東方神殺伝~八雲紫の師~   作:十六夜やと

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それぞれの思いを胸に
起こる悲劇も知らないままに


48話 明けぬ夜、消えぬ月

side ヴラド

 

夜というのは素晴らしい時間だ。

 

全ての清明が眠りにつく時間であり、喧騒や怒号などの音が一切聞こえず、恐怖と安寧が支配する時間。吸血鬼にとっては当たり前の時間帯ではあるが、太陽を超越した儂にとって『夜』は心安らぐものだ。

 

このような高貴で優雅な時間は、ティータイムと洒落込むのが相応しいだろうよ。

『洒落込む』なんて言葉は神殺と博霊の巫女を連想させるが。

 

「虫の音、動物の鳴き声――人間の無意味な声が聞こえず紅茶を楽しめる、まったくもって素晴らしい」

「そうですわね、おじいさま」

 

紅魔館のテラスで孫と紅茶を嗜む。

メイドも孫の隣に待機しているが、彼女は目立たぬように佇んでいる。従者として評価できるな。

 

儂はテーブルの茶菓子を口に運ぶ。

うむ、美味なり。

 

「メイド、フランの姿が見えぬが、ぜひとも紅茶を一緒に楽しみたい。どこにいる?」

「妹様は紫苑様の屋敷に行っております」

 

神殺の家か。

紅魔館に居ないのは不安ではあるが、下手な砦よりも堅牢な神殺の家ならば心配無用。孫が夜遅くに男と一緒にいるなど考えたくもないが、あの神殺なら許せる。

むしろレミリアとフランを嫁に貰ってはくれないだろうか? 他種族であるにせよ、どこぞの馬の骨より数億倍マシである。

 

儂はフランが何をしに行ったのかを問う。

 

「はい、妹様は紫苑様の家で『アニメ鑑賞をオールナイトしてくる!』、と」

「………」

「おじいさま、手が震えておりますが」

「そ、そのようなことはない」

 

え、儂も行きたかったし。

フランに勧めたいアニメなんて星の数ほど揃えておったのに……あの神殺め! なぜ儂を誘わなかった!

 

しかし、今は(レミリア)とティータイム。

この時間はこの時間しか楽しめない。後で神殺に自慢してやろう。

 

 

 

――この後の出来事も。

 

 

 

「しかし……今宵は月が美しいな」

「えぇ」

 

 

 

 

 

「だが、月が沈まぬのは雅ではない」

 

 

 

 

 

月は昇り、沈んでこそ華があるというもの。

 

儂は席から立ち上がり、佇まいを正す。

レミリアもそれに習う。

 

「レミリア・スカーレット、十六夜咲夜、夜を縄張りとする儂等が直々に、異変の首謀者に手解きしてやろうではないか」

「もちろんです、おじいさま」

「微力ながらお供いたします」

 

二人の吸血鬼と一人のメイドは、輝く月に消えてゆく。

 

 

   ♦♦♦

 

 

side 魔理沙

 

「アリス、早く行こうぜ!」

「もう、少しは待ちなさいよ」

 

私はアリスの家にいた。

もちろん――異変解決に誘うためだ。

 

明らかに月の様子がおかしいのは人里でも話題となっており、『博霊の巫女はまだ動かないのか』と囁かれている。前までは、霊夢が動かない理由として『面倒だから』という理由が挙げられたが、今は『修行で生き倒れている』可能性も否定できないな。

努力を鼻で笑っていた昔の霊夢とは違うのだ。今のアイツを私は責められない。

 

おっと、今はそんな話じゃないぜ。

つまり霊夢はまだ動いていない。

私(と付き添いのアリス)が異変を解決するチャンス!

 

「はーやーくー」

「そんな早くに異変は解決しないわよ」

「シャンハーイ」

「ホウラーイ」

 

アリスの人形も私を嗜めようとしていた。

 

「もしかしら動くかもしれないだろ!」

「霊夢が? むしろ彼女が行動を起こすべき――」

「そうじゃなくて。早期に解決できそうだけど、動かしてはいけないアイツのことだよ」

「……ごめん、ちょっと急ぐ」

 

アリスも気づいたようだ。

 

最近の異変に高確率で関わってくる紫苑が今回の異変に進んで関わる可能性は非常に高い。そして、万が一アイツが自分の神力以上の力で解決しようとすれば――霊夢や妖夢を苦しめることとなる。

それだけは何としても避けたい。

アリスもそう思ったのか、準備する手が早くなる。

 

