東方神殺伝~八雲紫の師~   作:十六夜やと

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祝50話


50話 悲劇を喜劇に

side 紫苑

 

今夜は月が綺麗だ。

光源がなくとも夜道を安全に歩けるくらいには世界を照らしており、俺は柄にもなく夜の幻想郷を散歩している。

一緒にアニメ鑑賞していたフランは、最初はテンション高かったけど寝落ちしちまったからなぁ。とりあえず寝た彼女は藍さんと咲夜に任しているから大丈夫だろ。

 

鼻唄を歌いながら散策していると、前方に親の顔より見慣れたアホ面を発見。外の世界でコレに会ったら、迷わなくても110を押す自信がありそうな奴。

しかし……この時間帯に会うのは初めてかもな。

 

「よォ、神殺」

「奇遇だな、壊神」

 

不審者と並んで歩く俺。

どこに向かっているのか?

さぁ? 妖力が爆発してる方に歩いてるだけさ。

 

無言だった俺と壊神。

最初に口を開いたのはアイツだった。

 

「テメェ慧音さんに俺様のこと話しただろ? クソ兎にも」

「あぁ、話したぜ」

「なンで部外者に話しやがった」

「お前にとって想い人と元・月の民は部外者なのか?」

「………」

 

俺と壊神は睨みながら歩いていたが、壊神が先に舌打ちをしながら目を逸らした。

 

部外者、と言うには無理があるほど、コイツは慧音に傾倒してるからね。その事を自分でも理解したんだと思う。

鈴仙は……まぁ、ついでということで。

 

「話変わるけどいいか?」

「好きにしな、めんどくせェ」

 

俺は歩く度に道の端にある物へと目を向ける。

 

 

 

 

 

「この道端に落ちてる竹の山はなんだろうな?」

「竹取りの翁が気合いで伐採したんじゃねェの?」

「なるほど」

 

 

 

 

 

竹というものは夏に使うには最適な素材だから、翁さんは本気を出しちゃったのかもしれない、ということか。お金が必要なのかな?

でも、その場に放置しておくのは少々非常識。

片付けすれば完璧だったのに。

 

そして無言となる俺達。

 

うん、会話が続かん。

本来なら趣味とかの話で盛り上がるけど、シリアス展開だしイマイチ会話がもたないや。壊神は割りと真面目だし。

 

「はぁ……なんだろう。俺達は基本的にバカやって騒いでるから、通夜みたいな雰囲気は苦手だわ」

「同感だぜ。俺様は格好良くて強い兼定だから、シリアスなんて似合わないなァ」

「どこが格好良いんだよ」

「嫉妬かァ? 見苦しいぜ」

「嫉妬するほどの面じゃねーだろ」

「テメェよりはマシ」

「冗談は顔だけにしとけ」

 

ハハハハっ、と静かな夜に響く笑い声。

 

「こうやって……アイツも笑ってたよなァ」

「……だよな」

 

彼女も笑うことが好きだったけ。

彼女ことを会話に出すのは非常に珍しく、それが壊神の口からなら尚更。

俺、切裂き魔、壊神、帝王、詐欺師……そして彼女を含めた6人で、昔はこうやってアホな会話しながら笑いあう。

懐かしくて、切ない。

 

「アイツも帝王のように幽体にならねェかなァ……」

「幽々の考察からすると、どうも難しいらしいよ。帝王の復活はアイツの洒落にならないくらいの意思と存在が原因らしいから、彼女は幽霊にはなれないとか。というか、幽々が彼女の成仏を見たってさ」

「………」

「白玉楼……って言っても、お前は行ったことがあるかどうかわからないけど、あそこって死者が成仏をする滞在場所らしくて。綺麗なところだから、死者が未練がましく中々成仏しにくいとか」

「……で?」

「だからこそ――幽々は覚えてたんだろうな。あっさり未練もなく成仏した魂だから印象に残ってるってよ。意味不明なこと言った瞬間に、光となって消えたってさ」

 

未練がなかった。

それだけでも俺達は救われる。

 

「アイツは……何て言って成仏したんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『神殺、切裂き魔、おじーちゃん、詐欺師、暗闇、つっちー、要塞――そして兼定。みんな、大好きだよ』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

だから……シリアスは嫌いなんだ。

 

