「ごめんなさい‼︎」
「…へっ?」
いきなり勢いよく頭を下げた私に彼は状況が理解できずに間抜けな声をあげた。
それはそうだ。今日初めて会話をした相手にいきなり頭を下げられたら私もこんな反応をするだろう。
「いや、えっ?さっきまで俺を殺っ…俺に怒ってた人がなんでいきなり頭下げてんの?てか女子にごめんなさいって言われると中学のときの古傷が痛むんだけど…」
濁った目を更に濁らせながらブツブツ言っている彼の前に私は頭を下げたままカバンから1冊の本を取り出して彼の前に差し出す。
「……」
彼は顔をしかめると無言でその本を手に取った。
「…昨日の放課後に君の机の上に本を見つけたからどうしてもどんな本なのか気になって、それで表紙だけ確認しようと思ってカバーを外したら…その…ちょ、ちょっとだけエッチだったから…」
「えっ?エッチだから持って帰っちゃったの?」
「ちっ、違う‼︎」
彼がドン引きながら濁った目で聞いてくるので全力で否定した。なんてこと聞いてくるんだこの男は。
「カバーを外したタイミングで友達が教室に入ってきたから…見られたら恥ずかしいと思って…とっさにカバンの中に隠したらそのまま持って帰っちゃって…」
朝早く登校して元に戻すつもりだったと続けるつもりだったが、これは単なる言い訳にすぎない。
結局のところ、私は自分の身かわいさに盗人まがいのことをした挙句、彼はクラスメイトたちから白い目で見られるという最悪の結果になった。
許されるはずがない行為だ。
私はもう一度頭を下げ、
「もちろん許してほしいなんて言わない。比企谷君の気が晴れるなら私はなんだってするから。」
いくら罵倒されてもいい。1発くらいなら殴られてもいい。とにかく私は彼に償いたかった。
…もしかしたら私は、私自身が彼に謝罪することによってただ楽になりたいだけなのかもしれない。
それでも、言わずにはいられなかったんだ。
私は恐る恐る顔を上げると…
そこには安堵した顔の彼がホッと小さく息を吐いていた。
…へっ?なんで?
「なんだ、もしかして遂にクラスぐるみのイジメが始まっちゃったかと思ったわ。」
彼はそんなことだったのか、と私の横を通り過ぎるとそのままベンチに座って昼食のパンを黙々と食べ始めた。
私はしばらく彼を唖然と見ていたが、ハッ!と意識を引き戻すとすぐに彼の元に詰め寄った。
「そんなことかって…私は君の本を勝手に持って帰ったし、そのせいで嫌な思いさせたんだよ‼︎」
「嫌な思いって?」
「それは…いじめられてるって勘違いさせたり…周りから白い目で見られたり…」
「ハッ、こんなの中学のときに比べたら全然ましだ。むしろ暖かい目で見守ってくれてると勘違いしちゃうまである。それに実際イジメじゃなかったんだからこの話はこれで終わりだ。」
そう言うと彼はまた昼食を再開した。
何か言おうと思ったが言葉が出てこない。私は一瞬だけ本当に私は悪くないのではないかという馬鹿な錯覚に落ちかけていたがそんなはずはないと頭を振ってその馬鹿な錯覚を払拭すると、
「そんな訳ない!私は無許可で君の本を持って帰ったんだから、盗みを働いたんだよ!ドロボーだよ!君は犯罪者を許すっていうの⁉︎」
「いや、なんかスケールデカくなってきてない?お前は本を返して謝ってきたから俺はそれを許した。それでいいじゃねえか。」
「よくない!だから、「あー、わかったからとりあえずメシくらい落ち着いて食わしてくれ。お前だって食ってないんじゃないか?昼休み終わっちまうぞ。」
彼は心底面倒くさそうな顔をしながら袋をあさっている。
うーっと睨むと彼は素知らぬ顔で黄色い缶を傾けている。
観念した私は大きな溜息をついて彼の横に座った。
「…なんで隣座るの?」
「君の言った通りご飯食べてないからだよ。」
「いやいや、教室で食えよ。」
「教室に戻って食べたら時間なくなるでしょ。」
「なんの?」
「さっきの続き。」
「冗談だろ…」
正直さっきの続きと言ってもほとんど彼に論破されている状況であり、反撃するためのカードはもう残されていない。
それでも、そう簡単に許すと言われても納得のいっていない私はなにかを言いたいのだ。