紫苑のためとはいえ、アリスは分かりやすすぎるな。

そうじゃなくても早く動いてほしいぜ。

 

「魔理沙、行くわよ」

「OK! やっと新しいスペカが試せるぜ!」

 

霊夢が頑張っているのに私が何もしていないわけがない。

 

最近はヴラドとかいうオッサンに頼んで神話生物相手に弾幕ごっこをしている。

オッサンの出す神話生物はとにかく強く、何度も負けたりもした。オッサンからも『凡人』のレッテルを張られ、悔しい思いをしたことなんて数え切れないくらいだ。

オッサンは言った。

 

『貴様は博麗霊夢、魂魄妖夢とは違って、どんなに努力しても凡人の域を出ないであろう。天才の努力と凡人の努力、天と地の差があるのは理解しているはずだ』

『――っ』

 

でも、とオッサンは優しく微笑んだ。

 

『その努力が無意味なもの……とは儂は思わぬ。精進しろ、魔法使いよ。貴様が凡人の身で天才を超えたその時――貴様を認めてやろうではないか』

 

別に他人から認められるために努力しているわけじゃない。

それでも――私はあの格好良いオッサンに認められたいぜ……。

 

「アリス! 行こう!」

「えぇ!」

 

二人の魔法使いは輝く月に消えてゆく。

 

 

   ♦♦♦

 

 

side 霊夢

 

「準備完了っと」

「あら、遅い出発ね」

 

私が札の山を腰の箱(虚空って呼ぼうかしら?)に仕舞って立ち上がったとき、見慣れたスキマから金髪の妖怪が現れる。幻想郷の賢者・八雲紫だ。

 

「何の用?」

「用がなくても来ていいじゃない」

 

クスクスと笑う紫。

相変わらず胡散臭い妖怪だ。紫苑さんと会話しているときは微塵も感じられないが、それ以外だと『あぁ、やっぱり紫だ』と改めて認識する。

大妖怪は口元を扇子で隠す。

 

「私は今から異変解決に行くの。邪魔するなら帰って頂戴」

「なら……私も行こうかしらね」

「は?」

 

幻想郷の賢者が異変に介入?

彼女が異変解決に参加したことなど聞いたことがない。それこそ博麗の巫女が幻想郷に現れる前なら分からなくもないが、先代の巫女……いや、歴代の巫女でも知らないのでは?

 

唖然とした表情をしていたのだろう。

紫は面白そうに笑う。

 

「私が異変解決に乗り出しちゃいけない決まりはないのよ?」

「いつものアンタなら絶対にしないでしょ」

「……まぁ、そうね」

 

あっさりと認めた紫。

今日は調子が狂うわ……。

 

「霊夢がどれ程強くなったのか見てみたいのよ。師匠の一番弟子として、貴女が師匠を倒せる力の鱗片でも掴んでいるのかどうかを」

「……『紫苑さんを倒す力をつけている』と言わないあたり、やっぱり紫ね」

「貴方は師匠を倒せるなんて自惚れていないでしょう? 数ヵ月程度の修行で倒せるほど、彼の街で勝利の軍神と呼ばれていた夜刀神紫苑は甘くはないわ」

 

修行をする毎日だけれど、相変わらず紫苑さんの神力や実力の底は見えない。そもそも幻想郷で紫苑さんが本気を出せる相手とぶつかったことがなく、彼の本気を見たことがないのが辛い。

九頭竜さんや獅子王さん、ヴラドさん辺りなら知っているだろうけど、口頭で説明されても理解できないと思う。

 

特に九頭竜さんの説明。

実技を教えている彼の言葉は意味がわからん。

 

私は肩をすくめた。

 

「……ついて来たいのであれば、どうぞご自由に。足手まといだけにはならないようにね」

「師匠の一番弟子が遅れをとるわけないでしょ」

 

 

 

 

 

「……紫苑さんの料理を食べ過ぎて、現在進行形で減量しようとしているのに?」

 

 

 

 

 

「………」

 

目から光の消えた紫を連れて、私は博霊神社を後にした。

 

巫女と妖怪が輝く月に消えてゆく。

 

 

   ♦♦♦

 

 

side 妖夢

 

「異変、ですか」

「だねー」

 

白玉楼の縁側にて。

私、幽々子様、お師匠様と月を眺めていると、突然「あの月は本物じゃないね。異変かな?」と呟いたのを聞いた。

 

