そうして私と彼の高校生活は…   作:桜チップス

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昼休みの一件が終わったあとに待っていたのは、やはりクラスメイトからの質問攻めだった。

 

「それで⁉︎どうだったの⁉︎」

「うん、告白だった。」

「やっぱりそうだよね!」

「それでそれで⁉︎」

「うん、今は誰とも付き合う気はないって断ったよ。」

「えぇー、もったいないなー」

「とりあえずでいいから付き合えばよかったのにー」

 

いやいや、食べ物ではないのだからもったいないも何もないのだが…それに、

 

「やっぱ好きじゃないし気にもなっていないのに付き合ったりしたら不誠実だと思うし、好きになってくれた人と付き合ったほうが伊藤君も幸せになれると思うよ。」

「えー、夕舞さん堅いなー」

 

私は人を恋愛的な意味で好きになったことはないからみんなとは価値観が違うのかもしれないし、今時の子と比べると確かに堅い考え方なのかもしれない。

それにしても、まだ恋愛もしたことのない私が恋愛を語るなんて一体何様のつもりなんだろう。

しかも高校生の若造が幸せを語るなんておこがましいように感じる。

…私って一応女子高生だよね?なんか悲しくなってきた…

ふとさっきの告白現場で偶然お昼を過ごしていて気まずい思いをさせてしまった比企谷君を見ると、イヤホンをしたまま机に突っ伏していた。

追い出してしまったことを謝ろうと思ったけど、寝てるなら起こすのも悪いかな。てか告白場所を選んだのは伊藤君なのだから、私が謝る必要はないのではないか?

でも彼にとってはそんなの関係ないし、気づいて目が合ったのも私なのだからやはり私が謝るべきなのだろう。

たぶん今日は放課後まで質問攻めにあうだろうから明日にでも彼に謝ろう。

そう考えながら、私はボーッと彼女たちの質問を適当に流していた。

 

放課後、案の定わたしはクラスメイトたちの猛攻に遭い、なんとか全てを受け流すことはできたが気づけば1時間近く経っていた。

みんなどれだけ恋バナ好きなの…しかも伊藤君は思った以上に人気だったらしく、違うクラスの人たちまで混じってて精神的にほんと疲れた。みんなはある程度喋って満足したのか、もう帰宅している。

…帰ろう。

今日は早めに勉強を切り上げてすぐ寝ようかなーと考えながら下校準備を始めていると、ふと誰かの机の上にある一冊のカバーがかかった本に目が止まった。

あそこの席は…確か比企谷君の。そういえばクラスの男子が比企谷君が本を読みながらニヤけてるって言ってたっけ。そんなに面白い本なのだろうか?

気づけば私は、彼の本を手に取っていた。

…いやいや、いくらなんでも彼に許可を取らずに勝手に読むなんて非常識だ。だがどんな本を読んでいるのか………気になる。

私も本はそこそこ、というかかなり読んでいるほうだ。休日も読書で潰れることが多い。

しかし彼は休み時間でもほとんど読書をしているため、もしかしたら私よりも本を読んでいて、年間何百冊目も読むすごい読書家なのかもしれない。そんな読書家の彼がニヤけるほど面白い本というのは一体どのような本なのか。

…気になる……すごく気になる。

私の理性がいけないと言いつつも、本脳…じゃなくて本能が読むべきだ!っと言うことを聞いてくれない。

…………

そうだ!表紙だけを確認すれば読んだことにはならない!題名だけ見て後で図書館で借りてくれば問題ないはず!大丈夫だ!

と、悩んだ末なにが大丈夫なのか訳の分からない答えを導き出して彼女は本のカバーを外しはじめる。

先ほどの葛藤はどこへいったのか、興奮した様子でカバーを外し終えるとそこには…

かなりきわどい格好をした女の子が表紙の中で大きな剣を構えていた。

 

「……あれ?」

 

ある意味、想像を超えた表紙にしばらく固まってしまった。

本を持ったまましばらく呆然としていると、教室のドアがいきなり、

ガラガラッ!!