まるで駄々をこねる子供だ。
とりあえずご飯を食べてから考えよう。腹が減ってはなんとやらだ。
カバンをあさり、弁当を取り出そうとするが、
「あっ」
朝の支度を急いだせいで完全に忘れていた。
ホント、私は昨日からなにをやっているんだろう。
勝手に人の本を持ち帰り、寝坊をし、謝らなければならない相手を逆に謝らせ、許すと言ってくれた彼に納得いかずかみついていき、トドメにお弁当を忘れる。まさに負のスパイラルだ。
ダメだ…こんなとこで泣いたらまた彼に迷惑をかけてしまう。
涙をこらえ、早くこの場所から離れようと腰を上げようとしたとき、私の目の前におっきなメロンパンが現れた。
「ほれ。」
私は潤んだ目を大きく開いて彼を見た。
「…他のパンが思ったより大きくてな。更にこんなでけえメロンパンなんか食っちまったら太っちまう。そして妹に、太ったお兄ちゃんはキライ!と言われた俺は生きる意味を失ってバッドエンド。ってな人生はごめんだからな。まぁ人助けだと思って代わりに食ってくれ。」
長々と喋った彼はそっぽを向きながらメロンパンを差し出してくる。
それを私は受け取ったあと、別の意味で溢れそうになった涙をそっと拭って、小さな声でお礼を言った。
「…ありがと。」
「…おう。」
彼もぶっきらぼうに返事をすると、お互い無言でパンを食べ始めた。
食べ終わったあともしばらく無言でベンチに座っていた。
先ほどの続きをする気はもちろんなくなり、いつの間にか始まったテニス部の練習をお互いにボーッと見ていた。
しかし、私の頭の中はさっきのやりとりのことをひたすらに考えていた。
彼は私にメロンパンを渡したとき、どんな気持ちだったのだろう。
彼からすれば、私はとても面倒くさい女だろう。
散々迷惑をかけられた挙句に目の前で泣きそうになる女なんか面倒極まりない。
そんな私に彼はなぜ優しくしてくれたのか。
彼の話した通り、太って妹に嫌われたくないから?
全くありえない話ではないが…うん、これは除外しよう。
次に…私のことが好きだから?
お互い初対面で会話もしたこともないのにそれはないだろう。
そういえば1人、会話もしたことないのに告白してきた人はいたが、彼にとっては最悪な印象でしかない私に好意を抱くようなことはまずありえないだろう。
じゃあ、私が泣きそうになってたから同情して?
うん。やっぱりこれが1番妥当かな。
目の前でご飯が無くて泣きそうになってる子を見たらやっぱり目の前で食べづらいし、どんな人でも分けてあげようって気にもなるよね。
…別に私はお弁当を忘れて泣きそうに訳ではないのだけど。
しかし、ムキになって彼にかみついていくとこといい、私はこんなに子供っぽく感情を剥き出しにする人間だっただろうか?
…やばい、すごく恥ずかしい。
1人、羞恥に顔を朱に染めていると、彼はおもむろに立ち上がり大きく伸びをした。
「それじゃ、教室戻るわ。」
「えっ?あっ、うん…」
気づけばもうすぐ昼休みがおわる時間になっていた。
私の歯切れの悪い返事を聞いて、彼はなにを勘違いしたのか、
「あっ、弁当忘れて泣いたことは誰にも言わんから安心してくれ。そして話す友達もいないから更に安心してくれてもいい。」
…やっぱりそう思われていたみたいだった。
自虐ネタを含めて私を安心させてくれているのはわかるが、
「違うから!別にお弁当を忘れて泣いてた訳じゃない!いや、それも違くて…別に泣いてないし‼︎」
「いや、でも目が潤んでたし。」
「それは…目にゴミが入っただけだから!」
「ベタすぎんだろ…」
さっきの羞恥心は一瞬でどこかへ飛んでいってしまったらしく、ギャーギャー言い合っているうちに無情にも昼休み終了のチャイムがなった。
今回もお付き合いいただきありがとうございます!
たくさんの方が見てくれているようで本当に本当に本当に嬉しいです!!!
もっと面白くできるよう精進してしきたいと思いますのでよろしくお願いします!
アドバイスを頂きましたので少し修正しました。
なにか気になる点がありましたら是非ともご指導おねがいします。
それでは失礼します。