
「美味しかったです」
ああ……その満足そうな顔も……。って、いかんいかん。俺もさっさと食べて待たせないようにしないと。
少し急ぎ気味に麺を啜り始めた。
………なんか、視線を感じるな。そう思って横をチラ見すると、古鷹さんが物欲しそうな顔でこっちを見ていた。
「…………」
「…………」
「………少し食べます?」
「いただk……‼︎いやそんな悪いですよ!」
いただきますって言いかけたよ。どんだけ美味かったんだよこの子。
「遠慮しないで下さい」
言いながら俺は古鷹さんのラーメンのお椀に自分のスープを少し注いで、麺を入れた。
「……す、すみません」
顔を若干赤くしながらも、古鷹さんは麺を食べる。
「ご馳走様」
だから早えって!もっと味わえよ!結局、俺はそのまま追われるようにラーメンを食べ終えた。
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帰り道。俺と古鷹さんは並んで歩いていた。プラモ屋でHGマックナイフを買い、俺の手には袋がぶら下げられていた。
「………」
「あれ?どうかしました?」
横を見ると、古鷹さんが顔を赤くして俯いていた。
「い、いえ……その、お昼の時…今思えば恥ずかしいことしてたなって……」
ああ、確かに自分だけ早く食べ過ぎて少し分けてもらうなんて子供っぽいかもしれない。
「そんな事ないですよ。人っていうのは心はみんな少年少女なんですから」
俺だっていい歳こいてトライエイジやってるし。
「……それ、慰めてるつもりです?」
「はい。……まぁ、確かに古鷹さんにあんな面があったのは少し驚きましたけどね」
「うう、わ、忘れて下さいよぅ……」
いやいや、俺の脳内に永久保存したから。
「まぁ、そんな恥ずかしがることないですよ。恥っていうのはかけばかくほど成長に繋がるものですから」
そう、でも心の傷は消えない。それが黒歴史となるのだ。
「………はい」
「次は、別のラーメン屋にしてみましょうか。今回は醤油でしたけど、他にもとんこつとか味噌とか塩とかありますから」
「へ?今度……?」
「…………あっ」
しまった。さりげなくデートの約束してしまった。
今度は俺が顔を赤くしてると、古鷹さんは微笑みながら言った。
「はい。楽しみにしてますね」
………割と本気でどきっとした。やっぱ、この人の笑顔は反則兵器だわ。