まったく、アイツは俺達の中でも一番弱くて、一番強い。

恐怖と絶望の代名詞、敵対するものは容赦なく残虐に殺す壊神様の涙腺を、無意識に崩壊させやがるしな。

 

「さぁてと、兼定、涙拭け。大一番の勝負どころで、天下の壊神様が泣いてたら格好つかねーぞ」

「泣いてるわけねェだろ。ちょっと玉葱を粉砕させたンだよ」

「そりゃ災難。んじゃ、一仕事やりますか!」

「分かってらァ!」

 

 

   ♦♦♦

 

 

side 依姫

 

私達が上層部から課せられた任務は『八意永琳・蓬莱山輝夜の捕縛』である。数年前から言われており、なぜ彼女達に固執するのかは理解できず、『なお任務妨害をする者は例外なく抹殺せよ』の意味も分からない。

この任務には支援要因たる豊姫も頭を悩ませていたが、私達は軍人であるため拒否権はない。

 

だから、対象2人以外の地上の民を皆殺しにする予定だったのだが……。

 

「……豊姫」

「……えぇ、私達は指揮官であり、全線に立つのは最終手段だけど」

 

敵として立ち塞がるのは白髪の半妖。

月の民ととは相性の良い妖怪の血と、脆弱な人間の血を持つ、とるに足らない存在。

 

 

 

なのに。

 

 

 

「紫苑のことを『戦闘になると口調が荒くなる』って言ったけど、僕も同じようなものか」

 

と呟いた瞬間、兵士の光線銃を横凪ぎに一閃して打ち消した。

そして、右足を地面に陥没させるほど強く踏みしめ、バチバチと銀色の閃光が亀裂に迸った。

私を含む月の軍勢が目を点にする中、飢えた目を輝かせた半妖は、心臓を鷲掴みして潰すかのように吐き気を促すような殺気を四方八方に撒き散らしながら吼える。

 

 

 

 

 

「貴様等全員斬り殺すっっっ!!!」

 

 

 

 

 

そこから先は地獄であった。

 

まるで動きが見えているかのように兵士を斬り殺していく半妖。

ましてや獲物が神刀であるがために、兵士は頭や身体、腕や足を粉々に切り裂かれながら死んで逝く。

刀術なら他の追随を許さない自信のある私だが、あの半妖には遠く及ばないと自覚してしまう。臨機応変に対応しながら兵士を捌く姿は、ひどく鋭利で美しい。

 

是非とも私の部下に欲しい人材だ。

殺すのが惜しい。

 

「豊姫、少し行って参ります」

「気を付けてね」

「……貴女も少しは働いてください」

「私は支援要因だし。それに――この扇で浄化しようとしたんだけどねぇ」

 

豊姫の視界の先には、兵士の攻撃を受けても掠り傷受けない異形の化け物が、捕縛対象の前に立ちはだかっていた。 

 

「あれ、浄化できないのよ」

「は?」

「つまり穢れがない(・・・・・)の」

「あれは吸血鬼が創ったモノのはず! 穢れが一切ないとは矛盾しております!」

「私にも理解できないわ。でも、浄化できないのも事実」

 

そもそも一介の吸血鬼が穢れのない化け物を創るなんておかしい。

 

 

 

まるで――私達と戦ったことがあるかのように。

 

 

 

そのような疑問を胸に抱きつつ、私は白髪の半妖に斬り込む。

とっさに反応した半妖は刀の()で刃を受け止めつつ笑った。常人にはできない技だ。

 

「君が親玉かな?」

「それがどうしました?」

「つまり――君をぶっ殺せばいいわけだ!」

 

刀を乱暴に払う半妖。

その斬撃は私の方向とは大きく外れて、近くにいた兵士3人の胴体を綺麗に切断した。

 

「私は貴方方を殺すつもりはないです。剣を引いてください」

「外の世界に軍を侵攻させ、僕らの街の住人を虐殺したくせに、その言葉が本当に信用できると思っているの? 月の民って頭の中がお花畑なの?」

「要するに、私怨と」

 

私怨のために剣を振るう。

なんと愚かしいことか。

しかし、目の前にいる半妖は首を振った。

 

