東方神殺伝~八雲紫の師~   作:十六夜やと

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2話 弾幕ごっこ

side 霊夢

 

今日幻想入りした人間に弾幕ごっこをしかけるなんて、魔理沙の頭の中はお花畑なのかしら?

スペルカードの説明すらしてないのに、魔理沙と幻想郷にやって来たばかりの男・夜刀神紫苑さんは神社の境内で向き合っていた。

私は隣で観戦しようとする紫に聞く。

 

「ねぇ、止めなくていいの?」

「別にいいんじゃない?」

「いい、って……。相手は魔理沙よ?」

 

口元を扇子で隠し、いつも何を考えているのかわからない大妖怪は答える。

紫曰く彼は師匠であると言っているが、紫苑さんは神力が多いだけの外来人だ。私と一緒に異変解決に乗り出している魔理沙とは戦闘経験の差がありすぎる。ましてや魔理沙が手加減するとは到底思えない。アイツは素人相手でも容赦しないタイプだ。

 

「弾幕ごっこってのは『いかに自分の技を綺麗に魅せるか』が重要なんだ」

「へぇ。面白いな」

「紫苑は能力持ちなんだろ? なら、私の使う2枚のスペルカードを全て避けたら紫苑の勝ちな!」

「スペルカード?」

「これだっ」

 

魔理沙は得意げにカードを見せびらかす。紫苑さんも興味があるのか、わざわざ近づいて確認する。

 

私から見た紫苑さんは一言で言えば『物腰の柔らかい好奇心旺盛な外来人』だ。荒事になれているような感じではなく、どちらかと言えば平和主義者?の印象が強い。彼の能力である〔十の化身を操る程度の能力〕も、幻想郷において破格とはとても思わない。聞いた感じ中級の妖怪程度なら倒せるかもしれないが、上級の妖怪にはかなわないだろうと判断した。

 

「霊夢、貴女はどちらが勝つと思う?」

「魔理沙でしょ? あたりまえじゃない」

「それは貴女の勘?」

「考えなくてもわかるでしょ……何よ、その目は」

 

紫は私に面白いものでも見るような目を向ける。

 

「じゃあ、始めようぜっ」

「能力つかってもいいんだよな?」

「その代わり私も全力でいくぜっ! 私は手加減できないからな!」

「そうか……。なら俺も全力でいくぞ(・・・・・・・・)?」

 

柔軟体操をしながら、軽いノリで勝負に応じる紫苑さん。

魔理沙もミニ八掛炉を構える。

 

「まさか貴女の勘でも計れないなんて……さすが師匠ね」

「どういうことよ。まどろっこしいのは嫌いだから簡潔に言いなさい」

「ヒント、彼を退治するとしたら……貴女ならどうする?」

「紫苑さんは人間だし、異変を起こすつもりもないんなら退治も何もないじゃない? でも……そうね、神力も高いからひとまず――」

 

スペルカードで――と紫苑さんを見ながら言葉を続けようとして違和感を覚えた。

魔理沙と対峙してる紫苑さんは柔軟体操を終えて、ただ棒立ちをしているだけだ。『初めての弾幕ごっこ』に対して緊張する様子もなく、むしろこの状況を心の底から楽しんでいるようにも見える。

だからこそ――私自身のおかしさを理解する。

 

 

 

 

 

「あ……れ……?」

 

 

 

 

 

彼を……退治す……る……? どうやって(・・・・・)

 

 

 

 

 

「どう? やっと分かったかしら?」

「……紫、彼の能力は本当に(・・・)〔十の化身を操る程度の能力〕なの?」

 

そう……私は『彼と対峙して勝てると思えないのだ』

 

「私も違和感に気づいたのは師匠と別れてずいぶん時間がたった後だったわ。あの時の私は疑問にも思わなかったのだけど、私が大妖怪として力をつけた時に思い出したのよ。おかしいってね。だって――彼は4体の大妖怪を相手にしても勝利したのよ?」

「……!?」

「所有する神力と強さが比例しない。つまり『限界を越える』のよ。師匠は」

「限界を……越える」

「彼も言っていたでしょう? 自分の能力は『拝火教の勝利神の能力と似ている』って。恐らく彼の〔十の化身を操る程度の能力〕はあくまでも本来の能力(・・・・・)のオマケみたいなもの。私の推測では……師匠――夜刀神紫苑の能力は〔勝利を掴む程度の能力〕、または〔あらゆる障害を打ち破る程度の能力〕」

「……嘘でしょ?」

 

紫の言い方だと、前者よりも後者の能力が有力だと判断している様子。

いや、どちらにしても――私も紫苑さんに勝てると思わない。

気持ちで『負ける』と判断してしまうのだ。

私の想像ではあるが、紫は紫苑さんのことを見てきたのであろう。『不可能を可能にするさま』を。

 

「けど……どうして紫苑さんは自分の能力を正しく理解してないの?」

「え? あ、あー、それはね……」

 

珍しく動揺した紫が冷や汗をかきながら呟く。

 

 

 

 

 

「――彼の周囲が人外魔境すぎて自分の能力が『強い』と感じないから……かしら?」

 

 

 

 

 

紫苑さんが不憫に思えてきた。

 

 

   ♦♦♦

 

 

side 紫苑

 

ここ最近、紫と幻想郷に引っ越す為の準備してたから、ひさしぶりに戦闘するなぁ。最後に能力で競ったのはいつだっけ? 確か〔全てを切り裂く程度の能力〕のアイツと死闘をしたときだったような気がする。

 

「よし、始めるぞ!」

 

魔理沙は箒に乗って宙に浮く。

普通の魔法使いってのが分からんけど、空中戦もするのか。

 

「紫苑は飛ばないのか?」

「飛べること前提で話してない? まぁ、飛ぶけどさ」

 

俺は自分の所有する化身の1つ――第1の化身『風』を使用する。

ふわりと俺の体に風がまとわりつき、魔理沙と同じ高さまで浮く。この化身は基本的に移動手段として使用するのだが、こうして空を飛ぶことにも応用できる。化身の多くは汎用性が高い。

 

「風を使って飛ぶのか。まるで文みたいだな」

「その文って誰なのかはしらんが……っと!」

 

魔理沙はいきなり光る玉のようなものをこちらに放ってきた。

俺は風を使ってそれを弾く。

これが弾幕というものだろうか?

