そうして私と彼の高校生活は…   作:桜チップス

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こんにちは!
UAやお気に入りがさらにすごいことになっていて嬉しい限りです‼︎
読者の皆さま、本当にありがとうございます!!


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帰宅したあとは夕飯を手早く済ませてすぐにお風呂に入ると、早速来週のテストに向けて机に向かった。

私は小さい頃から、なにかひとつの事に集中することが得意だ。

勉強や読書も一度始めたら眠くなるまでずっと集中していられる。

そのせいで他のことがおざなりになってしまうことが多々あり、祖母の呼びかけや友人からのメールに全く気づかないこともある。

これだけはどうしても直らない、私の悪い癖だ。

今回もいつもの如く、集中して勉強しようと教科書やノートを机の上に広げるが…

集中できない。

なら無理やりでも始めようと、ペンを持って教科書の一部分をノートに書き込もうとするが、違うことが頭を支配しているため、ただノートに写しているだけで頭に全く入ってこない。

 

「…よし」

 

それならばと、一度頭の中をからっぽにするため、目を閉じて雑念を取り払うことにした。

 

「………」

 

…そういえば、次のお弁当の内容はどうしよう。

やっぱり男の子だからお肉は多めのほうがいいかな。

でも、いつも多めに入れてるからたまにはヘルシーなお弁当もいいかも。

卵焼きは毎日入れる予定だけど、さすがに飽きてくるかな?

あっ、今度はサンドイッチに挑戦しようかな。

でもそれだと栄養バランスが…

 

「……ハッ!」

 

気づけば頭の中はお弁当のことでいっぱいになっていた。

そしてなかなか埋まらなかったノートには、お弁当のおかずの名前で埋め尽くされている。

 

「……今日は寝よう。」

 

ダメだ。

今日は多分、何をやっても集中できないだろう。

そのままベッドの中に潜り込んでゆっくりと目を閉じる。

瞬間、お互い頬を染めながらお弁当を食べているあのシーンが蘇る。

 

「〜〜ッッ!」

 

誰かに見られているわけでもないのに、布団を勢いよく頭の天辺まで引き寄せて顔を隠した。

 

結局、眠りについたのは日付けが変わってからで、翌日からはモヤモヤしながらもテスト勉強に集中した。

 

 

 

月曜日、お弁当を2つカバンに入れて家を出た私は、眠たい目を擦りながら通学路を歩いた。

昨夜は遅くまで勉強しすぎた。

せめてあと1時間は眠ればよかったなと、アクビを噛み殺しながらトボトボ歩いていると、突然背後から肩を叩かれた。

桃花かな?と思って振り返ると、

 

「優希、おはよ!」

 

そこには朝から爽やかスマイル全開の伊藤くんが立っていた。

 

「伊藤くん、おはよう。」

「えー、そこは名前で挨拶してほしかったなぁ。」

 

朝の弱い私は頭がうまく働かなくて、あははッ、と乾いた笑いしか返すことができない。

…そもそも下の名前を知らない。

そういえば、最近の伊藤くんはさっきの様に私の肩を軽く叩いてきたり、下の名前で呼んだりするようになった。

おかげで周りからは、本当は付き合っているのではないか、などとあらぬ噂が立っている。

 

「優希は土日、なにして過ごしてたの?」

「ずっと勉強してたよ。」

「さすがは優等生だね。僕なんか部活仲間と一緒にファミレスで勉強しようってなったんだけど喋ってばっかりで全然勉強にならなかったよ。」

 

その後も、学校に着くまで彼はひたすらに喋り続けて、眠たい私は適当な相槌を打つだけ。

そして、学校に近づくにつれて他の生徒も多くなり、私たちを見ると、やっぱり…とか、本当だったんだ…等々、みんな口々に好き勝手なことばかり言っている。

あぁ、また面倒なことになるかな。

ため息を吐きたくなる気持ちを抑えて校舎に入ると、そこには下駄箱で靴を履き替える彼の姿があった。

 

「…ッ!」

 

驚いた私は一瞬だけ立ち止まると、さっきまでと違う私の様子に気づいたのか、伊藤くんが私の顔を覗き込んできた。

 

「どうしたの?」

 

伊藤くんと私の近い距離に周りがざわめき立つと、彼も自然とこちらに視線を向けた。

 

…やだ。見ないで。

他の人に誤解されるのは別にいい。だけど…

彼に誤解されるのだけは、絶対に嫌だ‼︎

 

「なんでもないから!私、教室行くね‼︎」

 

そう言い残すと、急いで上履きに履き替えて早足で教室に向かう。

彼とすれ違いざまにどんな反応をしているのか確認しようかと思ったが、何故か怖くて見ることができず、ただ下を向いて通り過ぎるしかなかった。

伊藤くんは後ろから大きな声で、また後で!と叫んでいるが、これ以上、誤解を招くようなことはやめて!と叫び返したくなる気持ちを堪えてその場から逃げ出した。

 

 

昼休み、今日も桃花は別の友達と食べるということで1人、カバンを持って校舎裏に向かった。

 

「こんにちは。」

「うす。」

 

私の挨拶に気づいた彼はこちらに顔を向け、そのまま数秒固まった。

 

「…なに?」

「いや、なんかやたら疲れてないか?」

「…気のせいだよ。」

 