「復讐なんてするつもりは一切ないよ。興味ないし」

「ならば、なぜ貴方方は私達に剣を向ける!?」

過去(うしろ)の復讐なんて興味ないよ。でも、未来(さき)で救える命を見捨てるほど馬鹿じゃないさ。僕は幻想郷の住人を守るために剣を振るっている。君みたいに覚悟のない剣に負けるほど、僕の決意は弱くはない」

 

そこから先は剣士による戦いだった。

私の攻撃が当たるまで、半妖は何度も私に致命傷に近い斬撃を浴びせた。もし彼が半妖ではなかったら、私は15回は死んでいたであろう。

それでも私の刀が半妖の腹を斬りつけた以降は、火を見るより明らかに動きが鈍くなった。それでも、彼は後方の仲間を守らんと歯を食い縛り、口から血を吐きながらも地面に立っていた。

 

ついには刀で自分を支えるほどに疲弊する。

周囲の兵士は消えたが、豊姫の能力で次々と増えてくる。

 

「貴方が敵であることを、これほど後悔したことはありません」

「……嬉しいこと……言ってくれるじゃん」

 

刀を構える半妖に、私は称賛の感情しか浮かばない。

相性は最悪。それでも彼は『守るもの』のために、体を張ってまで戦ったのだ。できれば対等な立場で手合わせを願いたかった。

本当に、軍人である立場が……今は恨めしい。

 

「お師匠様ぁ!」

 

走ってくるのは白髪の半霊。

どうにか小さい身体で半妖を私から離した少女は、二本の刀を構えた。まだまだ未熟であるが様になっており、どことなく半妖の剣筋を見ることができた。

 

「みょん……! 早く逃げ」

「そんなことできませんっ!」

 

少女の感情は尊敬……と恋慕か。

まるで私が悪役であるかのようだ。いや、まさに悪役か。

吸血鬼の創った化け物の後ろから出ようとして、他の者に止められる者たちもいる。

 

絶望的な状況でも諦めない者達と、それを物量で潰していく私達。物語であるならば、前者が応援されるのは目に見てえいる。

それでも世の中は不条理だ。後者が勝つに決まっている。

 

 

 

本当に。

 

 

 

「……軍人という立場が嫌になってきますよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なら辞めればいいじゃねーか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私はふと顔をあげた。

 

「だから『責任ある立場』ってのは嫌いなんだ。どうにも私情よりも利益を優先させないといけねーし、自由に動けないってのが一番辛い。私情を切り捨てられないなら、いっそ辞めた方がマシ」

 

半妖と私の前に経つのは黒髪の人間。

いや、本当に人間か?

圧倒的存在感と絶対的神力を纏った、神々しさを放つ目の前にいる人間を、はたして『人間』と表現しても良いのだろうか?

男は笑った。

 

「妖夢、未来を連れて隠れな。ここからは俺が引き受ける」

「で、ですが……!」

「この未来(あほ)が命張ったんだ。俺も動かねーと弟子(れいむ)に示しがつかんだろ」

「……紫苑、僕ちょっと眠るね」

「眠れ眠れ。起きたら全て終わってるけどよ」

 

半妖はこうして気を失って倒れた。

 

「……貴方は何者でしょうか?」

「夜刀神紫苑。普通の人間だ。アンタは?」

綿月依姫(わたつきのよりひめ)と申します」

 

自己紹介をしている間に少女は半妖を運ぶ。

兵士がそれを妨害しようとしていたが、誰一人として動かなかった。もちろん、目の前に居る人間の威圧のせいだ。

 

 

 

『動いてみろよ。動いたら殺すけど』

 

 

 

そう言いたげな表情をしているのだ。誰も動けない。

 

「わざわざ未来運ぶの待ってくれてサンキューな」

「………」

「さて、明日は書庫の整理をしたいんだ。早めに終わらせるぞ」

「私たちに勝てるとでも?」

 

少年は笑った。

私はこの時、初めて彼の瞳を見た。見てはいけなかった。

このような恐ろしい瞳――上手く描写できるはずがない。

 

 

 

 

 

「勝つんだよ」

 

 

 

 

 

少年は腕を広げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ――喜劇(ころしあい)と洒落込もうか」

 

 

 

 




全員「「「「「実家のような安心感」」」」」
紫苑「何が?」
兼定「いいところ持っていきやがって」
霊夢「私たち空気」
アリス「そうよね……」
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