 

「どんどん飛ばすぞ!」

 

宣言通り、弾幕を大量に放ってくる魔理沙。

雨霰のように迫ってくる弾幕を紙一重でかわしながら、俺は胸のなかに込み上げてくるものを感じた。

 

これが弾幕ごっこか。

くっそ綺麗じゃねーか。

こんな芸術的なものを使えるというのなら……是非とも使ってみたい。

 

 

 

「魔符『スターダストレヴァリエ』!」

 

 

 

魔理沙が一枚のスペルカードを構えて叫び、これまでとは桁外れの弾幕が襲ってくる。つかコレ避けるとか無理ゲーだろ。

 

できれば避けたかったが仕方なく近くにあった木の上に降り、第9の化身『山羊』を使用する。

この化身は雷を自由自在に操るもので、魔理沙の放ってきたスペルガードを迎撃するために、こちらも雷の玉で打ち落とす。次々と消されていく弾幕に、魔理沙が驚きの表情を浮かべる。

 

「外来人なのによくやるな!」

「そりゃどうも!」

「なんか戦いなれてる動きだぜ……。外でも弾幕ごっこしてたのか?」

「んなわけねーだろ。騒がしく賑やかな平和な世界で遊んでいた(ころしあい)だけさ」

「面白そうだぜっ! その世界!」

「どっから出てきたその感想!?」

 

俺は油断していたのだろう。

気づいたら、魔理沙が八角形の物体を構えて笑っていた。

その八角形の物体に霊力が限界まで集まっていたのが感じられ、とにかく喰らったらマズイということだけは理解できた。

 

「しまっ――」

 

 

 

 

 

「恋符『マスタースパーク』!!!」

 

 

 

 

 

八角形の物体から極太の光線が吹き出し、俺の視界を虹色に染めた。

『風』で避けようにも、もう遅い。

 

博麗神社の一角を破壊しながら、俺はマスタースパークに飲み込まれた。

 

 

   ♦♦♦

 

 

side 霊夢

 

「ちょっと魔理沙! やりすぎよ!?」

「あ、あぁ。少しやりすぎたぜ……」

「少し!? 神社壊して少しなわけないでしょ!」

 

魔理沙のマスタースパークで破壊された場所を指差しながら怒鳴る。

神社壊したのも問題だが、一番は紫苑さんをぶっ飛ばしたことである。

能力持ちと言っても人間。魔理沙の最大火力のスペルカードであるマスタースパークをまともに受けて大丈夫なはずがない。

 

「能力でスターダストレヴァリエを防がれたから、てっきり大丈夫かと思ったんだけだなぁ」

「うん、さすがに俺でも死ぬわ」

「大丈夫なはずないでしょ!? あぁ、もう! 早く探しに――」

 

ふと、隣を見ると紫と、マスタースパークに飛ばされたはずの紫苑さんが雑談をしていた。もちろん、紫苑さんはどこも怪我をしていない。

 

「し、紫苑!?」「紫苑さん!?」

 

紫がスキマで救出したのだろうか?

そう聞く前に紫は首を横に振った。

 

「私はなにもしてないわ。師匠が自分の能力を使って避けただけ」

「まさか『大鴉』を使うとは思わなかったぞ」

「「『大鴉』?」」

 

私と魔理沙は首をかしげた。

なぜそこに鴉が出てくるのかがわからない。

 

……そう言えば紫苑さんの能力は〔十の化身を操る程度の能力〕。まだ『どのような化身があるのか?』を聞いてなかった。そして聞いてみたところ、紫苑さんはアッサリ答えてくれた。

 

「空を飛んだ時は第1の化身『風』、雷出したのは第9の化身『山羊』だ。んで、最後の光線避けたのは第7の化身『大鴉』……動きが速くなる能力だと思ってくれればいい」

「動きが速くなる程度で私のマスパがかわせるのか?」

「さぁ? 実際に俺は怪我してないし」

 

開いた口が塞がらない、とはこの事だろう。

弾幕ごっこだったとはいえ、紫苑さんは実質的に3割の力だけで魔理沙を制したのだ。

その紫苑さんが自分の本来の能力に気づかないなんて……彼のいた外の世界というのは、どのような世界だったのか?気になるとは思ったが、なぜか聞いてはいけない気がした。

 

「さて、軽い運動したことだし……紫、行くぞ」

「ちょっと待って、紫苑さん。どこ行くの?」

 

突然立ち去ろうとしている紫苑さんを呼び止める。

魔理沙が「ところで紫と紫苑ってどういう関係なんだ?」と聞いてきたので「師弟関係。紫苑さんが師匠」と簡潔に答えてあげた。魔理沙は目が点になったが気にしない。

紫と一緒なら心配ない――いや、あの何考えているのか分からないスキマ妖怪と一緒という時点で信用ならないけれど、そろそろ日も暮れようとしているので、行き先を聞いてみた。

 

「家を置く場所決めに行くん。外の世界にある家を紫に転送してもらおうかと思ってね」

「え? もう転送してますよ」

「そうなん?」

 

紫は笑顔で言った。

清々しいほどに綺麗な笑顔で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「博麗神社の下ですわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……は?

 

 

 

 

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