っと勢いよく開いたとき、私は、

 

「ひゃっ!!」

 

小さく悲鳴をあげてとっさに本を身体の後ろに隠してしまった。

そこには…

 

「あれ?優希ちゃんまだ帰ってなかったんだー!」

 

先ほど私を質問攻めしてたうちの1人のクラスメイトが突然やってきた。

 

「う、うん。少し勉強してたから。」

 

咄嗟に嘘をついた。

 

「うわーさすが優等生!私は忘れ物しちゃってさー、てかさっきの悲鳴なに?びっくりしすぎでしょー!」

「あはは…私怖がりだから。」

「そうなの?なんか意外だなー。あっ、もう勉強終わったならさ、一緒に帰ろうよー!」

 

確かに彼女とは帰り道が途中まで同じだから、たまに一緒に帰ることがある。

しかし今はマズイ…この本をどうにかしないと。

 

「えーと…下校準備まだしてないし…先に帰ってもいいよ。」

 

あっ、今のは失敗した。そう気づいたときには、

 

「そんなのすぐ終わるじゃん!」

 

待ってるから!っと笑顔で言われるとこれ以上断ることもできないし、むしろ怪しまれる可能性もある。

 

「うん、ありがと。」

 

っとだけ伝えると、私は手にした本をさりげなく自分のカバンの中に入れてしまった。

明日早く登校して元の位置に戻そう。うん、そうしよう。

私は本を見てしまった後悔と比企谷君に対する罪悪感でいっぱいになりながら、クラスメイトと帰路についた。

その間もどこか上の空で歩いていたためクラスメイトから、

 

「ボーッとしてるけど体調悪い?」

 

と気を使わせてしまい、またしても罪悪感にかられることになった。

 

後日、なんと私は寝坊をしてしまった。

というのも昨夜、比企谷君の本をパラパラとめくっているうちに気づけば時間を忘れるほど読み込んでしまっていたのだ。

急いで時計を見るともう短い針が3の数字に差し掛かるところだった。すぐに電気を消し布団に潜ったが、意外に面白かったなーとか次はどうなるのかなーとか、早く寝なければいけないのに頭の中が勝手に興奮して寝付けなくなったのである。

そして頼みの綱である目覚まし時計は無情にも私が無意識のうちに止めていたみたいで起こしてくれることはなかった。

いつもより30分早く目覚ましをかけていたのに全く意味がない。だが急いで支度していけばギリギリ間に合う。

でも比企谷君の本は…どうしよう…

私は心の中で泣きそうになりながら急いで支度して家を出た。

 

教室に着いたのは遅刻1分前でなんとかギリギリ間に合った。

クラスメイトの何人かが珍しいね、と声をかけてきた。私は苦笑いで返しながら比企谷君の机に目線を向けると…

そこにはカバーだけが残った机を見下ろして顔を青くしている彼がいた。

 

「…っ!」

 

私はすぐに彼の元に駆け寄ろうとしたが、無情にも朝のチャイムが鳴り響き、同時に先生が教室に顔を出す。

私は彼の元に行くのを諦めて大人しく席に着くが、彼は出席をとっている間も机の中を必死に探し回っている。

 

「あいつなに必死になって探し回ってんの?」

「うわー、必死なあいつキモッ!」

 

周りからは白い目で見られ始め、罪悪感に押しつぶされそうになっていると先生が、

 

「どうした比企谷?忘れ物でもしたか?」

「い、いえ…なんでもありません。」

「そうか、じゃあ次は…」

 

彼は探すのを諦めたのか、下を向いてため息をつく。

その間も、彼は周りから白い目で見られ続けている。

ごめんなさい…本当にごめんなさい。

私は下唇を噛み、机の下で強く拳を握っていた。

 

最初の休み時間、すぐに彼の席に向かおうとカバンに手をかけ本を取り出そうとするがここでひとつ問題がある。

そう、あの小説の表紙である。私が本を持って彼の元に向かえば間違いなくクラスメイトたちは不思議に思う。

みんなに注目される中、あの本を渡そうとしたら彼らはどうするか?

大体の想像はつく。きっと私たちに攻撃を仕掛けてくるだろう。

私は何を言われようと構わない。それで付き合いがなくなっても、所詮その程度の関係だったということで納得がいく。

しかし、これ以上彼がクラスメイトたちに白い目で見られるのは嫌だ。

せめて彼が1人になれば…1人?

そういえばあった。彼が1人になる時間帯が。

でも、彼はいつもあそこで昼を過ごしているのかな?