聞くところによると『月が大きくなる異変or夜が明けない異変』と、お師匠様は睨んでいるらしい。幽々子様はお茶をのんびり嗜んでいる。

 

「あらあら、それは大変ね」

「大変だよねー」

 

ずずずっ。

 

「「はー」」

「緩いですね……この空気」

 

異変が起こっているのにも関わらず、お茶を飲み終わったら寝室に赴いても違和感のない緩さだ。幽々子様とお師匠様は雰囲気がそっくりなだけに、割りと会話で気の会うことが多い。

確かに私達には関係のないことだけど。

 

「ん? 異変解決に行く?」

「いきなりですか」

「僕としては夜が明けないなんて関係ないけど、みょんにとっては良い経験になるんじゃないかなーってさ。ほら、百聞は一見にしかずって言うじゃん」

「ないすあいであ!」

 

馴れないカタカナ言葉で賛同する幽々子様。

最近は外の世界の書物を読み漁っている我が主。紫苑さんの会話を理解するためにも、『英語』というものヴラドさんから学習している。彼らの会話は分からないことが多い。

 

お師匠様はよっこいせと立ち上がる。

 

「僕もついて行くよ。仮にも師匠を名乗っている身だし、みょんの成長具合を間近で見てみたいから」

「………」

 

私の成長、か。

数ヵ月程度しか修行していない私だが、その数ヵ月は私の半霊生において一番濃い時間であったのは間違いない。お師匠様と手合わせを何千回としたし、同じ力量の相手として霊夢さんやヴラドさんの神話生物を幾度となく殺しあいをした。

私は数ヵ月前の自分――無知で傲っていた自分とは格段に違うと断言できる。

 

白楼剣と楼観剣を握りしめる。

お師匠様はそれを見て羨ましそうに拗ねた。

 

「……いつも思うけど、銘のある刀を持ってるっていいよね。僕も名刀欲しいなぁ」

「お師匠様は何の刃物を使っても、〔全てを切り裂く程度の能力〕は発動するのでは?」

「名刀なんて男のロマンじゃないか! 紫苑ですら叢雲と帝を持っているのに、剣や刀の最上位能力所有者の僕が名刀を持ってないなんておかしいよ!」

 

そういうものなのだろうか?

白楼剣で斬れない岩を物理法則無視して包丁で切り裂くお師匠様に、銘のある刀は不要だと思う。

 

「行こう、みょん! 異変解決ついでに首謀者のところで刀でも戴いちゃおう!」

「そうね、そうしましょう!」

「え!? 幽々子様も!?」

 

なんか幽々子様も行く雰囲気だ。

お師匠様と一緒に驚いていると、幽々子様は涙目になって訴える。

 

 

 

 

 

「最近、腹回りが気になるのっ! これ以上太って、紫苑にぃに嫌われたくないもんっ!」

 

 

 

 

 

「「………」」

 

運動ついで・刀を奪い取るついでに異変解決に乗り出す私達。

どこかの賊か何かだろうか?

純粋に異変解決したい人がいない。

 

キッと私とお師匠様を睨む幽々子様。

 

「二人とも、行くわよ!」

「「了解であります!」」

 

半霊と幽霊と泥棒が輝く月に消えてゆく。

 

 

   ♦♦♦

 

 

side ???

 

「姫様、やはり妨害する者が現れました」

「やはりと言うべきかしらね」

 

月明かりに照らされる影二つ。

 

「博霊の巫女が動くことなんて予想の範囲内よ。けど――私達は彼等(・・)に連れ戻されるわけにはいかないの」

「えぇ」

 

姫様と呼ばれた少女は偽りの月を眺める。

動くことなく、幻想郷の夜を明けさせることのない月。

 

「私を助けてくれる王子様なんて、もはやお伽噺の中だけなのかしら? そうすれば私達はこんなに苦労しなかったのに」

「そう都合よく世界は回っておりませんよ」

「……つまらない世界ね」

 

月は輝く。

だが――月の創造者の心は曇ったまま。

 

「さぁ、異変解決に乗り出してきた者を歓迎してあげましょ? 私達の計画を挫けるのか、試してみたいわ」

「……無理のなさらぬよう」

「分かってるわよ」

 

異変の首謀者達が動き出す――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところで何人来てるの?」

「今のところ10人です」

「……多くね?」

 

 

 

 




紫苑「ちょっとシリアス続きだったからな、次回はコメディ入れてみよう」
妹紅「嫌な予感しかしないんだけど」
紫苑「大丈夫、大丈夫」
妹紅「(´・ω・`)」
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