実際は気のせいではないのだが…

 

朝の出来事から今に至るまで、終わりのない質問という名の拷問を受けた私は確かに疲れきっていた。

クラスメイトや、何故か話したことのない別のクラスの子たちからのほとんど同じような質問の繰り返し。

これに関しては、私の中である種の慣れが生まれていたため、あまり疲労は感じなかった。

では、何故ここまで疲れているかというと、クラスメイトたちからの質問に対していつもの2倍近い声量で答えていたからだ。

といっても、普段の声量が他の人と比べて小さいため、周りはあまり気になっていないようだったが、これにはもちろん理由がある。

理由は単純。少し離れた席で突っ伏している彼に聞こえるようにするためだ。

…我ながらバカなことしてるなぁ、と何度も思ったが、それでも彼に誤解されるよりはマシだと思ったのだ。

 

彼は私の様子に疑問符を浮かべながらも、あまり気にした様子もなく私からお弁当をお礼を言いながら受け取った。

 

 

 

「そういえば…」

「…?」

 

お弁当を広げて食べ始めようとするところで、彼が突然何かを思い出したように動きを止めて言葉をかけてきた。

 

「えっと、その…いいのか?」

「…なにが?」

 

何か言いにくそうに口をもごもごとさせていたが、なんとなく彼が何を言わんとしているか察しがついてしまった。

 

「だから、こうやって俺なんかと弁当食ってるのがさ。」

「…もしかして、今朝の事を言ってる?」

「そうだ。彼氏がいるのに俺とべんと」

「彼氏じゃない‼︎」

「…!」

 

自分でも驚くほど怒気の含んだ大きい声で彼の言葉を遮っていた。

そのことにハッと気づいた私は、一度心を落ち着かせてから彼に向きなおる。

 

「…いきなり大声出してごめんなさい。とにかく、あの噂は全くのデマで、伊藤くんとは全然そんな関係じゃないから。」

「お、おう。こっちこそ、何も知らないのに適当なこと言ってすまんな。」

 

 

私の謝罪と否定の言葉に、彼も謝罪で返してくる。

どうやら、私は彼に勘違いされていたことが思ってた以上にショックで動揺してしまったようだ。

だが、彼は私と伊藤くんとのやりとりを実際に見て、更に周りが付き合ってるだのなんだの囃し立てているのだから、勘違いするのも無理はない。

そんな彼に怒鳴り上げた私はなんて心が狭い人間なんだろう。

感情を制御する事は難しいことなんだと改めて知った。

それにしても…

私の昼休みまでの努力は一体どこへ…

ひとまず解ってもらったみたいだし、この話題は話していてあまり気分の良い話ではない。話題を変えよう。

 

「えっと…そういえば、明日からテストだけど、勉強してる?」

 

自分でも下手くそな話題の逸らし方だとは思ったが、彼も気遣ってくれたのか、この話題にのってくれる。

 

「あー、まぁぼちぼち。」

「そっか。高校に入学してから授業のレベルがグッと上がってテスト範囲も広くなったから、私は家で必死に勉強してるよ。」

「真面目だな。」

「そんなことないよ。たまに途中から本を読んでるときだってあるし、桃花と電話してるときだってあるよ。」

「そうか。」

「あっ、他にも…」

 

私は話題を途切れさせないよう、頭をフル回転させて話しかけ、彼はそれを端的に答える。

途中から、この展開にデジャヴを感じたが、それが私と伊藤くんとのやりとりだという事だと気づくのにそう時間はかからなかった。

伊藤くんも私と話すとき、こんな感じだったのかな。

 

「あの、ゴメンね。なんか私ばっかり一方的に話して。」

「いや、むしろそっちのが助かる。普段、会話をすることなんか妹くらいしかいないからな。会話が全く思いつかん。」

「あはは…なら良かった。そしてなんかゴメン…」

「そこで謝られたら余計悲しくなっちゃうから。」

 

彼の悲しいお話はとりあえず置いといて、これから伊藤くんと話すとき…いや、クラスメイトたちと話すときは、どんな内容でもちゃんと耳を傾けることにしようと誓った。

 

「そういえば明日から3日間は午前中のテストで終わりだから、お弁当は作らないけどいい?」

「いいもなにも、むしろ今日で終わりでもいいくらいだぞ。」

「そ、それはだめ!」

「いや、だって夕舞が料理上手いってことはもうわかったんだから、もう充分だろ。」

「私1人だとまだ上手く作れないから、せめて1人で作れるようになるまで付き合って!」

「は?1人?」

「うん!1人で……あっ。」

 

やってしまった。

必死のあまり、見栄を張っていたことをすっかり忘れていた。

 

「と、とにかく!もうしばらく付き合ってもらうから!それじゃ、次は金曜日に‼︎」

 

恥ずかしさで爆発しそうになりながら、彼から空のお弁当箱をひったくると、そのまま乱暴にカバンに突っ込んで逃げるように校舎裏を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1人校舎裏に残された彼は唖然としながらも、ベンチに座ったまま合掌した。

 

 

「…ごちそうさまでした。」




今回もお付き合いして下さりありがとうございます!
思ったよりも夏休み前に書きたい事が多くて、あまり進みませんでした(汗)
次はテスト明けの休日を書きたいと思っています。
次話もどうかよろしくお願いします!

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