昼休みに彼が教室にいたことはないはずだからきっとそうだ。

…たぶん。

そう信じて、彼には申し訳ないが昼休みになるまで待ってもらうことにした。

 

午前の授業は彼にどう謝るかボーッと考えていたため全く頭に入ってこなかったが、あっという間に昼休みがきた。

すると、やはりクラスメイトたちから、

 

「ご飯いっしょに食べよー!」

 

お誘いの言葉があったが私は、

 

「ごめん!今日は他のクラスの子に誘われてるんだ。」

 

丁重にお断りしてすぐにカバンを持って教室を出る。

そして昨日の告白された場所に小走りで向かうとそこには…

誰もいなかった。

まさか今日はここじゃない?

いや、彼は昨日パンを食べていたはずだから購買に寄っている可能性がある。もう少し待ってみるか。

昨日彼が座っていたベンチに腰を下ろし、ボーッと待ってみる。

だいぶ暑くなってきたけどここは海風のおかげで涼しくて気持ちいいや。

寝不足もあり、私は大きな口をあけてあくびをすると近くでビニール袋のかすれる音が聞こえた。そのまま顔を向けてみると…

そこには比企谷君がビニール袋を提げたまま呆然とこちらを見ていた。

そのときの私はかなり間抜けな顔をしていたと思う。すぐに口を閉じ、羞恥に顔を赤く染めていると比企谷君は…

そのまま回れ右をして帰ろうとしていた。

ちょっ!

 

「ちょっと待って‼︎」

 

私は自分が思っていた以上に大きな声を出して彼を呼び止めていた。

彼はこっちを向きつつも目線を逸らしながら、

 

「いや、何も見てないんでほんとに…失礼します。」

「…いや、その反応は見てたって言ってるようなものだよ。」

 

私はジト目で彼を睨んだ。

 

「あっ、そいえば飲み物買うの忘れたんで失礼しま「ビニール袋から缶が透けて見えてるよ」すみません見ましたごめんなさい。」

 

なんて嘘が下手なんだ…

それにしても、

 

「ねぇ、なんで敬語なの?」

 

さっきからよそよそしい口調と態度に疑問を持った。私の間抜けな大あくびを見てしまったから気まずく思っているからなのか。

 

「いや、年上には敬語を使えと両親から教育を受けてますもので。」

 

…はぁ⁉︎

 

「私は君のクラスメイトだよ‼︎てか年上ってどういうこと⁉︎」

 

確かにクラスメイトのノリが多少合わないところもあるし考え方もちょっと古くさいかもしれないけど…見た目はまだ年相応だと思う!そう思いたい!

すると彼は、

 

「チッ、なんだ同い年かよ。」

 

あろうことか舌打ちをして謝りもせず去ろうとしている。

プチッ

どこかがキレた音がした。後ろから襟を掴み彼の顔を強引にこちらに向けさせると、怖がらせないよう満面の笑みで、

 

「ねぇ、女の子を年上扱いしたことについて何か言うことはないのかな?それともご両親はそんなことも教育してくれなかったのかな?ねぇ?どうなのかな?」

「いやほんとまじすみませんでしたなんでもしますんでほんと命だけは勘弁してくださいごめんなさい」

 

彼はまるで捕食者を前にする小動物のように怯えながら全力で謝ってきた。

そこまで怯えられるのも心外で少し腹が立ったが、人前で大きなあくびをした私もあれだし、まぁ許してあげよう。

私は彼の襟を話すと彼はもう一度小さな声で、ほんとすまなかった。と謝ってきた。

もう怒ってないからいいよ、と別れようとした私はそこで気づく。

 

「って、違う‼︎」「ヒィッ‼︎」

 

なぜか本題と大きくズレてしまい、むしろ逆の立場になってしまっていた。

…悲鳴をあげるほど私は怖いのか?

じゃなくて!

 

「実は、比企谷君に話があってここで待ってたの。」

 

そう言うと彼は濁った目をパチパチさせて、不思議そうに私を見ていた。

 




今回もお付き合い頂いてありがとうございました!
優希の寝坊ですが、実は私自身同じ体験をしたことがあるのでそのまま書いてみました(笑)
次も読んで頂いたら幸いです。
失礼します!!

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